ミニスVSキラ
⋇ミニスちゃん視点
⋇残酷描写あり
⋇グロ描写あり
「覚悟は良いか、クソウサギ。泣き叫びながら許しを求めたって終わらせねぇ。そのクソ生意気な心がへし折れるまで、徹底的に痛めつけてやる」
地下に作られた闘技場で、私はイカれた殺人鬼と対峙してる。コイツは人の目玉を抉り取って瓶詰めにする生粋の異常者。人を殺すことが大好きなゲスの極み。そんな奴が私に向けて、手加減一切無しに殺意をぶつけてきてる。
正直に言えば、怖くないわけじゃない。今も膝が震えてるし、気を抜くと歯の根が合わなくなりそう。でも、不思議と勝てないとは思わなかった。クソ野郎が私に勝手に寄生させた怪しいスライムのおかげで、全身に力が溢れてるから。
「そっちこそ覚悟しなさい、クソ猫。今までの無力な私じゃないわよ。絶対にあんたを惨めに這い蹲らせてやるわ」
だから私は拳を構えて、啖呵を切る。
降って沸いた力に舞い上がって、何も見えなくなってるわけじゃない。どっちかというと、コイツに仕返しする機会が今しかないからやるのよ。このスライムの力もいつ取り上げられるか分かんないし、強くなってる今の内に出来る限りの報復をしておかなきゃ気が済まないわ。コイツに一体何度目玉を抉られた事か……!
それに今の内に叩きのめす事ができれば、少しは私への扱いもマシになるかもしれないし……まあ、それは正直かなり薄い希望だけど……。
「……死ねっ!」
恐ろしい形相をしたクソ猫が地面を力強く蹴って、一気に私に突撃してきた。
普段なら認識なんてできない速さのはずなんだけど……不思議ね。今はしっかり目で追えるわ。頭の中にもスライムが侵食してるって事を考えると、ちょっと気分悪いわね……。
「ふっ!」
「なっ……!?」
だから私は見え見えの首への一撃を、左手のガントレットで楽々防いだ。まさか見切られるとは思ってなかったみたいで、クソ猫の驚愕に歪む顔が見て取れる。
闘技大会に出場する時に買ったやつだけど、意外と硬くて使いやすいのよね、コレ。でも今の一撃が特別工夫も無い一閃だったから防げただけで、魔法とか武装術とか使われてたら腕ごとガントレットを切られてたかもしれないわ。
「随分動きが遅くなったわね、クソ猫? 私に見切られて受け止められるようじゃ、殺人鬼も廃業じゃない?」
「……舐めんなよ、クソウサギが!」
私の挑発が気に入らなかったのか、私に挑発された事が気に入らなかったのか、クソ猫は頬を怒りに引き攣らせた。そうして鉤爪を弾くと、回し蹴りを放ってくる……けど、正直これも遅い。見てから反応できるレベルで躱すのもつまらないから、こっちも回し蹴りで迎え撃ってやったわ。
「うりゃあっ!」
「ぐおっ……!?」
そしたら私の回し蹴りはもの凄い暴風を引き起こしながら、クソ猫の蹴りをその身体ごと弾き飛ばした。引き分けくらいを想像してたのに、何かあっさりと打ち勝っちゃったわ……感触からして絶対に向こうの足の骨粉々にへし折ってるし、このスライムの力ヤバ過ぎない……?
「いける……これなら、いけるわ……!」
でも、この力ならアイツを叩きのめすことができそう。魔力が増えるわけじゃないから無敵ってわけじゃないけど、それでも近距離で切り刻むのが好きなアイツに対しては無類の強さを発揮してる。
今こそ仕返しの時ね! 悪党には報いが訪れるって事、私の手で証明してやる!
「チッ……! クイック! アクセル!」
吹き飛ばされてたのに空中で脚の骨の治療まで終えたクソ猫が、着地するなりさっきまでとは段違いの速さで駆け出した。魔力も感じたし、魔法で身体能力を強化したのね。私を中心にして遠くをグルグル回って、攻撃の機会を伺ってる感じだわ。クソ猫にしては随分と弱気な戦法ね?
「魔法で速さを強化したわね! でも、これくらいなら……!」
だけど、残念だったわね? 私の中で一番誇れるのは脚力なのよ。元々獣人の中でもトップレベルの脚力を持つ兎獣人の私が、変なスライムで身体能力を三十倍に引き上げられてる。だから本気を出せば――
「追いついたわよ、クソ猫っ!!」
「んなっ……!?」
魔法を使ったクソ猫にだって、追いつけるのよ!
まさか追いつかれるとは思ってなかったみたいで、クソ猫ははっきり分かるほど息を呑んでた。魔法を使って身体能力を強化してるのに、私程度に追いつかれるなんて夢にも思わなかったんでしょうね。
「チッ――スラッシュ!」
「いっ……!?」
捕まえようと腕を伸ばしたけど、そのまま掴まれるほど馬鹿じゃなかったみたい。クソ猫は振り返りざまに鉤爪による武装術の一撃を放ってきて、私の腕がガントレットごと切り落とされた。
激しい痛みに思わず足を止めたけど、痛んだのはほんの一瞬だけだった。だって次の瞬間には切断面からあの黒いスライムみたいなものがじゅるじゅる湧き出て来て、ドン引きしてる間に腕の形になったかと思えば、そのまま色付いて元通りの腕になったから。
「凄い……これなら私でも、コイツに勝てる!」
生えてきた方の腕は、動かすのに何の支障も無かったわ。指先まで滑らかに動くし、感覚もしっかりある。あのクソ野郎にかけられた再生の魔法に近いものがあるわね。
「降って沸いた力にイキってんじゃねぇぞ! クソウサギ!」
「――っ!?」
走っても追いつかれるって悟ったからなのか、クソ猫は駆け回るのをやめて真正面から突撃してきた。両手に装着した鋭い鉤爪を振り被って、肌が泡立ちそうになるほど濃い殺意を放ちながら。
「オラァ! 死ねぇ!!」
「う、ぐぅ……!」
そうして振り下ろされる鉤爪。もう片方の手のガントレットで防ごうとしたけど、これも武装術みたいであっさり腕ごと斬り飛ばされた。もちろん腕はすぐに再生を始めたけど――
「オラオラオラオラオラァ!」
「ぐっ、ぎ……いぃ……!」
それを上回る勢いで鉤爪の鋭い連撃が絶え間なく襲ってきて、両腕がどんどん削り飛ばされてく。再生途中の腕も容赦なく切り飛ばされてるから、再生が間に合わない。
一撃一撃はまだ目で追えるけど、素手になったから防ぐ手段が無いわ……このままじゃマズイ。何か、何か武器か防具が無いと……!
「――オラァッ!!」
「あぐっ……!?」
両腕を二の腕辺りまで斬り飛ばされて碌に防御もできなかった私は、胸に凄まじい蹴りを食らって吹き飛んだ。胸の中で肋骨が砕けて、肺や心臓に刺さってもの凄く痛くて苦しかった。その状態で地面を滑りながら転がって、再生途中の腕が削れてもっと痛い。
でも、生きてる。胸の中の負傷は明らかに致命傷だったのに、勢いが無くなって地面に転がった時にはもう完全に治ってた。やっぱり、このスライムは凄い……!
「ごほっ……! まだ、まだぁ……!」
「チッ、ゴキブリ並みにしぶてぇ奴だ!」
血反吐を吐きながら身体を起こそうとした私に、クソ猫は追撃をしかけようともの凄い速さで近づいてくる。
苦痛の余韻もかなり辛いけど、それは今は問題じゃない。問題なのは、私が素手だって事。だから近付けさせればまたさっきみたいに切り刻まれるだけ。でもそれくらいの距離じゃないと、碌に魔法も使えない私には勝ち目が無い。
せめて武器か防具が欲しい。怪我はスライムのおかげですぐに治るから、できれば武器。欲を言えば、扱いやすい短剣。でも私はそんなもの持ってないし、限られた回数しか開けない空間収納の中にも無い。くうっ、武器が……短剣が欲しい……!
「っ……!?」
そんな事を強く願ったら、私の右手が反応するようにざわついた。
そうだ。確かあのクソ野郎が言ってたっけ。このスライムを寄生させた人の身体は、スライムと同じようになるって。だから剣でも盾でも作れるって。
正直胡散臭いとしか思えなかったけど、私がこのクソ猫とここまで渡り合えてる事を考えると、たぶんこれも事実なんだと思う。だったら、やる事は一つ……!
「死ねっ!!」
鉤爪を大きく振り被ったクソ猫が、低く跳んで私の首を刎ね飛ばそうと迫ってくる。きっと腕で防ごうとしても、腕ごと首を刎ね飛ばされるくらいの鋭い一撃。
「武器……! 剣……! 出てこい!」
その一撃を前に、私は強く深く硬く刃物をイメージして右腕を振るった。手刀が風を切る感覚と一緒に、手首から先が蠢くような感覚に襲われながら。そして次の瞬間――
「なにっ……!?」
「……出来たっ!!」
黒く歪な刃物と化した私の右手が、クソ猫の鉤爪を真正面からへし折った。これにはさすがに向こうも驚いたみたいで、距離を取るのも忘れて呆けてるわ。ってことは今がチャンス!
「今度はこっちの番よ! 覚悟しろ!」
「クソッ! これがたかがスライムの力だってのかよ!?」
刃物と化した右手を振るって、自慢の蹴りを交えながら、クソ猫に自ら接近戦を仕掛ける。ここまで来るとクソ猫にも全然余裕が無かった。額に汗を垂らしながら私の一撃を必死に捌いて、暴風を巻き起こす蹴りを避けてる。
いける……やっぱいけるわ、これ! 何か人間辞めてきた気がするけど、いけるわ!
「――ハイクイック! アクセラレイト!」
「また速くなった……!」
さすがに一旦下がる気にしたのか、クソ猫は魔法でまた速さを増してから距離を取った。さすがに今度はスライムで力を得てる私でも、目で追うのが難しくなってきたわ。でも、追いつけないほどじゃない。
だから私は離れていくアイツを追おうと深く腰を沈めた――
「ミンチになりやがれ! ストーン・シェル!」
その瞬間、警戒してた攻撃的な魔法が飛んできた。地面がぼこぼこと抉れて、拳大の土の塊が何十個も飛んでくる。ちょっと数が多すぎるし、クソ猫の姿が見えなくなるくらいに隙間も全然無くて避けられない。
このままじゃ私は土の塊で文字通りミンチにされる。幾ら再生するって言っても、痛いのはできれば避けたいわ。
「大丈夫、防げる……! 盾! 出ろ!」
だから今度は大きな盾を思い浮かべながら、右手を真っすぐ前へ向けた。途端に手から黒いスライム染みた粘液が広がって、歪だけど私の身体をすっぽり覆い隠せる盾が形成された。そのまま盾にガンガンと土の塊が当たって衝撃が凄いけど、強化された身体能力と盾の強度のおかげで全然効かない。
ていうか、本当に人間辞めた気がする……手が変形して盾になるとか正直凄く気持ち悪い……このスライム、ちゃんと身体から分離できるのよね……?
「っ……ぐ……!」
「……? 何してんのかしら、アイツ……?」
盾に伝わる衝撃が消えたからすぐに盾を消すと、遠くの方で膝を付いて苦しんでるクソ猫の姿が見えた。
もしかして魔法を使い過ぎた反動かしら? 魔力を使いすぎると頭痛とか吐き気とか身体のだるさに襲われるし。ひょっとして今が攻撃のチャンス? だったらやる事は一つね! 近づいてって、思いっきり蹴る!
「覚悟しなさい、クソ猫!」
「クッソ……!」
地面を踏み砕いて爆発させるくらいの踏み込みで一気に駆けて、私はクソ猫に蹴りを叩き込もうとする。凄い苦しそうな顔をしてたけど、クソ猫は私の蹴りを何とか躱してた。でもやっぱり身体の調子が悪いみたいで避けるだけ。鉤爪で迎撃したりはしてこない。
これなら一発。一発でも入れられれば、再起不能にできる。でもさすがに動きが速くて反応も素早くて、当てる事ができないわ。何とかして動きを封じられたら……そうだ!
「それなら、こうよ! 伸びろ!」
手の平からロープが現れてクソ猫を縛る様子をイメージしながら、左手を前に出してそう叫ぶ。そうしたら本当に手の平から黒く歪んだロープが何本も出て来て、それが一気にクソ猫に迫った。正直ロープっていうより、触手にしか見えないけど……。
「チッ! 気持ちわりぃもん出しやがって! テメェはもう怪物だな!」
「身も心も怪物のあんたに言われたって、痛くも痒くも無いわよ! 大人しく捕まれ!」
本当は滅茶苦茶ショックな一言だったけど、極力気にせず触手を動かしてクソ猫を捕まえようとする。
自動で動いてくれるわけじゃないみたいで、全部私自身が動かさなきゃダメみたい。そのせいで何本かピクリとも動かない触手もあって、クソ猫は何とか避ける事ができてた。
「ハッ、やなこった! 食らえ、ストーン・ニードル!」
「ぎっ――ああああぁあぁぁっ!?」
そうして、動かなかった触手が地面から生えてきた何本もの土の槍で貫かれた。触手も紛れも無く私の身体の一部だったみたいで、腕を抉られるような痛みに思わず叫んで膝を付く。
「コイツもテメェの身体の一部なんだよな? じゃあ痛覚も通ってるわけだ! ヒート・アップ!」
「うっ、ぎっ、ああああぁああぁぁぁっ!!」
その上触手を貫いた土の槍が赤熱して、腕を中から焼かれるような痛みが襲い来る。反射的に触手を戻そうとしたけど、私は直前でそれをやめた。だからあえて触手を焼かれる痛みに叫びながら、右手を地面に着いて必死に耐える。
まだ、まだよ……! もう少し……!
「隙だらけだぜ! テメェの首を刎ね飛ばしてやる!」
そして大きな隙を晒した私に、クソ猫は魔法を捨てて一気に肉薄してくる。地面に這い蹲って、首を差し出すような形になってるんだもの。猟奇殺人鬼が自分の手で首を刎ねにくるのは当然よね。
「……かかった、わね!」
「何っ……!?」
だから私の近くまで来た瞬間、私は右手に力を込めた。込めた力は地面を突き破る触手となって、クソ猫の足元から湧き出てその身体を一気に縛り上げた。これは予想してなかったみたいで、そのままクソ猫は縛られて身動き取れなくなる。ざまあないわね!
「あんたなら、絶対自分の手で私の首を刎ねに来るって思ってたわ……だから地面に手をついた時、地中に触手を伸ばしてたのよ! あんたが近付いてきた時、不意打ちできるようにね!」
そのまま更に触手を追加してがんじがらめにして、絶対に逃げられないように縛り上げる。
左の触手を戻さなかったのは、あえて大きな隙を晒すためだったのよね。それから地面に右手を突いて、地中に触手を待機させるために。滅茶苦茶痛くて死ぬかと思ったけど、我慢した甲斐があったわ……。
「ぐっ……クソ! 動けねぇ……!」
クソ猫は身体を振り乱して必死に逃れようとしてるし、腕が引き千切られるみたいな痛みが触手に襲い掛かるけど、もの凄い再生能力と触手の数で何とか押さえ込むことができた。滅茶苦茶悔しそうな顔でこっちを睨みつけてくるのが、ちょっとだけ気分良いわね……。
「……こんな機会が来るなんて、夢みたいね。あのイカれたクソ猫に、存分に恨みをぶつける事ができるなんて……でも、私はあんたたちみたいな異常者とは違うわ。人を痛めつけて喜ぶ趣味は無いし、人を惨たらしく殺して楽しむ趣味も無い。だから――」
私は右手の触手でクソ猫を拘束したまま、力いっぱい地面に右足を振り下ろした。もの凄い衝撃を撒き散らして、私の右足は地面に少し沈み込む。その状態で腰を落として、ゆっくりと左脚を引く。今の私が全力で放てる、最強の一撃をこのクソ猫に叩き込むために。
「この一発で! この一回で! 全部水に流してあげるわ!」
どうせ死んだってあのクソ野郎の手で蘇るんだから、一切加減はしない。狙いは唯一拘束してない、クソ猫の頭部。そこを全力で蹴り飛ばす! たぶん頭が爆散するだろうけど知った事じゃないわ! 目玉を抉られる痛み、あんたもとくと思い知れ!
「くたばれええぇぇぇぇぇえええぇぇえぇぇぇっ!!」
だから私は大きく左足を振り被って、衝撃と暴風を巻き起こす全力全開の回し蹴りをクソ猫の頭に叩き込んだ――
⋇完全にヴェ●ムです。ありがとうございます