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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第10章:真実の愛
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平和のための研究(嘘)



 女狐に手玉に取られてる感じでめっちゃムカつくけど、ここで向こうの要求を蹴ってもこっちの怪しさが増すだけ。だから僕は仕方なく三人娘を屋敷に上げた。

 まあこういうガサ入れには日頃から備えてるし、見られて困る物はその辺には無いからそこまで心配や不安は無い。見られて困る物自体はいっぱいあるがな!


「とりあえず地下牢は見せてあげるよ。でもそれが終わったら今日は帰って欲しいな? こっちにだって色々予定があるんだからさ」

「ええ、それで構わないわ。あなたのお仲間とのおしゃべりはまた後日、という事にしましょう?」


 ムカつく女狐たちを引き連れてリビングに入り、暖炉の上の鳥の置物を弄って地下への階段を出現させる。それを見て女狐たちはどうにも緊張と警戒を滲ませた表情でこっちを見てたよ。特に悪魔っ子なんか、ベルがメイドの仕事に戻ったせいか嫌悪と敵意を隠しもしない。さっきまでベルに締められてぐずってた癖によぉ?


「……言っとくけど! 地下牢にあたしたちを閉じ込めて隠蔽しようってのなら無駄よ! ちゃんとギルドの本部の人たちに、この屋敷に住んでる奴を探るって言ってあるんだから!」


 挙句に僕が悪い事企んでるみたいに決めつけて、そんな喧嘩腰な言葉を投げかけてくるんだからクッソ腹立つ。確かに隠蔽も考えてるし悪い事も企んでるけど、今この場でやらかすほど向こう見ずじゃないわ。


「うっせバーカ。そんな事ちょっと考えれば予想が付くわ」

「はぁ!? 何よその態度!? あんた仲間が強いからって調子乗ってんじゃないでしょうね!?」

「そっちこそ何その態度? もう一回メイドに締めて貰う? 呼べばすぐ来るよ?」

「っ……!」


 屋敷のどこにいようと、ベルは僕が呼べば数秒足らずで現れる。だから僕は両手でメガホンを作って大声で呼んでやろうとしたよ。口に手を当てた時点で悪魔っ子の顔が引きつって笑う。


「ヴェラ、相手が悪いです。抑えてください」

「チッ……何なのよ、コイツ……!」


 若干悔しそうな顔をしたウサギ娘に宥められて、悪魔っ子は舌打ちしながら勝手に地下への階段を下りてく。何なら他二名も家主の許可なく続いてったよ。幾ら前の持ち主だろうと、今この屋敷の持ち主は僕なんですが? 少しは遠慮とかそういうの無いの?


「全く……キレたいのはこっちの方だっての……」

「むふふ~。やめてくれ主~、くすぐったいよ~?」


 ミニスを抱いて発散したはずの怒りと殺意がぶり返してきたから、僕は護衛兼ストレス発散につれてきたトゥーラの犬耳をわしゃわしゃと乱暴に揉んでやった。もちろんトゥーラは滅茶苦茶嬉しそうに尻尾振ってたよ。コイツは本当に人生楽しそうで羨ましいねぇ……。






「ほら、この向こうが牢屋だよ。どうぞ気が済むまで見てとっととお帰りになって?」


 鬱屈した感情のせいで多少お言葉がお乱れになりつつも、僕は地下牢への扉を開けて三人娘を促した。途端に三人娘はまるで魔王の城に入る勇者一行が如く陣形を組み、僕と牢屋方面の両方を警戒しながら薄暗い地下牢へと足を踏み入れてく。

 そうして周囲を見回して牢の中に視線を向けた途端、悪魔っ子がハッと息を呑んで僕に対して武器を向けてきた。何だその短剣。やんのか? 手足を捥いでお前自身に食わせるぞ?


「やっぱり中に人を閉じ込めてるじゃない! この腐れ外道! 今すぐこの場であんたを捕まえ――」

「待って、ヴェラ。あれは人じゃないわ。良く見て?」


 でもそんな悪魔っ子を、女狐が手で押し止める。

 ちょっと惜しかったな? 斬りかかって来たなら正当防衛で殴り飛ばせたのに。何にせよちゃんと分かってる奴がいるならこれ以上は無駄か。そんなわけで僕は地下牢の灯りを付けてあげました。途端に薄暗くて雰囲気のあった地下牢が明るく照らされ、牢の中にいる物体が全員の目に正しく映る。


「え……? あれって……?」

「スライム、です。あと、他にも何種類か魔物がいます」

 

 そう、牢の中にいるのはスライムを始めとした小型の魔物たちだ。あれを人と勘違いするとか目が悪いのでは? 確かにあえてそう勘違いさせて向こうから暴力を振るわせる事を考えてたのは否定しないけど。

 それはともかく、このスライムたちは元々地下二階にあるダミーの牢屋にぶち込んでた魔物たちだ。許可してない奴らが地下に入ったおかげで、問題無く入れ替えが行われたらしいね。よしよし、偽装は正しく行われてるな?


「……どうして、魔物を牢に閉じ込めているのかしら?」

「そりゃあ僕が研究者だからだよ。この魔物たちは僕の研究の被検体さ。普通の屋敷じゃ閉じ込める所に困るけど、ここには地下牢があるから都合が良かったんだよね。屋敷自体も安かったし」

「ハッ! 魔物を使った研究なんて碌なもんじゃなさそうね」

「お? 言ったな、クズが? じゃあ成果を見せてやろう」


 悪魔っ子が明らかに決めつけてるのが癪に障ったし、どうせ見せないといけないから研究の成果を見せてあげる事にした。実際にはこんな研究してないから、真っ赤な嘘なんですがね?


「はい、出ておいで~?」


 そうして僕は牢屋の一つを開けると、そこから角の生えたウサギみたいな魔物を招いた。目が真っ赤でわりと筋肉質で狂暴そうな面構えしてるけど、僕の招きに対してぴょんぴょんと跳ねながら大人しく出てきたよ。

 ちなみにコイツはスライムほど下等な生物じゃないから自我を持ってるし、一回殺して契約して服従させてる。つまり僕の命令なら何でも聞いてくれるから、こんなの研究もクソも無いよ。


「え……」

「まさかです」

「あらあら……」


 とはいえそれを知らない三人娘は僕が魔物に言う事を聞かせてるようにしか見えないから、それぞれ驚きの反応を示してる。この程度の事で驚くとか、魔力が有限の人たちは可哀そうですねぇ?


「よーしよしよし、良い子だ良い子だ。はい、お手。それじゃあ牢に戻ってー?」


 少しの間目の前で言う事を聞かせた後、自ら牢へと戻らせる。もちろん角ウサギが拒否するわけも無く、ぴょんぴょんと跳ねて牢の中に戻ってったよ。

 しかし小動物って意外と可愛いな? 動物を飼うのもアリかもしれない。踏み潰しそうでちょっと怖いけど。


「……とまあ、こんな感じ。僕は自我のある魔物を自在に操る研究をしてるのさ。と言っても今は小動物くらいの魔物が精々、しかも操るまでに長い時間をかける癖に、ごく短い時間しか操れないと欠点だらけだけどね」


 そして後ろで驚いてる三人娘に対して、真っ赤な嘘を垂れ流す。実際には魔物だろうと人間だろうと問答無用で操れるし。殺して自我を無くしてからじゃないとできないっていう欠点があるとはいえ、それ以外には何一つ欠点はないんだよなぁ。


「でもこの技術を実用化まで持っていければ、魔物による被害を限りなく減らすことができる。何なら聖人族との戦争に魔物を駆り出す事だってできるし、そうなれば徴兵で村から子供が連れていかれる事だって無い。お前らがどう思うかは知らないけど、これは平和のための研究なんだよ」


 そしてさも魔獣族の平和のために研究してますよって風を装い締める。実際には口に出すのも恥ずかしいくらい嘘に塗れてるんだから笑えるよね? でも平和を目指してる事自体は嘘ではない。ただしそれは魔獣族だけの平和じゃなくて、両種族間の恒久平和の事だけど。


「……どうやってるんです?」

「そこは秘密。何でクッソ失礼でクッソ無礼な奴らに、僕の血と汗と涙の結晶である研究結果を教えなきゃなんないの? 横暴とかそういうレベルを通り越してるよ? ふざけてんの?」

「……ごめんなさい、です」

「ふむ。許さないけど謝れるのは良い事だ。多少は見直してやらんでもない」


 尋ねてきたウサギ娘に喧嘩腰で答えると、意外にも素直な謝罪が返ってきた。

 というかどうやってるのかまでは設定を決めてないから説明できないんだよ。まさか殺して契約して蘇生させたって言うわけにもいかないしね。ポンポン殺したり蘇生させたりしてるから感覚麻痺してるけど、一般目線からすると死を超越するのは普通無理だからね?


「嘘よ、嘘! こんな奴が平和のために研究してるなんてありえないわ!」

「ちょっ、ちょっとヴェラ……!」

「うん。逆にそいつは更に評価が落ちたよ。もう感情的に僕の事が気に入らないだけなんだろうね?」


 しかし悪魔っ子は女狐の制止も聞かず、僕の崇高な研究内容を信じない。チッ、勘の良い野郎だ。その通りだよ。


「だって自我のある魔物を操れるなら、人間だって操れるって事でしょ!? あんたはそういう使い方をするために研究を進めてるんじゃないの!?」

「ふーむ。確かに更に発展させていけば、そういう事が出来るのかもしれないね。その可能性は否定しないよ」

「ほら、やっぱり!」


 無茶苦茶鋭い悪魔っ子に対して内心の動揺を押し隠しつつ答える僕。

 ヤベェ、コイツ思ったよりも遥かに勘が良いぞ? 感情で僕の事が気に入らないってのもあるだろうけど、たぶんそれなりに頭が回るんじゃなかろうか。人間の洗脳の可能性に気付くとかやめろよな。

 しかし舐めるなよ悪魔っ子。人間を洗脳できる可能性に気付かれた場合の答えやプランを僕が用意してないとでも思ったか?


「でも、どんな技術だって使い手と使い方次第でしょ? 料理をするのに便利な包丁だって使い方によっては人を殺せる武器だし、お前が手にしてる短剣だって人を殺せるでしょ? それとも何? 絶対に人に害を及ぼさないものしか認めないの、お前は? それなのに短剣を武器に冒険者やってるとか、偽善者も良い所だね。恥を知れよ、恥を」

「くっ……!」


 まずはジャブとして、どんなものにも危険はあるという事をネチネチと伝える。やっぱり理解はしてるみたいで、悪魔っ子は悔しそうに呻いた。まあどんな物や技術だろうと使い手次第なのはどこの世界でも一緒だろうね。


「ま、本当に人を操れそうなら、その時はこの研究は実験結果も何もかも破棄してお蔵入りかな。僕はそこの正義ぶった偽善者と違って良識があるからね?」


 ミニスがいたらジト目で見てきそうなセリフを恥ずかしげも無く口にしつつ、人道に反する場合は研究の破棄も辞さない覚悟を見せる。実際はそんな研究してないから、続けられなくなったって痛くも痒くもないけどな!

 というか、さっきからトゥーラの奴やけに静かだな? 敵意剥き出しの奴がいるせいか僕の護衛に集中してるみたいで、さっきから微笑を浮かべたまま一言も喋らん。喋るとうるさいけど、黙るのもそれはそれで不気味だな……。


「騙されないわよ! どうせ破棄した振りをして研究を続ける気なんでしょ!?」

「だったら魔法で契約したって良いよ? 人間を操れる事が確定した時点で、研究を永久に封印するって。ただし、そっちは僕の研究をどんな形でも口外しないって契約してもらうけどね。どうする?」

「なっ……!?」


 そして未だ信じない勘の鋭い悪魔っ子に対し、そんな契約を持ち掛ける。これにはさしもの悪魔っ子も驚きに目を見開いてた。

 基本的に魔術契約は破れないものだし、言葉でグダグダと信頼を並べ立てるよりも確実な証拠になるからね。とはいえ僕にとっては大前提である『自我のある魔物を操る研究』そのものをしてないから、何の意味も無い契約だって事だ。向こうはそれを知らないから、むしろ女狐はニヤリと笑ってるけどな! 引っかかってくれてどうも!


「……いいわ。そこまで言うなら、契約しましょ?」


 そして女狐の提案で、僕は三人娘と何の意味も無い魔術契約を結びました。

 まあ完全に意味が無いわけでも無いけどね。だってこのおかげで三人娘は僕が何の研究をしてるのか、そしてそれが世界にもたらす影響とかも口外できないしね。正直この研究云々は地下牢にダミーをぶち込むための嘘八百だから、口外されると嘘を嘘で塗り固めて行かないとだから困るんだわ……。



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