遺骨の指輪
⋇性的描写あり
というわけで、僕は無難に地下牢チラ見せを乗り切りました。魔術契約を結んで地下で見た事知った事を口外しないように縛ったし、対応としては百点満点なんじゃない? 客人への対応としては赤点だっただろうけど。でもクッソ失礼で無礼だったから仕方ない。
「……それで? これで僕が地下牢に女の子を監禁するような犯罪者じゃないって事、分かってくれた? ていうか今のところ犯罪者はそっちだからね? ストーカーに不法侵入に暴行、あとは脅迫かな?」
そして地下からリビングに戻って、三人娘にさっさと帰れと圧をかける。
実際は僕の方がやらかした悪事は多いし、何なら本当は牢屋にサキュバスを十人くらい監禁してるけどね。まあバレなきゃ犯罪じゃないから問題ない。
「……私は、理解したです」
「ええ、私もよ。疑ってごめんなさいね、クルスくん?」
ウサギ娘と女狐はどうやら僕が清廉潔白な人間であると、表面上は理解してくれたみたいだ。判別できない薄い表情してるウサギ娘も、人の良い笑みを浮かべてる女狐も本心からは信じてない感じだな? クソが。
「いいよいいよ。間違いは誰にでもある事だしね――それでぇ? そこの人はどうなんですかねぇ?」
「……ふん! 私はまだ納得しないわよ。だってあんたは怪しいもの! それに私の女の勘が言ってるわ! あんたは史上最悪の悪党だってね!」
「やれやれ。相変わらず失礼な奴だな、コイツ……」
女狐でさえ表面上は僕を疑うのをやめたのに、頑なに僕を悪だと決めつける悪魔っ子。全く……大正解だから反応に困るよね? どうして女の勘とかいう不確かで非論理的なものなのに、バッチリと僕の正体を当てられるの? 超能力か何か?
「とにかく地下牢は見せたんだし、君らの犯罪は見逃してあげるからそいつ連れてもう帰ってよ。あとできればそいつはもう二度と連れてこないでくれると嬉しいな。いちいちうるさいし話も通じないしで目障りだ」
「目障りなのはあんた――むぐぅ!?」
「分かったわ。私たちはもう帰るわね。迷惑をかけて本当にごめんなさいね?」
「申し訳ないです。深く謝罪するです」
さすがに喧嘩腰で疑い過ぎだと判断されたか、女狐に背後から口を塞がれ、ウサギ娘に両手を押さえつけられる悪魔っ子。やーいやーい、ざまぁ。
「君らに謝られても意味無いんだよなぁ――ん? ちょっと良いかな、そこのウサギ娘」
「何です?」
「その左手の指にあるのって何?」
悪魔っ子の腕を捻じる様に押さえてるウサギ娘、その左手の指にとあるモノが嵌ってるのを見つけた僕は、何気なくそう尋ねてみた。別にアクセサリをつけてるだけなら気にもならないんだけど、場所とモノがちょっとアレだったからね。
「……ああ、これは指輪です。あの男の遺骨から作りました」
「ふーん……」
うわ、遺骨で作った指輪かよ。なかなかロックな物をつけてるじゃないか。
しかもそれを左手の薬指に付けてるのがますます訳分からん。イカれ野郎だの何だの散々罵って捨てた癖に、何でソイツの遺骨で作った指輪をそこに付ける?
「……言いたい事は分かるです。これを付けていれば、煩わしい男が寄ってこないからです。それにこれを付ける度、見る度に思い出せるんです。男を信じてはいけない、男の本性は腐っている、という事を」
「……なるほどね。戒めと男除けのためにつけてるってわけか」
「そうです。正直こんなもの握り潰したくなりますが、戒めにするにはぴったりの物です」
ちょっと理解し難かったけど、理由を聞いたら納得だ。ナンパを避けるために左手の薬指に指輪を嵌めるってのは結構聞くし、コイツは曲がりなりにもSランクの冒険者だ。見た目と地位しか知らないような男ならこぞって声をかけそうだ。
「……ちょっと見せて貰っても良い?」
「どうぞ。見ても面白くはありませんが」
そう言って、ウサギ娘は魔法で悪魔っ子の手を何やら拘束してから、指輪を外して僕に渡してきた。意外と素直に僕みたいなクソ野郎に見せる辺り、別に大事な物とは思ってないんだろうね。無くなったら無くなったでまあいいや、みたいなもんか。
「ふーん……」
見た目は確かに普通の白っぽい指輪だけど、感触は金属じゃない。こっそり魔法で調べてみたら、間違いなく人間の骨って出たよ。うんうん、なるほど。あの可哀そうなヴィオくんの骨ね? なるほどなるほど。
「何か気になったです?」
「うん、実はどこの部分の骨で出来てるのかちょっと気になったんだけど、見てもさっぱり分からんわ」
「大腿骨です。そこから削り出して、硬質化して作りました。本当はもっと作れましたが、二人がいらないというので他の部分は灰にして適当に撒き捨てて貰ったです」
「なるほど。つまり唯一残ったあの男の身体の一部でもあるわけだ」
「です。たまに無性に憎らしくなるので、壊さないようにするのが難しいです」
仕込みを終えた僕は、指輪をウサギ娘に返してあげた。護衛として僕の斜め後ろに立ってるトゥーラは僕が何をしたのか見えただろうけど、もちろん何も言わずにいてくれたよ。これはなかなか面白いことが出来そうですねぇ? ククク……。
「それじゃあね、クルスくん。七日後にまた会いましょう?」
「さよならです。ご迷惑をおかけしました」
「……ふん!」
そうしてしばらくしてから、ウザったい三人娘は帰っていった。女狐とウサギ娘は内心はどうあれ表面上は頭を下げて謝罪までしたのに、悪魔っ子は最後まで僕に対して敵意を隠そうともしてなかったよ。アレは間違いなく僕がこの世全ての悪みたいに思ってる感じだ。さすがの僕もそこまでの悪党だと論理的な理由も無く決めつけられるのはちょっと悲しい。
ちなみに女狐の『七日後にまた会いましょう』っていう台詞は、言葉通りの意味だよ。次は七日後に来て、僕の仲間たちに色々話を聞くんだってさ。僕が洗脳してないかとか、僕に怪しい所は無いかとか、色々とね? 全く……僕と仲間たちは真っ黒な絆で結ばれてる運命共同体なのにねぇ?
「はーっ、やっと帰った。何なのアイツら。特にあの悪魔っ子。アレだけ僕が平和のために邁進する心優しき科学者だって事を論理的に説明してあげたのに、勘とかいう非論理的なもので僕を未だに悪だと決めつけてるし……全く、実に鋭いよね?」
「そうだね~。近年まれに見る凄まじく鋭い勘の持ち主だ~。完全に主を悪と断定していたからね~?」
三人娘を見送ってリビングに戻った僕は、ソファーに深く沈みつつ愚痴を零す。そしたら今まで黙ってたトゥーラが僕の肩を揉みつつ賛同してくれたよ。あー、そこそこ。そこ気持ちいい……つーか本当に喋らなかったな、コイツ……。
何にせよ悪魔っ子の勘の鋭さは無論の事、他二人の疑り深さも相当なものだ。あれだけ懇切丁寧かつ真摯に、僕が魔獣族の平和のために日々邁進してる事を教えてあげたのに、心の中じゃまだ僕への疑いを消してないよ。よっぽど愛する男がイカれ野郎だった事がトラウマになったんだろうなぁ……。
「それでどうするんだ~い? 彼女たちを消すなら、もちろん私も手伝うよ~?」
「そうだねぇ……消すよりかは牢にぶち込んで拷問漬けにしてやりたいなぁ。その方がヴィオくんも浮かばれるだろうしね」
自分を裏切った尻軽女たちを、せっかく作ったのに一度も使われなかった拷問部屋でひたすらに壊す。きっとその方が天国にいるヴィオくんも喜んでくれるさ。僕って何て死者想いの優しい人間なんだろう。
「ふむ、確かにあっさり殺してしまうより生き地獄を味わわせてやった方が良さそうだね~。主に無礼極まる態度を取ったのだから、それに相応しい罰を与えなくてはいけないよ~」
「その論調だと、僕を逆レイプしたお前にはもっとヤバい罰を与えないといけないんじゃない?」
「わふ~ん! 罰を与えたいというのなら、喜んで受けるよ~?」
「ああ、うん。やっぱ罰にならないからいいわ」
驚くどころかむしろ興奮気味に声を上げるドMワンコに、僕は即座に罰を与える事を諦めた。コイツドSでドMだから何やったって快感に変換しちゃうし、罰なんて無意味なんだわ。放置プレイならどうかと思っても、玄関の外に放置プレイ用の犬小屋があるしなぁ……。
「まあ、とりあえずは好きに調べさせて満足するまで空回りしてもらうよ。お礼参りはその後。僕は忙しいから、まず色々片付けないといけない事があるしね……」
着々と本格的な活動のための準備を進めてるとはいえ、完全に全て終わったわけでも無い。面倒な事はさっさと片付けたいし、何より一度本格的に活動を始めちゃうと世界情勢が劇的に変化しちゃうからね。後戻りとかできないし、今の内に出来る限りの備えをしておくのが無難でしょ。
「主はとても忙しそうだね~? 精力的に活動するのも結構だが、無理をして身体を壊さないでくれよ~?」
「分かってるよ、そんな事。だから最近は分身とか分裂とかできないかちょっと考えてたりする」
僕が複数人いれば、同時にやれる事の幅が広がる。だからわりと現実的な計画として自分の複製を作れないか考えてはいたんだけど、どうしても自分自身が反乱を起こしてきそうに思えて踏み切れないんだよねぇ。
そもそもの話、身体の複製を作れても魂がどうしようも無いんだわ。魂の複製はさしもの僕でも作れなかったし、かといって適当な魂を突っ込むと拒絶反応とかでその内自壊するし。倫理観はさておき実用性も安定性も何もかもがダメ過ぎる。
「な、なんだって~!? 主が、何人も~!? それは実に素晴らしいね~! 大勢の主にたっぷりと痛めつけられ、ボロボロになるまで犯される私……何と甘美なシチュエーションだ~!!」
「変態極まってんな、お前。仮に複製に成功してもそんな事のために使わせないからね?」
何やら大勢の僕に暴行と凌辱を受ける自分の姿を想像して興奮してる様子のトゥーラ。本当にコイツはダメダメだ……あの三人娘は僕を疑う前にまずコイツをどうにかしろよ。