デートの約束
⋇性的描写あり
「うーん……とんでもないね、アイツ……」
魔将ベルフェゴールVS猟奇殺人鬼キラ&変態クソ犬トゥーラの戦い。観客席でそれを眺めてた僕は、最早驚きを通り越して呆れしか出て来なかった。
いやもう、ベルが本当に規格外過ぎてね。何あれ? キラが魔法に武装術にと重ねがけして、瞬間火力を限界まで引き上げてようやく刃が通るほどの耐久力。かと思えば首を刎ねられても刃が通り抜ける前に首がつながるほどの再生能力。地下闘技場を揺らして地響きを起こすほどパワーに溢れた踏み込みと、トゥーラでさえ流しきれない衝撃を拳一発で叩き込む膂力。
てっきり人を狂わせる外見と声が武器で、本人の戦闘能力は低めかと思ったけど、どうも全然違ったみたい。シンプルに強すぎてヤバいよコイツ……。
「すごーい! キラちゃんとトゥーちゃんが負けちゃってるよー!」
「固くて力も強くて凄い再生能力があって、その上……敵じゃなくて良かったって感じね……」
防戦一方、というか明らかにベルに遊ばれてる感じの犬猫を目にして、僕の両隣でロリコンビがそれぞれの反応を示す。リアは純粋に驚きを、ミニスは……ちょっと顔が青くなってるね。まーだベルの本当の姿と声の衝撃が忘れられないみたいだ。
「アレで魔法は一切使ってないんだから恐れ入るよね。本当の姿だと視覚と聴覚の暴力も撒き散らすし……魔王が殺さず眠らせてるだけなのも分かる気はする。確かにアレは最終兵器ですわ」
もしアレが解き放たれた場合、聖人族の勝ちの目が全然見えない。もちろん魔獣族の方もね。やっぱ死なば諸共の時の最終兵器だな、アレ……ていうかどうやって殺すんだ……?
「その最終兵器を勝手に地下から連れ出してメイドにしてるあんたは何なの?」
「え? この世界の救世主ですが?」
「………………」
「何その微妙過ぎる表情……」
軽蔑と困惑が入り混じったような複雑な表情で黙るミニスに、普段とは逆に僕がツッコミに回る。どう考えたって僕は救世主だろうが。争う事しかできない猿どもを粛清して世界に平和をもたらすんだぞ?
「ねえねえ、ご主人様ー」
「ん、何?」
左隣で微妙な表情をするミニスをじっと睨んでると、右隣のリアが服の裾を引っ張ってきた。
「ここはもうリアたちのおうちなんだよね? 好きに過ごして良いんだよね?」
「そうだよ。もう宿屋みたいに隣の部屋とか下の部屋とかを気にせず、奇声を上げながらタップダンスをしたって大丈夫だよ?」
宿屋だとどうしてもその辺完璧じゃないからねぇ。ベッドで激しく動くと振動も軋みも凄いし、プレイの激しさによってはキラもトゥーラもかなり大きい声を上げるし。一回『愛し合うのは結構ですがもう少し静かにしてください!』って宿屋の主人に怒られた事あるしね。大声で嬌声上げたのは僕じゃないのに、何で僕が怒られたんだろうね……?
「そうだよね! じゃあご主人様、リアとエッチしよ!」
「ぶっ!?」
「あー、そういえばその話は途中だったか。忘れてたよ……」
そのリアの発言に左隣でミニスが噴き出す。そういやこの街への妨害あり徒競走終わった時、そんな事を言ってたっけね。
「ひどーい!? せっかくリアが一番でゴールしたのに!?」
「ごめんごめん。お前の後にゴールした奴らのインパクトがちょっと強すぎてね……」
普通に一着で身綺麗なままゴールしたリアと、返り血がついた状態でゴールした奴らじゃインパクトが違う。キラとミニスに至ってはペンキ被ったみたいになってたし、夜だった事も相まって迫力凄かったからね。これは忘れてても仕方ない。
「あの時、ご主人様は状況が整ったらって言ってたよね? それってどんな状況ー?」
「ああ、それはもう整ってるよ。状況って言うのがそもそもマイホームを買って拠点を用意する事だったからね」
「そうなんだ! じゃあもうリアとエッチしてくれる!?」
「もちろん。僕もそろそろ変態と狂人以外の女の子とヤりたいし」
パアッと顔を綻ばせるリア。そんなにエッチしたいなんて嫌らしい奴だなぁ。まあサキュバスだから仕方ないか。
ん? そういえば少し前に魔王城でメイドに手を出したような……いや、日常的にやってるわけじゃないからあれは除外していいか。
「ただ、何事にも順序っていうものがあるんだ。それは分かるね?」
「うん! 確か初めてのエッチの前には一緒にお風呂に入って、身体の洗いっこをするんだよね!」
「いや、それはソープの手順じゃないかな?」
「あれー!?」
自信満々に言い放ったリアは、僕の言葉に驚愕に目を見開く。
たぶんアレだ。リリスが変な事を教えたな? 何でソープの手順を初めての時のために教える? それともサキュバス的にはそれが普通の手順なんだろうか……?
「個人的にはデートからのエッチっていう流れが一番だと思うんだ。そういうわけでリア、明日僕とデートをしよう。エッチはその日の夜に、ね?」
「デート!? ご主人様とデート!? うん、分かった! デートするー!」
満面の笑みで諸手を上げ、喜びを露わにするリア。たかがデートでこんなにも喜んでもらえるとか、男冥利に尽きるね。その上デートが終わって夜には処女ロリサキュバスとのエッチが待ってるとか、僕にとっても最高の日ですわ。
「そうだ、せっかくだから明日のデートに向けて新しい服でも買ってきなよ。男を誘惑するには衣装も重要だって事は、きっと勉強で習ったんじゃない?」
「うん、習ったよ! じゃあリアはお買い物行ってくるねー!」
「はい、いってらっしゃーい」
観客席を立って早速お買い物に向かうリアを、僕は手を振って見送る。
しかし自分で言っといて何だけどデートかぁ……本格的なデートは僕もした事無いなぁ? まあいいや。向こうも初めてだし、幻滅されたりはしないでしょ。リリスが変な事教えてなければ。
「……あんな子供に手を出すつもりとか、見下げ果てた変態ね。この屑」
リアが去った後、ミニスがぽつりと毒を吐いた。見れば文字通り薄汚いゴミを見るような目で僕を見てたよ。トゥーラみたいな性癖の持ち主ならこれだけでもう絶頂しそうなくらいに冷たくて軽蔑がこもってるね……。
「実年齢はニ十歳だから平気平気。それに僕はレキくらいの子でも全然イケるよ?」
「それだけはやめてください、お願いします……」
「本当にお前は家族を引き合いに出されると弱いなぁ……」
言外に『妹に手を出しちゃうぞ?』と伝えると、途端にミニスは泣きそうな顔になってウサミミごと頭を下げてきた。メンタルはアダ●ンチ●ムなのに、家族を人質に取られるとすぐにこれだ。やっぱり人質は有効な手段だってはっきり分かんだね。
「……で、戦ってみた感想はどう?」
しばらくして勝負の決着が着いたから、僕は敗者であるキラとトゥーラに感想を尋ねてみた。
もちろん結果はボロ負けで、遊ばれた後に圧倒的な暴力で叩き潰されてたよ。考えてみるとベルの姿はあくまでも人の姿に無理やり整えただけだから、身体能力とかは据え置きなんだよね。つまり元の巨体に相応しい力をあの小柄な身体で振るえるっていう、なかなかにイカれた状態なわけだ。
だからって元の姿に戻して戦わせたら、それはそれで問題があるんだけどね。見た目と声がね、アレだからね……。
「何だよこのバケモン。コイツいれば世界なんて滅ぼせるだろ」
「本当にメイドとして働かせるのかい~? もっと別の利用法がありそうなんだが~……」
二人ともベルの力をよく理解したみたいで、二人揃って僕に胡乱気な目を向けてきた。実際一人で滅ぼせるだろうし、別の利用法がありそうなのも事実だ。でもメイド以外に利用できない理由もあるんだよ。
「仲間じゃなくてあくまでも協力者って立ち位置だからね。まあ頼めば戦ってくれるだろうけど、そもそもアイツが必要になる戦いがあるのかっていう話になるし……」
それはベルがあくまでも協力者という立ち位置であって、厳密には真の仲間じゃないから。
今でこそ可愛い姿になれてるから敵意も小さくなってるけど、元はどの種族も皆殺しにしたいと思ってるヤベー奴だからね。さすがにそんな過激派は真の仲間にはできないし……。
「ん~、言われてみれば確かに~。個の力が必要ならば主がいればどうとでもなるし、数が必要ならば何もベルに頼る必要も無いしね~」
「そういうこと。だからメイドで良いんだよ」
一応は納得してくれたみたいで、キラもトゥーラも頷いてくれた。
実際メイドはとっても良い案だ。真面目に仕事してくれてるし、少なくとも今の見た目は目の保養になるし。あとは屋敷で活動させておけば、邪魔になった時はいつでも好きな時に殺せるしね。さすがにあんな馬鹿げた再生力を持ってても、ブラックホールにでも放り込めば死ぬだろ……死ぬよね? うん、一応ベルを殺すための魔法を開発しておくか……。
「でも、数かぁ……その辺も考えないといけないなぁ……」
ついでにトゥーラの発言にちょっと思う所があったから、数の力についても考えないといけないかな。死体を忠実な兵士にする魔法はもう完成してるけど、ネクロフィリアの吸血鬼野郎がいるから女の子の死体は実質アイツのものだ。すると野郎の死体が残るんだけど、わざわざ野郎の死体を忠実な兵士にする気が起きないんだよねぇ。それに素体は人間だから、兵士を増やせば増やすほど聖人族か魔獣族が減って行くわけだし。素体を入手するためにいちいち墓荒らしするのもそれはそれで面倒なんだよなぁ……。
でも一応代案はほぼほぼ浮かんでるから、後はこれを煮詰めれば数の力については何とかなるはずだ。その事については追々考えよう。
「まあ何はともあれ、これで満足した?」
「ああ。これで鍛錬の相手には事欠かねぇな」
「そうだね~。これは技の磨きがいがあるというものだよ~」
「まだやり足りないのか、コイツら……」
闘技場の壁や地面の染みになるような派手な負け方をしてたのに、何故かコイツらはわりと清々しい顔をしてる。それどころか微妙に嬉しそうだ。
頭おかしかったり性癖おかしかったりする奴らだけど、自分を高める事に余念が無いんだよなぁ。君ら本当に努力家だねぇ……。
「……というわけで、気が向いたら相手をしてあげてくれない? メイドの仕事とはまたちょっと違う気がするけど」
「構わんぞ。以前は碌に出来なかったが、身体を動かすのは大好きだからな!」
鍛錬の相手になってやって欲しいっていうお願いをすると、ベルは満更でもなさそうな顔で元気よく頷いてくれた。
しかし、以前は碌に運動できなかったかぁ。そりゃあんな巨体で視覚と聴覚への暴力持ちなら、碌に運動できないだろうよ。あんなのが外を走り回ったりしたら首都が地獄絵図になっちゃう……。
⋇次回より唐突なデート()回です