ミニスVSキラ2
⋇ミニス視点
⋇残酷描写あり
⋇グロ描写あり
⋇ミニス虐あり
⋇最近ミニス虐成分が不足してたのではりきりました
私の会心の一撃は、狙い通りにクソ猫の頭を捉えた。
元々脚力だけは無駄にある兎獣人の私が、変なスライムで身体能力を極限まで引き上げられた状態で放った回し蹴り。岩はもちろん鉄だって砕けるくらいの一撃だって自負してるわ。だからクソ猫の頭なんて握り潰した果物みたいに弾ける。そう思ってた。
「え……」
でも、そうはならなかった。確かに私の回し蹴りはクソ猫の横っ面を捉えた。とんでもない衝撃と暴風を撒き散らす一撃が、全部コイツの頭に叩き込まれた。
それなのにクソ猫の頭は爆散してない。ううん、まだ胴体にくっついてるし、首の骨が折れてるわけでも無い。全然、効いてない……!?
「……なるほどな。こりゃあ確かに思い上がるのも分かる。全身に力が漲ってくるぜ」
「なっ……!?」
怖くなってクソ猫を触手で拘束したまま距離を取ると、その理由が分かった。
私の回し蹴りが当たったクソ猫の横っ面を、黒い粘液みたいなものが覆って防御してたから。アレが何かなんて考えるまでも無い。今正に私の右手から出て、クソ猫の身体を拘束してる触手――スライムと同じ……!
「何で、あんたまでそれを……!?」
「コイツはテメェの身体と融合してるスライム。そしてスライムは分裂して増える魔物だ。二つに引き裂かれたって簡単には死にはしねぇんだよ。まさか下等生物の渋とさに感謝する日が来るなんてな?」
クソ猫はそう言って、私に向かって唾を吐きかけて――いや、違うわ。これ、唾じゃない……まさか、人の……私の、指……!?
「あんた……まさか……! 私の、切り落とした手を食べて……!?」
直前のクソ猫の台詞と、地面に転がった指の欠片から、私はぞっとする想像に辿り着いた。
コイツは、私の切り落とされた手を食べて、そこに融合してたスライムの一部を取り込んだんだ……! だから、私の蹴りをああやって防御できたんだ……!
「欠片を取り込んで、身体の中で治癒して、さっきあたしの身体にようやく馴染んだところだ。馴染むまで少し苦しかったが、これでお互いに同じ条件だな。クソウサギ?」
「ぐっ……!」
さっきまで身動き取れてなかったはずなのに、クソ猫は私の触手の拘束をあっさり引き千切った。腕が毟り取られるような痛みに呻きながら距離を取ろうとしたけど、自由になったクソ猫が接近してくる方が速かった。
「がっ……!?」
そのまま、お腹に膝蹴りを叩き込まれる。さっきまでのクソ猫の一撃とは比較にならない、致命的な威力の一撃だった。あまりの衝撃にお腹の中で内臓が幾つも弾けて、肋骨も背骨も砕け散る激痛が襲ってくる。耐えられなかった私はその場に膝を付いて、バケツをひっくり返したみたいな量の血を吐いた。
マズイ……! コイツもあのスライムで、身体能力が強化されてる……!
「スゲェな。身体強化使わなくても使ってる時以上に身体が動く。頭の中もスゲェ速さで回るぜ」
「う……こ、この……がはっ!?」
これ以上スライムの力を使いこなされる前に決着を付けようと、私は拳を振り被った。でもその拳を振る前に、クソ猫の拳が私の顔面に突き刺さって鼻をへし折った。しかもただの拳じゃなく、黒い粘液が綺麗に装甲みたいに覆った、鉄よりも硬い拳で。
マズイ、マズイ! コイツ、もの凄い勢いで力を使いこなしてる……!
「しかも何だよ、これ。てっきり歪な武器を作るのが精々かと思ったら、自由自在に作れそうじゃねぇか。お前力使うのがド下手だな?」
「ぐっ、ば、馬鹿にする――かっ……!?」
反論しようとしたら、今度はクソ猫に喉を深く切り裂かれた。指がそのまま長くて大きい爪になったみたいな、黒くて鋭い鉤爪に。
「ヘっ、イカした鉤爪だって思いのままだ。こんな力持ってりゃ簡単にあたしをぶっ殺せたろうが。所詮雑魚は何をしたって雑魚って事なんだな?」
「っ……!」
悔しさに歯噛みした私は、右手を剣に変化させてクソ猫目掛けて振るった。まだ内臓と背骨と肋骨が修復しきってないせいで、その場から動けないから。
「うっ、ぁ……!?」
でも私が作った剣はクソ猫の作った鉤爪で一瞬で切り落とされて、おまけにお腹を深く裂かれた。治りかけの内臓が外に出そうになって、私は痛みに歯を食い縛りながら必死に左手でお腹を押さえる。
「一目瞭然じゃねぇか。元は同じだってのに、テメェが作った歪な剣はあたしが作った鉤爪で簡単にぶっ壊せた。テメェはこの力に相応しくねぇって事だよ」
「う、あ、あああぁああぁぁぁぁっ!!」
苦痛と悔しさに叫びながら、私は背中から四本の触手を生やしてクソ猫目掛けて殺到させた。先端を鋭く尖らせた、当たれば鉄だって貫く触手が四本。きっとさっきまでのクソ猫だったなら、間違いなく貫けたくらいに素早く。
「ふっ――」
「がっ、ぎいぃぃ……!?」
でも、今のクソ猫には全く通じなかった。たったの一呼吸の間に触手が全部切り落とされて、その上でお腹に抉り込むような蹴りを食らって吹っ飛ばされる。再生途中でまだ開いてたお腹の中に爆発染みた威力の蹴りが叩き込まれて、あまりの痛みに一瞬意識が途切れた。
地面の上をボロボロの身体で転がった痛みで何とか意識が戻ったけど、もう勝てる気がしなかった。ただでさえ私とクソ猫の強さにはもの凄い大きな開きがあって、それをスライムによる強化で何とか詰められてたのに、向こうも同じようにスライムで強化されたらもう台無し。差が元通りになっただけじゃなくて、スライムの力を存分に使いこなしてる向こうの方が更に強い。これ、もうどうしようもないんじゃない……?
「やっぱ雑魚だな。本当の使い方ってもんを見せてやるよ、クソウサギ」
身体のダメージが大きすぎて立ち上がれない私にそう吐き捨てると、クソ猫は何故かその場に四つん這いになった。一瞬、獣の真似事でもするのかと思ったけど、違った。現実はそれよりもさらに酷かった。
「な、何……アレ……?」
クソ猫の両手両足の先から黒い粘液が爆発的に沸き上がって、それが徐々にアイツの全身を包んでく。ただ表面に纏ってるだけじゃない。はち切れそうなほどに凝縮された筋肉を創り上げて、それで全身を覆っていってる。
獣の真似事なんかじゃない。アイツは今、正真正銘の化物になろうとしてた。
『ああ、最高の気分だ……力が漲るぜ……!』
そうして変貌が終わると、そこにはクソ猫の三倍くらいの体積に膨れ上がった黒い化物がいた。四足で手足には巨大で鋭い鉤爪があって、太くて長い尻尾は先端が槍よりも鋭く尖ってる。
何より恐ろしいのは顔。赤一色の瞳と、ノコギリみたいな歯が立ち並ぶ凶悪の極みみたいな顔をしてた。どんなに瞳の大きい人だって白目はあるし、サメだってあそこまで鋭い歯はしてない。どこからどう見ても完璧な化物。まかり間違っても単なる村娘が勝てるような相手じゃなかったわ。
『……精々醜く足掻いてみろや、クソウサギ』
「ぐ、ぶっ……!?」
まだ再生途中の身体で立ち上がって逃げようとしたけど、化物になったクソ猫の突進には間に合わなかった。碌に反応もできないままもろに突進を食らって地面から掬い上げられて、闘技場の壁に叩きつけられる。それだけじゃクソ猫の突進の勢いは衰えなくて、闘技場の壁を粉砕しながら進んで、結局私はこの階層の絶対に壊れない壁にもの凄い勢いで叩きつけられた。
前と後ろからあり得ないくらいに激しい衝撃を食らって、冗談みたいな量の血が口から零れる。身体がそのままぐしゃりと潰れてないだけ耐えた方だと思うけど、痛みと肉体のダメージで碌に身動きも取れない。そしてもちろん、再生が終わるまでこのクソ猫が待ってくれる訳も無かった。
『ハハハハハハハハハハハッ!!』
「っ、が……ぎ、うぅ……!」
鋭い尻尾の先端で額から後頭部まで一気に貫かれたかと思えば、そのまま壁に磔にされて両の鉤爪で滅茶苦茶に身体を切り裂かれる。肉も骨も内臓もまるで紙みたいに切り裂いて、私の身体が細切れにされてく。再生なんて全然追いつかない。
信じられない激痛に喉が張り裂けそうなほどの悲鳴を上げたけど、肺も気管も纏めてズタズタにされてるから碌な声が出なかった。でも、私は死んでない。身体に融合したスライムのせいで、死ぬ事が許されない。
『最初の威勢はどうしたぁ!? 抗って見せろや、クソウサギ!』
だからそのまま鋭い鉤爪で嬲られて、周りに自分の血肉や内臓を撒き散らすしかない。痛くて苦しくてもう死んじゃいたいのに、あまりの痛みに意識を失う事もできない。
私はもう、クソ猫の気が済むまで切り刻まれるしかない――なんてのは、もうごめんよ!!
「っ、があああぁああぁぁぁぁああぁぁっ!!」
『――っ!?』
胴体はほとんど魚の開きみたいになってるけど、下半身はまだ動く。だから私は磔にされてる壁を足場に、渾身の蹴りを繰り出した。まさかこの状況から反撃してくるとは思ってなかったみたいで、クソ猫はこれをまともに食らって闘技場の壁を粉砕しながら吹っ飛んだ。
クソ猫が吹っ飛んだ事で頭に刺さってた尻尾も抜けて、私はそのままべちゃりと床に落ちた。不意を突いて一撃入れられたけど、腰が入ってないどころか入る腰がだいぶ削れてたから碌な威力が出なかった。そしてそれを差し引いても、あの蹴りはほとんど効いてない。
あの黒い獣型は見た目だけのエセ筋肉じゃなくて、本物よりも遥かに固くて柔軟な筋肉。脚に伝わってきた感触からして蹴りで撃ち抜けなくて、たぶんクソ猫本体の身体には全然ダメージが入らなかった。ここまで来るともう絶望するしか無いわね……。
『――効かねぇなぁ? ご自慢の蹴りがその程度かよ?』
しばらくして負傷が完全に再生しつつある身体で闘技場に戻ると、予想通りクソ猫は元気に闘技場を四足で駆けまわってた。地面だけじゃなくて、壁や観客席も縦横無尽に走り回ってる。あまりにも速すぎて、スライムで強化された私の動体視力でも影を捕えるのがやっとなくらい。
ただでさえ地力に差があるのに、向こうが完全にスライムの力を使いこなしている以上、もう私に勝ち目は無かった。結局、ただの田舎の村娘の私は、アイツみたいなイカれた奴には絶対敵わないのね……。
「……まあ、考えてみれば当然よね……私には戦いの才能なんて無いし、修行らしい修行もしたこと無いし……唯一の取り柄は、この脚力だけ……これだけで、戦いが得意な殺人鬼に勝とうなんてのが馬鹿な話よ……」
あまりの絶望に、私は独り言ちる。
唯一クソ猫に勝てる脚力も、全然通用しない事がさっき証明された。ここから逆転して勝利するどころか、一矢報いる事も無理だと思う。だって私はただの村娘だから。
「でも……でもね、それが分かってたって、あんたに渾身の一撃をぶち込んでやりたいのよ! 今まで散々痛めつけられて、何度も目を抉られた恨み! ここで晴らさずにいつ晴らすっていうのよ!」
だからって、諦めて負けを認めるなんてできない。訳の分からないスライムで私も強くなってる今、スライムの力を使いこなしてクソ猫が油断してる今、積年の恨みを晴らすチャンスはここ以外に無いから。
「一世一代の渾身の一撃! 絶対に叩き込んでやる!」
勝てなくて良い。でもその代わりに、全力全開の一撃を叩き込む。
クソ猫を拘束した時に放った一撃は利き足じゃなかったし、壁に縫い付けられて切り刻まれてる時に放った一撃は捻りを入れる腰が削れてたから、どっちも本当の意味じゃ全力じゃなかった。凄く少ないけど、私にだって魔力がある。地に足をしっかりつけて、この魔力を全部使って、最大最強の一撃を叩き込む!
『ハッ。あたしの姿も捉えられないテメェが、どうやってあたしに攻撃を当てるってんだ?』
速すぎて四方八方から聞こえるみたいに錯覚するクソ猫の声が、尤もな疑問を投げかけてくる。
確かにどれだけ威力のある一撃でも、当てられないと意味が無い。そして今のこの階層全体を四足で駆けまわるクソ猫は、速すぎてその姿が捉えられない。だったら私がどんなに強い蹴りを放っても、何の意味も無い。
でも、私は知ってるわよ。魔法はイメージ。強い想像力と意志力があれば、無理を押し通せるって事をね!
「身体が壊れたって構わない……!」
左足を勢いよく振り下ろして、地面に足首あたりまでしっかりめり込ませる。
「どんなに痛くたって構わない……!」
真っすぐ前だけを見つめて、深く腰を沈める。
「この一撃、この一撃だけで良い……!」
右足を思いっきり引いて、身体ごと捻じる様にして力を溜める。
「今までの恨みつらみ、怒りに憎しみ全部を込めて……!」
そうしてイメージするのは、私が今までクソ猫から受けた数々の仕打ち。それで感じた怒りに憎しみ、恨みつらみ。その全部を魔力っていう炎の中に、薪みたいに放り込んで燃やしてく。燃え上がった炎に願うのは、たった一つだけ。
「絶対に、当てる……!」
必中。絶対に当たる。絶対に当てられる。なけなしの魔力と感情を振り絞って、私はそんな蹴りの一撃を強く深くイメージした。
「うりゃあああぁああぁぁぁああぁぁぁあっ!!」
そして、渾身の力で右足の回し蹴りを放った。今までの比じゃない衝撃波と暴風が巻き起こって、地面が割れて猛烈な砂埃が撒き上がって、周りにあった闘技場の壁の瓦礫とかも一気に弾け飛ぶ――なんて事は起こらなかった。全力全開の一撃のはずなのに、その一撃はただ空を切るだけだった。
『おいおい、どこを狙ってや――があぁっ……!?』
代わりに、明後日の方向からクソ猫の悲鳴が聞こえてきた。そしてまるで私の蹴りが本当に当たってるみたいに、脚に固い筋肉を打ち抜いてる感触が伝わってくる。
ううん、違う……間違いなく、当たってる!
「月まで吹っ飛べ――ムーン・アライバル!」
そのまま私は、一気に右足を振り抜く。全身全霊の一撃を受けたクソ猫はもの凄い勢いで斜め上に向かって吹っ飛んで、天井に叩きつけられて黒い粘液を撒き散らした――
⋇どうみてもカーネ●ジです。ありがとうございます。