舞台裏
⋇クルス視点に戻る
「――ハーッハッハッハッハ!! はい、カットぉ!」
伝統の三段笑いを決めた後、僕は世界中に思念を伝達する魔法を打ち切った。まあ正確には思念を伝達する魔法じゃなくて、僕の肉声を思念として届ける魔法なんだけどね。僕の思念だと絶対雑念が混ざるだろうし。あと今まで会話した相手に声で気が付かれる可能性も考慮して、ちゃんと邪神用に調整した声で喋ったよ。当然だろぉ?
それはともかく、リアの初めてを奪い、女神様たちと邪神の設定を練ったあの夜から早十日。今日僕は邪神クレイズとして世界に朗らかな挨拶をしたところだよ。現場は地下二階のダミー用の地下牢。ここだと声が反響していい感じに雰囲気出るからね。別に収録現場的なスタジオを創るのが面倒だったからではない。ないったらない。
いやー、それにしても緊張したなぁ。何せ全世界の人々に僕の声を届けたわけだからね。ちゃんと出来てるかどうか気が気でなかったよ。
「どうだった? 邪神っぽさ出てた?」
「うん! 背筋がぞわっとした!」
用意した台本を空間収納に放り込みつつギャラリーのロリコンビに尋ねると、リアが笑顔で翼をパタパタしながらそんな感想をくれた。それは気持ち悪かったとか、怖かったとかそういう意味なんだろうか?
「鼓膜を突き破りたくなった」
ちなみにミニスは不快気にウサミミを曲げて答えてくれた。うん、この様子だと気持ち悪いとかその辺だな。じゃあ成功だね!
「別に鼓膜破るのは勝手だけど、頭に直接声を伝えてるから鼓膜破っても意味ないよ?」
「今破ればあんたの肉声は聞かなくても良くなるのよ――っと、電話ね」
「おっと、こっちもだ」
そこで僕とミニスにほとんど同じタイミングで電話がかかってきた。まあついさっき世界規模で自称邪神の声が届いたからね。この世界の奴らが携帯持ってたら電話しまくってるでしょうよ。
「はい、もしもし。みんな大好き邪神クレイズです」
『私だ。レーンカルナだ。予め聞いていた通り、君の声がこちらにも届いたよ。この分だと間違いなく世界中に届いただろう。内容も適度に戦争を揶揄していて、挨拶としては上出来だね』
電話をかけてきたのはレーンだった。
良かった、この分だとしっかり全世界に届いたみたいだ。さすがにこんな世界規模の魔法を使うのは初めてだったから、挨拶とはいえ結構緊張してたんだ。ちゃんとリハーサルの時みたいに上手くいって本当に良かった。
「ありがとう。ちょっと緊張してたから上手く行って良かったよ」
『心臓に毛が生えていそうな君が緊張などするのかい?』
「失礼な、僕だって人間だぞ。心拍数が上昇することだってあるわ。あと心臓には毛が生えてないけど、大事な所には生えてるよ?」
僕も年頃の男の子だからね。生える所には生えてるよ。まあレーンとは一緒にお風呂に入るまではやってるし、タオル巻いてなかったからさすがにそれくらいは知ってるか。
ちなみに僕は女の子の大切な場所はつるつるの方が好みです。多少生えてるくらいなら許してやっても良いかくらいだけど、もじゃもじゃなら焼却してやるぞ。
『それでは計画通り、私は様子を確認するために城へ向かうとするよ。報告は昼頃まで待ってくれたまえ』
「無視かよ。まあいいや、敵情視察をよろしくね」
僕の下ネタは華麗にスルーして、レーンは自分の仕事にとりかかった。
ちょっとくらい恥じらった反応して欲しかったけど、電話越しじゃこれが限界か。『今日のパンツ何色?』って聞いても淡白な反応で教えてくれないし。まあそういうセクハラは直接会った時とかにやるか。
「――うん、うん。大丈夫。それじゃあね、レキ。お母さんとお父さんによろしくね?」
ちょうど同じくらいのタイミングでミニスも電話が終わったみたいで、僕にはしない優しい声音で語り掛けて電話を切ってた。
「そっちは何だったの?」
「レキ達もあんたの――邪神の声が聞こえたから、私の事が心配になったんだって。まあ突然頭の中に変な声が、それも村の人全員に聞こえてきたら当然よね。世界中で聞こえたって言ったら、もの凄く驚いてたわ」
「だろうねぇ。でも挨拶だけでそんなに驚いて貰えるなんて、邪神冥利に尽きるよ」
「邪神冥利ってなに……?」
凄い不可解そうな顔で首を傾げるミニス。何だろね、邪神冥利って。僕にも分からん。
などと揃って首を捻ってると、また僕の携帯が鳴った。
「おっと、また電話だ。もしもし?」
『や~や~。こちら主の忠実な僕であり、永遠の伴侶であるトルトゥーラだよ~?』
今回の電話の主はご存じクソ犬ことトゥーラ。コイツは今消失をかけた状態で魔王城に潜入させてるんだ。さっきの邪神の挨拶で魔獣族側がどんな対応をするのか探って来てもらうためにね。
「電話出たらいちいちそれ言うの? いや、そんな事より城の様子は?」
『実に慌ただしいね~。今ちょうど魔王が先の邪神についての情報を集めるため、魔道具を用いて魔将たちと遠隔で会議を始めるようだ~。例によってベルは省かれているがね~』
「不憫だけどそれは仕方ないかな。声を聴いただけでもヤバいからね……」
相変わらずな扱いのベルにちょっとだけ同情しちゃうね。そもそも魔王城地下最深部から連れ出して結構な日数経ったはずなのに、未だに気付かれてない節があるし。ここまで来るといつ気が付くのか楽しみになって来るよ。
「とりあえずその会議を盗聴しといて。報告は終わって帰ってきた時でよろしく」
『りょうか~い。できれば終わったらご褒美が欲しいな~? 具体的には主の白濁した――』
「――そういえばキラはどこにいるの? 姿が見えないけど?」
色ボケクソ犬の電話を容赦なく途中で切って、さっきから姿が見えないキラの行方をロリコンビに尋ねる。人が頑張って世界中の人たちに挨拶してるのに、一体どこに行ったんだあの馬鹿猫は……。
「キラちゃんなら地下の闘技場でベルちゃんと戦ってるよー。鍛錬なんだってー」
「ストイックだなぁ。本当にキャラ変わりすぎじゃない? それとも負けず嫌いなだけ?」
残念な戦果になったり敗北したりする事が多かったせいか、マイホームっていう拠点を得た今じゃすっかり鍛錬しまくってるな、アイツ。努力型猟奇殺人鬼って何? キャラの方向性が盛大に迷子になっていらっしゃる……。
「私は良いと思うわよ。泥にまみれて傷だらけになって、情けなく敗北するアイツを見てると凄く愉快だし」
「それ本人の前で言わないようにね。逆にお前がそんな状態にされるから」
だいぶ恨みが溜まってるみたいで、ミニスが村娘にあるまじき悪い笑みを浮かべてとんでもない事を口にした。まあちょくちょくボコボコにされてるから仕方ないよね。それでもへこたれないコイツは本当にメンタルがおかしいよなぁ。
「ねぇねぇ、ご主人様ー。これからどうするのー? 設定だとまだ邪神は封印されてるから、表に出て来れないんだよねー?」
「そうだよ。だからしばらくはここで実験と研究と開発に明け暮れる予定だよ。もちろんその中にはお前に力を授ける事も含まれてるから、期待してて良いよ」
「本当!? やったー! ついにリアが復讐のための力を手に入れられるんだね!」
今後の予定を聞いてきたリアに対してそう答えると、ついに念願――いやどっちかっていうと悲願かな? ともかく願いが叶うからか、リアは諸手を上げて喜びと狂気を露わにした。
実際の所、本当にそんな力が手に入るかどうかはまだ未知数なんだけどね。仮に手に入ったとしても、その力の方向性も分からないし。でも手に入れられる可能性は結構ありそう。
「あ、そうだ。そのための実験台としてサキュバスも何体か捕獲しないとなぁ。それからリアのための講師を教育しなきゃいけないし、あと兵器の素体としてアレもできる限り用意したいし……」
「兵器の素体……何かろくでもない事考えてるわね、コイツ……」
講師は空間収納に死体としてしまってあるからともかく、サキュバスは適当にルスリアの街で捕まえてくるかな。兵器の素体のアレに関しては――あとで犬猫にでも調達を頼むか。何だかんだ言うことは聞いてくれるし、問題は無いでしょ。
しかし結構忙しくなりそうだなぁ。一般魔獣族に扮してる以上は表向きの生活もちゃんと送らないといけないし、冒険者ギルドで定期的にお仕事もしないといけない。そして朝昼晩と三回レーンに電話するノルマもあるし……クソぅ、拠点が出来たせいで仕事が一気に増えた気がするぞ……。
「やっぱりかなり忙しくなりそうだな。これはとびっきりの息抜きも必要ですねぇ?」
「息抜き……?」
「……抜く!?」
胡乱気な瞳を向けてくるミニスと、下ネタに変換して勝手に顔を赤くするリア。でも今回に限ってはリアの方が正しい認識かな? ていうか処女を卒業した割には、まだこの手の話題で顔を赤くするのか……初心でよろしい。プラス三十点。
「せっかくマイホームも手に入れたんだし、ここらでレーンとお前の処女も奪っておくべきかなって。それって最高の息抜きになると思わない?」
「っ……!」
僕がニヤリと笑いかけると、ミニスは顔を赤くしてウサミミを折り畳んだ状態で後退った。恥じらい七割、悔しさ三割ってところかな? 僕に奪われて玩具にされる事自体はもう諦めてるって感じか。従順でよろしい。
「大丈夫だよ、ミニスちゃん! ちょっぴり痛かったけど、それ以上に気持ち良くて幸せな気持ちになれるもん!」
「ごめん。私の場合、絶対それだけは無いわ……」
ミニスの反応を初めてを怖がってるって認識したのか、リアが的外れな慰めをかけた。当然ミニスは絶望的な目をして否定してるよ。
でも考えてみて欲しい。こんな反応してるミニスが快感に悶え乱れまくったらクッソエロいと思わない? まあ、僕としては最後まで快感に屈しない方が好みなんだけどね?
⋇ちゃんと台本も用意し、数回に渡るリハーサルも行っていました。そろそろミニスとレーンの初めてが食われる……!?
あと今回小説情報を見て初めて感想受付がユーザーからのみになっている事に気が付いたので、何となく外して非ユーザーも感想が書けるようにしておきました。なので一言コメントでもお気軽にどうぞ……と言いたいところだけど、これで感想が増えれば誰も苦労しないか