表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第2章:勇者と奴隷と殺人鬼
24/527

旅立ちの時

 仲間たちと約束した時間のおよそ十五分前。僕とレーンはこの街――名前何だっけ? とにかくこの街の正門付近で待機していた。

 喧噪やら何やらでうるさいし、人通りも多くて正直全てを消し飛ばしたくなる気分だよ。実際にやらないのは女神様と不必要な殺生はしないって約束したから。あとはさんさんと降り注ぐ日差しが心地良かったからだね。日向ぼっこしながら女神様の膝枕でお昼寝したい……。

 今は仲間たちが来るのを待ってるところなんだけど、結局あの筋肉ダルマは来るんだろうか。来たら来たで嫌だし、来ないなら来ないで困るのが何ともイラつくなぁ。


「……そういえば、君は昨夜は勇者らしい金属製の鎧を着ていたね。しかし何故今はマントに申し訳程度の革鎧という、勇者像とかけ離れた格好なんだい?」


 二人でボヘーっと突っ立ってると、唐突にレーンがそんなことを尋ねてくる。

 今の僕の装いは勇者と言うよりは駆け出しの冒険者って感じの格好だ。それも剣士とかじゃなくて、どっちかっていうと暗殺者とか盗賊とかそっち系の格好ね。かなり軽装なのは簡単に想像がつくと思う。

 ちなみにレーンの方は相も変わらず魔術師のローブ姿だよ。他に何か衣装無いんですかね? 確かにローブは似合ってるし、今はフードも降ろしてるから綺麗な銀髪が見えて目の保養になってるんだけどさ。


「鎧がウザくて……あと思ったより動きづらかったからね。今の僕の戦闘スタイルには鎧は合わないよ」


 元気っ子――確かアネットだったかな? あの子から奪った武術や体術は、二刀の短剣を主軸に戦うスタイルだった。速度で翻弄して手数で押し切る戦闘スタイルだから、鎧が必要な戦闘スタイルとは決定的に相性が悪いんだよね。

 それならいっそ格好はそこまで拘らなくていいかなって思って、結局鎧は止めたってわけ。どのみち僕の外面は優しくて人当たりが良い感じだから問題ないし。


「なるほど。勇者らしさは損なわれているが、君は見てくれだけは善良で心優しい人間だからね。言動や振る舞いに気を付けていれば問題はないだろう」

「見てくれだけって発言がちょっと気になるんですが……」


 まるで僕が中身は真っ黒だって言ってるみたいだな。人間誰しも闇は抱えてるものでしょ? 僕は普通の人よりそれがちょっと大きくて、少し深度が深いだけだよ。


「君の内面を知れば誰でも同じ感想に至るさ。それより、仲間が一人来たようだよ」


 反論したかったけど、そろそろ勇者としての仮面を被らないといけないみたい。見れば人波の奥からデカい翼をはためかせつつ、地面を駆けてくる青い法衣に身を包んだハニエルの姿があった。そのデカい翼は飾りかよぉ!?

 というか地面を駆けてる今でさえ、通りかかったほぼ全ての人たちに挨拶されて、その度にわざわざ立ち止まって頭を下げて挨拶をしてるみたいなんだよね。城の人たちからはともかく、一般市民からは意外と人望があるみたいだ。それなら飛んで現れたら拝まれそうだし、地面走った方が良いっていうのも分かる気はする。


「ごめんなさい、勇者様! お待たせしてしまってすみませんでした!」


 やがて僕の目の前まで走ってきて、翼で急制動をかけてから深く頭を下げて謝罪してくる。

 僕としては別に怒ってないっていうか、そもそも約束の時間にすらなってないから何も言うことはないね。

 強いて言うなら、走ってきたせいかハニエルはうっすら汗をかいてて何だかとってもエロかった。さらさら流れて揺れ動く緑の髪も綺麗で堪んないね。キューティクルが剥げてボサボサになるまでひたすらにしゃぶりたい……。


「大丈夫だよ、まだ時間前だし。遅れてきたらお仕置きしてたけどね?」

「お、お仕置きはご遠慮したいです……そういえば、クラウンさんは大丈夫なんでしょうか? 集合場所や時間を決める前にどこかへ行ってしまいましたが……」


 あー、あの筋肉ダルマ。団体行動を乱すとか信じられない奴だよね。誰だよあんなの旅の仲間に選んだ馬鹿は。僕だよ、ちくしょう。やっぱり別の奴を選ぶべきだったかな?


「来ない場合は魔法で探して引きずり出しに行けば良いさ。幸い勇者様は非常に魔力量が多くてね。その程度はお手の物だろう」

「そ、そうなんですか!? 凄いです、勇者様!」


 意味深な発言をするレーンに対して、手放しに賞賛してくれるハニエル。

 うーん、やっぱり純粋っていうのは良いよねぇ。これを自分色に染め上げていくのとか、曇らせていくのとかが凄く楽しそうだ。


「ハッハッハ、それほどでもあるよ。じゃあ試しに探してみようか――探索(サーチ)


 気分が良いから実際に試してみる。

 魔法の詳細は、この街を俯瞰して見た景色に光点で対象を表す感じ。発動したら僕の頭の中には街を上空から見下ろした景色が広がったよ。その中には街の正門付近で輝く青い光点こと僕、そして街の中心近くからこっちに近づいてきてる赤い光点こと筋肉ダルマ。しかし何でもありだな、この世界の魔法……。


「いたいた。どうも今こっちに向かってきてるみたいだ。ちっ」

「ど、どうして舌打ちを……?」

「色々複雑なのさ、彼は。ところでもう一人はどこにいるか分かるかい?」

「もう一人かぁ。もう一人は――げっ!?」


 レーンに問われてもう一人の居場所を調べた僕は、頭の中に流れ込んできた情報に飛び上がる羽目になった。

 何でそんなに驚くのかって? そりゃあ二つの光点がほぼ重なってたからだよ。正確には僕を表す光点のすぐ後ろに、キラを表す光点があったんだ。居場所を調べたら実はもう背後にいたとかそりゃ誰でも驚くわ。


「いたんなら声かけろよ、お前っ!? いつから後ろにいたんだよ!?」


 振り向いてみると、後ろにある馬車の荷台の陰からこっちを覗くキラの姿があった。

 それだけならまだ良いよ? でも何故か僕に注がれる視線は酷く憎々し気で殺意に満ち溢れてたんだよね。しかも僕の勘違いじゃなければ、昨日の冒険者の女の子たちの殺意がそよ風みたいに思えるくらい濃厚かつ濃密な殺意に。

 おかしいな? そんなとんでもない殺意を向けられるようなこと、した覚えは全然ないんですが?


「裏切り者め……」

「裏切り者!? 一体何のこと――あっ」


 そうして地獄の底から響くようなおどろおどろしい怨嗟の声で、身に覚えのない糾弾を受ける。

 でも僕はすぐにその理由を理解した。何故って僕が腰に差してる武器が短剣だからだよ。鉤爪狂いのキラからすると許せないだろうね。キラの怒りを収めるためとはいえ、面接のときに僕は何度か爪を崇めて奉ってたし。それなのに持ってきた武器が鉤爪じゃなくて短剣じゃあねぇ?


「いや、僕も本当は鉤爪にしたかったんだけどさ、鉤爪は玄人向けで特別な武器だからね。まずは短剣から慣らして行こうって思ったんだよ。さすがに慣れない鉤爪で無様な戦いをするのは鉤爪に申し訳ないでしょ?」

「……うん、確かに。玄人向けの、特別な武器だしね。爪を扱うために短剣を踏み台にするなら良し」


 適当に考えたそれっぽい言い訳を並び立てると、一拍置いてキラは納得してくれた。爪を玄人向けの特別な武器と言われたのが嬉しいのか、ちょっと上機嫌な感じで馬車の陰から出てくる。クソちょろ。

 これで僕の周りには美少女が三人! いやぁ、心なしか華やかな空気を感じるね! ただこの内二人は僕と契約した奴隷だからともかく、残りの一人が謎の塊なのが何とも。まあミステリアスな美少女ってことにすればいいかな?


「さて、これで全員揃ったね! それじゃあ冒険の旅に出発だ!」

「ま、まだですよ!? まだクラウンさんが来てませんからね!?」


 全員揃ったからカッコよくマントを翻して歩き出したら、マントの裾をハニエルに掴まれて止められる。今首がグキって言ったぞ、この野郎っ……!


「えーっ、置いてって良いんじゃない? どう思う?」

「あたしは別にどうでもいいよ」

「君の好きにしたらいいさ。このパーティのリーダーは君だ。決定権は君にある」

「置いていくなんて駄目です! ちゃんと皆揃ってから出発しましょう!」


 ぶっちゃけ興味無さそうな二人と、品行方正で意地でもあの筋肉ダルマを待つつもりのハニエル。くそう、これだから真面目ちゃんは困るんだ。


「ちぇっ、分かりましたよ。三千二百十才のおばあさんは口うるさいですねぇ」

「おばあさんじゃないです! それと前から気になったんですけど、どうして私の年齢を正確に把握してるんですか!?」

「それはもちろん、魔法でちょちょいと調べて。あっ、他にも色々調べたよ? まだ男と手を繋いだこともないとか、キスをしたことも無いとか――」

「キャー! ダメですやめてください言わないでくださーい!」


 色々口にしたら、両手をバタバタ翼をバサバサさせて僕の言葉を遮ってきた。

 本当はこの後処女だって続けようとしたのにその前に遮られちゃったよ。キスの経験も無いってところだけで顔を真っ赤にして叫ぶとか、さすがは三千年物の処女ですね。堪らん。


「……え? あんた、そんな詳細に調べられんの?」


 あ、ヤバ。キラが目を丸くしていらっしゃる。そういやコイツ詳細に調べられるとマズイ奴じゃん。主に種族。

 でもまあ口にした言葉は取り消せないわけだし、僕は自分の発言には責任を持つ男だ。


「もちろん。僕は君たちの情報は幾つか調べたよ。職業とか、年齢、スリーサイズ。あとは――種族とか、ね?」

「っ……」


 だから否定はしないで、むしろ更に意味深な言葉を追加していく。さすがにこれにはキラも息を詰まらせてたよ。

 口封じに襲い掛かってくる可能性もあるかもだけど、馬鹿じゃなければそんな真似はしないと思う。わざわざ敵対種族なことを黙ってる義理なんて無いし、そもそもそんな奴と一緒に旅に出るって時点でもうおかしさ抜群だからね。謎の塊のキラといい勝負だよ。精々そっちも僕を謎に思え!

 というか今の僕はレーンのおかげで防御魔法も完璧だから、この場で襲い掛かってきても一向に構わないけどな! 


「あ、あの……冗談、ですよね? まさか勇者様が、女性のスリーサイズを勝手に調べているなんて、そんなことはないですよね……?」

「ハッハッハ」

「笑って誤魔化さないでください! それは犯罪ですよ!? 聞いてますか、勇者様!?」


 うーん、ハニエルは良い子なんだが口うるさいのが難点だよなぁ。

 別に痴漢してるわけでもなし、スリーサイズ調べるくらいはいいじゃないか。本当に潔癖って言うか、おぼこっていうか。これは経験人数とかも調べてた、って申告したらどうなるかとっても気になるなぁ……。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ