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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第10章:真実の愛
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レーンとデート2

⋇性的描写あり




 ちょっと波に攫われたり渦潮に叩き込まれたりしたとはいえ、デートはそこそこ順調な滑り出しだった。だって文句言いつつもレーンはしっかり水着を着込んでくれたからね。だから後は二人で甘酸っぱくイチャラブしながら楽しむ時間。そして最後には――いやぁ、実に楽しみですねぇ?


「ふむ、ふむ……なるほど……」


 なんて胸を躍らせたはずなのに、今はさっさと帰りたい気持ちの自分がいる。

 何故って? そりゃあデートだって言ってんのに森の中で植生調査始める奴がいるからだよ。今も何か一人で頷きながら、しきりに植物を観察して手帳に何事かをメモしてる。まるで研究者みたいな事やってるけど、その身を包んでるのは白衣じゃなくてビキニなんだよなぁ……嘘みたいだろ? これデートなんだぜ?


「ねぇ、もう森の中から出ない? 虫がいそうで本当に嫌なんだよ」


 僕は周囲を警戒しつつそう声をかける。だって森の中なんて虫の楽園だからね。こんな場所で落ち着けるわけが無い。レーンが植生調査してないならこの辺一帯を焼け野原にして更地にする程度には嫌です。


「傍若無人で悪い意味で恐れを知らない君だが、どうにも昆虫は苦手らしいね。何か理由でもあるのかい?」

「だって足が何十本もあるんだよ? その上妙に長い触覚とかあるんだよ? それでカサコソ動くんだよ? 挙句胴体千切れてもしばらく生きてるような化物染みた生命力持ってるんだよ? 普通誰だって怖くない?」


 僕が昆虫嫌いな理由はパッと見とか本能的にとか、あんまり論理的じゃない理由だ。でもレーンがそれで納得してくれるわけでもないし、とりあえずキモイと思う所を並び立ててみた。自分で言ってて寒気がしてくるよぉ……。


「……確かに改めて並べ立てられると、少々恐ろしいものがあるね。仮に昆虫が獣人と似たような存在となったなら、実に凶悪な強さを誇る種族となっただろう」

「やめろぉ!! 人型の昆虫とか見たくないぞ!!」


 そしてあろうことか、レーンは悍ましい台詞を口にする。獣人と似たような昆虫とかやめて? そんなのがいたら僕は女神様の言いつけも破って一匹残らず滅ぼすよ? そんな冒涜的な生き物は存在しちゃいけない……!


「メスでも見たくないのかい? 女好きの君でも昆虫人の女性は無理なのかい?」

「無理に決まってんだろ!! ていうか僕の事をメスと見れば犯すような節操無しに見てない!? 僕にだって選ぶ権利はあるんだぞ!」


 何だか酷く節操無しで見境なしに見られてる気がして、心外だった僕は断固として否定した。昆虫人とか性の対象として見るのは絶対に無理だわ……昆虫部分が例え触覚だけだろうと無理だ……その触覚を引っこ抜いても良いならほんの僅かには可能性が出て来るかもしれないけど……。


「それに昆虫だぞ! 生殖行動が人間のそれとは違うかもしれないし、交尾後にオスを食うかもしれないだろ!?」

「なるほど。生殖行為が異なる場合もあるのか。君はなかなか面白い観点でものを見るね?」

「見てない! どっちかって言うと目を逸らしてる!」


 好奇心を刺激されたのか、ここで初めてこっちを振り向くレーンさん。もちろん両手にはいろんな植物が握られてる。昆虫人の生殖行動に好奇心を覚えるとか、探求心が強すぎだよぉ……。


「まあ、別にそこまで怖がる必要は無いだろう。そもそも君は昆虫除けの結界を展開しているんだろう? ならば別に森の中でも平気じゃないのかい?」

「その場にいないから何だって言う話だよ。しっかりと虫が這った痕跡が残るでしょうが。それともお前は僕が散々股間を擦り付けたスプーンだと分かっていながら、僕がその場にいないってだけで何の躊躇いも無くそれを使えるの?」

「何なんだその気持ちの悪い例えは。しかし確かにそれは使えないな。君にとって昆虫は自分以外の男性の性器のように気持ち悪いのかい?」

「いや、僕は女の子が大勢の男に犯されてるエッチな絵とか動画も好きだから、それ以上だよ。少なくとも昆虫を見たら確実に僕の息子は萎える」


 女の子が大勢の男にあれやこれやされてるエロい絵とか動画では、度々男たちの大事な物が写り込む事がある。でもまあそれに関しては許容範囲っていうか、それらが今から女の子の身体を無茶苦茶にするんだって事がよーく理解できるから、むしろアクセントとしては必要だと思ってるよ。

 ただ昆虫は別。存在自体が許せない。虫にたかられて食われる女の子っていうシチュエーションに関しては少し悩むけど、結局は忌避感が勝つからね。できればこの世界からあらゆる昆虫を根絶やしにしたい。とはいえ一応あのクソみたいな生き物も食物連鎖の中に入ってるし、植物の受粉とかそういうのの担い手でもあるからなぁ……。


「なるほど。つまり君に処女を奪われそうになった場合は昆虫を目の前にぶら下げてやれば――」

「<カドゥケウス>没収するぞ」

「……すまない。今のは失言だったね」


 レーンがちょっと許せない事を口走ったから、さすがの僕もそれにはおこだよ。<カドゥケウス>没収するって脅したら素直に謝ってきた辺り、よっぽど気に入ってるんだろうなぁ……。






 そんなこんなで、やがて水平線に夕日が沈みかける頃。オレンジ色の夕焼けとそれを反射して煌めく海のコントラストが美しいね? 夕焼け色に染められた綺麗な砂浜にいるのは僕とレーンの二人だけ。状況だけ見ればもうこの場で押し倒しておっぱじめても問題無いくらいにロマンチックだね。状況だけ見れば。


「……クソッ! せっかくのデートなのに海と砂浜と森の生態系調査で終わった!!」


 でも実情はロマンチックなんて言葉とは縁遠いもので、僕は悔しさから砂浜に膝を付いて両手を叩きつけた。

 そうだよ、森の植生調査の時点で嫌な予感はしてたんだよ。『あれ、これまともなデートにはならないんじゃない?』って。そして予想通り、森の調査を終えたレーンは今度は海の調査を行ったんだ。デートだって言ってんのにね? 何考えてんだろうね?

 そしてある程度海の生物の調査を終えると、今度は砂浜に戻ってきて調査を始めたってわけ。で、ようやくそれが終わって今に至る。これがデートってマジ? まだトゥーラとデートした方がちゃんとしたデートになりそうだわ。


「とても有意義な時間だったよ。こんなデートなら毎日でも付き合いたいところだね」


 僕が砂浜に身を投げて絶望してるのに、レーン当人はかなり満足そうな顔をしてるんだから困る。真っ白だった肌が日に焼けて香ばしくなってるのはちょっとエロいよ? でもこれはデートじゃねぇ! ただの実地調査だ!


「満足そうな顔すんな! デートって言ったらもっとこう、甘い雰囲気とかあるもんでしょ!? 何でずっと調査に次ぐ調査してんだ! 手を繋いでドキドキとか、肩が触れ合ってびっくりしちゃうとか、そういう甘い展開は!?」

「そんな無垢な少女が思い描く異性との触れ合いのような事を君が口走ると、実に気持ちが悪いね……」

「チクショー!! 魔術狂いに人並みのデートを期待した僕が馬鹿だった!!」


 何故か薄気味悪いものを見るような目で見られて、僕は叫びながらもう一度砂浜に拳を叩き込む。

 クソッ、レーンは真の仲間内では比較的まともな方だと思ってたのが裏目に出たよ。何でデートだって言ってんのに終始島の調査で終わらせるかな? これならレーンに猫耳と猫尻尾生やさせて魔獣族の国でデートするべきだったか? いや、でもそうしたらこの好奇心の塊の事だ。初めて見る魔獣族の国に興奮してデートどころじゃないのは目に見えてる。どちらにせよまともなデートにはならなかったな、これ……。


「……まあ、そこまで気を落とす必要は無いよ。少なくとも私はとても楽しかった。ここまで他人との触れ合いで充実した時間を過ごすのは何百年ぶりか分からない。今回は君も私の話を嫌がらずに聞いてくれたからね」


 絶賛絶望中の僕と違って、やっぱりレーンは満足気だった。そりゃあデート中なんだから今回はレーンの長話を遮らずに聞いてあげたよ。九割方植生調査に関わる専門的な内容だったから、だいぶ右から左に抜けたけどね。でもレーンは滅茶苦茶楽しそうに語ってたから頑張って聞いてるふりはしたよ。やっぱお喋り好きなんだなって。


「普通に話聞いただけで何百年ぶりかの充実した時間になるの? ちょっと人間関係心配になるね、お前……」

「確かに交友関係が酷く狭い自覚はある。しかし別に問題は無いだろう。邪神に全てを捧げる身としては、浮世とのしがらみは少ない方が都合も良いからね」

「確かにそうなんだけどさぁ……」


 この僕でさえ、前の世界には結構な数の友達がいたんだよなぁ。まあ大多数は僕の事を好青年だと思ってる程度の浅い付き合いしかしてないけどね。それでも今考えるとレーンの交友関係よりはマシなんじゃなかろうか。


「そんな事より、この後はどうするんだい? もう屋敷に帰るのかい?」

「いいや。今日はここで二人で休んでいくよ。デートがアレだったから最後だけは満足したいし」


 本当にもうデートがアレだったからね。デートである以上は相手を優先するべきだと思ってある程度したいようにさせてたらあの様だよ。ここからは主導権など一切渡さん。最後まで僕のターンだ!


「休む……? 野宿という事かな? 私は別に構わないが、君の方は大丈夫なのかい?」

「野宿はしない。その代わり――邪神の城で一夜を明かす」



 トゥーラとデートした方がまだマシになりそう、という酷いデートでした。場所が悪かった。

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