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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第9章:忙しない日々
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魔術狂いとの再会

⋇久しぶりな方が二名出てきます

⋇残酷描写あり






「わー……」


 部屋を埋め尽くす勢いのスライムの核を前に、僕はただただ感嘆と呆れが混ざった声を上げる。

 スライムの捕獲を頼んでから三時間後、キラとトゥーラはリビングで待ってた僕の所に戻ってきた。そして二人して空間収納からスライムの核を山のように出してくるんだからびっくりだよ。

 もうモリモリと出るわ出るわ。リビングの中がどんどんとボールプールみたいになってくし。一体どれくらい仕留めたんですかね?


「フッフッフ~、私の勝ちだね~?」

「……チッ!」


 最終的にはトゥーラの方が多くスライム核を出してきたから、勝敗が決定した。何気にキラが持ってきた奴は核が割れてたり傷がついてたりするのが多いのに対して、トゥーラの奴は全部綺麗で傷がついてないんだよなぁ。これは二人の獲物の差か、それとも技量の差か……。

 ちなみにトゥーラはドヤ顔晒してるし、キラは死ぬほど悔しそうに表情歪めてるけど、もうみんなスライム核のボールプールで身体半分くらい埋まってるからね? 僕も押し流されて窓に叩きつけられたし。限度ってモノがあるだろうが、チクショウ……。


「……これ何個あんの? さすがにこの量は予想外なんだけど?」

「あたしは千辺りまでは数えたぞ」

「私は三千辺りまでは数えていたが、正確な個数は分からないね~」


 なるほど。つまり最低四千個か。いや、どう見てもその倍はありそうなんだけど……マジでこの周辺のスライム絶滅したかもしれないな、これ……。


「あー、うん。まあ多すぎて困る事は無いか。冷静に考えたらこれでも足らないかもだし……ありがとう。これで心置きなく実験が始められるよ」


 とりあえず狩っちゃったものはしょうがないから、リビングを埋め尽くすスライム核をパパッと僕の空間収納にしまい込んだ。ボールプールが一瞬にして消え去り、皆がドベっと床に落ちる。まあ犬猫はしっかり着地したから、尻もちついたのは僕だけなんですがね? ちくせう。


「それは何よりなんだが、結局主はそれを使ってどんな実験をするんだい~?」

「お、もしかして興味ある?」

「一応な。こんな踏み潰せば殺せる程度の雑魚魔物を使って何をするか、気になるだろ」


 どうやら二人とも、僕がスライムを使ってどんな実験をするのか興味あるらしい。トゥーラはともかく、キラまでも興味を示してくれるのは嬉しいね。コイツは基本的に自由気ままで、興味無い事はすごくどうでもいいって反応をするからなぁ。


「分かった。それじゃあ実験を始める時には呼びに行くよ。大体……夜の九時くらいかな?」

「了解だ~。いや~、主が何をするのか楽しみだね~?」

「どうせ何かろくでもねぇ事だろ。クルスだぞ」


 僕が実験の時に呼びに行く事を伝えると、二人は頷いてリビングから去って行った。何かキラにはろくでもない実験をするって認識されてるのがちょっと傷つくなぁ。確かに倫理的に考えるとろくでもない事は否定できないけどさぁ……。


「さてさて、それじゃあ今日からスライムの実験をして――っと、そうだ。トゥーラの要望もあったんだった。それからリアの魔法の講師も用意しないといけないし、実験台になるサキュバスも用意しないといけないし、それからバールの所に行ってまた女の子の人間としての尊厳を冒涜しないといけないし……やっぱり結構忙しいなぁ?」


 一人リビングで今後の予定をリストアップしていくと、妙に忙しくなりそうで大変だった。この上で冒険者としてのお仕事もして、表向きは一般魔獣族として生活する振りもしないといけないからね。

 でも考えてみれば、そんなに何もかも手早く片付ける必要は無いか。本格的に世界平和のために活動し始めたら世界情勢は大きく動いて後戻りできなくなるはずだし、ここはゆっくり少しずつ片付けて行くとするかな。決して過密スケジュールが嫌だからではない。






「おーい、主~。そろそろ時間だよ~?」

「んぉ? もう九時か。随分早いなぁ」


 そんなわけで夜の九時ごろ。活動と休息が二対八くらいの割合で過ごしてたら、ダラダラしてる内に自然と実験を行う時間になってた。痺れを切らしたのかどうもトゥーラたちの方から僕の部屋に来たみたいだ。気の抜ける感じのトゥーラの声と、恐らくキラの仕業であろう扉を蹴るような音が聞こえる。


「はいはい、開いてるから入って良いよ。あと扉は蹴破る時以外は蹴らないようにね?」


 そう声をかけると、入ってきたのはやっぱりトゥーラとキラ。

 ふむ。約束の時間にわざわざ向こうから僕の所を訪ねてくる辺り、キラも本当に実験の内容が気になるみたいだ。これは失敗は見せられないね。


「それで? あのスライムを使ってどんな実験をするんだよ」

「それは実際に見せてあげるよ。ただもうちょっとだけ待っててくれない? 実験するなら呼んで欲しいって奴が一人いるから、ちょっと向こう行って連れてくるよ」

「ああ、アイツか……」

「もう一人~……?」


 僕がそう断りを入れると、レーンの事だって予想が付くであろうキラは納得を示してくれた。ただトゥーラだけは面識が無いから、首を傾げて難しい顔をしてたよ。

 そういや基本的に真の仲間たちの関係は良好だから気にしてなかったけど、コイツとレーンって相性はどんなもんだろう。片や魔法特化、片や物理特化で相性は正直正反対って気がするな。まあそれはあくまでも戦闘スタイルとかの話だし、普通に仲良くしてくれると思いたい。

 え? ミニスとキラの関係は良好じゃないって? だから基本的にって言ったじゃん。アレは例外だよ、例外。


「じゃあちょっと行ってくる――転移(テレポート)


 そんなわけで、僕は転移の魔法を使った。目指すは聖人族の国、その首都の――いけない、名前忘れた。とにかく首都にあるレーンのお家だ。


「よっと。ここに来るのも久しぶりだなぁ」


 転移で降り立った先の玄関で、僕は懐かしさに思わず目を細める。ぶっちゃけ街よりもレーンのお家の方が色々と覚えてるし、愛着があるよ。またタンスの中漁って下着を失敬しようかな?


「あ、ハニエルだ。久しぶりー。元気してた?」


 リビングの方に行くと久しぶりな顔を見かけた。そう、皆ご存じ頭お花畑大天使のハニエルだ。窓際に置かれた椅子に座って、ぼうっと夜空を眺めてる。月明かりを受けて綺麗な緑色の髪と純白の翼が輝く姿は実に美しいね。まだ精神が修復しきってないのか、触れたら壊れそうな儚さを感じるけど。


「………………勇者、様」

「お、返事してくれた。確かにちょっとずつ良くなってるね」


 僕の声に、ハニエルはゆっくりとだけど反応を示してくれた。ただ感情が消えたような無機質な瞳で僕を一瞥すると、すぐに夜空へと視線を戻したよ。何だその見たくない物を見たみたいな反応……。


「……近づかないで、ください……私は、もう……あなたの事は、同じ人間とは、思っていません……」


 そしてあのハニエルが僕に対して、そんな酷い台詞を吐く。

 でも僕は傷つく前にちょっと感動しちゃったね。手の施しようのないお花畑だと思ってたけど、ちゃんと人を嫌いになる事もできるんじゃないか。まあ無理やり人を殺させた僕に対しては当然の反応かもしれないけど。


「それはちょっと酷くない? 僕は紛れも無く人間だよ? 精神性がちょっと常人と違うからって人間とは認めないなんて、それはお前の嫌いな差別ってやつじゃないかなぁ?」

「あ……」


 それはそれとして人間じゃないって言われたのは傷ついたから、僕は仕返しにハニエルの心を抉りにかかった。あれだけ綺麗ごとをほざいてたハニエル本人が、よりにもよって差別をしてるって現状を丁寧に伝えてあげたよ。

 そしたら夜空を見上げてたハニエルが何か小さく呟いたけど、まあ気にせず続けてあげよう。


「確かに僕はちょっと精神が一般人とかけ離れてるよ? でも僕は自分の異常性を認めてるし、何より世界平和っていう大義のために行動してるんだよ? それに比べてお前は何? 青臭い理想論を吐き出してた癖に、そんなお前が差別発言? 差別主義者で頭お花畑のお前と、方法に問題があっても世界平和を目指し行動する僕。傍目から見るとどっちが人間として出来が良いんだろうねぇ?」

「あ……あ……あ、ああぁあぁぁああぁぁあぁぁっ!!」


 懇切丁寧に僕とハニエルの人間としての出来の違いを説明してあげたら、突然ハニエルは発狂して叫び始めた。丸まって両手で顔を覆って、長い髪も翼も振り乱してるよ。一体どうしたんだろうね?


「ほらほら、叫んでないでちゃんと答えてよ? 僕は何も難しい事言ってないよ? 自分の手を汚してでも世界平和のために頑張る僕と、自分の手を汚しておきながら窓際で置物になってる大天使、どっちがまともな人間だと思う? 少なくとも置物やってたら殺された人は浮かばれないだろうねぇ?」

「嫌あああぁああぁぁぁあぁあぁぁぁっ!!」


 そしてまた叫び声を上げながら、バリバリと自分の顔を爪で掻きむしっていくハニエル。え、怖……何やってんの、この子? 


「僕そんな難しい事聞いてる? ほらほら、答えてよ――」

「――やめたまえ」

「痛いっ!」


 発狂して自傷行為に及んでるハニエルに問いかけながら詰め寄ろうとすると、背後からボコっと頭を叩かれた。実際に痛くはないけどちゃんと悲鳴を上げておく。貴重なツッコミによる制止だからね。


「連絡も無く私の家に不法侵入しているかと思えば、ただでさえ精神が不安定なハニエルを更に追い詰めて一体何をしているんだ。少しずつマシになってきたというのに、これでは振り出しに戻ってしまうじゃないか」

「ごめん、つい。何か苛めたくなって……」


 背後を振り返りつつ謝ると、そこに立ってたのはみんな大好きレーン先生。貴重なツッコミ役にして魔法大好きなクール系銀髪魔術師だよ。話がクッソ長いのがたまに瑕だけど、逆に言えば欠点らしい欠点がそれくらいしかないんだよなぁ。


「はぁ……気になる子を苛めるのは十歳前後までにしておきたまえ……」


 僕にそう苦言を呈すると、レーンは発狂してるハニエルに歩み寄って何やら魔法で対処し始めた。しばらくしてハニエルは暴れるのをやめたかと思えば、そのままガクリと眠りに落ちる。普通に諭すのかと思ったら無理やり眠らせて強引に止めたね、この人……荒っぽいというか、ちょっと雑じゃない?


「それで一体何の用だい? わざわざ会いに来るとは珍しいじゃないか」


 更にハニエルが掻きむしった顔面の傷を治してから、僕の元に戻って来るレーン。

 実際珍しいんだよなぁ。毎日最低三回電話で会話してるし、今日は更に邪神の挨拶の後に一回、聖人族の王の会議を盗聴した後に一回電話で話したとはいえ、会うのは国境で別れてから今回が初めてだもん。ちなみに聖人族も魔獣族と同じく、警戒を強めるくらいの消極的な対応でした。

 それはともかく、会うのは何日ぶりかな? 移動の時間を差し引いても、ド田舎で約五日、ルスリアで約十日、アロガンザで約二十日、そして首都で約十五日ほど……めっちゃ久しぶりじゃん。道理でこんなにお胸がドキドキするわけだ。


「その話をする前に一つ良い?」

「うん? 何だ――むうっ!?」


 特に答えは聞かず、僕はレーンの身体を抱きしめて唇を奪った。驚きの声を上げて目を見開いてたけど気にしない。


「んっ……っ……うぅ……!」


 そのままレーンの唇を丹念に貪って、何なら舌も差し込んでねっとりと深い口付けを堪能する。

 どうにも初心な所があるレーンは時折身体を震えさせながらも、逆らわずに僕の口付けを受け入れてくれたよ。しかし何て慎ましやかで穏やかなキスだ。どっかの犬猫じゃ考えられないくらいに大人しいな?


「ぷはっ……せめて、一声かけてからにしてくれないかい? 当代の私は一応処女だ。こんな口付けをいきなりされるのは、困る……」


 しかもキスを終えたら終えたで、頬を赤らめて可愛らしく睨んでくるんだから堪らない。正直こんだけ可愛いなら何百年も前に輪姦された記憶を持ってるくらい些事だよね。むしろその方がちょっと興奮するような気がしないでもない……。


「ごめんね? 僕にしては珍しい事だけど、久しぶりに顔を見たら何か無性に嬉しくなってきてさ。堪らずキスしちゃったんだよ」

「……そうか。私は特に何も感じなかったんだがね」

「酷い……人がせっかく会えて嬉しいって言ってるのに……」


 僕にしては珍しく再会を喜んでたのに、レーンの方はむしろうざったそうな目で僕を見てくる。毛嫌いされてるとまでは言わないけど、純粋にそこまで想われてないっぽいなぁ。残念……。


「そうかい、それは良かった。それで、結局何の用で来たんだい?」

「あ、そうだった。実は今から魔法で生物実験を始めるから呼びに来たんだ」

「それを最初に言ってくれ。ほら、早く君の拠点へと連れて行ってくれたまえ。実験を始めるんだろう?」


 僕が用件を口にすると、途端にレーンは目の色を変えてグイグイ迫ってきた。さっきと今で反応も積極性も違わない? この魔術狂いがよぉ。

 キラとかトゥーラ並みとは言わないけど、もうちょっと僕自身にも興味を示して欲しいなぁ……。



 レーン、ハニエルとの再会。そして修復中のハニエルの心を容赦なく抉っていくスタイル。

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