リアとのデート4
「えへへ、デート楽しかったー」
「そう? 楽しんでもらえたなら何よりだよ」
日も沈みかけてきた頃、僕らは魔王城に至る道すがらの高台で夕日を眺めてた。オレンジ色に染まった夕日が実に綺麗だなぁ……ところで、僕なら魔法を使えば太陽くらい破壊できるのかな? やればいけそうな気もするけど、やると確実に世界が終わるのでさすがに自重しよう。
何だかんだで僕もデートはなかなか楽しかった。少なくとも表面上は純真無垢なリアが相手だったからか、多少は癒しを得られたしね。ちょくちょく闇が零れてたのは仕方ないし、それはそれで好きだから問題無いし。
「やっぱりリア、おにーちゃんに買ってもらえて本当に良かったー。買ってくれたのがおにーちゃんじゃなかったら、リアは絶対こんなに幸せじゃなかったもん」
「そうだろうねぇ。仮にあのボロ雑巾から回復したとしても、待ってるのは性奴隷とかサンドバッグとか実験動物とかその辺りだっただろうし。おまけにあと少しで廃棄処分。僕に会えたのが最大の幸運だね」
「うん。本当に、おにーちゃんに会えて良かったー……」
幸せを噛み締めるような幼女にあるまじき重さの声音で呟き、リアは僕の肩に身を預けてくる。まあデカい角のせいでリアの肩よりも角が先にゴッって当たったけどね。二の腕がいてぇぞ、チクショウ。
「……リアね、時々夢を見るの。リアは本当はまだあの村にいて、この幸せな今の方が夢っていう夢……」
なんてリアの角を罵倒してたら、突然リアが激重な呟きを零した。見れば夕日に照らされたリアさんはオレンジ色も相まって黄昏たような表情をしていらっしゃる。幼女がそんな世界の真理とクソさ加減を悟ったような達観した顔するのやめて。怖い。
「もちろんそんなの信じたくないけど、夢だって方が納得できちゃうんだ。だって、死にかけてたリアを元気にしてくれて、酷い事もしないで、復讐のために力をくれる人がいるなんて、絶対都合が良すぎるもん」
うーん、言われてみればその通りだ。リアにとってあまりにも都合が良すぎる。死にかけのボロ雑巾みたいになってたっていう状況を差し引いても、これはちょっとあまりにも露骨な展開過ぎるね。夢だって思うのも仕方ないかもしれない。もしくは死に際の幻覚か妄想。
「……ねえ、ご主人様。本当にこれは、夢じゃないんだよね? ちゃんと現実、なんだよね?」
「………………」
リアはきゅっと僕の服を掴んで、不安げな顔をして尋ねてくる。これは夢なのか現実なのか、実に難しい答えを求めて。
もちろんこれは現実だから、リアが求める答えを返すのは簡単だよ? でも現実と証明する方法がなかなか難しいんだよね。僕は夢の中でも痛覚とかあるから、頬っぺた抓っても分かんないし。むしろ魔法でほぼ何でもできてしまう辺り、これが夢だって言われたら納得してしまいそうな気もする。
「――いたぁい!?」
「返答に困る哲学的な問いを投げかけて来るな。そもそも何を以て夢を夢、現実を現実と定義するつもりなの?」
だから僕はリアの額にデコピンをかまして逆ギレした。そうして涙目で額を押さえるリアに対して、夢と現実の定義を求める。
まずは定義が明確じゃないと話にならないよ。何を以てこれが夢か現実か判断するの? インセ●ションみたいにコマでも回して、止まるか回り続けるかを確かめる?
「え? えーっと、それはー……うーん……」
「仮に今がお前にとっての夢だとしても、それに何の問題があるの? ちょくちょくクソみたいな現実に戻るとはいえ、それ以外はこの幸せな夢の中に浸ってるんでしょ? 現実より夢の世界にいる時間の方が長いなら、それは夢の世界こそがお前にとっての現実って事にならない?」
「えー? そうかな……そうかも……」
ちょっと僕自身論理的に夢か現実かを証明できないから、適当な事を言って誤魔化す事にした。幸い相手が幼女なリアだったから、意外と簡単に言いくるめられてる感じだ。これがレーン辺りならこうはいかないな。
「うだうだ現実だ夢だとか変な事考えてないで、目の前の幸せを謳歌すれば良いんだよ。それとも何? 現実か夢か不安だから、もうケーキは食べない? 復讐もしない?」
「それはするよー! ケーキも食べるし、復讐もする!」
「じゃあそれで良いじゃん。変な事考えてないで、欲望のままに生きるのが一番だよ」
「うん……うん、そうだね! リア、やりたい事をやりたいようにするよ! これが夢でも現実でも!」
よっしゃ。良い感じに言いくるめる事ができたぞ。口八丁で誤魔化したけど、リアはとっても元気が出たみたいだ。凄く単純で扱いやすくて助かるね?
「その意気だ。じゃあそんなリアにプレゼントをやろう」
「わっ!?」
ダメ押しも兼ねて、空間収納から取り出した物をリアに手渡す。綺麗にラッピングした小さな箱だけど、リアが持つとデカく見えるから不思議。
「え、これなーに? 開けていい?」
「良いよー。ていうか開けないと中のモノが取り出せないでしょ」
僕が許可を出すと、リアはバリバリと包装を破って行く。その下から現れた白い箱を開けて、リアは中を覗き込むと――
「――あっ! 腕輪と足輪だー! それに首輪もあるー!」
中から拘束具三点セットのアクセサリーを取り出して、目を輝かせる。
もちろんこれは見た目無骨で明らかにヤバ気なやつじゃない。ギリギリオシャレと取れなくもないアクセサリーっぽい見た目に創り上げたから、着けてもかろうじて大丈夫だと思う。手錠は小さ目でただの腕輪っぽくした上で彫刻を施してあるし、それは足輪も同じだ。首輪に関しては金属製を諦めて革製にして、どちらかと言えばチョーカーっぽく仕上げた。これで駄目ならもう何やっても駄目だ。
「何かお前は手錠と首輪と足枷が気に入ってたみたいだけど、さすがにこっちの国であんなモノつけさせるのは無理だからね。何とかこっちでも着けられるような物を創ってみたよ。デザインにちょっと悩んだけど……気に入った?」
「うん! とっても良いよ、これ! ありがとう、ご主人様!」
無骨さが好きなら駄目かもしれないと不安だったけど、どうやらそんな事はなかったみたい。リアは嬉々としてアクセサリー染みた手錠と足枷を装着して、最後に首輪を着けて大喜びしてたよ。
この反応から考えるに手錠や首輪云々だからじゃなくて、僕があげたやつだから好きだったのかもしれないな。
「えへへー、新しいの貰っちゃったー……」
その証拠にリアはデレデレした顔で、手首の手錠を眺めて楽しんでる。根っこの部分はイカれてても感性は普通だし乙女なんだね。いや、手錠を眺めて頬を緩ませるのは果たして普通と言えるんだろうか……考えてると訳分からなくなってくるな……。
「さ、そろそろ帰ろうか。もう暗くなってきたし、今夜は最後にとびっきり楽しくて気持ち良い時間が待ってるんだからね?」
「うん! 初めてのエッチ、とっても楽しみ!」
「僕も楽しみ!」
夜への期待に無い胸を膨らませるリアと、処女ロリサキュバスを相手にできる喜びに胸を高鳴らせる僕。お互いに夜への期待を抱きながら帰路に着く――けど、僕はとある事を思い出して足が止まっちゃった。
「でも、ちょっと帰るのが憂鬱かもなぁ。リアとデートしたなんて言ったら、絶対犬猫がうるさそう……」
そう、屋敷に帰れば独占欲や偏愛に満ちた奴らが待ってる。そんな奴らに『今日はリアとデートしてきたよ!』なんて言ってごらんよ? 縋りついて喚きながら自分ともデートしてって懇願してくる奴と、無言で抉り込むような頭突きの嵐をかましてくる奴の姿がありありと浮かぶよ。
「えっ? ご主人様、デートの事キラちゃんたちに言ってないの?」
「うん。だってうるさそうだし」
「でもリア、教えちゃったよ? リアがとっても楽しそうだから、何かあるのかってトゥーちゃんに聞かれたから」
「あっ……」
その発言を聞いて、僕は絶望する。
しくじった。そういやリアには口止めしてないわ。じゃあもう帰ったら絡まれるの確定じゃん。うわぁ、帰りたくない……。
「……少し、遠回りして帰ろうか。もう少しお前と一緒にいたい」
「うーん……その台詞が出たら五十ポイント上げても良いって言われたけど、何か使う場面が違う気がするー……」
何か複雑そうな顔をするリアと手を繋いで、僕はなるべく遠回りして屋敷に帰ることにした。リアともう少し一緒にいたいだけだよ? 本当だよ?
ちなみにこのデートで僕が稼いだポイントは、今さっきの五十ポイントも加算するなら七百八十ポイント。もしかして百点満点じゃなくて千点満点だった? だとしても赤点は回避できてるし及第点か。
で、僕らは屋敷に帰ったわけなんだけど――
「主~! 明日は私とデートをしよ~! 私なら野外でも路地裏でもそのまま抱いて構わないよ~!?」
「………………」
「貴様ら! 門限を三十分も回っているぞ! 今まで何をしていたのだ!」
「うるせえクソ犬! あと門限六時って冗談じゃなかったの!? そりゃないよママ――ぐほっ!? だから頭突きをやめろぉ!」
予想通りクソ犬に縋りつかれて、バカ猫に背後からしがみ付かれて頭突きをされて、おまけにメイドの皮を被った化け物に怒られたよ。
あーもうっ、せっかくマイホームを購入したのに何でこんなごちゃごちゃしてるんだ。僕の夢見た穏やかな生活はどこ行った……?
デート終了! 前言った通りちゃんとデートしてたろぉ!?