純潔の対価
⋇性的描写あり
⋇ミニス視点
「ん……」
気が付いた時、私は凄く柔らかくて気持ち良い感触に包まれてた。これはたぶんベッドかしらね? もの凄く心地良くて、このままずっと包まれてたいくらいに寝心地が良かったわ。
でも、私はいつの間にベッドに入ったんだっけ……? あれ? そもそも私、直前まで何やってたんだっけ……?
「あ、起きた? おはよう――って言っても、まだ深夜だけどね」
ぼやけた頭で眠りに着く前の事を考えながら身体を起こすと、何故かベッドにかかってたカーテンが開かれて、殴りたくなるクソ野郎の顔が目に映った。ていうかよくよく見るとこのベッドは私の部屋のやつじゃない。クソ野郎の部屋の、天蓋付きの無駄に大きいベッドだったわ。
「……ああ、そっか。私、結局負けたのね」
そして、クソ野郎の顔を見て全部思い出した。
私は怪しいスライムの力を手に入れて調子に乗って、あのクソ猫に戦いを挑んだ。最初の方はまあまあ良い所まで行ったけど、結果はボロ負け。でも最後に渾身の一撃を食らわせられたし、勝負には負けたけど割と心はスッキリよ。何か今は不思議とあのクソ猫――キラ、だっけ? を恨む気持ちもあんまり無いし……あれ? 何十回も目玉を抉られたりしたのに、何で……?
「そうだね。でもかなり良い線行ってたよ? 特に最後の方なんか凄かったよね。距離も無視してキラに渾身の蹴りを叩き込んでたもん。あれって狙ってやったの?」
「分かんないわ。いけそうな気がしたからやってみたら、何かできちゃった感じだし……」
正直、何で出来たのかは良く分からないわ。あの時は何が何でも全力の一撃を入れるとしか考えて無かったし、そのために使えるものは全部使ったし……あ、もしかしてそのせいであのクソ猫に対する恨みとかが無くなっちゃったのかしらね?
「……戦いには負けたけど、ちゃんと一発入れられたのよね。だったらあれだけいたぶられた甲斐もあるってもんよ」
「本当にお前メンタル強いよねぇ。惚れ惚れしちゃうよ?」
そんな風に薄気味悪い事を言いながら、クソ野郎はベッドに上がってくる。
ていうか、クソ猫への恨みが無くなってもコイツへの恨みはまだ普通にあるのよねぇ……一応感謝の気持ちとかもあるにはあるけど、やっぱり見てて本当に腹立つ顔だわ。殴りたい……。
「……で、私は何であんたの部屋のベッドに寝かされてたわけ? ていうか服がバスローブになってるんだけど、あんたが勝手に着替えさせたわけ?」
ついでに言えば殴りたいのは、私の服が知らない間にバスローブになってたからっていうのもあったりする。確かにあのクソ猫との戦いで服がボロボロになったし、別の服を着せられるのも当然かもしれないわよ? でもだからってクソ野郎の部屋のベッドに寝させられる筋合いは無いでしょ。まさかコイツが私を着替えさせたんじゃないでしょうね……?
「いや、着替えさせたのはトゥーラだね。僕はトゥーラがお前を部屋に寝かせた後、そこから僕の部屋に運んだんだよ。お前が目覚めたらそのまま押し倒して貪ろうかなって思って」
「……は?」
睨みながら尋ねたら、ちょっとぶっ飛んだ答えが返ってきた。
え、何? 私を押し倒して、貪る……? 食べるって事? でも幾らコイツがクソ野郎でも食人してる所は見た事無いし、もしかして……あっちの意味の事……?
「え? じょ、冗談よね? いや、どうせいつかは奪われるって思ってたけど、突然過ぎない?」
「僕もそう思う。でもさぁ、あんな光景見せられたらしょうがないじゃん?」
「あんな光景……?」
「単なる一介の村娘が不屈の精神を見せて、猟奇殺人鬼に嬲られながらも命を賭して戦う姿。空間を飛び越えて攻撃を当てる事を可能にしたほどの、常人を圧倒的に上回る意志力。そして今まで散々味わわされた苦痛の数々を、渾身の一発で全て水に流す心の広さ。あんなもんド田舎の村娘に見せられたら、もう惚れるしかないでしょ?」
「えぇ……」
ちょっと意味が分からないし分かりたくも無いけど、クソ野郎の言葉には嫌に熱がこもってた。たぶんこれ本気で言ってるんじゃない? 本気で私に惚れたの? 嘘でしょ? こんなクソ野郎に目を付けられて奴隷にされただけでも人生最大の不幸なのに、この上更に捻じ曲がった好意まで寄せられるの? 私、何か悪い事した……?
「というわけで、好きです。お前の全てが欲しい」
「私はあんたの事、大っ嫌いなんだけど?」
「そんな事はどうでもいい。ていうかそもそも拒否権は無いし」
「どの口で好きとか抜かすの、コイツ……?」
やっぱりコイツの好意は心底捻じ曲がってるみたいで、好きとか言いながら私の気持ちは一切考慮してない。ただただ自分の欲望を満たす事しか考えてない、自分本位の歪んだ愛情ね……。
でもコイツの言う通り、私に拒否権なんてものはない。今でこそ真の仲間になれたけど、元々私はコイツの奴隷。その契約は今も昔も消えずに結ばれたまま。だから私がどれだけ嫌がっても、一言命令されれば自分から股を開くしかなくなる。そう考えると、何か諦めもついてくるわね……。
「い、今から、やるの……?」
「うん。やる」
「そう……じゃあ、せめてシャワーを浴びさせてくれない……?」
「断る。汗かいてる方が良い匂いするし」
「そう……この変態っ!」
せめてシャワーを浴びたかったけど、クソ野郎は変態の匂いフェチみたいでそれを許してくれなかった。クソ犬が私を着替えさせた時に身体も洗ったのか一応汚れてはいないみたいだけど、気分的なものがあるわ。幾ら大っ嫌いなクソ野郎に抱かれるとしても、身体が汚かったらたぶん私の方がダメージ受けるし……。
でも、うん……もう仕方ないわね、これ。いつかはこういう時が来るって分かってたし、滅茶苦茶過激で狂ったプレイを強要されるんだって思ってたし……でも考えてみれば予想よりかなり遅かったし、プレイもそこまで変なものにはならなそうなのが救いね……。
「……分かったわよ。拒否権も無いんだし、大人しくあんたに抱かれてやるわ」
「物分かりが良くて何よりだよ。それじゃあ早速――うぎゅっ」
諦めた私は、大人しくコイツに抱かれる事にした。頷いた途端にベッドの上を四つん這いで近づいてくるクソ野郎だけど、私はその顔を足で踏んづけて一旦止める。
「――でも、その前に二つ、頼みがあるわ。この頼みを聞いてくれるなら、私は誠心誠意あんたのために奉仕してあげる。どんなに変態的なプレイだって受け入れてあげるわ」
純潔を奪われて好き放題に身体を弄ばれるのは、もう避けられない。だから私は出来る限りの対価を求める事にした。幾ら田舎の村娘でも私は処女なんだし、それくらいはしても良いわよね?
「僕にその手の取引が通じると思う? お前はすでに僕と契約してるんだから、僕が命令すれば逆らえないよ?」
「あんたは魔法でお手軽に命令聞かせるより、自力で屈服させる方が好きなんでしょ? 本当はやりたくないのに心の底から一生懸命奉仕してくれる方が、あんたとしても好みなんじゃない?」
今まで見てきて分かったけど、コイツは魔法で縛って命令を聞かせるのはあんまり好きじゃない。私に命令をして強制的に何かやらせたことも、たぶん三回くらいあるか無いかってところ。優しさからじゃなくてそういう性癖のせいだって事は見てれば分かるから、私は取引の材料にこれを使ったわ。
予想通り効果はあったみたいで、クソ野郎はちょっと意外そうな顔をした後にニヤリと笑った。
「……良く分かってるじゃないか。良いよ、言ってごらん? 頼みたい事って何?」
「まず、レキには絶対手を出さないで。あ、お母さんにもよ?」
まず求めるのはレキとお母さんの無事。コイツならレキやお母さんにも手を出しそうだから、まずはそこを防ぐ。代わりに私がコイツに好き放題されるんだけど……まあ、そこは仕方ないわよね。
「分かったよ。ていうかさすがに人妻の経産婦には手を出さんわ。そんな高等な趣味はない」
「なら、良いけど……」
わりとあっさり頷いてくれたけど、正直疑わしい感じね。私から見ればコイツを含めてイカれてる奴らは全員高等な趣味してるし……。
「で、二つ目は?」
「二つ目は、私の家族に何かあったら助けて欲しいって事。お金が無くて困ってたら、お金をちょうだい。もし重い病気やケガになったら、治して。万が一、死んじゃったりしたら……蘇らせて」
二つ目に求めるのは、家族の安全。元々私がコイツの仲間になる時、家族の無事はある程度保証してもらってる。でも死んじゃった場合とかまで保証してもらえるかは分からない。だから私の純潔と引き換えに、それを確約させる事にした。
正直こんなクソ野郎に抱かれるなんて心底嫌だし、こんなクソ野郎に私の初めてを捧げる事になるなんて反吐が出そうだけど、それでレキたちが何不自由なくいつまでも幸せに暮らせるようになるのなら、私はそれで……。
「何だ、その程度の事で良いのか。本当にお前は家族大事だよねぇ……良いよ。お前の頼みを聞いてあげる」
私の初めてを奪うことが最優先なのか、クソ野郎はあっさり頷いてくれた。
良かった。これでレキ達は安全で、幸せに暮らせるんだ……。
「あとお前の妹なり弟なりが生まれたら、そっちも同じように守ってあげるよ」
「あ、ありがと……いや、さすがにまた妹とか弟は出来ないと思うけど……」
なんてほっとしてたら、クソ野郎が微妙に余計なお世話を見せてきた。家族が増えても守ってくれるっていうのは助かるんだけど……さすがに増えないわよね? でも私がいなくなったんだし、レキが寂しがって弟とか妹を欲しがる可能性もあるのかしら……え、私に新しい弟か妹が……?
「そうだねぇ。むしろお前が孫を作る方が早いかもね?」
「孫!?」
ちょっと気恥ずかしい感じになってると、クソ野郎が唐突にとんでもない事を口走った。
え、孫? それってつまりお母さんとお父さんの孫って事よね? てことは、私の子供って事で……え!? 私の子供!?
「は……孕ませる、つもり……?」
私は思わずベッドの上で後退った。抱かれるのはもう諦めてるし、中に出されるのもまあ仕方ないわ。でも、さすがにコイツの子供を妊娠するのは抵抗があるっていうか、心の準備とか諸々いるっていうか……産んだとしてもたぶん愛せないわね、その子。まだその辺ほっつき歩いてる男の人と子供作った方が愛せそう……。
「いや、こちとら世界平和のために頑張らなきゃいけないんだ。仲間が身重や子育て中なんてやってられないよ。何より僕が自分の子供に愛情を注げる気がしないし。心配しなくても、魔法でバッチリ避妊はしてやるよ」
「あ、ありがとう……?」
さすがに孕ませるつもりは無いみたいで、避妊もしてくれるみたいだから一安心ね。でも魔法でバッチリ避妊するって事は、バッチリ中に出されるって事で……これはお礼を言うべきじゃなかったかもしれないわね……。
「というわけで、早速おっぱじめるか。フフフ、覚悟しろよぉ? たっぷり蕩けさせてやるからなぁ?」
「ひゃっ……!」
私はクソ野郎に抱き寄せられたかと思えば、そのままベッドに仰向けに押し倒される。そうして頬っぺたを撫でてくる指先があり得ないくらいに優しいのがまた気持ち悪くて、あまりの悪寒に凍り付いて動けなくなった。
ああ、ごめんなさいお母さん、お父さん。ミニスはこれから身体を穢されます。でも心だけは渡さないから、こんなクソ野郎に屈したりはしないから、私の事、見損なったりしないでね……?
クルスが感極まったため、デートという過程がすっとばされました。絶対イカれ野郎なんかに負けたりしない!