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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第10章:真実の愛
254/527

共闘を強いる者

⋇レーン視点

⋇バトル回






 クルスが創り出した生物兵器――エクス・マキナ。それは歯車を主軸にした部品を歪に組み合わせて形を成したような、生物的な暖かみを一切感じない存在だった。身体に明らかな金属光沢が煌めいている辺り、言われなければアレがスライムを素体にしているとは到底思いつかないだろう。

 しかし見た目の不気味さと不格好さとは裏腹に、底知れぬ脅威を肌で感じる。特にあのエクス・マキナたちの身体を包み込むような赤いオーラ。クルスが創り上げたものなのだから、アレが見た目だけのコケ脅しとは考えない方が良いだろう。必ず何かしらの意味があるはずだ。


「――はあっ!」

「とりゃ~っ!」

「ふっ!」


 私が警戒しつつ遠目で状況を観察していると、三人の攻撃がエクス・マキナたちの身体を捉える。ミニスの蹴撃が結晶型の結晶体の部分に叩き込まれ、トゥーラの拳撃が人型の鳩尾部分に抉り込まれ、バールが操る血液の剣が獣型を一閃する。

 三人とも魔獣族であり、更に内二人は鍛えている事も相まってどれもこれも尋常でない威力の極まった一撃だ。何の防御も無く食らえば私のような聖人族の人間の体など一溜まりも無いだろうし、それは魔物とて同じだろう。しかし――


「……あ、あれ?」

「おや~?」

「……何だと?」


 三人の一撃を受けたエクス・マキナ三体は、その場から吹き飛ぶ事すら無く平然と佇んでいた。

 ミニスの蹴りを受けた結晶体にも、バールの一太刀を浴びた頭部にも、ヒビや太刀傷一つ見当たらない。恐らくは衝撃を叩き込み内部から破壊しようとしたトゥーラの方も同じだ。あれ程の一撃を食らっておきながらよろめく事すら無く無傷とは、やはり何か秘密があるようだね。


「何やってんだテメェ。真面目にやれよ」

「いや、真面目にやったんだが何故か全く通用しなくて――おおっとぉ~!?」


 そして今度はエクス・マキナたちが攻勢に出る。鈍重そうな見た目とは裏腹に、その動きはまるで本物の生物のように滑らかで淀みが無かった。

 まず動いたのは人型。その右手に握った金色の剣を用いて、まるで歴戦の剣士が如き鋭い斬撃を繰り出して行く。これにはトゥーラも驚いていたが、連撃を巧みに捌き避けるのだから恐れ入るね。


「むっ、やはり攻撃は鋭いな……」


 次いで動いたのは獣型。本物の獣としか思えぬ敏捷性で以て地を蹴り、バールへとその前足の鉤爪で襲い掛かった。

 とはいえバールもただ者では無く、その前足を容易く掴み止めると獣型を背負うような体勢へと一瞬で移行し、そのまま一気に投げ飛ばした。地面に落ちること無く水平に吹き飛んでいく獣型は、地下闘技場の壁を粉砕して見えない場所に消えてしまった。彼も大概化け物だね。


「わっ、魔法!? わ、わわっ!?」


 そして結晶型だが、こちらはその場から一切動かなかった。代わりに結晶型の下の地面が僅かに隆起し、そこから何十もの拳大の土塊がミニス目掛けて殺到する。さすがに致命傷には至らないだろうが、鋼の拳で殴打される程度には辛い一撃の数々だろう。

 故に私はミニスの正面に圧縮した空気の壁を創り出し、迫る土塊の数々を防いであげた。それが私の仕業だと分かったのか、ミニスは嬉しそうでもあり泣きそうでもある顔をこっちに向けてきた。何故そこまで複雑な顔をするのかは分からないが、こちらを見たのなら都合がいい。私はこちらに戻るよう、ミニスを指で招いた。途端にとんでもない速度で私の元に戻って来る辺り、彼女も脚力に関しては大概化け物だ。何せバールやトゥーラを差し置き、誰よりも速くエクス・マキナに肉薄していたからね……。


「……攻撃が効かなかったようだね」

「う、うん。思いっきり蹴ったのにヒビも入って無いわ。吹き飛ばす事すらできなかったし……」

「ふむ。トゥーラのように衝撃を流しているのか……? いや、他二体はともかく結晶型は浮遊している。衝撃を地面に逃がすことは出来ない。ならば、純粋に無効化しているという事か……?」


 クルスの力ならそれくらいの無茶は可能だろうが、さすがにそこまで人類に救いの無い力をエクス・マキナに付与するとも思えない。仮にこちらの攻撃を無力化しているとしても、何らかの条件があると考えるのが妥当だろう。


「……まだ情報が足りない。威力は低くても構わないから、もう少し攻撃を続けてみてくれたまえ」

「分かった、行ってくる……それと、一つ良い?」

「何だい?」

「ま、守ってくれて、ありがとう……!」


 ミニスは一つ泣き笑いとも取れる嬉しそうな顔でそう言い放った後、疾風の如き速さで結晶体へと突撃して行った。

 攻撃から守ってあげただけであそこまで感情を昂らせるとは、普段一体どんな扱いをされているのか……少々心配になってくるね……。


「――ハハハハ~! 攻撃は効かないがいつまでも殴れる~! つまり素敵なサンドバッグじゃないか~!」


 などという声に、ミニスへと放たれる結晶型の魔法を防ぎつつ目を向けると、そこには人型を怒涛の勢いで殴り飛ばしているトゥーラの姿があった。人型も反撃しようとしているが、的確に動作の起こりを全て潰されているため成す術が無いらしい。

 しかし、効いているかと言われればやはり否だ。あれだけトゥーラに四方八方から拳と蹴りの雨を受けているというのに、人型の身体にはへこみどころか傷一つついていない。やはりこちらの攻撃が全て無効化されていると見て間違いないだろう。


「――魔法も武装術も、魔力を使わぬ素手での一撃も一切通用しない。この結果をどう考える?」


 などと尋ねてきたのは、闘技場の別の壁を突き破って現れた獣型を再度投げ飛ばしたバール。当然のように人間より数倍は大きい金属の塊を投げ飛ばすバールにも恐れ入ったし、当然のように無傷な獣型も大概だ。一体これはどういう事なのだろう。


「ふむ……」


 ミニスの援護をしつつ、並列して思考を巡らせる。

 エクス・マキナが攻撃を無効化する能力を持っているというのは、状況的にまず間違いない。しかしあくまでも世界平和を目指しているクルスが、そんな救いも攻略法も無い兵器を人々にけしかけるだろうか? 

 私たちが望んでいるのは全ての種族間での恒久的な世界平和。聖人族と魔獣族が手を取り合い、良好な関係を築いている世界こそが望みだ。そしてそれを実現するための悪逆非道。つまり逆に考えれば、あの無効化能力こそ世界平和の成就に必要なものなのでは? 


「……なるほど、そういう事か。さすがはクルス。実に嫌らしい真似をする」


 そこに思い至った時、私はエクス・マキナの能力の詳細を理解した。厳密にはあくまでも予想の域を出ないが、まず間違いないだろう。伊達にあの狂人を最初に見出し、魂を売り渡してはいない。

 とりあえず私は指示を出すため、ミニスを私の元へ呼び寄せた。人型をサンドバッグにしている二人は……まあ、今のところは放置で良いだろう。


「何か気付いたようだな。あの能力の攻略法が浮かんだか?」

「本当に? 凄いわね、あんた……」

「ああ。私の予想が正しければ、私の攻撃は通用するはずだ――ストーン・バレット」


 二人にそう返し、私は獣型と結晶型に魔法を放った。地面から拳大の石を高速で撃ち出す、結晶型が放っていたのと似たような魔法だ。尤も私の魔法の方が速度は早く、石も大きく形も綺麗だがね?

 何にせよ私が放った石礫は避けようとした獣型の胴体と、棒立ちの結晶型の歯車に吸い込まれるように命中した。今まで誰が何をしても傷一つ付かなかったというのに、獣型の胴体に間違いなくヒビが入り、結晶型の歯車の一部分が欠けて地に落ちる。ふむ、やはりそういう事か。


「……本当ね。あんたの攻撃は効いたみたい」

「加えて、何やら放つ光の色が変化したな。あれは一体……?」


 バールの呟き通り、私の攻撃を受けたエクス・マキナ二体は身体から放つオーラの色が変化していた。先ほどまでは不気味な赤色だったのが、今度は燃ゆる炎の如き青色に。なるほど、見た目でも分かるようになっているというわけか。思いの外親切だね。


「それはこの後説明しよう。そして恐らく今なら君たちの攻撃も通用するはずだ。できれば高威力の一撃を叩き込んで見てくれるかい?」

「了解した」

「分かったわ」


 私の指示に対し、二人は実に素直に頷いてくれた。

 何故だろうか。普通に意思疎通出来る事が非常にありがたく思えてくるね……碌に喋りもしない大天使の世話をしているからか、それとも仲間たちが狂人ばかりなせいか。いずれにせよこの二人はとても貴重な話の出来る人間のようだ。


「頼んだよ。それからミニス、受け取ると良い――スピード・ブースト、パワー・ブースト」

「ありがと! 本っ当にありがと!」


 ついでにミニスに魔法をかけて身体能力を強化してやると、それはもう嬉しそうなお礼の言葉が返ってくる。この程度でここまで感謝されるとは、やはり彼女の扱いは相当に良くないのだろうか。


「食らうがいい。ブラッディ・デトネイション」


 結晶型に向かってミニスが駆け出した所で、バールが何やら途方も無い魔力を放ち始めた。見れば武器として使っていた大量の血液を指の先程の大きさに圧縮し、それを高速で獣型目掛けて撃ち出していた。

 撃ち出された血液の塊は音を置き去りにして飛翔し獣型の胴を穿ち、次の瞬間内部で解放されて弾け飛んだ。敵の身体の内部に圧縮した血液の塊を打ち込み、解放して内部から破裂させる技か。実にえぐい真似をする……。


「てりゃあああぁあぁぁぁあぁっ!!」


 そして脚力だけはバールすら凌ぐミニスの回し蹴りが、結晶型の結晶体に側面から叩き込まれる。あまりの威力に衝撃波と土埃が巻き起こるレベルだ。種族的な強さが大本を占めるとはいえ、彼女も大概凄まじいね。十中八九私よりも体力や力は上だろう。

 そうして土埃に紛れて獣型と結晶型の姿が見えなくなると、二人は示し合わせた様に私の元へ戻ってきてくれた。うむ、情報共有のために戻ってきてくれるとは実にありがたい。あまりにもまともで涙が出てきそうになるね。


「確かに貴様の予測通りだ。我らの攻撃は通用した。だが――」

「――何か、こう……手応えが浅かった感じ……?」

「やはりか。実に厄介な性質を持っているね」


 微妙な表情でそれを口にしてきた二人だが、私はこの結果もある程度予想していた。更に予想を裏付けるように、土埃の中から再び赤いオーラを纏った獣型が現れ、同様に赤いオーラを纏った結晶型が風で土埃を消し飛ばして現れる。

 二人の攻撃は致命的な威力の一撃だったにも拘わらず、二体のエクス・マキナは明らかに軽傷だ。獣型の胴体が僅かに欠け、結晶型の結晶体にヒビが入っている程度の損傷しか見られない。やはりこれは私の予想通りの能力を持っているに違いないようだ。ひとまず話をする時間を稼ぐために、私は暴風を巻き起こして二体のエクス・マキナを闘技場の壁を突き抜ける勢いで吹き飛ばした。


「端的に言えば、アレら――エクス・マキナは、聖人族と魔獣族が交互に攻撃しなければダメージが通らないようだ。赤い光を発している時は魔獣族の攻撃を、青い光を発している時は聖人族の攻撃を無効化する。一度ダメージを受ければ即座にもう片方へ切り替わる。そういった能力を持っているらしい」

「うわっ、キツイわねそれ……」


 私の説明に対し、ミニスは苦々しい表情を浮かべる。しかしそれも当然の事だ。何故ならエクス・マキナの討伐には聖人族と魔獣族の共闘が不可欠なのだから。

 私たちは種族の垣根を超えて力を合わせ、協力して世界平和という一つの目標に向かって邁進しているため、協力も共闘も当然で何ら苦も無い事だ。しかし一般的な聖人族や魔獣族はそれこそ互いを憎々しく思っているため、共闘などかなりハードルの高い行為だろう。ミニスはそれを指して『キツイ』と言ったに違いない。


「加えて、高威力の一撃は一定のダメージに抑える能力もあると見るべきだな。並みの人間ならば爆散するほどの一撃を放ったというのに、僅かしか損傷が見られない」


 どうやらバールも気づいていたようで、私の話をそう補足した。できればそれも私が話そうと思っていたのだが……。

 それはともかく、なかなかに厄介な能力を持っている。聖人族と魔獣族が協力して交互に攻撃を加えなければならず、片方が尋常でない火力の元に一撃で屠ろうと考えたとしても、一定以下の損傷になるように抑える能力を持っているため叶わない。正に両種族に共闘を強いるために生まれてきた存在だね。

 

「つまり……私たちとあんたで交互に殴って回数を重ねるしかない、ってこと?」

「そのようだ。もしかすると長い時間を重ねるなりひたすら殴るなりすればその内勝手に切り替わる可能性も無くは無いが……その検証はあちらに任せよう」


 そこで私はチラリと人型の方に視線を向ける。向こうも赤いオーラを放っているので私の攻撃が通用するだろうし、その後はトゥーラたちの攻撃も一度だけ通用するだろう。しかし検証のためにあえて私は手を出さなかった。それに何より――


「ハハハハハ~! どうしたのかな~!? その手足は飾りかい~!?」

「良いな、これ。好きなだけ殴れるじゃねぇか」


 トゥーラとキラはどれだけ殴ってもダメージが通らないのを良い事に、人型を囲み情け容赦なくサンドバッグにして楽しんでいた。エクス・マキナに表情の類は一切無いものの、心なしか泣いているように見えるのは気のせいだろうか……。



人型「助けて……」

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