三人娘の正体
⋇性的描写あり
「………………」
冒険者ギルドを出てからというもの、僕とミニスは無言で家路を歩いてた。
どうせなら寄り道でもしようかなーとか、何ならミニスとデートでもしようかなー、とか思ってたのは冒険者ギルドであのクソ共に会うまでの事。ちょっと怒りと殺意が湧き出てきてどうにもそういう気が失せちゃったんだよね。あの女共、僕の清廉潔白で人畜無害で純真無垢な顔つきをムカつく顔って言いやがったし……。
「……あの、ちょっと……耳触るのやめてくれない……?」
「やだ」
そんなわけで胸の中のどす黒い感情を抑え込むために、歩きながらミニスのウサミミをにぎにぎしてる。普段は触らせてくれないけど、やっぱり僕の内心を敏感に察知してるみたいで大人しくされるがままになってるっぽい。
ちなみにミニスのウサミミの感触は、キラの猫耳とトゥーラの犬耳の中間って感じの触り心地かな? モフモフ感も適度にあり、そこそこ肉厚で弾力も良い。何よりウサミミそのものが長いから、手に巻き付けるようにして楽しめるのが素晴らしいね。にぎにぎ。
「……そもそも何だったの、あの三人?」
「知らない。何かSランクのパーティだとか言われてたけど、僕に何の用があったのかは分からずじまいだよ」
玩具にされるのは完全に諦めたみたいで、ウサミミをにぎにぎされながらもミニスはそう尋ねてくる。しかしもちろん僕は何も知らない。何なら面識も無いし完全に初対面だ。向こうはこっちをストーカーしてたり、個人情報を調べてたっぽいけどね?
「だったら話を聞いておいた方が良かったんじゃないの……?」
「そう思うけど、アイツらあまりにも失礼で無礼でさぁ……話聞く気が欠片も湧いて来なかったんだよ。信じられる? 僕の顔、ムカつく顔って言われたんだよ? 初対面でそんな事言われたの生まれて初めてだわ」
「まあ、確かに顔だけはまともよね。顔だけは。それを貶されたら怒るのも無理はないかも……?」
ミニスも僕の内面はともかく顔だけはまともだって思ってくれてるみたいで、若干疑問形だけど賛同してくれた。
全く、僕の素晴らしい自己犠牲系主人公フェイスをムカつく顔なんて罵倒するとか信じられないよね? ツンデレキャラならまだ許せたかもしれないけど、どう見ても百パー嫌悪だったからなぁ……。
「しかしそれはそれとして、アイツら何か見覚えがあるっていうか、聞き覚えがあるっていうか……何か覚えがあるんだよね? 間違いなく初対面のはずなのに……うーん、何でだろう……?」
そして、何か覚えがあるのに思い出せないのが凄く気持ち悪い。
何だろう? 何か覚えがあるっていうのは分かるのに、具体的な事がさっぱり分からないもやもやした状態で滅茶苦茶ムズムズする。こうなったらいっそ魔法で自分の記憶を探ってみるのもアリか……?
「アレじゃないの? ほら、屋敷の曰くの話」
「……あーっ!! そうか、それだ! アイツらがそうか!」
「きゅっ!?」
「おっと、ごめんな?」
ミニスに言われて、僕はようやくもやもやから解放された。その解放感のせいで手に力が入っちゃって、ウサミミをくしゃっと握りつぶしちゃったよ。おかげでミニスは変な声上げて飛び上がってた。
「なるほどなるほど、アイツらが可哀そうなヴィオの元恋人だったわけか。まだ生きてたんだね?」
謎が解けてスッキリした頭で、屋敷の曰くの話を思い出す。
猟奇殺人鬼として処刑された可哀そうなヴィオくん。そしてその恋人だった三人の少女。悪魔、兎獣人、狐獣人。その少女たちがあの三人だってわけか。となると僕の顔を揃ってムカつく顔って評してた辺り、件のヴィオくんは僕みたいな優しい顔つきをしてた線が濃厚ですね。いやー、なるほど。そういう事だったか。
「まあ、三十年くらい前の話なら無い事は無いでしょ。お話の中でもすでに高ランクの冒険者だったみたいだし」
「ふーん、なるほどねぇ……だとしたら僕に突っかかってきた理由も予想はつくかな。大方地下牢と拷問部屋付きの屋敷を購入した男が怪しすぎて放っておけないんでしょ」
「怪しいっていうか、完璧に黒よね……」
残念ながらミニスの言葉は否定できないなぁ。まともな人なら幾ら安かろうと、猟奇殺人鬼がやらかした上に地下牢と拷問部屋付きの屋敷を購入とか絶対にしない。他の物件の百分の一くらいの値段だったとはいえ、それならまだその辺の一軒家とかの方が安いしね。
「そして調べれば僕に何人か女がいるって事は分かるだろうし、たぶんお前らの事も心配してるんじゃない? 自分たちみたいに悪い男に騙されないようにって」
「なるほどね。別に騙されてはいないけど、すでに毒牙にかかってるからもう遅いのよね……」
「だよねぇ。ていうかお前的にはむしろありがた迷惑なんじゃない?」
「そうね。心配してくれる気持ちは嬉しいけど、私があんたの所にいれば家族の無事と生活と健康は保証されるんだし」
実際ありがた迷惑だったみたいで、ミニスはちょっと迷惑そうな顔してる。そりゃあ純潔を奪われる前ならともかく、すでに奪って更に何度かヤってるしねぇ……今更助けに来られても困る、って感じなんだろう。
「でもアイツら、たぶん何言っても話は通じないよ? 絶対騙されてるだけーとか、洗脳されてるだけーとか言ってくるぞ、きっと。あの手の輩はまず間違いなくそんな感じだよ」
「うわ、面倒くさそう……」
最早はっきりと嫌そうな顔をするミニス。善意と正義の押し付けって本当に醜いし煩わしいよね。本人の意向も言葉も無視するんだから完全に自己満足だもん。気持ち良くなりたいなら一人で自慰に耽ってろって感じだよ。
「そして女の子監禁してないか地下牢見せろとかも言ってくるだろうね。もちろんそういうのには備えてるから見せても大丈夫だけど、だからってあんな無礼な女共の言う事に素直に従うつもりは無いよ」
「実際サキュバスを監禁してるから予想は的中してるのよね。ていうかこういう事態に備えてるあんたも大概おかしいわ……」
「そこは用意周到って言って欲しいなぁ?」
ダミーの地下牢を用意してる僕に対して、ミニスは若干呆れ気味だ。世界平和を目指してるとはいえ、僕自身は純粋悪で人間の屑だからね。不測の事態への対策や準備を用意するのに越した事は無いんだよ。
しかしどうするかなぁ、あの三人娘。ギルドから多少離れた時点で魔法で探ってみたんだけど、やっぱり僕の後をつけて来てるんだよなぁ。道中のミニスとのお喋りが聞こえないように魔法で対策はしてるとはいえ、根本的な解決にはなってないんだよなぁ。
これは裏路地に誘い込んでしばいておくべきか? いや、どうせ屋敷の場所はバレてるんだし、ひとまずホームに戻るとするか。昔はどうあれ今は僕の屋敷なんだし、不法侵入してくれば殴り飛ばして良い理由になるはずだ。うん、そうしよう。
そんなわけで、僕は真っすぐ屋敷に帰った。そして正門の鉄柵をちょっと弄って、あの三人娘には開けられないようにしておいた。
これであの三人娘が敷地内に入るには鉄柵を乗り越えるか破壊するかしかないし、どちらにせよ不法侵入だ。犯罪者を叩きのめすっていう大義名分が得られるわけだから、むしろ是非とも不法侵入して欲しい所だね?
「おかえり、主~!」
「ただいま――って、お前何やってんの?」
準備を終えて屋敷の玄関まで帰ってくると、そこでトゥーラに迎えられる。そう、犬小屋に入って顔を出してるトゥーラにね? 嘘だろお前。マジで犬小屋使ってんの……?
「いや~、さっき主に会いに行こうと思ったんだが、タイミング悪く出かけていたからね~? 寂しかったからここでこうして自分を慰めているというわけさ~」
「マジで犬小屋使ってんの、コイツ……?」
これにはミニスもドン引きで、僕の内心と同じセリフを口にしてる。でもその反応も仕方ないかな。僕だってまさか本当に犬小屋を使うとは思わなかったもん。てっきりボケか何かだと思ってんだよ。まさか本当に自分で入って、首輪に鎖のリードを付けた上でセルフ放置プレイによる自給自足を行うとは……。
「ま、まあそこにいるならちょうど良かった。もしかしたら僕のストーカーが屋敷の敷地に不法侵入してくるかもしれないから、来たら適度にボコっておいて?」
「なにっ、主のストーカ~!? 何という羨まけしからん真似を~! よし、分かった~! 私が番犬として主の身を絶対に守ろ~! ワンワン!」
「うん、よろしく」
とはいえ、ちょうど良い所にいるからそうお願いをしておいた。幾らSランク三人娘と言えど、コイツに勝てるとは思えないしね。犬小屋入って実に良い笑顔でワンワン言ってる姿を見るとかなり頼りなく見えるけど、実力は折紙付きだ。
そんなわけで僕は番犬トゥーラの頭を軽く撫でてやってから、玄関の扉を開けてミニスと一緒にエントランスへと入った。
「犬獣人を犬小屋に入れてるとか、あんなの見たら絶対余計あんたに怒りを燃やすわよ。一応これに限っては濡れ衣だけど……」
「だよねぇ。僕は悪くないけど、絶対僕が悪いって決めつけてくるよねぇ……」
獣人を獣扱いはNGっていう風潮があるから、アレを見たら同じ獣人ならブチ切れるでしょうよ。今回に限っては僕は何一つ悪くないのに……悪いのはトゥーラの性癖なのに……。
あーもうっ、何かむしゃくしゃしてきた。こうなったらさっさと発散してスッキリするしかない。
「……え、何?」
そんなわけで、僕はミニスの腕をガシリと掴んだ。いきなり腕を握られてミニスはきょとんとしてたけど、僕の顔を見て何かを悟ったのか恥じらうように頬を赤くしたよ。やっぱ危機感が仕事してるな?
「ちょっとむしゃくしゃしたから、発散に付き合ってもらうよ?」
「え……嘘でしょ、こんな明るい内から……?」
「うん。というわけで寝室行くぞー。滅茶苦茶に乱れさせて鳴かせまくってやるからなぁ?」
答えは聞かず、ミニスの腕を引っ張って自室へと向かう。
コイツはたっぷりと丁寧に愛してやれば、それはもう良い声で鳴くんだよ。普段は僕をゴミみたいに見て罵倒しまくる子が、僕の腕の中で甘い声を上げて乱れまくる。その光景だけで僕のむしゃくしゃした気持ちは綺麗に塗りつぶされそうだからね。たっぷり攻め立ててきゅーきゅー鳴かせてやるぜ?
「う……ううっ……せめて、その前にお風呂に……」
「何? 風呂でヤりたい? 仕方ないなぁ、じゃあそうするか」
「そういう事言ってんじゃ――ひゃっ!? ちょ、ちょっとぉ……!」
途中でミニスが恥ずかしそうにお風呂行きたいって言ったから、優しい僕はそのお願いを聞き届けてあげる事にした。お姫さま抱っこでミニスを抱え上げて、お風呂に向かう事でね。
ちなみにやっぱりお姫様願望があるのか、ミニスは恥ずかしがりながらも満更でもなさそうな反応してたよ。お前はお姫様より勇者の方が似合ってるんだけどなぁ……。