嘘塗れの会議
「――よし! 邪神の城、これにて完成だ!」
「わーい! かんせーい!」
エクス・マキナのお披露目から四日後。別大陸におっ建てた邪神の城の内装作成を毎日ちまちまと続けた結果、ついにお城が完成した。何だかんだ毎日ついてきてくれたリアも喜びがひとしおみたいで、僕と一緒に諸手を上げて喜んでくれたよ。
最終的にお城は中も外も黒と白で構成された、シマウマが気に入りそうなモノトーンになった。ちょっと目がおかしくなりそうだけど、これは聖人族と魔獣族が相容れないこの世界を皮肉ってる感じの作りだからしょうがないね。白と黒は交わらない的な。
何にせよ色合いのせいで城の中を歩いてると違和感が凄いよ? 純白と漆黒の二色しか無いから、怪しげな世界に踏み込んだみたいな例えようのない恐ろしさを感じるね。とりあえずゲームのラストダンジョンっぽい雰囲気は出せたって考えよう。
「エクス・マキナも完成。お城も完成。邪神としての僕の姿も八割方出来上がってきたし、邪神復活のための流れも決定済み。いよいよ本格的に悪に染まる時が近づいてきたなぁ?」
「あれ? ご主人様、最初から悪の化身みたいだったような……?」
リアの指摘はスルーして、これまで重ねた準備を思い返す。段々とするべき準備が少なくなってきて、本格的に動くべき時が近付いてきてるのが分かるね。いよいよ僕が邪神としてこの世界に君臨し、破滅――じゃなくて平和をもたらすためにマッチポンプ的な活動を始めるのか……早くこの世界の愚かなゴミ共をプチプチと潰したい……。
「準備が進んできたのは良いんだけど……目下最大の問題は、やっぱりアイツらかなぁ……」
アイツら、要するにすっげぇウザい姦し三人娘。世界平和を目指す清廉潔白で品行方正な僕を悪だと断定して絡んでくるビッチ集団。叩かれてもホコリが出ないように綺麗に掃除してるとはいえ、煩わしいのは変わらないんだよねぇ。明日アイツらはリアたちにお話を聞きに来るし……。
「前にリアたちのお家に住んでた人たちの事だよね? 邪魔なら殺しちゃえば良いのに」
「それも考えたんだけど、どんなに証拠が残らず自然な消し方をしたとしても、アイツらが僕の屋敷を尋ねてきたって過去だけは変えられないんだよ。だから消すならしばらく月日が経ってから消すか、絶対に僕の関与が無いって誰がどう見ても断定できるやり方で消さないといけないんだ。本当に面倒だなぁ、アイツら……」
さっさと潰したいけどやらないのはこれが理由。さすがの僕も過去改変は骨が折れるっていうか、やればやれるだろうけどかつてないほど女神様に怒られそうだからね。一切の証拠を残さず、かつアイツらが用意したであろう備えも抹消する事はできなくもないとはいえ、さすがにこんな出会って即Sランク冒険者パーティ全員が消えるとか怪しすぎだしなぁ……うーん……。
「ご主人様、難しい事考えてるんだねー?」
「他人事みたいに言ってるけど、明日アイツらがお前にも話を聞きに来るんだからね? 僕に騙されてないかとか、僕の本性を知ってるかとか、色々な事を聞きにね。くれぐれも変な事を言わないように気を付けなよ?」
「えー? 変な事ってなーに? 言っちゃ駄目な事は何となく分かるけど、どんな風に答えれば良いのー?」
「そこからぁ? ヤベーな、これは今日の内に対策会議をするべきかもしれない……」
頭は悪くない方のリアでも、さすがに向こうが疑ってかかってきてると細かい所までは答えにくいらしいね。難しそうな顔して尋ねてきたよ。
仕方ない。屋敷に戻ったら対策会議を始めるか。ミニスとかもちょっと不安だし、どうせなら全員纏めて教育しよう。
「はい、というわけで対策会議を始めます!」
屋敷に戻った僕はすぐに仲間たちを呼び集め、地下二階の地下牢に併設された会議室で円卓を囲ませた。
今回のメンバーはお話を聞かれるであろう奴ら――リア、ミニス、キラ、トゥーラの四人。屋敷にはメイドがあと二人いるけど、さすがに単なるメイドに話を聞いたりはしないでしょ。何よりその内の一人は自分たちをボコボコにした奴なんだし、むしろ向こうから避けてくれると思う。ミラに関しては頼まなくても姿を眩ましそうだしね。
ちなみに今回の僕は司会進行としての役割があるから、席にはついてない。円卓の真ん中をぶち抜いて中央に出来た空間に立ってます。何故かトゥーラが席に着かずに僕に引っ付いてきてるけど気にしない。
「はーい!」
「かったりぃなぁ……」
「そもそも何の会議よ、これ……」
問題のありそうな三人が口々に声を上げて、リア以外はちょっと不満そうな顔してる。なお、席順はリアを真ん中にして左右にキラとミニスが座ってるよ。広がられるといちいちそっち見ないといけないし、前回の席順の問題も踏まえて一点に纏めました。
「明日やって来る姦し娘共がお前らに色々聞いてくるだろうから、そこで変な事を言わないようにするための対策会議だよ。こちとら後ろ暗い事しかないから、話しちゃいけない事が山ほどあるんだ。ここでたっぷり嘘と方便を身に着けてもらうぞ」
「主~? 私は席に着かなくても良いのかい~?」
「お前は指導しなくたって無難に切り抜けられるから必要ないでしょ。こっちは問題児二人とウサギを指導するのに忙しいんだ。必要ない奴にまで構ってられるか」
「クゥ~ン! 主の信頼が胸に響く~!」
僕に後ろからベタベタしてきてるトゥーラが、嬉しそうな声を上げてぶんぶん尻尾を振ってる。
実際コイツは変態だし道化染みた振る舞いもしてるけど、普通に頭は良い方だからたぶん何の心配も無いと思う。頭の悪い変態が冒険者ギルドのギルドマスターまで上り詰められるとも思えないしね?
「その代わり切り抜けられなかったら溶かした金属に沈めて固めた後、この星の反対側の大海原に投げ捨ててやる」
「ワフッ!?」
でもちょっと心配だからとりあえず真面目に騙せと脅しておいた。途端にビクッとトゥーラの身体が震えてたよ。幾ら忠犬でもそこまでされたらさすがに戻ってこられないだろうしね……戻ってこれないよな? コイツなら案外戻って来るかもしれない……。
「ふーん……本当の事を言われると困るわけね? なるほどね?」
ちょっと面白がるような声に目を向ければ、そこにはしたり顔を浮かべたミニスがいる。何だその顔。僕の弱みでも握ったつもりなんですかね?
「別に真実喋っても構わないけど、その時はお前の故郷にエクス・マキナを一万体送り込んで破壊と暴虐の限りを尽くして地図から消してやるからね」
「……ごめん、調子に乗った。ちゃんと真面目に嘘つくわ」
「よろしい。僕にゴミを見るような目を向けるのも、罵声を浴びせるのも、ケツを蹴るのもまあ許すよ。ただ僕が本気で困る事をするのは絶対に許さんから、そこは覚えておくことだね」
「あんた心が狭いのか広いのか分かんないわね……」
僕が脅すと、ミニスは途端にしおらしく従順になった。何ならちょっと顔も青い。
さすがに今回は真面目にやってもらわないと困る。Sランクの冒険者パーティに万が一僕の正体がバレたら、滅茶苦茶面倒な事になりそうだし。まあその場合は屋敷から帰したりはせず、即座に口封じに移るまでなんだが?
「はい、それじゃあ会議を始めるよー。恐らく最も聞かれるであろう事は、僕との関係の深さ、仲間として一緒に過ごしてる理由、それから僕の本性を知っているかどうかって所かな」
「伴侶~! 愛してるから~! もちろん知っている~♪」
とりあえず一番聞かれるであろう事を並び立てると、トゥーラが上機嫌でそれに答える。
恐らくあの姦し娘共が知りたがってるのはこの辺の事だろうね。自分たちが彼氏に騙されたから同じ轍を踏まないよう僕の仲間たちを気遣いつつ、隙あらば僕の秘密を聞き出す感じで。他にも色々聞かれるだろうけど、まずはこの三つから詰めていこう。
「関係の深さに関しては事実通りで良いよ。本性に関しても、まあ人間性は悪いって事で別に良いよ。ただ仲間として一緒に過ごしてる理由についてはちょっと気を付けてね?」
あんまりにも事実と違う嘘だと真実味に欠けるから、極力ありのままを話す方向で進める。関係の深さは普通に肉体関係持ってるでオッケー、僕の本性に関しては多少柔らかめにして人間性悪めって事で良し。
問題は仲間として一緒に過ごしてる理由かな? 少なくともここにいる面々はどいつもこいつも変な理由で僕についてきてるから。復讐のためとか、理想の殺人の追求とか……。
「コイツといると退屈しねぇから、じゃダメか?」
「んー……お前はそれでもオッケーかな? 曲がりなりにも聖人族の首都に潜伏してた魔獣族の連続殺人鬼だし、馬鹿な事は言わないって信じてるよ?」
いまいち理由を考えるのが面倒くさそうなキラ。たぶんコイツならかろうじて大丈夫だと思いたいんだけど、やっぱり不安だなぁ……。
「で、お前らに関しては……」
「復讐のため!」
「……家族のため」
リアは元気いっぱいに復讐を叫び、ミニスは悲壮感溢れる表情で家族を想う。こんなのあの姦し娘共に聞かせたら別件で詰られるわ。ちゃんと会議開いて良かった……。
「……まあ、うん。頑張って煮詰めていこうな?」
そんなわけで、僕は問題児三人と明日に向けて嘘を煮詰めていくのだった。あーもうっ、何で僕がこんな真似を……。