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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第9章:忙しない日々
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秘密施設のお約束




「……さて、ちょっとハプニングがあったけど元のお話に戻ろうか。って、あれ? そもそも何のお話してたっけ?」


 正妻戦争も一段落して、トゥーラもしっかりを服を着込んだ後、改めて僕は最初のお話に戻ろうとした。

 でも、何だっけ? トゥーラとレーンのバトルが激しすぎて、何の話をしてたのか忘れちゃったよ。誰が僕の正妻に相応しいかって話だっけ?


「魔法で実験を行うという話だっただろう。忘れたとは言わせないよ」

「おっと、そうだった。せっかくだからこのまま皆で行こうか。被検体――じゃなくてギャラリーは多い方が楽しいからね」

「今被検体って言ったわよね!?」


 レーンの言葉に元のお話を思い出した僕は、せっかくだからこの場の皆で実験室へと向かうことにした。ミニスがギョッとしてツッコミを入れて来たけど、それはあえてスルーしました。まあただの冗談だし、実際に被検体にするとしても死ぬような実験の被検体にはしないから……。


「――はい、到着。こちらが地下四階、研究室兼実験室フロアでーす」


 転移で一気に地下四階に飛ぶと、そこには白一色の長い廊下が広がってる。やっぱ研究室とか実験室とかがあるフロアは、こういう清潔感と無機質さを感じさせる真っ白な作りじゃないとね。ぶっちゃけあんまり好みじゃないけど。


「ふむ、悪くない。白を基調とした清潔感に溢れた良い場所じゃないか。実に美しい」

「そう? 僕は何か無機質であんまり気に入らないけどね。でもこういう場所は白っぽくするのがお約束かなって思ったんだ」

「目がいてぇぞ、この白さ……」

「あうー、ちかちかするー……」


 どうやらレーンは気に入ったみたいで、白い壁をペタペタと触ってる。反面キラとリアはお気に召さないみたいで、瞼を押さえたり目をグルグルにしたりしてる。何だろう、狂人には純白の美しさがキツイのかな?


「あっ、そうそう。お約束と言えば、このフロアの廊下にはちょっとした罠が仕掛けてあるんだよ。僕が許可した人物以外が歩いてると痛い目を見るよ」

「ほ~? 具体的にはどんな事になるんだい~?」

「せっかくだから実演しようか――って、何でお前はそんな遠くに行ってるの?」


 僕が罠の実演を提案して背後の奴らに視線を向けると、何故かミニスだけがかなり離れた所に立ってた。具体的には五十メートルくらい。


「いや、だって……また私を実験台にするつもりなのかもって思って……」

「さすがの僕も絶対に死ぬ罠の実験台に仲間を使うほど外道じゃないよ。大丈夫だからこっちおいで?」

「つまり即死しないなら使うかもしれないのね……」


 どうやら僕が散々魔法の実験に使った事で半ばトラウマになっちゃってるみたい。実験台にされるのを恐れて逃げたっぽいね。獣人だけあって危機意識や生存本能は強いようで。

 僕が安心させるように笑いかけながら招くと、ミニスは一応こっちに戻ってきた。でもいつでも逃げ出せるように警戒してる気がする。信用されてないなぁ、僕?


「立候補がいないなら私が実験台になろ~! というわけで、主~! どこからでも良いよ~!」

「自殺志願者がいるから実験台はコイツで良いかな。はい、じゃあ皆離れてー」


 本当は空間収納から適当に死体を引きずり出して、そいつを蘇生させて的にしようと思ったんだけど、ちょうどトゥーラが実験台に志願してくれたからその必要は無くなった。トゥーラならそこまで心も痛まないし、別に良いかなって。まあ誰であろうと痛まないんだが?

 そんなわけで、僕らはトゥーラのみをその場に残してある程度距離を取る。


「それじゃあ今からトゥーラを許可した人物から外します。すると――」

「わっ!? 何!?」


 その瞬間、突如として警報が鳴り響く。地の底から響く感じの『ビー! ビー!』って感じの警報音ね。ついでに英語で『警報! 警報! 侵入者! 抹殺せよ!』って感じの女性の声も流してる。たぶん聞いた事の無い音なせいか、ミニスを始めとしてみんな驚きに表情を変えてたよ。


「何だコイツ、耳障りな音だな……」

「この警報で終わりというわけではないんだろうね。さて、何が来るか……」

「あっ、見て! 廊下の奥で何か光ってるよ!」


 リアの言葉に、全員がトゥーラの背後に続く廊下の奥に視線を向ける。

 そこももちろん真っ白な通路が続いてる場所だ。でも左右の壁の一点が赤く発光を始めていて、次の瞬間――


「むっ!? これは~……!?」


 一本の極細の赤いレーザーとなって、通路を素早く直進し始めた。

 レーンが使ったブレイズ・リングとかいう魔法に若干似てるせいか、トゥーラも即座に危険性を理解したみたい。腰を落としていつでも回避に移れる体勢に入ってた。


「あれは……私が闘技場で見せたブレイズ・リングと同種の魔法かな?」

「大雑把に言えばそうだね。高出力のレーザーだから触れた途端に焼き切れるよ」

「さては侵入者を生かして捕える気が無いわね、あんた……」


 戦慄したようなツッコミをするミニス。だって別に生かして捕える必要ないじゃん? 僕は魔法で蘇生させる事ができるんだし、そもそもこの階まで侵入できる奴がいるなら相当ヤバい奴だからね。加減する必要が見当たらないわ。


「ふむふむ、なるほど~。この程度なら余裕を持って躱せるが、恐らくこれを躱しても次が来るんだろ~?」


 結構な速度で迫ってきた横一文字のレーザーを、トゥーラは潜り抜けるようにして回避した。レーザーは僕らとトゥーラの間辺りまで進んだ後、そこで停止して消失する。でも一回で済むわけがないよなぁ?


「その通り。避けると次は更に難易度が上がったレーザーが迫ってくるよ」


 僕がそう口にした直後、通路の先で新たなレーザーが発生した。さっきは横一文字だったけど、今度は水平二本、垂直二本、更に斜め二本っていう鬼畜具合。これらがそれぞれ五十センチほどの間を開けて、三層に別れた状態で迫ってくる。でも突然レーザーの位置が変わったりはしないから、まだ優しい方でしょ?


「わー、リアならもう避けられないよアレー……」

「無理でしょ、これ。殺意高すぎない?」


 ロリコンビは早々に諦めて、どこか遠い目をしてる。でもこれ意外と躱せるよ? 確かに一見難しそうに見えるけど、実際には三×三マスに左上と右上から斜めに線を引いた感じだもん。上下左右の四カ所にまだ安全なスペースがあるし。


「これはなかなか~……! だが、ここだ~!」

「隙間を潜り抜けたか。やるな、アイツ」


 トゥーラはしっかり気付いてたみたいで、スライディングをかまして下の隙間を潜り抜ける。ちょっと服の裾が切れたけど、無事に回避できたね。キラも隙間に気付いてたみたいで、感嘆の声を上げてたよ。


「良く躱した。でも次は無理でしょ?」


 さて、ここで問題です。次に発生するレーザーはどんな風になるでしょうか。まあ怪しげなウィルス研究所に勤めてる人なら分かるよね?


「うわっ……」

「えー!? あんなの無理だよー!?」


 正解は網目状のレーザー! 逃す気一切無し、殺意百パーセントのトラップだ! さすがにこれにはロリコンビもドン引きしてるね。でもまあア●トマンみたいに小さくなれるなら抜けられそう。

 ちなみにまかり間違ってこれを躱した場合、今度はレーザーというか隙間ゼロの全面即死範囲が迫ってきます。お約束はこの網目状までだからね。ここを超えたらもうさっさと確実に死んでもらうしかない。


「あ~……これはさすがに無理だね~……」


 幾らトゥーラでもこれは無理だったみたいで、早々に諦めてうなだれてた。別にこのままサイコロステーキにしても良いけど、さすがに真の仲間に対してそんな真似はちょっとね? だからトゥーラが網目レーザーでバラバラにされる前に、レーザートラップを停止させた。


「はい、認証。まあ、こんな感じの侵入者対策が仕掛けてあるよ。楽しいでしょ?」

「どこが……?」

「リアたち、ここを歩いてても大丈夫だよね……?」


 楽しいお約束の仕掛けなのに、ロリコンビには不評みたい。むしろ怯えた顔をして通路の先や後ろに視線を向けてる。無色無臭の毒ガスをバラ撒くよりは、なんぼか有情だと思うんだけどなぁ?


「ふ~む……ギリギリ避けられる程度のやつが連続して迫って来たなら意外と楽しそうだね~」

「だな。鍛錬に良さそうだ。肉片になるのは勘弁だけどな」


 逆に犬猫二匹はお気に召したみたいで、ちょっとテンション上げてる。あのレーザートラップでそこまでテンション上がる? ていうかトラップを鍛錬に利用しようとするな。 


「悪いけどさすがにこれを鍛錬に使わせるつもりは無いからね? 迫ってくるモノを避けたいなら二人で石でも投げ合ってなよ」

「ちぇ~」

「チッ」


 もう一回レーザーを出せって顔をしてた二匹にそう声をかけると、不服そうな舌打ちが返ってくる。どんだけ鍛錬したいんだよ、お前ら……。


「ほら、罠の紹介も終わったし実験室行くよ」


 何にせよ、これで罠の紹介は終了。だから当初の目的である生物実験を行うために、実験室を目指して歩こうとした。したんだけど――


「……ちょっとレーンさん、何やってんの? 早く行くよ?」


 ぞろぞろ付いてきた仲間たちの内、レーンだけがその場に残ってた。何やら目を閉じてブツブツ独り言を零してる。何だろ、神様にでもお祈りしてるんだろうか。でもレーンはポンコツ女神様にも完璧女神様にも会った事無いはずだしなぁ……?


「火ではなく、光……光を束ね圧縮し、集束……か細い光の糸……こうかな? レーザー・エクスポージャー」

「あっ、さっきのと同じやつだー!」


 なんて首を傾げてたら、次の瞬間レーンは自分の指と指の間に横一文字の赤いレーザーを創り出した。おいコラ、何即興でパクってんだ。


「ちょっとちょっと。何一目で再現しちゃってんの?」

「いや、一目ではないよ。ここでたった今三度見せた貰っただろう? それに私は以前、大天使ラツィエルによる光による熱線を何度も目にしたからね。それが今ここでようやく実を結んだという所だ」

「それにしたって完成度高すぎるんですが、それは……」


 レーンが創り出したレーザーは、見た感じ僕が創ったやつと遜色無い。指の間で出したかと思えば今度は指先から出して通路の壁をなぞってるし、別に始点と終点が決まって無いと駄目ってわけでも無いっぽい。

 どうしよう。強化イベントってわけでも無いのに、レーンが超強化されてしまったぞ? 雷速でもかなりヤバかったのに、遂に光速っていう攻撃手段を得てしまった……。


「よ~し、それをこっちに飛ばすんだ~! 華麗に躱してやろうじゃないか~!」

「よし、どっからでも来い」

「ちょっと!! 離せクソ猫!!」

「ふむ。こうかな?」


 僕が戦慄してると、犬猫が通路の奥に走って行ってレーザーを催促し始めた。レーンは素直に要望に応えて、水平二本のレーザーを通路の壁に走らせる。

 でもこれ犬猫のためっていうか、絶対に使用感覚を覚えるためとかだよね。コイツはそういう奴。だってミニスがキラに首根っこ引っ掴まれた状態だっていうのに、躊躇いなくレーザーを走らせたし。


「とぉ~っ!」

「よっと」

「ひっ……!?」


 わざわざ跳んで二本のレーザーの真ん中を潜り抜けるトゥーラ。かがんでレーザーを避けるキラ。そして首根っこ掴まれてるから避けられず、そのままレーザーに首を刎ね飛ばされるミニス――って展開にはならなかった。ミニスに当たる軌道のレーザーだけ、レーンが消したからね。これもたぶん優しさじゃなくて、できるかどうか試しただけなんだろうな……魔法の事になるとコイツ倫理観とか少しおかしくなるからね。


「ふむ……これはなかなか使い勝手の良い魔法だ。どこにでも存在する光そのものを集束させているためか、火を生み出し収束させ形にするよりもはるかに魔力の効率が良い。それでいて具現する形はか細い糸のようなものなのだから魔力の消費も抑えられ、威力は十分。応用も効きそうな素晴らしい魔法だ……」

「そうっすか。満足したら言ってね? 実験室行くから」

「ご主人様、カルナちゃんには何か優しいよねー?」


 しばらくレーザーの魔法を試す事にしたらしいレーンを尻目に、僕は座って待つことにした。リアが隣に座ってレーンには優しいって言ってきたけど、僕は真の仲間たちには優しい方だと思うんだよなぁ。クソ猫とクソ犬は別として。



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