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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第9章:忙しない日々
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激闘の後



「……なぁにこれぇ?」


 キラとミニスの戦いが終わって、真っ先に出た感想はこれだった。だってもうツッコミどころ多くてボケの僕じゃ上手く感想に出力できないよ。

 ユニオン・スライムのおかげでミニスの身体能力その他が向上して、キラといい勝負できるようになったところまでは良いよ? 剣や盾を創り出したり、触手を使い始めたのもまあ良いよ? その辺りは元ネタでもやってたし、別におかしなところは何も無いからね。

 おかしいのはキラがミニスの切り落とした手を拾って、唐突に食い始めた辺りから。いきなり食人始めた事に度肝抜かれたし、その手に融合してたスライムを強引に自分の身体に融合させて自分の物にしたのも驚きだ。そこから始まる、粘体状の寄生生物をその身に宿した者同士のバトル……片方は連続殺人鬼だし、マジでヴェノ●の続編みたいになっちゃってたよ。さすがにキラのスライムが赤くなってたりはしなかったけど。

 とか思ってたらキラがあっさりとユニオン・スライムの力を使いこなして、挙句の果てに全身に纏ってもろヴェ●ムみたいになるし。その力で魚を下ろしてるのかなって思うくらいにミニスを切り刻みまくってたし、僕はもうこの時点でミニスに勝利は無いと思ってたよ。

 でも瓦礫の中から現れたミニスが思いっきり回し蹴りを放ったら、全然違う場所にいたキラが蹴りを受けた様に吹っ飛んで天井にぶち当たり、纏ってた粘体が弾け飛んでそのまま地面に墜落。ミニスは蹴りを放った直後にそのままぶっ倒れたんだから、もうどんでん返しやら何やらでお腹いっぱいだ。

 いやぁ、何これ? 訳分からん。誰か解説して?


「――素晴らしい。実に素晴らしい。驚異的な再生能力、尋常でない身体能力、自在に形成し動かせる不定形細胞。あれがスライムがもたらす力とは到底信じられないほどだ。生物にそのような能力を付与できるとは、実に素晴らしい。大いに夢が広がる」


 とか思ってたら、隣のレーンが立ち上がって拍手しながらそんな事を捲し立てた。見れば珍しく高揚した感じの顔してるよ。散々小さな女の子が嬲られ痛めつけられ切り刻まれた光景を見た後だってのに、よくこんな表情できるよね。やっぱりコイツも頭おかしいわ。


「そして、ミニスが最後に見せたあの渾身の蹴撃。あれも実に素晴らしい。あれは魔法の一種の到達点だ。キラに対して抱く恨みつらみ、怒りや殺意、それらを全て一撃に込め、その一撃で清算するという覚悟と潔さ。それらを絶対に当てるという強い意志で束ねて放った結果、ミニスの一撃は距離を無視して直撃するという結果を引き寄せた。実に素晴らしい」

「素晴らしい素晴らしいうっせぇなぁ。頭ボ●ドルドかよ」


 ちょっとうるさい解説だけど、おかげで最後に何があったのかだけは分かった。

 要するにミニスはどこぞの透明少女と同じような魔法を、たった一発だけとはいえ実現したんだろうね。今までキラから受けた暴行やら何やらに対して抱いた負の感情を捧げて、クソ強メンタルで無理やり実現させたってわけか。あの子本当に意志力強すぎない? 素敵……。


「うーん……あれだけ強くなれるなら、リアもあのスライム欲しいかも……」

「いや~、ミニスは頑張った! 頑張ったね~! 拍手~!」


 僕がちょっと胸をドキドキさせてると、リアがぽつりと暗い呟きを零し、トゥーラが満面の笑みで拍手を送る。あの訳分からん戦いを見てそんな感想を抱けるとか、コイツらも大概狂ってるよなぁ。

 え? 一番狂ってるのはお前? ハハハ、面白いジョークだ。


「ていうかミニスの最後の一撃だけどさ、アレってもう一度放つことは無理って感じかな?」

「だろうね。彼女はあの一撃に全てを賭けるために、今までの恨みつらみその他諸々を捧げたような物だ。また放てるようになるには再度キラに対してそういった感情を溜めなければならないだろう」


 やっぱり一度切りのものだったみたいで、ミニスがアレをもう一度放つにはたっぷりと悪感情を溜めないといけないらしい。

 これに関しては向き不向きがあるっていうか、悪感情の種類にもよるのかもしれないな。透明少女ことミラは三十分以上フルに不可視化してたし。


「ふーん。じゃあ方向性とか内容とかをしっかり整えてやれば、リアもああいう感じの技を使えるようになるわけだ」

「だろうね。とはいえ感情の種類によっては方向性が勝手に定まってしまうのかもしれないが」


 ぶっ倒れてピクリとも動かないミニスに興味深そうな視線を注ぎながら、レーンはなかなか面白い言葉を返してくる。

 そういや闘技大会でもミニスは僕に一撃入れる事を目的としてたし、元々そういう感じの事を考えてたからその一撃が必中になるような魔法を使えたんだろうか。だとするとリアの魔法はどうなるんだろうねぇ? サキュバスをなるべく苦しめて惨たらしく殺したい、って考えてるような奴が覚える魔法って……うん。絶対碌な魔法にならないな……。








「二人ともお疲れー……って、やっぱミニスは気絶してますね……」


 闘技場に降りてキラ達の様子を確認しに行くと、案の定ミニスは気絶してた。猛烈な苦痛に耐えながら戦って、最後に魔力を全部一気に振り絞ったみたいだし、気絶してるのも当然だね。ていうかキラに身体を切り刻まれまくったせいで服もボロボロで、ほぼ素っ裸だよ。真っ白なロリウサギボディが目の毒だなぁ……。


「ふむ。できれば先ほどの魔法について色々と聞きたいことがあったのだが……さすがに話を聞くのは無理そうだね」

「まあ自分の全てを燃やし尽くして戦っていたみたいだからね~。無理もないさ~」

「確かに村娘とは思えないくらい頑張ってたよね。完全に魔王に立ち向かう勇者みたいな感じだったし」

「ハハハ、それくらいの雄姿だったよね~。じゃあ私はミニスを部屋に運んでくるよ~」


 そう言うと、トゥーラはひょいっとミニスをお姫様抱っこで抱え上げる。わざわざ部屋まで運んでいくとか優しいな、コイツ。コイツも大概ミニスには嫌われてる方なのに……。


「よろしくー。それと実験も終わったし今日はこのまま解散って事で」

「了解だー。おやすみ~、主~」

「おっと、ちょい待ち。ユニオン・スライムは回収しとくよ」


 軽い足取りでミニスを運んで行こうとしたトゥーラを一旦止めて、ミニスの身体からユニオン・スライムを引き剥がした。ガムテープ剥がすみたいにべりっとね。本当はこんな風に外部から取り除く事なんてできないんだけど、そこはほら、僕は開発者だからね? 


「……で、キラさんは今どんな気分?」

「……うっせぇ」


 ミニスから取り除いたユニオン・スライムを脇に放り捨てた僕は、地面の上であぐらをかいて大人しくしてる猫に話しかけた。一般村娘のウサギ風情に猛烈な一撃を食らった事が悔しくて、殺意と怒りと屈辱に打ち震えてるかと思いきや、意外にも返ってきた声はわりと落ち着いてたよ。


「あれ、思ったよりは不貞腐れてない感じ。どうしたの? ついにミニスの事認めたの?」

「……まあ、少しはな。突然降って沸いた力に調子乗ってたのは、意外とあたしの方みたいだしな……」


 などと何かを悟ったような顔で、右手から黒い粘液を炎のように蠢かせながら自嘲するキラ。

 どうやらさすがのキラも一般村娘の不撓不屈の精神と意志力は認めざるを得なかったらしい。まあ絶望的なまでの力の差を見せつけて勝った気になってたら、文字通り全身全霊の一撃でそれをひっくり返してきたんだからね。ここで相手を認められなかったらむしろカッコ悪いよ。


「もしかしたらユニオン・スライムのせいかもね。一応自我とかは無いように作ったはずだけど、参考にした寄生虫ってわりと凶暴なところあるし。その辺がちょっと反映されたのかも」


 ミニスが突然キラに戦いを挑んだのも、あるいはそのせいかもしれないな。宿主を好戦的にするっていうの? 自我があるよりはマシだけど、ちょっと厄介な性質が付与されちゃったのかもしれない。


「ま、何にせよ仲悪いよりはマシか。これに懲りたらミニス虐は控えめにする事だね?」

「するなとは言わないんだね、君は……」


 あまりやりすぎるなっていう僕の言葉に、レーンが控えめにツッコミを入れる。

 だってミニスっていうそういう役回りな所あるし……メンタルの強さを見られるのは逆境に合ってる正にその時だからね。定期的に酷い目に合って貰わないと困る。ちなみにキラはミニス虐控えめにしてっていう要求に頷きはしなかったけど、拒否もしなかった。


「ふぅ……暴れてスッキリしたし、あたしはそろそろ寝るかな」

「分かった。おやすみ――っと、待った。ユニオン・スライムは返して貰うよ?」

「あ? 何でだよ。良いじゃねぇか、このままで」


 さっきみたいにユニオン・スライムをキラの身体から剥がそうと手を伸ばしたら、不満そうな顔でさっと避けられる。どうやらスライムの力がとってもお気に召したみたいで、ずっと使ってたいらしいね。クソザコ魔物ってバカにしてた癖によぉ……。


「お前のそれって分裂した個体でイレギュラーみたいなものだからね。危険性が皆無とは断言できないし、何より本体も皆無とは断言できないもん。あくまでも実験のお遊びで創ったものだから、精神乗っ取られたりする可能性はゼロじゃないよ?」

「そんなあぶねぇもん使わせんじゃねぇよ!」


 さすがの連続殺人鬼も精神を乗っ取られるのは嫌だったみたいで、怒りを露わにしながら右手に触手を生やして僕を殴りにきた。何気に滑らかな鞭みたいになってるし、ミニスとは練度が桁違いだね。


「お前は自分で取り込んで使ったんじゃん……はい、べりべりー」

「チッ、最高の道具だったってのに……」


 とはいえ僕にとっては脅威でも何でもない。だから普通に掴み止めて、触手を引っこ抜くような形でユニオン・スライムをキラから引き剥がした。よっぽど気に入ってたのか、キラが滅茶苦茶渋い顔をしてるよ。


「だから別にスライム寄生させる必要ないんだってば。言ってくれればそういう事ができるように魔法を使ってあげるよ?」

「……いや、良い。まずはテメェ自身の力で強くならなきゃなんねぇからな」

「変にストイックだなぁ、コイツ……」


 だから魔法でそういう能力を直接付与してやろうかと提案したのに、何故か断られる不思議。どうやらミニスとの戦いで色々と思う所があった様子。そのままキラは憑き物が落ちたような雰囲気で歩き去ってったよ。まあ確かに憑き物はたった今引っぺがしたね。


「……さて、ユニオン・スライムの処理はどうしようかな? さすがにコイツを野に放つのは色々とマズそうな気もするね?」

「つんつん、ぶよぶよー」


 手の中の分裂ユニオン・スライムと、地面をうぞうぞ這ってリアに突かれてるユニオン・スライムに視線を向けて考える。

 コイツらは寄生型だから、野に放った場合の危険性は前の二種類とは大違いだ。何と言っても宿主に条件が無いからね。そこら辺の魔物に寄生してパワーアップさせる事だって十分にあり得る。


「そうだね。万一魔物に寄生したりすれば、一般の冒険者では手に負えない化け物になってしまう可能性が――」

「でもいいや! 野生におかえりー!」

「おい」

「あー、行っちゃったー」


 でも僕は気にせず、この二匹を野に帰した。何かレーンがドスの利いた声でツッコミを入れてきたけど気にしない。


「野に放った方が楽しそうじゃん? どんなカオスを引き起こしてくれるか、想像するのも楽しいしね!」

「私は一応止めたからね。何が起こっても知らないよ。ただ事件が起こったのならその詳細を教えてくれると助かる」

「魔術狂いがよぉ……」


 止めておきながらもやっぱり興味はあったみたいで、常識人ぶりながらもしっかり事件の詳細を聞かせるようにお願いしてくる。もしかして常識人な所がありつつも最高に狂ってる所のあるコイツが一番イカれてるのでは?

 それはさておき、あんな光景見せられたら……もう我慢できないよなぁ? これはもうやるしかないですね?




おや? クルスの様子が……?

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