生体兵器のお披露目
⋇真の仲間全員集合、の巻
ウザったい三人娘との遭遇から二日後の夜。諸事情あって、僕は屋敷の地下闘技場に真の仲間たち全員を集めた。
魔術狂いの話が長いクール系魔術師、レーン。目玉が大好きな猟奇殺人鬼系猫獣人、キラ。復讐鬼と化した合法ロリサキュバス、リア。鋼メンタル持ちの一般ウサギ獣人村娘、ミニス。SM両刀使いのド変態犬獣人、トゥーラ。そして死体愛好家で女運ゼロの真祖吸血鬼魔将、バール。
僕と深い絆で結ばれた仲間たちが勢揃いだ。しかしこれだけキワモノが揃うとさすがに壮観だね。まともなミニスが天使に見えてくるレベルだよ。ていうか六分の五が魔獣族じゃないか。偏りがだいぶ激しいなぁ……。
「みんな疑問に思ってるだろうね。どうしてここに仲間たち全員が集められたのか、ってね。その疑問に答える前に、初対面の奴らがいるからまずは自己紹介からどうぞ」
そう言って、僕はレーンとバールに自己紹介を促す。この二人はこれが初対面なんだわ。片や夜型の吸血鬼、片や聖人族の国で働きつつ心の壊れた大天使の介護をしてるしで、なかなか顔合わせの場を整えられなくてね?
ちなみにバールとロリコンビ自体は少し前に顔合わせしてる。リアはいつも通り友達感覚で接してたけど、一目で分かる偉い奴だからかミニスは結構ガチガチになってた。最終的にはバールが『自分たちは対等な仲間であり、そこに上下関係は存在しない』とかイケメンなこと抜かして緊張と怯えを和らげてあげようとしてたよ。気持ちは分かるし言ってる事も分かるんだけど、魔将と一般村娘じゃ天と地ほど色んな差があるんだわ……。
「初めまして、だな。我が名はバール。魔獣族を守護する使命を帯びた魔将の一人だが、そんな使命は世界の平和の前にはどうでも良い事だ。お互い世界の平和のために力を尽くそうではないか」
「よろしく、バール。私はレーンカルナだ。魔将に比べればしがない魔術師に過ぎない、つまらない女さ。そしてそこにいる人の話を聞かない短気で落ち着きの無い変態の奴隷でもある。とはいえ世界の平和を願う心は君と同じだ。お互いに頑張って行こう」
「久しぶりに自己紹介で盛大にディスられた……」
まともな方(比較的)の二人は握手を交わすと、極めてまともで無難な自己紹介を交わす。何かレーンはお約束みたいに僕をディスってたけど、まあそこはあんまり気にしないでいこう。レーンの長話を聞かない事と、ちょっと性癖がアレな事は確かだしね?
「はい、自己紹介も終わったね。それじゃあ仲間たちを集めた理由を教えよう」
パンパンと手を叩いて、皆の視線をこっちに向かせる。僕がわりと真面目な空気を漂わせてるからか、皆の顔は微妙に固い。何にせよ真面目に聞いてくれるなら万々歳だ。これから話す事も、そして皆を集めた理由もなかなか重要な事だからね。相応しい雰囲気ってものがある。
なので僕はそれっぽい溜めを作ってから、満を持して口を開いた。
「――完成したよ。アレが、ついにね?」
「ほぅ? ついにか……」
「兵器、とやらか」
「さすがは主~! 仕事が速いね~?」
レーン、バール、トゥーラはこんな少ない言葉でも雰囲気とかから察したみたいで、一様に感心した様子を見せてた。よくこんな少ない情報だけで兵器が完成したって分かるな? 頭の回転が速くて何よりです。
「みんなに集まって貰ったのはそのお披露目のためだよ。そしてもう一つ。性能テストに付き合って貰いたいんだ」
「性能テストだぁ?」
「えー!? リア、勉強してないよ!?」
「いや、たぶんそういうテストじゃないわよ。その兵器と戦えって事じゃない?」
今回集まって貰った目的を続けると、鈍かった残り三人が妙な反応をする。キラは胡乱気な目で見てくるし、リアは何を勘違いしたのかショックを受けてるし、ミニスは的を射た発言をしつつ微妙に怯えた顔をしてたよ。もしかして僕が創った兵器って事で、とんでもない化け物を想像して怖がってるんだろうか。
「その通り。ただ心配しなくてもそこまで強くはないよ。お前らでも苦戦するくらいに強かったらマジで世界が滅びるしね」
「あ、そうなのね。良かった……」
やっぱりそれを心配してたみたいで、ミニスは僕の発言にほっと胸を撫で下ろした。
僕はこんな汚い世界滅ぼしたいと思ってるけど、実際にやったら女神様に怒られちゃうからね。あくまでも世界平和のために滅亡の瀬戸際に追い込むだけであって、マジで滅ぼすのはNGだ。だから兵器も強さ自体はそこまでではないよ。強さ自体はね?
「だが、何かあるんだろう? わざわざ私達全員を集め、戦わせようというんだ。特異で目を見張るような何かが」
「特殊な能力か、あるいは特殊な攻撃か。大方そんな所であろう?」
「性能テストというなら、より一般人に近い強さの幼女二人で事足りるだろうからね~? この二人では攻略できないような何かがあるんだろ~?」
「おい、見抜くなそこの三人。驚かせようと思ったのにこれじゃ失敗だろ」
でも鋭かった三人にバッチリと強さ以外の所を見抜かれて、ちょっと出鼻をくじかれた感じになっちゃったよ。クソぅ、ネタバレしやがって! 戦ってる時にその特異な能力に驚いた顔を見せて欲しかったのにぃ!
「ハハハ、すまないね~? しかし主の正妻が隣にいる以上、ここで慧眼と勘の良さを見せないわけにはいかないじゃないか~」
「良いからさっさとその兵器とやらを見せてくれ。どんな姿形なのか、どんな能力を持っているのか、どんな攻撃をしてくるのか、気になって仕方がない。さあ、早く」
「だな。とっとと戦わせろよ。ていうかソイツ、目玉はあるんだろうな?」
僕の不貞腐れた発言に対して、トゥーラはレーンに対抗心を燃やしながら睨みつけてるし、レーンは探求心と好奇心に瞳を爛々と輝かせてるし、キラは目玉を抉りたそうにしてる。どいつもこいつも主張が強くて嫌になっちゃうよ。相対的にロリコンビがちょっと霞んじゃう。
「……貴様も苦労しているな」
「でしょ? どいつもこいつも我が強くてね……」
そんなヤベー女たちに嫌な過去を思い出したのか、バールが僕に哀れみの視線と共に同情を示してくれた。正直嫌になる事もあるんだけど、僕はこういう我の強さに惹かれてるんだわ……。
「――よし、みんな準備はオッケー?」
僕がそう尋ねると、全員が無言で頷いた。
一体どんな相手を想定してるのか、皆完全にフル装備。特にレーンはここ一番の時に使う杖に大量の魔法陣を収めた書物をセットしてるし、バールに至っては血液入りの瓶を八本ほど周囲に浮かせてスタンバってる。お前らそれいらないだろ。一体何と戦う気なの?
「さて、それじゃあお披露目だ。召喚――エクス・マキナ」
過剰戦力はさておき、とりあえずお披露目を決行した。地下四階の実験室に置いといた兵器三体を、この場に召喚だ!
ちなみに召喚って言ったけど、特に転移と何か変わった所は無いよ。気分で言い方変えただけ。それでもイメージしっかりしてればちゃんと発動するから、この世界の魔法本当に好き。
「ほぅ……」
「何だ、あれは……?」
「不気味……」
その場に現れた三体の兵器の姿に、みんな思い思いの反応を示してた。全員の反応を言うと長くなるから詳細は言わないけどね。そんなことより僕が召喚した兵器の詳細の方が聞きたいでしょ? え? それも別に聞きたくない? うるせぇ、黙って聞け!
まず一体目。一言で表すなら人間大のカラクリ人形って具合の人型兵器。でもそんな古風な感じじゃなくて、分かりやすく言うなら、そうだねぇ……全身に歯車が埋め込んであるター●ネーターって所かな。ちなみにカラーリングは金色で、その手には同じく金色の剣を持たせてる。
二体目は同じコンセプトの獣型カラクリ人形。大型の四足獣を歯車やら機械部品やらで形作った、実にロマン溢れる一品に仕上がったよ。機械の獣って良いよね。もちろん運動性能は獣並みだからとっても素早いぞ。コイツもカラーリングは金色、武器は前足の鋭い鉤爪、あとは牙かな。
そして最後の一体。コイツは、そうだね……浮遊する大きな結晶体の周りを、更に大きな歯車が幾つも回ってる感じの何か変なやつだ。コイツも結晶体を含めてカラーリングは金色だよ。他二体とコンセプト全然違うと思われるだろうけど、そこは突っ込まんといて? これでもなけなしのセンスを捻り出して頑張ったんだ!
「これがスライムを元に創り出した生物兵器、エクス・マキナだよ。左から人型、獣型、結晶型。挨拶して?」
「よろしくー!」
「スライムのスの字も見当たらないんだけど……?」
素直に挨拶をするリアと、控えめにツッコミを入れてくるミニス。まあ見た目金属の塊だからスライム成分どこって思うのも無理は無いか。実際素体にしただけでスライム成分はゼロだし。
「じゃあ皆にはこれと戦って貰うよ。ぶっ壊しても問題無いから本気でやると良いよ。ぶっ壊せるならね?」
「上等だ。燃えるゴミに出してやるぜ」
「こんなデカい金属を燃えるゴミに出すのはさすがに自治体が怒りそう……」
ゴミを分別する気の無いキラがちょっと心配だけど、やる気十分なのは僕としても嬉しいかな。良い戦闘データが取れそうだ。僕自身が戦っても参考にならないしね。
「まあいいや。それじゃあ戦いを――あっ、待った。リアは観客席で僕と観戦ね?」
「えっ、何でー? リアもみんなと一緒に戦いたいのにー」
「これ一応生物判定だから、たぶんお前の戒律に接触するんだよ。お前サキュバス以外の生物は傷つけられないでしょ?」
「あっ、そっか。じゃあしょうがないよね。みんな頑張ってねー!」
僕に言われて思い出したのか、あるいはエクス・マキナが生物だって事に今初めて思い至ったのか、リアはわりとあっさり頷いて観客席に飛んで行った。ヤバ気な戒律を組んでるんだからもうちょっと気を付けようぜ? まあ僕が指摘しなくてもレーン辺りが指摘したかもしれないけど……いや、今はエクス・マキナに目が釘付けだから分からんな……。
「さて、それじゃあ始める訳だけど……作戦会議をするなら今の内にどうぞ?」
「あ? いらねぇよ、そんなの。さっさとやろうぜ」
「まあ待ちたまえ~。仮にも主の作った兵器だ~。油断は禁物だよ~?」
「そうだね。あのクルスが作った兵器が一筋縄で倒せるとは思えない。ここは警戒を緩めず、手堅く確実に戦うべきだろう」
キラさんは何も考えずに突貫したいみたいだけど、レーンとトゥーラに諫められてた。しかも二人は明らかに警戒を滲ませてエクス・マキナを見据えてる。
コイツら僕が創った兵器を何だと思ってるんだ。触れた瞬間に辺りに致死性の猛毒を撒き散らすとでも思ってるの? さすがにそこまで非道な真似はしないよ。世界を滅ぼして良いって言うなら遠慮なくやるけど。
「キラ、トゥーラ、君らは人間を相手にするのが一番得意だろう。人型を相手にしてくれるかい?」
「了解~」
「あいよ」
自然とレーンが司令塔になったみたいで、対人特化の二人を人型エクス・マキナに割り当てた。うんうん、これは正しい判断だ。剣を握らせてる事から分かる通り、コイツには剣術をぶち込んであるからね。
「バール、君一人で残りのどちらかを相手にできるかい?」
「無論だ。我は運動性能の高そうな獣型の相手を請け負うとしよう」
そしてバールが獣型を引き受ける。やっぱりフォルムから運動性能が高いって見抜かれちゃったか。金属の身体や歯車やら何やらで一見鈍重そうに見えるけど、コイツは高い運動性能が売りだからね。まあ人間の十倍以上身体能力の高い吸血鬼なら、問題無く獣型を相手できるでしょうよ。
「任せたよ。私とミニスはあの結晶型とやらの相手だ。私がサポートするから、頑張ってくれたまえ」
「わ、分かったわ……」
そして最後の浮遊する結晶体を、レーンとミニスがコンビで対応。微妙にミニスが戸惑ってるのはレーンがあまりにもまともに指示を下してくるからか、それとも結晶型の異様さ故か。
どっちにせよこの戦いで鍵になるのはこのコンビ、正確にはレーンだから頑張って貰いたいね。
「割り振りは決まったみたいだね? それじゃあ――始め!」
開始の宣言と同時に、僕はエクス・マキナ三体を戦闘モードに切り替えた。途端に三体の身体から赤いオーラが立ち上り、目標を見据えて動き始める。さあ、戦闘開始だ! 盛り上がって行こう!
改めて見ても最低最悪なメンツだ……。