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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第1章:異世界召喚
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女神の激励

「……あれ、ここは?」


 ふと気が付いた時、僕はまた真っ白な世界にいた。

 だけど今回は直前の事もしっかり思い出せる。確かレーンと夜のデートを終えて、お風呂でイチャついてから明日に備えて就寝したはず。もちろん寝る前に男の子が最低でも一日に一回はしなければいけないことをしたよ。お風呂での光景と感触を思い出しながらね。うへへ……。

 あ、ちなみに僕はリビングのソファーで寝たよ? 本当はレーンを抱き枕にしてベッドで一緒に寝たかったんだけど、さすがにそれは辛抱堪らなくなって寝られなさそうだから自重しておいたんだ。明日からは勇者としての旅が始まるし、休息は必須だからね。

 そんなわけで、タンスから失敬しておいたレーンのブラをアイマスク代わりにして、安らかな眠りについたっていうのが直前の記憶だよ。何だか良い匂いがして凄くリラックスできたね、アレは。


「この見覚えがある、目が痛くなるほど白一色の夢の世界……ということは!?」


 期待を胸に、僕は背後を振り向く。そこには期待通りの人物が慈愛溢れる笑みを浮かべて立ってた――


「………………」

「あれ? 女神様、どうしてそんな死んだような目をしてるの?」


 ――と予想してたのに、何故か女神様は酷く生気のない瞳で僕をじっと見つめていた。

 何というか、呆れと憐れみが適度にミックスされた不思議な表情だ。おかしいな、僕は呆れられるようなことをした覚えも無いし、憐れまれる人間でもないはずなんだけど……。


「お主……お主は、本当に……いや、何でもない。こうなることは初めから分かっておったからな……お主を責めるのは筋違いであるし、真に責められるべきはお主のような輩を送り込むしかない歪んだ世界にしてしまった、どうしようもないわらわ自身じゃろう……」


 何か頭が痛そうな女神様。どうしたのかなぁ、かき氷の食べ過ぎ? それとも偏頭痛? あるいは女の子の日?

 ちょっと心配になったけど頭痛は一過性のものだったみたいで、すぐに女神様は微笑を湛えた可愛らしい表情に戻った。あー、この笑顔だけでご飯三杯はいけそう。


「さて、いよいよ明日が旅立ちじゃな。心強い仲間を得られたようで、わらわとしても一安心じゃ。願わくばあの者がお主のストッパーになって欲しいと思っておったが、見ていた限りでは無駄な期待じゃろうな……」

「えっ? 女神様、僕のこと見てたの? どのあたりから?」

「もちろん最初からじゃ。わらわは神じゃぞ? 自らが創造した世界での出来事を把握するなど朝飯前じゃ。故に話も聞いておった。そう、例えばお主に与えた全ての魔法を扱える力が無用の長物になっていることや、自らの時間を操作する力が魔法でどうとでも再現可能ということ、そしてわらわが人命を弄ぶ邪神と認定されていることも知っておるぞ……ははっ、てんでダメダメな女神じゃな、わらわは……」


 最初は『どうだ凄いだろう!』って感じに無い胸を張ってたのに、徐々に『鬱だ、死のう』って感じになって座り込んじゃったよ。地面に『の』の字を書き始めるし、これは相当重傷だなぁ。

 というか最初から見てたってことは、僕がしてたことも全部見てたんですかね? 城の大浴場で身体を洗う女の子見ながら致してた時とか、自分を慰めるレーンの姿を思い出しつつレーンの家のトイレで致してた時とか。やだ、女神様ったら覗き魔じゃん……。


「ほらほら、元気出して女神様。女神様から貰った無限の魔力は役に立ってるんだし問題ないよ。ぶっちゃけそれ以外はクソの役にも立ってないけどさ」

「慰めるなら最後まで慰めんかぁ……!」


 頭を撫でてあげながら本音を口にしたら、どうもお気に召さなかったみたい。涙ぐんだ様子で腕を払ってきたよ。というか泣き顔めっちゃ興奮する……。


「まあ女神様がドジっ子だってことはもう分かってたし、僕はあんまり気にしてないよ。それで、一体どうしてわざわざ僕に声をかけにきたの? 頑張ってるご褒美に熱いキスでもプレゼントしに来てくれたの?」

「阿呆。今のお主はまだ目的のために踏み出したばかりではないか。褒美を与えるには早すぎるわ。単純な激励じゃよ、激励。それと一つ、お主に頼みがあってな」

「何だ、残念。でも女神様の顔が見られたからいいや。女神様のために頑張るから、僕の行動と行為の全てから目を逸らさずしっかりその目に焼き付けてね?」


 露出趣味は無いはずなのに、女神様に僕がお楽しみになっている姿を見られてると思うと何だか凄い興奮してくるんだよね。

 女神様が一体どんな感情を抱きながら、どんな表情で見ているのか、それを考えるだけでもう堪んないね! 


「その言い方でお主の考えが何となく分かるぞ。言っておくが、お主が考えているような光景だけは意図的に見ておらんからな。わらわにも見る光景を選ぶ権利はある。仮にも神を辱めようとは恐ろしい奴じゃな……」

「何だ、見てなかったのか。残念。それで、頼みって何?」

「うむ……それは、じゃな……」


 言いにくそうに視線を彷徨わせる女神様。

 何だろう。もしかして僕に抱いて欲しいとか? それはもちろんやぶさかではないっていうか、むしろ望むところだよ?


「わらわのために努力していることは分かっておる。じゃがな……せめて、不必要な殺生だけはせんでくれぬか……? いたずらに生命を弄ぶ真似だけは、お願いじゃからせんでくれ……」


 とか不埒なこと考えてたら、女神様は悲しそうな顔で僕に縋りついてお願いしてきた。潤んだ瞳で、力なく弱々しく。

 こんなお願いをしてくる理由で思い当たる節は一つしかないね。たぶん僕があの冒険者の女の子三人組を殺すのを見てたんだと思う。あれは必要な殺生だったし、生首投げたりも隙を作るのに必要なことだったんだけどな。まあ心優しい女神様には刺激が強すぎる光景だったかも。


「分かった。他ならぬ女神様の頼みだからね。無意味な殺しはしないよ。それでいい?」


 女神様におねだりされたら首を横には振れないし、僕は素直に頷いた。

 別に僕は無意味に人を殺して回るヤベー奴じゃないし、約束しても問題ないよ。どうしても殺したくなったら適当な理由を考えればいいし。


「う、うむ……すまんな。例え邪神と罵られようが、わらわの事を忘れ去ろうが、あの世界に生きる者たちはわらわの愛する子供たちなのじゃ……意味も無く死んでいく我が子らを見るのは、さすがに耐え難い……」

「あーもうっ! 女神様は優しいなぁ!!」


 もう駄目だ、愛を抑えられない!! 

 そんなわけで僕は反撃覚悟で女神様を抱きしめた! この抱きしめるのにちょうどいい大きさ、心安らぐ華やかな香り、子供特有の高い体温による温もり! これを味わえるならぶん殴られても損はないね! さあ、来い!


「……………………あれ? 怒らないの?」


 とか考えて備えてたのに、女神様は大人しく僕に抱きしめられたままだった。

 おかしいな。初対面の時に僕の息子に一撃叩き込んできた女神様はどこいった? もしかしてこのまま最後まで行っていいってことですか?


「……お主は協力を求めてきた相方に供物を要求したであろう? ならばお主に協力を求めたわらわもまた、供物をささげるべきじゃろうな」


 な、なんだと!? 女神様が、供物を僕に!? まさか、まさか……!?


「いかにドジで失敗ばかりとはいえ、曲がりになりにも神じゃ。きっとご利益があるぞ? さあ、受け取れ。そして、あの世界に平和をもたらしてくれ。頼んだぞ、クルス」


 次の瞬間、僕は唇に柔らかな感触を感じた――






「やったぜ!!」


 気が付けば僕はソファーの上に立ち上がって、喜びのままに拳を突き上げてた。でもそれも仕方ない。だって僕は女神様の口付けっていうそれはもう素晴らしい祝福を受けたんだからね。

 むしろあのまま夢の世界に居座らず、現実に戻ってこれた僕は自制心がある方だと思う。その内キスよりもっと凄いこと求めるためだけどな! 絶対この世界を平和にして女神様としっぽりしてやる!


「……いきなり叫び声を上げて驚かせないでくれ。心臓が口から飛び出るかと思ったよ」


 そんな衝撃過ぎる言葉の割に、口調は平坦な声が聞こえてアイマスクをずらしてみると、そこには朝食の準備をしてるレーンの姿があった。

 下着はクソエロい癖に可愛い純白のフリフリエプロンつけやがって……お前を朝飯にしてやろうかぁ?


「おはよう、レーン。そう言う割には微塵も驚いた感じのない口調だよね。というか何その驚き方。深海魚か何か?」

「比喩に決まっているだろう。死を超越しても人間を止めた覚えは無いよ。おはよう」


 ソファーから降りて伸びをしつつ、窓の外を眺めてみる。

 すっかり柔らかい日差しが射してて、天気も快晴。旅立ちにはぴったりの素晴らしい朝だったよ。女神様からの激励と口付けを貰ったからなおさらね。


「それで、いきなりどうしたんだい? 何か素敵な夢でも見たのかな? それと、アイマスクにしている私の下着を返してくれ」

「ああ、うん。実は夢の中で女神様に激励の言葉とキスを貰ったんだ。女神様の唇、柔らかかったなぁ。うへへへ……」

「寝ても覚めても君の頭の中は色欲だらけだね。神にすら手を出すとは、最早呆れて言葉も無いよ……」


 僕の頭からアイマスクを毟り取って、深いため息を零すレーン。

 わりと気に入ってたんだけどなぁ、あのアイマスク。まあいいや。まだ何枚か隠し持ってるし。


「男なんてそんなもんだよ。僕が特別なわけじゃない。それで、今日の朝ごはん出来た?」

「ああ。ちょうど材料もあったから君の要求通りハンバーグも作った。あのような光景を目にしてこれを食べたいと言える君の精神性は、率直に言って狂っているよ。もう指摘するのも面倒になってきたがね」

「僕も段々否定するのが面倒になってきた。さ、朝ごはんにしよっか」

「その前に顔を洗って手を洗い、寝癖を整えてきたまえよ」

「はーい、ママ」


 レーンママにせかされて、僕は朝の支度を始める。

 今日から表向きは勇者として、裏では世界を破滅に導く邪悪の権化として、その実世界の平和を実現させるための旅が始まるんだ。気合を入れて頑張っていこう! 女神様を僕のママにするために!



 これにて第1章、終了です。第2章でようやく街を出ます。10万字使ってまだ街を出ていないことから分かる通り、展開がかなり冗長ですがお付き合いしてくださると嬉しいです。

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