メイド圧勝
⋇性的描写あり
⋇軽い分からせ
「ふぅ、スッキリした……」
ミニスをお風呂場に連れ込んで良い汗を流した僕は、色々な意味で爽快な気分を感じながら脱衣所を出た。
えっ、ミニスはどうしたって? 大丈夫、ちょっと身体がビクビクしてたけど元気そうだったよ! 頭のおかしい犬猫やロリサキュバスを相手に腕を磨いてるおかげで、獣人であろうとド田舎の村娘程度なら完封できる程度には上達したみたいだ。この調子でもっと高みを目指したいね?
「最初は変なのに絡まれて何だこの女共って思ったけど、今はとっても清々しい気分だ。大概の事なら笑って許せる気分だよ」
自身の成長にちょっと喜びを感じながら、僕は自室へ向かおうとエントランスを通る。
でもその途中、背後から強烈な悪意を感じたから躊躇いなく裏拳を放った。この粘りつくような色欲塗れの悪意は絶対アイツだ。
「――ぐはぁっ!?」
予想通り、僕の裏拳が捉えたのはトゥーラ。横っ面を引っぱたかれる形になって、クソ犬はそのまま横にぶっ飛んで階段にガツンとぶつかった。コイツたまーに無音で気配を消して抱き着いて来ようとするんだわ。ただ気配は完全に消してるんだけど、欲望を隠せてないから僕でも察せるんだよね。
「気配を消して飛びついて来ようとするな。せめて分かりやすく正面から来い」
「うう~……正面から行けば抱き着かせてくれるのかい~……?」
「いや、迎撃するけど」
「じゃあどっちでも変わらないじゃないか~……いけず~……」
そのままずるずると床に伸びていくトゥーラ。
しかしコイツは本当に何なんですかねぇ? 意図的に道化みたいに振舞ってるのか、それともこれが素なのか……これが素ならちょっと引くわ。
「それはそうと、お前に任せた番犬役はどうなったの?」
「おっと、そうだった~。主が去ってから数十分くらいかな~? 三人組の少女たちが訪ねてきたよ~」
「やっぱ来やがったか。面倒な……」
即座に立ち上がって報告してきたトゥーラに、僕は額に手を当てて呻く。
玄関前の犬小屋に入ってたトゥーラが言うって事は、確実に不法侵入をやらかしてるじゃないか。Sランクの冒険者の癖にそんな犯罪行為に走るなんて、どんだけ僕の事が気になるんだよ……。
「主は屑のゲス野郎だの私を救うだの云々言っていて、だいぶ目が曇っている感じがしたね~。ああいうのを正義感に酔ってると言うのかな~?」
「だろうねぇ。一方的に悪と決めつけるとか、正義っていうのも大概偏見酷いよね」
言わなくても何となく分かるだろうけど、僕は物語とかじゃ正義よりも悪が好きだ。だって悪ってかっこいいじゃん? 自らの目的や欲望を叶えるために、法も倫理も道徳も無視して手段を選ばずに突き進む。正に覇道って感じで大変よろしいでしょ? 憧れるよねぇ?
「それはともかく、結局アイツらどうしたの? ボコボコにした?」
「あ~、それなんだがね~……個人的には気に入らないんだが、まあなかなか愉快な事になっているよ~?」
「愉快? じゃあ見に行ってみるかな」
ちょっと渋い顔をしてるトゥーラの反応も気になったし、せっかくだから見に行ってみる事にした。まさかトゥーラがあんな奴らに負けるとも思えないし、一体何があったんだろうか。少なくとも目の前のトゥーラは別段負傷した様子も無ければ、服が乱れたり汚れたりしてるわけでもないんだが。
そんなわけで、僕はトゥーラを引き連れて玄関へと向かった。察するにまだそこにいるっぽいからね。だから玄関の扉を開けて外に出たんだけど――
「――なるほど、確かにこれは愉快だ?」
「だろ~?」
そこにはトゥーラの言う通り、実に愉快な光景が広がってた。
「おい、手が止まっているぞ。貴様らが壊した花壇だ。貴様らの手でキリキリと直せ」
「ぐすっ……何で、あたしがこんな真似を……!」
「は? 私が手塩にかけて育てた愛しい子供たちを、貴様らが残酷に踏みにじったからだが? まさか自分たちの罪をまだ理解していないのか? 貴様らが踏みにじった子供たちのように、貴様ら自身を私が踏みにじって地面の染みにしてやろうか? あぁ?」
「ひっ……!? や、やります! 頑張って花壇を直します!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「私、何もしてないのに……」
それは三人娘がとっても怖いメイドに殺意をぶつけられ、震えながら芝生をならしたり花壇を修理してる光景。あの高圧的でクッソ腹の立つ悪魔っ子は、泣きながら花壇の破片を拾っては手作業でくっつけてるし、ちょっと感情薄めに見えたウサギっ子は念仏が如く謝罪を口にしながら、死んだ目でお花を土に植え直してる。
唯一そこまで愉快な反応をしてない狐っ子も、ちょっと不満気にしながら捲れ上がった芝生を直してるし……何があったのかは分からんけど実に愉快だ。ざまあ。
「しかし何があったのこれ? 何でストーカーたちが仲良く庭弄りしてるの?」
「あっ!? あのムカつく顔のクソ野郎! とうとう出て来た――ぎゅうっ!?」
僕の声に反応して立ち上がった悪魔っ子だけど、即座にベルにその首を鷲掴みにされて絞められた鶏みたいな声を出してた。ざまあ!
「手を止めるなと言ったはずだが? それに貴様、今私のご主人様をムカつく顔のクソ野郎と言ったか? 花壇の修理を放り投げた挙句、ご主人様に罵声を浴びせるとは……貴様、肥料にでもなるか?」
「な、なりません! 修理っ! 修理しますっ! 花壇を直します!」
そのまま片手でギリギリと締め上げるベルに対して、悪魔っ子はまるで命乞いするみたいに泣きながら答えてる。アッハッハ、さっきまでの威勢の良さはどうしたぁ? おぉん?
「そうか。ならば先ほどのご主人様への暴言は見逃してやろう。尤もそれはご主人様が許せばの話だが――」
「あ、いいよ? 今の姿が相当滑稽で愉快だから、なかなか楽しませて貰ってるし」
「――とのことだ。運が良かったな、貴様?」
「えほっ、ゲホッ……!」
ベルが手を離すと、悪魔っ子は涙目で咳き込んで自分の首を押さえる。どんな力で絞められたのか、はっきりとベルの手形が残ってますね……でもベルの力を考えるに、これでもかなり手加減した方なんだろうなぁ。たぶん僕が許さなかったらそのまま首を握りつぶしてたでしょ、これ。
「……で、何でこんな事になってんの?」
「うむ。私との戦いでコイツらが花壇を壊し、草花を踏みにじったのが原因だね~。戦いの途中でベルが買い物から帰ってきて、その惨状を目の当たりにして、その後は――こんな感じだ~」
「なるほど。圧倒的な個の力の前にひれ伏した、と」
「うむ、そんな感じだ~。さすがの私も恐怖を感じるレベルだったね~……」
珍しくもちょっと怯えた様子を見せるトゥーラ。
どうやらコイツらはベルの逆鱗に触れてしまったっぽいね。大切に愛情を込めて育ててる草花なのに、それを見知らぬ侵入者に踏みにじられたらそりゃキレるわ。そして今はメイドに扮してる上にミニスの2Pキャラになってるとはいえ、その正体は魔将、それも魔将の中でも別格の存在であるベルフェゴールだ。現役のSランク冒険者だろうが敵う道理が微塵も無いね。ウサギ娘と悪魔っ子の汚れた姿を見るに、速攻でボコボコにされたんだろう。
「やっほー、ベル。災難だったねー?」
「全くだ。いっそ殺してやろうかと思ったぞ。というか殺さないように手加減するのがとても大変だった。先程もうっかり首を握りつぶしそうになったからな」
「さすがぁ。めっちゃパワフルだなぁ……」
僕が声をかけると、怒りを抑え込むように拳を握りながら答えてくる。その拳からはっきりと『ミシミシ、ビキキ』とか聞こえてくるんだから恐ろしいよ。ちなみに開かれた手の中からは砂になった石がサラサラと地面に流れ落ちました。握力お化けぇ……。
「こんなクズ共の事は今は置いておこう。そんな事より、実はご主人様に頼みがあるのだが……」
ゴリラみたいな握力を見せつけて来たにも拘わらず、ベルは唐突にしおらしさを見せてそう口にした。そして僕の手をそのゴリラ握力の手で掴んで、少し離れた場所に引っ張ってく。
ハハハ、内緒話かな? 腕を握りつぶされそうで怖いから離してくれると嬉しいな?
「どうしたの? アイツらを花壇の肥料にしたいとかそういう話?」
「いや、あんな奴らを肥料にしても子供たち――草花は喜ばんだろう。そうではなく、実はご主人様に頼みがあるのだが……」
「……何これ? 種?」
とりあえず僕らの周りにだけ防音の結界を張ってからそう切り出すと、ベルはポケットから植物の種っぽいものを取り出して僕の掌に乗せてきた。さすがに植物に関する知識は無いからこれが何の種なのかは分かんないなぁ?
「うむ。これは非常に貴重で生育が難しい、イーリス・フロスという花の種なのだ。虹色の花を咲かせるとても美しい花なのだぞ」
「ふぅん。それで僕にどうしろと?」
「……ご主人様の力で、これを増やすことはできないか? 花壇いっぱいにこの花を植えてみたいのだ。ダメか? それとも、無理か……?」
などと、ベルはミニスと瓜二つの顔で不安げな表情をして聞いてくる。
なるほどね。貴重で生育が難しいって事は流通量も少ないだろうし、これは偶然手に入れられた一粒ってわけか。それを僕の無限魔力で複製して欲しいってか。メイド風情がご主人様になかなか欲深いお願いをするじゃない?
「そりゃあお前――こんなの朝飯前なんだよなぁ? はい、あげる」
「おおっ!? イーリス・フロスの種が! 種が大量に!?」
だから僕は手の平から零れんばかりに大量の種を複製して、それをベルの手にざらざらと落としてやった。ベルったらよっぽど嬉しいのか、目を剥きながら両手で全部受け止めようと頑張ってたよ。種を受け止めるって何かエッチな字面ですね?
まあ下ネタはともかく、ベルはメイドとして全力で尽くしてくれてるし、これくらいはね? そもそもご主人様にお願いをしてくる偉そうなメイドが嫌なら、普通に敬語で話させてるし。
「さすがはご主人様だ! ありがとう! 今まで以上に忠誠を尽くすぞ!」
そうして大量の種を空間収納にしまい込んでから、ベルが僕にぎゅっと抱き着いてくる。ミニス譲りの仄かな膨らみがお腹に当たってドキドキ……しないな。ゴリラ並みの力を持つ腕が胴に回されてる事とか、本来の姿を考えるとどうにも息子が怯えちゃってね……。
殺ろうと思えばベルは赤子の手を捻るように殺れましたが、綺麗に殺る事ができないのでやめました。芝生とか汚れちゃうので……