3人仲良く
※ちょっとした残酷描写、及びグロ描写注意
「あははははははっ!! ざまーみろ、クソ野郎! これで仇は討ったぜ!」
撒き上がった血飛沫が結界の天井を濡らして、雨のように周りに降り注ぐ。
石畳製トラバサミが閉じ切る前に武器を引いて後ろに下がってたアニエスは、スプラッタな雨を全身に浴びながら大笑いしてたよ。これはもう頭がイっちゃってて、手の施しようがありませんね……。
「危ない、アニエス!!」
「――交差する短剣」
「は……?」
だから僕は背後から静かに介錯してあげた。
それも大切なお仲間が使っていた武装術を使って、一刀の下に首を切り落とすっていう優しい殺し方で。まあ両手の短剣を同時に振るった一撃だから、厳密に言えば二刀だね。
どこが優しいんだって怒る人がいるかもしれないけど、ギロチンって確か人道的な処刑器具だったらしいよ? 実際首を斬られたアニエスは痛みに顔を顰めるでもなく、何が起こったのか分からないって顔してたもん。頭が地面に転がって上下逆になってるから分かりにくいけどさ。
「あ、ああぁぁぁぁぁぁっ!!? アニエスうぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
シルヴィの悲痛な叫びが結界の中に響く。ここ音が響くから大声は止めて欲しいなぁ。
首を失ったアニエスの身体は鮮血を撒き散らしながらゆらゆら動いてたけど、バランスを失ってすぐにその場に倒れた。それでも武器は手放さなかったんだから大したもんだ。この世界にアンデッドモンスターとかいたらデュラハンになりそう。
「よし、これで二人! さ、残るは君だけだよ?」
「そんな……どうして……なんで……さっき、殺したはずなのに……」
一人仕留めた僕は唯一残った魔術師の少女、ゆるふわシルヴィの方を向き直る。
だけど彼女は膝をついて茫然自失の放心状態だった。せっかく戦いの練習をしてるのに、こんなんじゃ勝負になんないよ。仕方ないなぁ、種明かししてあげよう。
「意外と視野が狭いね。じゃあ答え合わせだ」
僕もまた石畳製トラバサミに対して魔法をかけて、閉じてる顎を無理やりに開いた。
中はそれはもう酷い有様だったよ。だいぶスプラッタな光景だから濁して言うけど、こう、大量のケチャップとひき肉を混ぜ合わせたような名状しがたいものがボトボト零れてきたね。ついでに服の切れ端と毛髪の欠片みたいなものも。
「あ……あ……あ、ああぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁああアアぁぁあぁぁ!!?」
正直僕は判別つかないけど、シルヴィはしっかり理解したみたいだ。自分の魔法でひき肉にしたのは、目の前で殺されて仇を取ろうとしていた大切な仲間のアネットだってことに。それはもう耳をつんざく悲鳴を上げてるよ。ちょっとうるさい……うるさくない?
「実は僕、さっき挟まれる寸前に転移の魔法を使ってアネットと位置を入れ替えてたんだよね。それを知らずに君は大切な仲間を串刺しにした上、ペチャンコにしちゃったわけ。まあその前から死んでたしそこまで気にしなくていいんじゃない?」
「ああぁぁあアァァァああああアッ!!」
うわ、慰めてあげたのにもの凄い形相で魔法打ち出してくる。
しかも皆大好き石畳さんじゃなくて、空中に幾つも火の玉を生み出してそれを射出してきてるよ。挙句それが地面に当たると石畳さんが爆発して砕け散ってる。お前石畳さんとのことは遊びだったのか!?
「殺す、殺す、殺すっ! 殺してやるうぅぅぅぅぅぅううぅぅぅっ!!」
更に今度は杖に埋め込まれてるっぽい魔石が光りだす。
どうもそこから魔力を引き出して何やらするつもりみたいだね。魔石の大きさ自体はレーンの杖のやつには遠く及ばないけど、これはなかなか嫌な予感……。
「邪悪を滅する聖なる炎よ、不浄を払う清浄なる焔よ。我が憎き怨敵を上回る下劣畜生の穢れた魂に今こそ裁きを! 未来永劫救い無き、無間の焦熱地獄に叩き落せ!」
おおっ、詠唱だ! この世界で初めて聞いたぞ!
何か詠唱の中で僕がとんでもない罵倒を受けた気がするけど、初めて詠唱を聞かせてくれたお礼に水に流してやろう。というか僕、こんな短い間の出来事で魔獣族よりも殺したい相手になってたのね。これは世界共通の敵になるのも難しくなさそう。
「――デストラクション・ホーリーブレイズ!」
ワクワクしながら見守ってると、ついに魔法の名前が紡がれる。その瞬間、僕の頭上で円形の赤い熱の塊が発生して、僕の足元の石畳さんも円形に赤熱した。
それに加えて前後左右の空間にも同じ変化が発生。これは食らったら火傷じゃ済まなさそうですね。中までこんがり焼けちゃいそう……。
そして次の瞬間、四方八方から一点に向けてとんでもなく高温の火柱が立ち上がった。もう目の前に太陽でも生まれたんじゃないかってくらい眩しかったよ。僕が張った結界は空気に関しては素通りだったから良かったものの、密封してたら絶対に酸素が無くなってたぞ、これ。
あ、そういう場合の防御手段も用意しなくちゃな。やっぱり実戦は色々と勉強になることが多いね。付き合ってくれた彼女たちに感謝しなきゃ。
「はぁ……はぁ……! や、やった……!」
魔石の魔力を使い果たしたみたいで、シルヴィの杖から魔石が音を立てて壊れ落ちてく。
うーん、節約系魔法じゃなかったとはいえ、それでもあれだけの魔法で魔石を消費するのか。消費魔力が本当にシビアだね、この世界。
「それはどうかな?」
「あ……え……な、なんで!? い、今、焼き殺したのに……!」
息も絶え絶えに喜んでたシルヴィに後ろから声をかけると、弾かれたみたいにこっちを振り向いた。
ちょっと光の無い瞳は驚愕に揺れてて、僕が生きてるのが信じられないって言ってるよ。僕としては何であれで殺せたと思ってるのかが不思議でならないんだよなぁ。
「いや、僕転移したって言ったじゃん。逆に聞くけど、どうして無防備で食らってくれるって思ったの?」
「あっ……あ、あぁ……!」
僕が尋ねると、返ってきたのは絶望の表情。どうも忘れてたみたいだね。あるいは転移なんて魔法を使ったから、僕の魔力がすっからかんになってるって思ったのかも。
これでも高ランクの冒険者のはずなんだけど、一体どうしてこんな失敗をしたんだろう。余程腹に据えかねることがあって頭の中から消えちゃったのかな?
「でもまあ、あの魔術は良かったよ。初めて詠唱も聞かせてもらったし、色々と勉強させてもらったし、君たちには感謝してるよ。本当にありがとう。だからお礼に、君たちはみんな仲良く死なせてあげる。ほら、大切な仲間にもうすぐ行くよって挨拶して?」
「っ……!」
転移する前に拾っておいたアニエスの頭を思いっきり投げると、あろうことかシルヴィはそれを無防備に顔面に食らった。
おかしいな? はたき落すことはしないまでも受け止めるくらいはすると思ったのに。飛んできたボールもキャッチできないようじゃ体育の成績に響くよ?
「う、ぁ……!」
そしてシルヴィは涙と鼻血を零しながらその場に崩れ落ちる。
実はさっきぶん投げた頭には『麻痺』の概念を付与させてたんだ。受け止められても問題なく隙を作れるようにね。でもまさか顔面で受け止めるとは思わなかったよ。
一応この麻痺については魔法で治癒できるはずなんだけど、魔力が底をついたのか起き上がってくる気配が全然無かった。顔を覗き込んでみれば何かブツブツ言いながら死んだ目をしてたし。これはさっさと介錯してあげるのが優しさだよね。
「さ、それじゃ三人仲良くあの世に送ってあげよう。今夜は僕に付き合ってくれてありがとね?」
「――――――!!」
だから僕は石畳さんによるトラバサミにもう一度鋭い棘を作って、そこにアニエスの身体と頭、そしてシルヴィ自身を放り込んだ。
首と胴体が泣き別れしてる子はともかく、シルヴィは恐怖に目を見開いて何か言いかけてたけど、僕は気にせずトラバサミを閉じてあげた。大切な仲間たちと一緒にいるのが一番だもんね!
そうして――グシャア! 今日最大の血の雨が結界の内部に降り注ぐ。トラバサミの中は女の子たちの混ざり合ったひき肉でいっぱいだ。
しかしひき肉か……何かこう、ハンバーグが食べたくなってきたな。レーンに頼んだら作ってくれるかな?
「……どうだった、レーン? 僕の戦いぶりは?」
見事に殺しあいを乗り越えて強くなった僕は、胸を張りつつレーンに視線を向けた。
借り物の力でイキってるとはいえ、荒事の経験が無い僕がここまで頑張ったんだから、きっとレーンも褒めてくれるに違いない。そう思ってたんだけど――
「ドン引きだよ……」
あれぇ? 何か未だかつてないほど冷めた目で見られてるぞ?
しかもいちいち台詞の長いレーンがたった一言の感想を零したし。何だ、何がいけなかったんだ。やっぱり防御を解除すれば良かったのか?
「まあ、その……アレだ。この様子なら罪悪感や忌避感で精神が壊れることはない以上、何も問題は無いだろう……いや、あるいはすでに壊れているのかもしれないがね……」
「おい、失礼だぞ。僕の精神は女神様が強靭だって言ってくれたんだからな」
「精神が強靭だという意味ではなく、君自身が狂人だという言葉と聞き間違えたんじゃないのかい?」
「僕が強靭? なるほど、確かにそれはあるかも……」
健全な肉体には健全な精神が宿る。僕の強靭な精神は強靭な肉体由来だったってことか。つまり女神様は遠回しに僕の身体が素敵で、抱かれたいと言っていた……?
「理解されていない気もするが、面倒だから私はもう何も言わないよ。さて、色々とあったが目的は全て達した。証拠を隠滅して帰ろうじゃないか。明日からは君の狂った本性を抑えて勇者の旅が始まる以上、今夜は早く休んで備えた方がいい」
「そだね。石畳さんが酷いダメージを負ってるもんね――巻き戻し」
何か狂った本性とか言われた気がするけど、それ以外は正論だ。というわけで僕は証拠を隠滅するために、時間を巻き戻す形で周囲の破壊の痕を再生し始めた。
ただここでちょっと予想外の事態が発生した。実は面倒だったから範囲を結界内部に指定した状態で魔法を使ったんだよね。だからなのか石畳さんトラバサミが開いて地面に戻って形も戻してる間に、三人の女の子のひき肉も元の姿に戻ってた。
あ、ちゃんと別々の身体だよ? 某怪獣みたいに首が三つで一つの身体になったわけじゃないからね。
「ほぅ……」
最終的には傷つけられる前の無垢な石畳さんたちが戻ってきて、同じく傷一つないけど息をしてないし目も死んでる少女三人の身体が再生された。時間を巻き戻しても命は戻ってないみたいだね。これは面白い結果だ。レーンも同じ感想みたいで、横たわった三人の死体をじっくり観察してるよ。
まあ僕にとっては今はどうでもいいことかな。あるいは生命を作り出すことは神か女の子しかできないことだって、僕自身が認識してるからこうなったのかもしれない。つまり神であり女の子でもある僕の女神様こそが、完璧な存在ということなんだよ。いつか絶対ママにしてやる……。
「そういえば質問なんだけど、空間収納の魔法って中の時間はどうなってるの? せっかくだからこの子らの死体保存しておきたいんだけど」
「時間の流れに関しては曖昧で一定しないよ。平均的には私たちが存在するこの空間の七割程度の早さだと思っておけばいい。とはいえ君の場合、腐らせたくないのならそういった魔法をかけて保存すれば良いんじゃないかい?」
「なるほど。そういえばその通りだ」
そんなわけで、僕は三人の死体に細胞の劣化を防ぐ魔法をかけて、三人仲良く僕専用の異空間に放り込んだ。
ちなみに空間収納の魔法の名前は『ドジっ子女神様LOVE』。いや別にふざけて名付けたわけじゃないよ? だって女神様のこと知らないであろうこの世界の住人とはそもそも被りようがないからね。おふざけ半分、真面目半分ってとこ。
「……しかしだね、あまりとやかく言いたくないが、死体で性欲を発散するような真似はさすがにどうかと思うよ? 生者の尊厳は幾らでも乏しめて構わないが、せめて死者に対してはある程度の慈悲をかけても良いと思わないかい?」
「お前、僕を何だと思ってるの……?」
まさか僕が死体を犯すとでも思ってたのか、レーンはちょっと控えめに提案してきた。
さすがの僕も死体と交わる趣味は無いよ。あの子らの死体を保存したのは純粋に戦闘力や労働力のためなんだぞ。塵になるまで僕の命令に従って戦い続ける、従順な死人の兵士が作れないかなって思ったから、後で色々と実験するためにね。
死後も僕の役に立てるようにしてあげるだけで、決して死者を冒涜するわけじゃないんだからな? 全く……。