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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第8章:夢のマイホーム
205/527

ベルVSキラ&トゥーラ

⋇キラちゃん視点

⋇いつものバトル






「さあ、かかってこい! 一分間、私はこの場から動かず何もしないでおいてやるぞ!」


 クルスが戦いの開始を宣言するのと同時に、クソウサギに似た姿をした魔将がとんでもねぇ事を抜かしやがった。

 罠か何かかと思ったら、自信満々に腕を組んで無い胸を張りやがる。まさか本当に一分何もしねぇつもりか? コイツ、どれだけあたしらの事を下に見てやがる……!


「舐めやがって……」


 頭に来たあたしは一撃で殺す事を決めて、深く身体を沈めてから一気に飛び出した。けど馬鹿正直に正面から仕掛けたりはしねぇ。あれだけ自信満々に無防備に立ってられるって事は、何か秘策みてぇなもんがあるんだろ。そんなもんねぇならただの馬鹿だ。


「――じゃあ死ね」


 だからあたしは一瞬で背後に回って、鉤爪で首を刎ねる一撃を放った。

 武装術も身体強化も一切無し。けど人間を縦に真っ二つにできるくらい鋭い一撃だ。仮にこれで仕留められなかったとしても、間違いなく致命傷を負わせることができる。そんな自信がある一撃だった。けど――


「なっ……!?」


 一撃を見舞って宙を舞ったのは、あたしの鉤爪の方だった。クソ魔将の無防備な首筋に叩き込んだ鉤爪は、澄んだ金属音を立てて半ばからへし折れやがった。それも三本全て。

 どういうことだよ、コイツは無防備につっ立ってるだけで何もしてねぇぞ? 防御も魔法も、一切何も使ってねぇ。それどころか背後に回ったあたしに視線すら向けてねぇ。なのに何で切り傷一つ与えられず、こっちの武器がダメになっちまうんだよ? 


「ふむ。随分脆い金属を使っているな? 薄皮一枚裂くこともできないとは。もう少し良い武器を選んだ方が良いぞ?」

「クソッ……!」


 顔だけ振り返って視線を向けてきたクソ魔将に悪態をつきながら、あたしは咄嗟に背後に跳んで距離を取る。頭じゃコイツは本当にまだ動かねぇって分かるけど、身体が反射的に動いちまった。

 なるほどな。コイツにはこの自信を裏付ける実力があるってわけか。見誤ってたぜ。


「じゃあ、これはどうだい~? とりゃ~っ!」


 下がったあたしと反対に肉薄したトゥーラが、クソ魔将の鳩尾に抉り込むような拳を叩き込んだ。衝撃に馬鹿みてぇな風圧が巻き起こって、あたしらの髪や服の裾が激しく揺れる。

 あんなもん無防備に食らったら胴体が千切れてもおかしくねぇ。そんな一撃を魔法も武装術も無しに実現するとか、アイツも大概バケモンだな。

 

「……ふむ。力強く、それでいて素晴らしく繊細な一撃だ。身体の中に蚊に刺されたような痒みを与える攻撃とは、恐れ入ったぞ」

「おいおい……」


 けど、クソ魔将はもっとバケモンだった。あんな一撃を無防備に食らっといて、何のダメージも負ってやがらねぇ。吐血すらしねぇとか一体どうなってんだよ。アイツの身体は肌から内臓まで金属でできてんのか?


「くぅ~! 私の攻撃が効かないとは、実に悔しいね~!」


 クソ魔将を回りこんであたしの所にまで下がったトゥーラは、珍しくマジで悔しそうな顔をしてやがった。けど同時に楽しそうにも見える辺り、コイツも相当イカれてやがんな。


「どうなってんだ、あの硬さ。アレが素かよ。ありえねぇだろ……」

「いや~、とんでもないね~。まるでオリハルコンの塊を殴ったような手応えで涙が出るよ~」


 オリハルコン……コイツ、アレの塊をぶん殴った事があんのか。確か世界で一番硬い金属じゃなかったか? 何でそんなもんぶん殴ってんだよ。頭おかしいだろ。ていうか素の耐久力がオリハルコン並みのクソ魔将もおかしいだろ。


「これは様子見とか言ってる場合じゃねぇな。本気でやらねぇとマズそうだ」

「そうだね~。あまり趣味ではないけど、私も魔法を解禁するべきかな~。このままでは有効打を与える事も難しそうだ~」


 駄目になった鉤爪を別のやつと交換してると、トゥーラの身体から魔力が放たれたのを感じた。たぶん身体能力の強化でもしてやがるんだろうな。コイツが魔法を使うとこは初めて――いや、この街に来る時の競争で初っ端からぶちかましたか。どいつもこいつもふざけた事しやがる……。


「アイツが見てんのに醜態晒せるかよ。行くぞ、クソ犬!」

「了解~!」


 観客席からこっちを眺めてる奴に一瞬視線を向けてから、あたしは一気に駆け出した。

 クソ魔将はマジで一分経つまで動く気がねぇみたいだ。クソウサギと同じムカつく顔に勝ち誇った笑いを浮かべてこっちを見てやがる。クソが、ほえ面かかせてやるからな……!


「クイック! アクセル!」


 速度強化の魔法を二重に使って、あたしは大気を裂いて地を駆ける。耳の横を通り抜ける風が滅茶苦茶うるせぇけど、速さを得るためには仕方ねぇ。


「――スラッシュ!」


 斬撃の概念を纏わせた鉤爪を、二重の加速を加えてクソ魔将の首筋に叩き込む。

 どうせ一分経つまでは動かねぇし、後ろに回り込むなんて意味の無い真似はもうしねぇ。あたしは真正面から首を刎ねる一撃を振り抜いた。けど――


「うむ、先ほどよりはマシになったな。少しピリッとする程度だが」

「この野郎っ……!」


 二重の加速に武装術を加えた一撃だってのに、またしてもあたしの鉤爪がへし折れる結果に終わった。

 ありえねぇだろ、この硬さ……何で無防備に突っ立ってる奴に、武装術を使った一撃が通らねぇんだよ……。


「ならば、これはどうだい~!」


 あたしが飛び退いてまた鉤爪を交換してると、代わりに暴風を纏ったトゥーラが砂埃を巻き上げながら飛び出した。魔法で突風を巻き起こして自分の身体を加速させてんのか? 

 いや、違うな。この暴風はトゥーラの動きで巻き起こった単なる風圧だ。コイツ、あたしと同等かそれ以上に速度を強化してやがるな? ふざけた真似しやがる。


「は~っ!!」


 そしてトゥーラが武装術込みで繰り出したのは、二本指の貫手。衝撃を集中させるために指二本で放ったみてぇだな。

 元々魔法も武装術も無しに指の刺突で人体貫く野郎だ。そんな奴が魔法で身体能力を強化して放った武装術。あたしの一撃とは比べもんにならねぇ鋭さで一直線にクソ魔将の胸を貫いて――背中から血塗れの指を覗かせた。

 やったぜ。心臓を貫きやがった。幾ら何でもこれなら――


「……ほう? 素手で私の肉体を貫くとはな。貴様、なかなかやるではないか?」

「おいおい……心臓を貫いているはずだというのに、何故そんなに平然としていられるんだい~……?」


 なんて思ってたら、クソ魔将は全く意に介していやがらねぇ。それどころか心臓を貫かれたってのに、血反吐一つ吐かず平然としてやがる。

 何だ? まさかアホみたいに頑丈だってのに、吸血鬼みてぇに弱点攻めねぇと殺せねぇのか? 冗談やめろよ、笑えねぇぞ。


「ハイクイック! アクセラレイト! ソニック・スラッシュ!」


 こうなったら首を落とすしかねぇ。だからあたしは更に速さと鋭さを強化した一撃を見舞った。負荷がヤバくて長時間は使えねぇ四重の加速。その状態で放つ斬撃の概念を纏った鉤爪を、超高速で振動させて切れ味を果てしなく高める。

 食らいやがれ! この一撃はさっきまでとは段違いだぞ!


「――おお、よく頑張ったな! ここまで刃が通るとは驚きだぞ!」

「なっ……!?」


 そうしてあたしが放った渾身の一撃は、ついにクソ魔将の首筋を切り裂く事に成功した。けど、刎ね飛ばすことはできなかった。渾身の一撃は首の骨に阻まれて、首の半ばまで切り裂いた所で止まりやがった。

 そこまでは割と予想できた事だから別に良い。問題はクソ魔将の傷跡だ。首の半ばまで鉤爪で抉ったってのに、まるで傷なんて最初から無かったみてぇに一瞬で再生してやがる。確かに横から首を刎ねる一撃を叩き込んだってのに、喉に刺突叩き込んだみたいに首に埋まってやがる。こんなのありえねぇだろ、何なんだコイツは……!

 

「どうなってんだよ、チクショウ! 再生とかいうレベルじゃねぇだろ!」

「私に言われても困るよ~! って、あ~!? 腕が抜けない~っ!?」


 馬鹿げた頑丈さに加えて、心臓や首に致命傷を受けても揺るぎもしねぇ不死性。挙句一瞬で負傷が完治するアホみてぇな再生能力。これで何ら魔法を使ってねぇとか、頭おかしいだろうが。

 しかもトゥーラの言う通り、身体を抉ってる鉤爪が全く抜けねぇ。まるで馬鹿力で押さえられてるみてぇだ……!


「ふむ、そろそろ一分だな。では、私も動くとしよう」

「チッ!」

「気は進まないが、とりゃ~っ!」


 ヤベェ予感がしたあたしらは、即座に獲物を手放して離脱した。あたしは突き刺さった状態の鉤爪をもう片方の鉤爪でへし折って、トゥーラは抜けなくなった腕を手刀で切り落として。魔法で生やせるっつっても、自分の腕を捨てる判断できんのはさすがだな。


「どうやら千年以上城の地下で眠りに着いていたせいで、私の事は綺麗に忘れられてしまったようだな。それが悲しくもあり、嬉しくもあるが……」

「おいおい、何だよアレ……」


 残念そうにため息を吐くクソ魔将。その首元と胸を貫いた鉤爪とトゥーラの腕が、音を立てて壊れてひしゃげていきやがる。まるでとんでもねぇ力で圧迫してるみてぇだ。鉤爪が粉砕されて地面に落ちて行きやがるし、トゥーラの指がキモイ動きをして蠢いて、最終的には腕ごと破裂しやがった。


「あ~……筋肉の収縮か何かじゃないかい~? それで金属を壊し私の腕を潰している辺り、完全にゴリラだね~……」

「む? おい、その言い方はゴリラに失礼だぞ。私などよりゴリラの方がよほど可愛いではないか」


 トゥーラの呟きに、クソ魔将は斜め上な答えを返してきやがった。

 ゴリラが可愛い? 可愛いとかそういうのが良く分かんねぇあたしでも、それは違うと思うぞ? クルスの野郎はコイツの本当の姿は相当醜いっつってたし、もしかしてマジでゴリラが可愛く見えるレベルなのか? どんなキモイ見た目してんだよ……。


「まあいい。では、今度は私から行くぞ?」


 そう言って、ここでクソ魔将はようやく組んでた腕を解いた。こっからは遠慮なく攻撃もしてくるって事か。アホみてぇな耐久に馬鹿みてぇな再生能力があんだし、攻撃はそこまででもねぇって思いたいとこなんだが――


「――ぬお~っ!?」

「くっ……!?」


 クソ魔将が地面を蹴った瞬間、大地が爆発してこの地下闘技場が派手に揺れた。イカれたパワーの踏み込みで引き起こされた突然の地震に、あたしらは一瞬体勢を崩した。

 チクショウ、パワーも段違いじゃねぇか。こんな奴の攻撃をまともに食らったら身体が爆散するぞ。幸いあたしはバランス感覚には自信があるから、クソ魔将が地面を踏み砕きながら接近してくる前にその場を離脱できた。けど、さすがのトゥーラもあたしより早く体勢を整える事はできなかったみてぇだ。体勢を整えた時には、バケモンに肉薄されて逃げ場が無かった。


「とうっ!!」

「う、ぐうぅぅ~っ!?」


 そして放たれたクソ魔将の拳が、音より速くトゥーラの腹に突き刺さる。ほんの一瞬そのまま二人纏めて固まった後、トゥーラの足元の地面が派手に弾け飛んだ。けどそれと同時に、トゥーラの身体がほぼ水平に吹き飛んで闘技場の壁に激突した。崩壊した壁の瓦礫に隠れてどうなってんのかは分かんねぇが、さすがにあれくらいで死ぬ奴じゃねぇ。

 今の流れ、たぶん衝撃を完全には逃しきれなかったって事だな。トゥーラでも逃しきれないほどの衝撃を拳一発でぶち込むとか、あたしが食らったら全身が爆散すんな、絶対……。


「ハイクイック! アクセラレイト! ヒート・ソニック・スラッシュ!」


 けど、だからって諦めるわけがねぇ。あたしはもう一度四重の加速を得て接近した後、今度は三重に重ねた武装術をクソ魔将の首筋目掛けて放った。鉤爪を赤熱させた上で、超高速で振動させて、その上で斬撃の概念を纏わせた一撃だ。普通なら過剰で使う相手なんかいねぇ一撃だが、正直ここまでやっても殺せるヴィジョンが見えねぇ。


「……おいおい、冗談だろ」


 実際あたしの予測は間違ってなかった。あたしの一撃は今度こそクソ魔将の首を通り抜けて、その首を刈った。けど鉤爪が通り抜けた瞬間には、刎ねたはずの首は痕も残らず綺麗に再生してくっついてやがった。こんなバケモン、始めて見たぜ……。


「まさかもう私の首を刎ねるとは! 凄いぞ、貴様! 褒めてやろう!」

「テメェに褒められても嬉しく――ぐおっ!?」

 

 嬉しそうに笑うクソ魔将に胸倉掴まれたかと思ったら、あたしはあっさり身体をぶん投げられた。

 直接殴られなかっただけ幸運かもしれねぇが、どっちにしろヤバい事に変わりはねぇ。何せ猫耳が千切れるかと思うほどの速度が出てやがるし、あまりの風圧に碌に身動きも取れねぇ。このまま闘技場の壁にぶつかったらまず間違いなく弾け飛んで死んじまう。かといって魔法でどうこうしようにもイメージを練る時間すらねぇ。

 だからあたしはそのまま、何もできずに闘技場の壁に向かって吹っ飛んで――


「おっとぉ~!?」

「んなっ!?」


 生きてたトゥーラがあたしの身体を受け止めて、速度を地面に逃がした事で何とか壁の染みにならずに済んだ。けどやっぱりトゥーラでも完全に衝撃を逃しきれず、二人で仲良く壁をぶち抜いて瓦礫に埋もれる事になった。

 全身が引き千切れそうな痛みに悲鳴上げてるし、手足が捻じれて変な方向向いてるが、治癒すれば動くから問題ねぇな。問題は相手がバケモン過ぎる事だ。 


「やれやれ~……吸血鬼を遥かに上回る再生能力と膂力、並みの武装術では貫けない耐久力。シンプルに強くて嫌になるね~。これは勝てそうにないかな~?」


 仲良く瓦礫に埋もれてヒールで身体を癒してると、トゥーラがそんな呟きを零した。

 こう聞くと本当に生物としての格が違うってのがマジで分かるな。つーかアレ一体で聖人族くらい滅ぼせんじゃねぇの? 強すぎだろ、マジで……。


「チッ。何か弱点とかねぇのかよ、アレ」

「あるのかもしれないが、あったとしても勝てるとは思えないね~。何せアレは仮の姿だというのに、私たちは一方的にやられているのだからね~」

「んだよ、じゃあ戦うの止めんのかよ?」


 珍しく弱気な言葉が聞こえて、あたしはそう尋ねた。

 けどそれはあたしの勘違いだったみてぇだ。何せトゥーラは滅茶苦茶獰猛な笑みを浮かべて、楽しそうにしてやがったからな。


「いやいや、そんなわけはないだろ~? せっかくの強者と戦う機会、無駄にはしないさ~。そう言う君こそ、手や足の骨ごと心がへし折れたりはしていないかい~?」

「抜かせ、クソ犬が。骨が折れてもそっちは折れねえよ」

「フフフ、それなら良かった~。アレと一人でやり合うのはさすがに荷が重いからね~」

「二人がかりでも勝てるヴィジョンが見えねぇけどな。まあ、精々食らいついてやろうぜ」

「了解だ~! では、行くぞ~!」

「おうっ!」


 治療も済んだことだし、あたしたちは二人で瓦礫を跳ね除けて一気に飛び出した。クソ魔将――ベルは強者の余裕か、腕を組んであたしたちが出てくるのをじっと待ってやがった。舐めた態度だが強さが伴ってんのがムカつくな。


「うむ、うむ! 良いぞ、かかってこい! この私が胸を貸してやろうではないか!」


 まだまだ戦意に溢れたあたしたちの姿に、ベルは両腕を広げて自信満々に言い放った。ムカつくクソウサギの姿でな。

 テメェの強さは認めてやる。認めてやるから、せめてそのクソウサギの姿をやめろ……!







⋇シンプルにクソ強いベル。察しの良い方は気付いているかもしれませんが、未登場かつ最後の大天使はこれとタメを張れる化物です。

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