リアとのデート
⋇唐突なデート回
翌日、僕はマイホームでの初めての朝を迎えた。
いやぁ、マイホームってのはやっぱり良いねぇ? 目覚めはいつもと変わらないはずなのに、とっても清々しい気分だ。天気も雲一つない快晴で、マイホームを手に入れた僕を祝福してくれてるような天気だね。もう夏真っ盛りだからちょっと暑いけど。
ちなみに昨夜は犬と猫が酷くうるさかったから、ベッドが乱交に耐え得るかどうかの確認をすることになったよ。結果としては見事に耐えたし、軋みも全然しなかったね。ただ、まあ……ベッドは大丈夫だったけど、体力がもの凄い獣人二人に対して人間の僕が耐えられなかったっていうか……うん、この話はやめよう。男の尊厳が破壊されてしまう。
「準備良し! それじゃあ早速デートに向かうぞ!」
そんなことより重要なのは、今からリアとのデートに向かうって事。もちろん約束の時間よりかなり早めに行動してるぞ。デートに遅れちゃ相手が可哀そうだからね?
いやぁ、本当の意味でのデートは僕も初めてだから、とっても楽しみだねぇ? 僕が経験したデートって大体血生臭い感じのやつだったし……。
「お? ご主人様よ、どこかに出かけるのか? ハンカチとちり紙はちゃんと持ったか? 暗くなる前には帰ってくるのだぞ?」
「ちり紙……言い方ちょっと古いよ君ぃ……ていうかメイドじゃなくて母親の台詞だよ、それ……」
意気揚々と玄関を出ると、玄関周りの掃除をしてたベルに母親みたいな台詞をかけられた。
ちなみに今日のベルの姿はキラの2Pキャラ。キラと違うのは静脈血みたいな赤い髪が深い青色になってる事だね。
「そうか、古いか……千年以上眠っていた弊害だろうな。改めて現代の事を学ばなければいかんか……」
「そうした方が良いんじゃない? じゃあ僕は出かけるから、留守番とか諸々よろしくね」
「うむ、分かった。侵入者がいたら殺しても構わないか?」
「出来れば生け捕りにしてくれると助かるかな。まあ死んでても蘇生するだけだから、別に生死はそこまで気にしなくていいよ。それよりは物的被害を出さない方向でお願いね」
コイツなら侵入者の千や二千、素手で屠れるから戦力面の心配はしてない。ただ馬鹿力が過ぎるから下手すると屋敷が崩壊したり、庭が吹き飛ぶ可能性があるんだよね。踏み込みだけで爆発染みた地割れと地震のような揺れが起きたレベルだからね……。
「うむ、分かった。安心して出かけてくるがいい。ただし門限は六時だからな?」
「そりゃないよママぁ!」
門限六時とかマジで母親じゃん。何でそんな品行方正で酷く健常な門限を、一メイドに設定されなきゃいけないの……?
「えーっと、待ち合わせ場所は広場にある像の下……これ良く見ると魔王じゃん。気付かなかったわ」
屋敷を出た僕は、待ち合わせ場所の街の広場に来た。魔王のデカい胸像が鎮座してるからもの凄い分かりやすくて、僕以外にも待ち合わせに使ってる人がちらほらいるね。
ちなみに『何で住んでる場所が同じなのにわざわざ外で待ち合わせするの?』って考えた人は致命的にデートに向いてないよ。屋敷から一緒に行ったらそれはデートっていうよりただのお出かけだからね。デートっていうのは待ち合わせする所からすでに始まってるんだよ。
「さてさて、うちのロリサキュバスはどこかなー?」
魔王の胸像の下に立って、リアの姿を探す。有名な待ち合わせ場所になっている事、広場である事、そして通行人とかで結構ごった返してるからなかなか姿が見つからん。それにリアは超小さいから余計に見つからないよ。どいつもこいつも邪魔だな、ちくしょう。吹き飛ばすぞ?
「とーっ!」
「ぐほうっ」
などと軽くイラついてると、可愛らしい声と共に背中に軽い衝撃が走った。見知らぬ子供に刺された――というわけじゃなく、軽く飛びつかれたって感じだ。もちろんこの僕にそんな真似をする奴なんて一人しか知らない。振り向けば予想通り、僕の腰の所にリアがしがみついてた。
「そっちから来たか。待たせちゃった?」
「ううん、今来た所だよ――って言うのがデートのお約束なんだよね? リリスちゃんが言ってた」
「うん、そうなんだけど……そう言えって教えられたってところは言わなくていいかな」
「あ、そっか。失敗しちゃった。えへへー……」
照れくさそうに笑いながら、リアは僕の腰から離れた。
しかしやっぱりデートに関する知識も教え込まれてるみたいだね。これはデート童貞の僕にはなかなか厳しい相手になるかもしれない。かつてない強敵の予感がする……!
「そうだ、おにーちゃん。リアの格好どうかな? 可愛い?」
「ふむ……」
そう問われて、僕は改めてリアの今の姿をじっくりと眺める。
今までリアは僕が買い与えたゴスロリお嬢様風の黒と赤のシックなドレスっぽい服を着てた。あ、もちろん毎日同じやつじゃないよ? ちゃんと同じのを何枚も与えて、ローテーションさせてたよ?
それはさておき、今のリアの服装はまるで真逆で簡素なものだった。純白のワンピースにリボンを巻いた麦わら帽子。実に清楚で可憐で華やかな姿をしてるよ。
ただデカい翼があるせいか、清楚なワンピースにしては背中側が大胆に曝け出されてるのがちょっと気になるね。それから無理やり被ったのかデカい角が麦わら帽子を破いてるし。あと袖が無いせいで短剣を隠す場所が無いから、スカートの中の太腿に仕込んでるみたいだよ。僕に感想を求めながらクルっとその場で回った時、翻ったスカートの奥に短剣の鞘が見えたしね……。
「……良いね。ちょっと露出度高いのが気になるけど、清楚で清潔感があってとっても可愛い。良く似合ってるよ?」
「えへへ、ありがとー! 頑張って選んで良かったー!」
ちょっと気になる点が幾つかあったけど、この可愛らしさの前では些細な問題かな? 本人も褒められて嬉しそうだし、若干気になる部分は口にしない事にしよう。
「でも、本当はおにーちゃんに貰ったアレも付けたかったなー……首輪と手錠と足枷……」
「それは駄目。僕がヤバい目で見られるから。今の格好でつけたらなおヤバいから」
ゴスロリ服に拘束具セットなら、まだ何とかそういうファッションで誤魔化せるかもしれないレベルだ。でも今の清純派ワンピースに拘束具セットは完全にアウトだ。無垢で穢れの無い白いワンピースに、無骨で冷たい手錠やら足枷は全く噛み合わない。
いや、穢れの無い乙女を拘束してるみたいで興奮はするんだけどね? そういう意味では噛み合うと言えるのかもしれないけど……。
「えー……せっかくおにーちゃんがくれた物なのにー……」
「気に入ってくれてるのは嬉しいけど、本当にヤバいからやめよ? 年端も行かない幼女に手錠と足枷と首輪のフルセットを付けて連れ回してたら、絶対衛兵さんが飛んでくるから」
「リアは年端も行かない幼女じゃないよ! 合法ロリだよ!」
何故かクワッと険しい顔で力強く言い放ってくるリア。んな事言われても傍から見ればただの幼女なんだよなぁ。女神様と違ってのじゃロリなわけでも無いし……。
「……良いからもう行くよ? デートなんだし、ここで拘束具の話で盛り上がってる場合じゃないでしょ?」
「あ、そうだった! デート、デート! おにーちゃんとデート!」
「あんまり大声でデートって連呼しないでくれると嬉しいな? ちょっと周囲の目が気になるからさ……」
傍から見れば僕は年端も行かない幼女を騙してデートしようとしてるゲス野郎にしか見えないから、周りで待ち合わせしてる人たちの視線がちょっと痛いです。
でも当の本人であるリアが滅茶苦茶嬉しそうにテンションアゲアゲだからか、陰口と蔑みの目を向けられるくらいで済んでるみたいだね。これで全然嬉しそうじゃなかったり、僕のツラが悪かったりしたら衛兵呼ばれたな、絶対……。
「えへへー、おにーちゃんとデートォー」
視線が気になるからとりあえず広場を離れて歩き出すと、リアが嬉しそうなふにゃふにゃ顔で僕の手を握ってきた。さり気なく指を絡めて恋人繋ぎしてくるのは、絶対どっかのサキュバス魔将の入れ知恵ですね……。
「ご機嫌だなぁ。そんなに僕とデートできることが嬉しい?」
「うん! だっておにーちゃんのこと大好きだもん!」
「めっちゃ素直ぉ……」
試しに聞いてみたら、何の陰りも偽りも無い好意百パーセントの答えが返ってきた。
何だろうね、子供特有の素直さって言うの? ただ僕としてはあまりにも素直過ぎて逆に疑わしくなってくるレベルだ。決して僕の周りが異常者だらけだから疑心暗鬼になってるわけじゃない。
「……ちなみにそれって恋愛感情?」
「うーん……恋愛感情っていうのがどういうことか良く分かんないから、うまく答えられないや……」
より深く尋ねてみると、リアは難し気に眉を寄せて首を傾げた。
なるほど。性知識に関しては色々と教え込まれたのに、恋愛感情云々は教えられなかったと。前から思ってたけど勉強内容偏りすぎじゃない? サキュバスの女王だから仕方ないのか?
「ふぅん? でも、僕には身体を許してくれるんだよね?」
「うん! だって――そういう約束、だよね?」
「んー、ゾクゾクするねぇ。その憎悪と殺意が渦巻く狂的な瞳……」
さっきまで無垢で純真に見える目をしてたのに、唐突に闇が溢れて濁った瞳を向けてくるリア。
コレだよ、コレ。この落差が堪んないんだわ。この小さな身体に詰まった膨大な闇の感情と狂気。負の感情を食い物にする奴がいるなら、絶対リアは美味しいご馳走になるね。
「……そうだよ。今度お前にとっておきの力を授けてあげるよ。ただし、お前自身の努力も必要になるからね?」
「大丈夫。復讐のためなら、リアは泥を啜って草を食べて、石に噛り付いてでも頑張るよ。だから、楽しみにしてるね?」
「了解。きっと期待に沿えるはずだよ」
さっきまでとは打って変わって、リアはぞっとするような笑みを浮かべる。口元は笑ってるのに瞳は狂気を宿したままだから、びっくりするくらい冷たい笑みだよ。でもそれがいい。
「エヘヘ。おにーちゃんに買われて、本当に良かったぁ」
今度は独り言みたいに喜びの呟きを零すリア。でも溢れ出た狂気がまだちょっと抑えられないみたいで、純真半分狂気半分みたいなイカれた笑みだったね。あーあ、その笑顔を目にした通行人が思わず二度見していらっしゃる……。
⋇この作品しか読んでいない方は絶対信じないでしょうが、実は二次創作とかだとまっとうなデートとか純愛イチャイチャラブラブものを多く書いています