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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第9章:忙しない日々
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修行風景

⋇グロ描写あり







「あ、そういえばトゥーラはどんな修行してるんだろ。ちょっと見に行ってみるかな?」


 ミラ先生による呪法お勉強会を抜け出した僕は、ふと思い立ってトゥーラの修行風景を見に行ってみる事にした。

 前に修行用に調整した適当な人間を渡してそのままだったからね。アレをどんな風に活用してるのかちょっと気になるし。いるとすれば地下闘技場の階に併設した訓練室のはずだから、とりあえず行ってみよう。


「おーい、トゥーラいるー? って――うわぁ……」


 そして訓練室前に転移して軽い気持ちで部屋の扉を開けた僕は、飛び込んできた光景に見に来た事をちょっと後悔した。

 だって訓練室の中でトマト投げ合う祭りでもあったのかってくらい、室内が真っ赤に染まってるんだもん。壁も天井も床も全て真っ赤だ。むしろ赤くない所探す方が難しいし、むせ返るような血臭に咳き込みたくなったね。一体何がどうしてこんなスプラッタな事になってるんだ……。


「おお、主よ~。どうかしたのかい~?」


 僕が室内の光景にドン引きしてると、真っ赤な部屋の中で何故か素っ裸で立ってたトゥーラが近寄ってくる。素っ裸なのは百歩譲って置いといて、コイツも全身が血まみれだ。それこそ犬耳の先から足のつま先まで余すところなく。


「どうかしたのかはこっちの台詞だ。何だこれ。お前マジでどんな修行してるの?」

「お、私の事が気になるのかな~? ふふふ~?」

「そりゃあこれを見て何も気にならない奴はいないでしょうよ……」


 真っ赤なペンキを爆発させたみたいな室内で、自分の女が血塗られたハンマーを持った鍛錬用人間と素っ裸で向かいあってたら気にならない奴は絶対にいない。僕だってさすがに気になるわ。


「まあそんなに気になるなら見せてあげるよ~。良いかい~? まずはこうして、彼女の前に立つ~」


 ニコニコと笑いながら、トゥーラは鍛錬用人間(女性)の前に立った。この鍛錬用人間は一方的な契約で縛ってある上に、鍛錬用に特化させた奴なので無駄口も一切叩かない。トゥーラが目の前に立つとピクリとも表情を動かさず、ゆっくりとハンマーを振り被った。って、おい……まさか?


「すると予め命令を下してある彼女は、ゆっくりとハンマーを振り被り――!!」


 そのまま、猛烈な勢いでフルスイング。身体能力を五十倍くらいに強化してある鍛錬用人間が繰り出す、デカいハンマーでの横殴りの一撃だ。大気を引き裂き衝撃波を纏いながら迫る一撃に対して、トゥーラは腕を広げて待ち構え――


「うわぁ……人体が飛び散ってマジの染みになる光景初めて見た……」


 そのままもろに食らってとんでもない勢いで訓練室の壁に弾き飛ばされ、潰れたトマトみたいに全身がひしゃげて弾け散った。結構離れた場所で見てたこっちにまで血と肉片が飛んできたんだけど……。

 ていうか、衝撃を逃すのはどうした? 今の見る限り全く逃してないだろ? 本当に何やってんだ、コイツは……。


「……とまあ、こういうわけさ~?」


 しばらくして僕がかけた自動蘇生と自動再生の魔法で肉片から人の形に戻ったトゥーラが、あっけらかんと言い放つ。

 なるほど、素っ裸で血塗れだったのはこれを繰り返してのが原因だったか。そりゃあこれを何度も繰り返してたら室内も真っ赤に染まるわな?


「何がこういうわけ? ついに頭が狂ったか? いや、元から狂ってたか」

「新技の開発のためにはどうしても必要な事なんだよ~。しかしこれがなかなか難しくて、どうしても毎回壁に叩きつけられ爆発四散してしまうのさ~。やはり精進あるのみだね~?」

「そう……」


 最早呆れて言葉も出ない僕は、淡白に頷く事しか出来なかった。

 しかし新技ねぇ……さっきは全く衝撃を逃してなかったし、衝撃を地面に逃すのとは別口の対物理技なんだろうか? もしかしてベルの一撃に碌に対処出来なかったのがよっぽど悔しかったのかな? 過剰な威力を持った一撃への対策訓練?


「……まあ、無理はしないようにね?」

「お~? 私を心配してくれているのかい~? 珍しいね~?」

「幾らクソ犬だろうと、僕の女が何度も何度も爆発四散してるっていうのはさすがにちょっと心配になるよ。嬉々としてやってるから余計にね?」

「ふふふ~、主の女~♪」


 僕が心配してるのがとっても嬉しいみたいで、トゥーラは踊る様にステップを刻みながら尻尾をぶんぶん振ってる。だらしなく嬉しそうな笑顔になってる所も可愛いと言えば可愛いんだけど、いかんせん今の見た目が血だらけだからなぁ……しかも自分自身の血だし……。


「安心してくれ、主よ~。ぶっちゃけ砕け散るのが一瞬で痛みはほとんど感じないからね~。それにこの絶対的な安全を確保した状態で好きなだけ鍛錬できるこの状況、逃すのには惜しいんだ~。心行くまでやらせてはくれないかい~?」


 そこで唐突に真面目な顔でお願いしてくる。

 確かに僕が蘇生と再生の魔法をかけてるから、どんな無茶をしても絶対に後遺症が残ったり死んだりはしないんだよね。いや、死ぬけど生き返るだけか。何にせよ苛烈な鍛錬に打ち込んで自分を鍛えたい奴からすれば、夢みたいに整った状況なのは間違いない。


「……仕方ない。僕もそこまで束縛系じゃないからね。満足するまでやりなよ」


 だからまあ、好きにやらせる事にしたよ。僕がいる以上は取り返しのつかない事態は起きないし、その新技を身に付けたらまた僕にフィードバックする事もできるしね。全く仕方ない奴だ。


「クゥ~ン! ありがとう、ある――ぎゃふ~っ!?」

「そんな血みどろの身体で抱き着いてこようとするな。汚い」


 ただし全身から血を滴らせながら抱き着いて来ようとしたから、躊躇なく蹴りで吹っ飛ばしてやった。まともに食らったトゥーラはそのままポーンと吹っ飛んで、鍛錬用人間の前にべしゃりと落ちて――あっ、ハンマーが。あっ。


「……よし。次はキラのところ行こうっと」


 再び血肉の花が咲く光景を尻目に、僕は訓練室を出た。俺は悪くねぇ!






 そんなこんなで、僕は今度はキラの元へ向かった。アイツがどこで特訓してるかは調べなくても分かってる。だってさっきから闘技場の方で破壊音とか凄いするもん。


「――クッソ! 本当硬すぎんだろ、テメェ!」

「ハハハ、何を言う? 見ろ、こんなに柔らかくすべすべのお肌をしているのだぞ?」

「金属へし折る肌が柔らけぇわけねぇだろ! 馬鹿が!」

「こっちもこっちでやってるなぁ……」


 観客席に上がってコロシアムを見下ろせば、キラとベルが派手にやりあってる光景が目に入る。まあ派手にやりあってるっていうか、ノーガードのベルにキラが猛攻を繰り広げてるけど毛ほども効いてないっていうか……。


「……ていうか、お前はここで何をやってるの? 応援?」


 それよりも気になるのは、何故か観客席にミニスがいた事。入り口近くの席にじっと座って二人が戦う様子を眺めてるんだよ。一体何のためにここにいるんだろうね? まさかコイツがキラの応援をするとも思えないし。


「え? あのクソ猫がやられて無様に這い蹲る姿を見に来てるんだけど?」

「あ、そうっすか。なかなか良い趣味してますね……」


 答えは予想通りというか、予想以上の良い趣味だったよ。どうやらキラがベルに叩きのめされる光景を楽しみにしているご様子。まあコロシアムっていう場所を考えると、それも正しい楽しみ方なのかもしれないね。

 とりあえず僕も戦いの成り行きを見守るために、ミニスの隣に腰かけた。以前までなら隣の席に座れば一席分離れようとしてたのに、今は特に離れもしないし何なら気にした様子も無いね。もう隣同士どころか繋がり合った仲だしなぁ……。


「クソッ! こうなったら、練習中の新技見せてやるぜ……ブラック・アームズ!」

「おやぁ? あれは……」


 なんて思ってたら、コロシアムの方で変化があった。キラが新技を見せると叫んだ途端、その両手両足から黒い霧のようなものが沸き上がって手足に巻き付き始めた。どっかで見た光景ですねぇ、アレ……。


「え、まさかあのスライム探してきてまた寄生させたの……?」

「いや……違うかな。だって両脚と両手にしか纏ってないし。たぶんあの時の感覚や見た目を参考にして、自分でそういう強化魔法を創ったんじゃない?」


 お粗末な事に、黒い獣っぽくなってるのは肘と膝から先の両手両足だけだった。キラがユニオン・スライムを捕まえて寄生させたっていうなら、あんな中途半端で出来損ないな様子にはならないからね。


「ふーん。わざわざ見た目までそれっぽくするとか、よっぽど気に入ったのね、アレ……」


 ミニスはそこまで力への渇望が無いみたいで、別段興味なさ気だった。あの渾身の蹴りでキラへの積もり積もった恨みも無くなっちゃったし、僕がいるから家族は安泰になっちゃったし、一般村娘的には力を求める理由が無いんだろうねぇ。


「食らいやがれ、クソ魔将!」


 闇落ちしそうにない村娘をちょっと残念に思ってると、手足に黒を纏ったキラが一気に駆け出す。一応身体強化の効果もちゃんと出てるみたいで、さっきまでとは段違いの速さだ。そのままベルの横を通り抜け様に一閃。今回は鉤爪が折れる事も無く、ベルの身体を間違いなく切り裂いて真っ二つにした。


「おおっ!? 私の胴を両断するとは……この短期間で随分と成長したな! まるで我が事のように嬉しいぞ!」

「クソが! 断ち切る前に治ってんじゃねぇか! どうしろってんだ、これ!」


 でも切り裂かれた胴体が泣き別れする前にくっつくんだからどうしようもない。幾ら一撃を鋭くしても、まずはこの馬鹿げた不死性と再生能力をどうにかしないといかんよ。魔術狂いのレーンならともかくとして、鉤爪大好きなキラには荷が重い相手かな……。


「これは私も力の一端を見せてやらねばな。少し精神が狂うかもしれんが……なに、貴様なら耐えられるだろう。私の真の姿の一部、とくと見るがいい」


 キラの成長に敬意を表する気なのか、何か恐ろしい事を言いながら両腕を広げるベル。

 おいおい、まさかあの冒涜的な姿を曝け出す気じゃないだろうな? それは最早テロだぞ。


「ひっ……!?」

「――暗転(ブラック・アウト)


 とりあえず一番ダメージがデカくなりそうな奴が顔を青くして恐怖の声を出したから、咄嗟に魔法でその視界を塞いでやった。黒一色で何も見えなくなっただろうけど、アレを直視するよりは遥かにマシなはずだ。

 だって、ほら……ベルの周りの地面から気持ち悪い触手が何本も生えてきてるもん……先端に目玉と鋭い牙が立ち並ぶ、気色悪い触手がさぁ?


「あ、何も見えなくなった……ありがと」

「どういたしまして。また隣で叫ばれてゲーゲー吐かれるのも困るしね」


 以外にも素直にお礼を言うミニス。どうやらよっぽどトラウマになってるみたいだね。まああんなキッショイ姿を見れば当然かぁ……魔法的に精神ダメージも与えて来るみたいだし……。


「うっ……!? な、何だそりゃ……気持ちわりぃ……!」

「私の身体の一部だぞ。ふむ、やはり耐えたか。さすがだな?」


 とはいえやっぱり元々精神が狂ってる奴には効き辛いみたいで、キラは発狂したりはせずに堪えてた。まあ猫耳も猫尻尾もかなり逆立ってるし、明らかに忌避感は感じてるみたいだ。これは素の声を聞いても吐くまではいかなそうかな?


「どういう状況かちょっと気になるけど、それ以上に怖いから聞くのは止めとくわ」

「賢明だね。とりあえずキラでさえ顔を顰めてるレベルだよ」


 視界が黒一色に染まってるからか、ミニスは音で戦況を把握しようとウサミミをピクピク動かしてる。果たして音だけでこの戦況を把握できるんだろうか……地面から生えた無数のキモ触手がビーム放って、それを必死に避けるキラ……。


「……しかし、アレだね。リアとトゥーラはもちろん、キラでさえ強くなるために修行してるのに、お前は何もしないの?」

「え……私も戦力に数えられてるの……?」


 ふと気になった事を口にすると、ミニスは意外そうな顔でこっちを見た。

 リアは復讐を果たす力を得るためにお勉強。トゥーラは更なる力を身に着けるために生と死の境を反復横跳び中。キラに関しては眼下の光景通り。みんな修行してるけど、ミニスだけはキラの無様な姿を眺めるためにここで観戦してるっていう有様だ。


「いや、別に。ただみんなストイックに鍛錬してるのに、お前だけ何にもしてないなって思って」

「ただの普通の村娘に何を求めてんのよ、あんたは……」


 思った事を正直に口にすると、何だか呆れたような目を向けられる。でもただの普通の村娘は家族のために尊厳や処女を捧げたりしないし、鋼のようなメンタルを持ってたりはしないんだよなぁ……。


「でも確かにあのクソ猫が努力してるのに、私だけ何にもしないっていうのはちょっと悔しいわね……何か打ち込める趣味でも無いか探してみるわ」

「頑張れー」


 どうやら自分でもこのままじゃいけないって思ったみたいで、ミニスはそう答えた。

 まあド田舎じゃあ碌な趣味も見つけられないだろうし、この首都でミニスが一生懸命打ち込める趣味が見つかると良いね。そして僕はそんなミニスに自分の息子を一生懸命打ち込む……いや、何でもない……。





みんな頭がアレだけどストイックに頑張ってます

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