お礼参り
⋇残酷描写あり
⋇暴力描写あり
⋇性的描写あり
「ふぅん? ここがあの三人が暮らしてる家かぁ。随分とこじんまりしてるね?」
夜。待ちかねた狩りの時間に逸る気持ちを抑えながら、僕は遠目にクッソムカつく三人娘のお家を眺める。
Sランク冒険者パーティっていうからもっと豪華な屋敷に住んでるかと思いきや、意外にも大きめの一軒家って感じの面構えだった。それでも結構な広さなんだけど、僕のお屋敷に比べると半分にも満たない大きさだね。ちっさ。
「まあ女性三人だけで暮らす家だからね~。ただ他にメイドが三人いるようだから、先にそちらを片付けるのも良いかもしれないね~?」
「何でも良いからさっさと殺そうぜ。あのクソムカつく悪魔の女をもう一度ぶっ飛ばしてぇ」
僕の両隣で物騒な声を上げるのは、皆さんご存じトゥーラとキラだ。せっかくの狩りだから一緒に連れて来たんだよ。相手が三人だけとはいえ使用人もいるらしいし、一人じゃ手が足りそうにないからね。『連れてきた方が面倒なんじゃない?』っていうツッコミはスルーします。
「ダメだぞ、アレは僕の獲物だ。僕が嬲って楽しむんだから、お前は女狐を相手にしてやれ」
「チッ、分かったよ」
「トゥーラはあのウサギ娘をよろしく。ただし、できる限り危害は加えないようにね?」
「りょうか~い」
イカれてるけど僕の命令には従順な二人は、獲物の振り分けと注意に素直に頷いてくれた。
え? 何でウサギ娘に危害を加えるなって命令したかって? それはちょっとネタバレになるからここじゃあ言えないなぁ。とりあえず庇護欲をそそられたとか、良心が疼いたとかじゃないから安心して良いよ。諸事情で手を出したくなくなったとだけ言っておこう。
「探索」
ひとまず探索で屋敷の内部、それから人の配置を探る。ふむふむ、人数は六人。二階と一階に三人ずつか。どっかのメス犬が手に入れてくれた屋敷の見取り図と照らし合わせると、誰がどこにいるかも丸分かりだ。逆に誰だか分からない三人は、僕が顔を合わせてないから分からない使用人たちだね。
「ウサギ娘と女狐がそれぞれの自室。悪魔っ子がお風呂。メイドはそれぞれキッチンに二人、それからメイド用の部屋に一人かな」
「女狐の部屋ってどこだ」
「はい、見取り図」
獲物の場所を把握してないキラに、赤ペンでしっかりと位置を記した見取り図を手渡す。普段はこういうの放り捨てるキラだけど、今回は事が事だから真面目に眺めて記憶してるみたい。楽しい楽しい狩りだもんね。当然だよね。
「よし。それじゃあ屋敷全体を防音、脱出不可、魔法使用不可の結界で覆うから、お前らはまずウサギと狐をよろしくね? ちなみにお前らは魔法使えるから。あと手が空いたらメイドもやって良いよ」
「よし、任せろ」
「フフフ、制裁の時間だ~」
結界で屋敷をすっぽりと覆いながら二人に声をかけると、とても頼もしい答えが返ってきた。コイツらもコイツらで鬱屈した欲求が溜まってたんだろうなぁ。もの凄い楽しそう。特にドSでもあるトゥーラ。コイツはご主人様である僕にはSっ気を一切向けないから発散の場が少ないんだよね。キラの殺人衝動は定期的に発散させてやってるんだけどさ。これはトゥーラも発散に連れ出した方が良いんだろうか?
「それじゃあ行こうか――転移」
何にせよ、今は目の前の獲物を狩る時間だ。
そんなわけで僕は転移で犬猫諸共屋敷の内部に侵入すると、消失を解除して一気に行動を開始した。さあ、クソ生意気な女共に悪夢を見せてやろうぜ!
「ふんふんふ~ん♪」
壁を透過の魔法ですり抜けてお風呂場に入ると、まず最初に認識したのはご機嫌な鼻歌だった。僕の屋敷には負けるけどそこそこ広めなお風呂場で、デカい浴槽から零れる程の泡風呂に浸かってる少女が鼻歌の主。
もちろんその少女は僕を悪と断じてやまないクッソ生意気で煩わしい悪魔っ子だ。ゆったりと泡風呂に浸かって上機嫌ですねぇ? これから地獄を見せてドン底に叩き落してやるからなぁ?
「――ご機嫌だねぇ? 何か良い事でもあった?」
「っ!?」
僕が声をかけると、悲鳴を上げたりする前に一瞬で体勢を整える悪魔っ子。さすがはSランクの冒険者様。素晴らしい反応速度だ。
とはいえ羞恥心はあるのか泡風呂の中から出てきたり立ち上がったりはせず、その場で膝を付く感じの姿勢になってたよ。でもやる時は素っ裸だろうと襲い掛かって来そうな気迫がある。
「あ、あんたは……!?」
「やっほ」
悪魔っ子は僕の姿を目にした瞬間、驚愕に目を見開いた。でもその反応も一瞬だけ。せっかく挨拶もしたのに次の瞬間には瞳に百パーセントの殺意を滲ませながら、僕に向けて手を掲げた。まるで魔法を発動するようにね。
「ウォーター・スラ――っ!? な、何で!? 魔法が、使えない……!?」
でも残念! 結界で覆ってるから魔法は使えないんだわ! それでも魔法を使おうとしてる様子があまりにも滑稽で笑える! 最高!
「電撃」
「ぎっ――!?」
そんな滑稽で愉快な姿を晒す悪魔っ子に対して、僕は容赦なく電撃の魔法で以て苦痛を味わわせてやった。悪魔っ子は悲鳴を上げて、痙攣するように身体を跳ねさせて泡風呂の中に沈み込む。
これが湯を張っただけの普通のお風呂だったならともかく、泡風呂だしなぁ。幾ら苦痛を与えるだけの出力に絞った電撃とはいえ、通電しやすそうな状態で食らったんだから相当のダメージでしょうよ。
えっ、どうやって最適な出力に調整したのかって? それはほら、うちの屋敷の地下にはサキュバスを十匹近く閉じ込めてるから、それを使って……ね?
「……ぶはっ! う、く、ううっ……!」
湯船に沈んだままなら引きずり出してやろうと思ったけど、なかなか丈夫な事に悪魔っ子は自分で浮上してきた。そしてこのまま浴槽の中にいたらマズイと判断したのか、痺れる身体を無理やりに動かして浴室の床へと転がり出てくる。
もちろん素っ裸だから色々な所が見えてるぞ。思ったよりも胸は大きかったです。ただ微妙に泡が邪魔で肝心の所が見えないなぁ。まるでうっとおしい謎の光みたいだぁ……。
「もうこの屋敷の中は僕の掌の上だ。助けを呼ぼうが外に声は届かないし、この中では魔法も使えない。さあさあ、Sランクの冒険者様はこの状況をどうやって切り抜けるのかな?」
「くっ……こ、のぉ!」
「シャンプーのボトル投げつけて来るだけ? がっかりだなぁ?」
あれだけ偉そうにしてた癖に、この状況下で行ったのが物を投げつけてくるっていうあまりにも稚拙な反撃。威勢だけは良かったからガッカリだよ。Sランク冒険者って言っても所詮はこんなもん?
「――お?」
なんて思ってたけど、どうやらこれ自体は反撃じゃなくて反撃のための一手だったらしい。視界を塞いだボトルを手で払うと、悪魔っ子はほんの一瞬で僕との距離を詰めてた。そしてその手に握られ大きく弧を描いて振り抜かれようとしてるのは、半ばから引き千切られたシャワーのホース。遠心力で以てシャワーノズルを僕に叩きつけようとしてるっぽい。魔法も魔力も使えないのにホース引き千切るとかどんなゴリラよ。
「――死ねっ!!」
殺意百パーセントの罵倒と共に繰り出される、シャワーノズルを用いたブラック・ジャック染みた一撃。狙いは僕の右側頭部。しかも僕は右手でボトルを左に払ったから、実質ノーガードで隙だらけだ。ここまで計算してやったっていうなら、さっき僕が口にした軽んじる発言は取り消そう。
「ふぅん? まあ頑張った方かな?」
とはいえ少し感心した程度で、余裕で対処できるから問題無し。だから僕は頭部を砕こうと右から迫るシャワーヘッドを軽く身体を沈めて避けると、そのバネを利用して拳を悪魔っ子の鳩尾に叩き込んだ。思いっきりぶん殴ったけどあくまでもそれだけ。衝撃を集束させたりも炸裂させたりはしない。丁寧にいたぶりたいからね?
「ぐっ、ぶ……!?」
「あー、最高。クッソ生意気な女を殴るのはスカっとするねぇ?」
もろに鳩尾を抉られた悪魔っ子は崩れ落ちるように膝を付いて、お腹を抱えながら床に倒れ込んだ。あのクッソ生意気で尊大で煩わしかった女が、苦痛に目を見開いて悶絶してる姿が愉快で堪らないね。やっぱメスガキを分からせるのは最高の娯楽だわ。
「……やっぱり、私が睨んだ通りの……クソ野郎、だったわね……!」
「その通り。世界平和のための研究って言うのも真っ赤な嘘さ。僕は頭のてっぺんから爪先まで外道に満ちてるよ。君の勘は間違ってなかった。いやぁ、本当に鋭い勘だったねぇ?」
この状態でも僕の事を憎々し気に睨みつけてくるのがもう最高だ。
いやぁ、よく悪役が長々と喋ったり余裕を見せて逆転されるってパターンは多いけど、そういう対応をしちゃうのも良く分かるよ。だってもの凄く愉快で気持ち良いし。こんな愉悦を覚える状況逃すなんて勿体ないもんね? 僕も逃すなんてできない。えいっ、足で頭を踏んづけてやれ。
「一体……何が、目的なのよ……!」
横っ面を踏んづけられてるのに、まだまだ悪魔っ子の殺意のこもった睨みは消えない。むしろ更に鋭く激しく殺意を乗せて睨んでくる。良いね良いね、そうでなくちゃ楽しくない。
「目的ねぇ……君らがあまりにもウザくて煩わしかったから、捕まえて監禁して拷問したいなって。君の元恋人と同じって言えば分かりやすいかな?」
「やっぱり……男なんて、皆クズね……!」
「それはちょっと偏見が酷くない? 僕や君の元恋人がクズなだけであって、男っていう生き物全てが屑ってわけじゃ――おふっ!?」
なんて余裕を持ってお喋りに付き合ってたら、そこで唐突に反撃を受けた。鳩尾を抱えるように蹲ってた悪魔っ子はどうやら片手で身体についてた泡をかき集めてたみたいで、それを僕の顔面に向けて投げて来たんだよ。そして僕はそれをもろに顔に浴びて視界を奪われた挙句、足払いを受けて泡風呂に顔からダイブする羽目になっちゃったんだ。
うん、失敗する悪役の典型みたいなオチだね。でもしょうがないじゃん、凄く愉悦で気持ち良かったんだからさ。あと顔に投げられた泡を見て対応を決める前に『これって悪魔っ子の肌を覆ってたエッチな泡なんだよなぁ』って思ってしまったのも悪かったかな。でも身体の要所に泡を纏った女の子って凄くエッチなんだもん……。
「――リリィ! クララ! 敵襲よ!」
悪魔っ子は大声で仲間たちにそう叫びながら、素早くお風呂を出て行った。風呂の明かりを消して真っ暗闇にするっていうおまけつきでね。魔法を使えない以上は僕を無力化する算段も無いだろうし、少しでも行動を遅らせる事ができれば御の字って思ったんでしょうよ。
しかしSランク冒険者だけあって意外と荒事に慣れてたな。これは僕の認識が甘かったか……。
「二人とも、一体どこにいるの!? 返事をして!?」
とはいえ甘いのは向こうも同じ。湯船から上がった僕は魔法でササッと服や髪を乾かすと、転移ですぐに悪魔っ子に追いついた。その前に消失を使っておくのも忘れずにね。
悪魔っ子はバスローブを羽織っただけのあられもない格好で、髪や身体からお湯の雫を盛大に滴らせながら屋敷の中を駆けてた。そしてひとまず自室に駆けこむと飾ってあった短剣二本を手に取って、はだけたバスローブの前を留める事すら後回しで部屋を出る。
たぶん大切なお仲間の安否を確かめ、合流しようと思ってるんだろうね。このまま進むと確か女狐の部屋だな。そして女狐の担当は……あっ。
「クララっ! あのクソ野郎が――っ!?」
僕が何となく部屋の中の光景を察した瞬間、悪魔っ子は蹴破る勢いで女狐の部屋の扉を開けた。そして驚愕に息を呑む感じで言葉を失い、棒立ちとなる。まあそんな反応も仕方ないな?
「あ……っ……ぎ……!」
「よし、取れた。やっぱ死を受け入れた感じの目玉より良い輝きしてんなぁ?」
「さすがの私も目玉の良し悪しは分からないな~。まあ反抗的な目が良いというのは分かるが~……」
予想通り、そこではスプラッタな光景が繰り広げられてた。手足をへし折られて動けなくなった女狐が、生きたままキラにスプーンで目玉を抉り出されてる光景。ちょうど両目共に抉ったタイミングだったみたいで、キラはホクホク顔で瓶に残りの目玉を入れてる。
あと何故かベッドの上にはトゥーラが腰かけてて、その隣には意識を失ってるらしいウサギ娘が寝かせられてる。仕事早いね、君ぃ……。
「あ……嘘……クララ……?」
「ぅ……あ……!」
あまりにも酷い光景にちょっと理解が追い付かないみたいで、悪魔っ子は呆然と声をかける。もちろん言葉は返ってこない。女狐は身体をビクビクさせて呻くだけだ。ていうか目玉抉っておいて楽に死なせず生かしてるのか。キラも結構腹に据えかねてるんだろうな、たぶん……。
「残念。もうとっくに屋敷は制圧されてるんだよ。僕たちの手によってね?」
「嘘……こんなの、嘘よ……! 悪い夢よ……!」
不意に姿を現して僕も部屋に入るけど、感情がぶっ壊れてるのか悪魔っ子は驚きなんて欠片も見せない。ただただ絶望の面持ちで、目の前の凄惨な光景を悪夢だと決めつけてるだけだ。何で人って受け入れたくない現実を前にすると悪夢って事にしたがるんだろうね?
「嘘でも無いし夢でもないよ。ていうか逆に喜んで欲しいなぁ? だってお前らの心配が杞憂だったって事が証明されたんだよ?」
だから僕はトゥーラの隣に腰掛けて、棒立ちの悪魔っ子に声をかけてあげた。現実に優しく引きずり戻してあげるためにね?
「ほら、見てよ? 僕の仲間たちは僕に騙されてるわけでも無ければ、洗脳されてるわけでも無い。ちゃんと心から通じ合って、深い絆で結ばれてるんだよ? その事を喜んでくれないの?」
「ワフ~ン♪」
「ニャフ……」
そのままグイっと犬猫の身体を抱き寄せ、僕らが深い絆(諸説あり)で結ばれてる素晴らしい光景を見せてあげた。トゥーラはこれ幸いとばかりに身を寄せて甘えてくるし、仏頂面だったキラも喉を擦ってやれば気持ち良さそうに鳴き声を零して身体を許す。
誰がどう見たって、僕らはとっても仲良しだ。近くには意識を失って寝転がされてるウサギ娘と、両目を抉られて痙攣してる女狐の姿があるのに、僕らは誰も気にしない。だって心の中の薄暗い欲求だって認め合い許し、受け入れあってる理想の関係だからね。
「あ……あ……うあああぁあああぁぁぁあぁぁっ!!」
ただこんな素晴らしい光景も、愛の何たるかが分からないビッチには理解できなかったみたい。怒りと殺意のこもった雄たけびを上げながら、両手の短剣を閃かせて僕へと襲い掛かってきた。やっぱ所詮は男を愛する自分に酔ってたクズ女かぁ……。
「がっ……!?」
僕が直々に迎撃しようと思ったけど、それよりも早くトゥーラとキラが動いてた。トゥーラは悪魔っ子の顔面に拳を一発叩き込み身体の内側で衝撃を弾けさせ、内側から裂けて血飛沫が上がるその手足をキラが切り飛ばしてダルマにした。
ほんの一瞬前まで僕に甘えてたのに、僕に危害が加わると理解した瞬間冷徹に敵を処分。良いねぇ、その切り替わりの速さ嫌いじゃないよ?
「……さ、それじゃあ屋敷に連れ帰ろうか。心をへし折るのはここからだぞ?」
自らの手足から流れた血に沈み、声も出せずに痙攣する悪魔っ子を見下ろしながら、僕は堪えきれない愉悦に頬を緩ませた。この程度で心が折れちゃ困るよ。ここからが本番なんだからさ?
⋇こいつら主人公とヒロインたちです