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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第8章:夢のマイホーム
203/527

死者の無念

⋇唐突な昔話回

⋇残酷描写あり






 むかしむかし、あるところに。ヴィオという犬獣人の少年がいました。

 ヴィオは冒険者として活動をしていて、毎日頑張ってお金を溜めています。彼には夢があったからです。いつか立派なマイホームを買って、そこで幸せに暮らしたかったのです。


 毎日色んな魔物の討伐依頼をこなすヴィオは、やがて信頼のおける仲間となる少女たちと依頼の中で出会います。いつも達成した依頼の量と質で彼と競い合おうとする男勝りな盗賊系悪魔少女、ヴェロニカ。魔物に殺されそうになったところをヴィオに助けられ、そのまま恋に落ちて彼女面をするようになったヤンデレ気味な魔術師系ウサギ少女、リリアナ。毎日ひたむきに依頼をこなし頑張る彼を見て、母性と共に恋心を抱くに至った回復系狐っ子お姉さん、クラリエット。


 個性的ながらも腕に覚えのある少女たちと共に、ヴィオは数々の依頼をこなし、やがて高位の冒険者へと至りました。その過程で彼は仲間である三人の少女と絆を深め、いつしか愛し合う関係となっていました。


 そうしてついに、彼の夢が叶う日がやってきました。そう、マイホームの購入です。愛する少女たちがいるので当初の想定よりもかなり大きくなりましたが、彼はついに夢のマイホームを手にする事ができました。

 完成したマイホームを目にした時、長年の夢が叶った嬉しさに彼は涙を零してしまいました。そんな姿を恋人たちに笑われたりしながらも、彼は恋人たちと共に屋敷で暮らし始めました。


 その十日後、ヴィオは処刑されました。






「――いや、何で!? 過程は!? 何でいきなり処刑されてんの!?」


 僕が昔話風に語った血生臭い逸話に対して、ミニスが盛大にツッコミを入れてきた。自分の役目が分かってるようで何よりだね。


「いやぁ、まずは結論から言った方が良いかと思って……」

「飛ばし過ぎよ! 普通にハッピーエンドだったのに、何でそんな話になったの!?」

「君、結構お話に夢中になるタイプなんだね……」


 正直ここまでで夢中になる要素があったかな? 単にミニスが物語が好きなだけなんだろうか。僕はこの辺りでは興味は引かれなかったんだけどなぁ。


「ご主人様ー、リアもちゃんと何があったか知りたいよー?」

「はいはい、分かったよ。それじゃあ過程を話すね?」


 ロリコンビにせがまれて、僕は続きを話すことにした。

 え、キラとトゥーラ? キラは早々に飽きて三角木馬を背にしてお昼寝してるよ。トゥーラはユダの揺りかごに乗ってセルフ拷問してるし、もうスルーしよう……。






 ついに長年の夢を叶えたヴィオは、実に充実した日々を過ごしていました。愛する少女たちと穏やかに過ごし、夜は熱く愛し合い、時折依頼を受けて皆で力を合わせて魔物を倒す。順風満帆、今が幸せの絶頂と言って差し支えない日々でした。


 そうしてマイホーム購入から一週間後。ヴィオは深夜にベッドを抜け出すと、一階のリビングを訪れました。そこで暖炉の装飾である鳥の置物を弄ると、何と暖炉がせり上がって地下への階段が現れました。ヴィオは躊躇いなくその階段を下りて、地下へと向かいます。


 扉を開け、ヴィオの目に飛び込んできた地下の光景はとても酷い物でした。そこには何と幾つもの牢屋があり、あろうことかその中には何人もの少女たちが閉じ込められていました。

 少女たちは一人残らず一糸纏わぬ姿で手錠と足枷によって拘束され、寒さと恐怖に震えています。そんな可哀そうな少女たちを前に、ヴィオは普段の彼からはとても考えられないほど残酷な笑みを浮かべました。


 そう、彼は本当はとても捻じ曲がった性癖を持つ男だったのです。具体的には、女の子を拷問して泣き叫ぶ女の子に最も興奮を覚えるタイプの人種だったのです。だから彼はその性癖を満たすために、マイホームが欲しかったのです。こうして地下に牢屋と拷問部屋を作り、心置きなく女の子を切り刻み磨り潰すことができるように。


 そうして、彼はついに人生で初めて女の子を拷問しようとします。牢屋の中から一人の女の子を引きずり出し、泣き叫んで抵抗する彼女にすでに強い興奮を覚えながら、拷問部屋へと運びました。

 拷問台に彼女を拘束し、まずは爪でも剥ごうかと彼女の爪にペンチを近付けたその瞬間――拷問部屋に、ヴィオの愛する少女たちが険しい表情で突撃してきました。突然の事態に驚き慌てふためく彼は、武装した彼女らに抵抗らしい抵抗もできず、そのまま取り押さえられてしまいます。


 自分の事を蕩けた表情で見てきたはずの少女たちは、今やゴミを見るような冷たい目でヴィオを見下ろしてきます。そして酷く冷めた口調で、今の状況に陥った理由を説明してきました。


 驚くべきことに、彼の愛する少女たちはこの秘密の地下の存在を知っていました。彼女らには秘密で作らせたのですが、どうにも作業員が密告していたようで、牢屋の存在も拷問部屋の存在も知っていたのです。


 しかし彼女らはヴィオを愛していたので、きっとそれには何か深い理由があるのだと信じていました。ですがこっそりと地下を確認する度、牢の中には見知らぬ少女が増えていきます。まるで獲物を閉じ込め、解体する時を見計らっているかのように。

 囚われの少女の数が増える度に、彼女たちが彼に抱いてたはずの愛情は少しずつ薄れて行きました。そうしてついに、彼女たちは彼を裁くことに決めたのです。元々地下牢に少女たちを閉じ込めているだけでも決定的ですが、拷問にかけようとした瞬間もしっかり確認しました。証拠は完全に揃っており、言い逃れは出来ませんでした。


 愛していた少女たちに自らの悪行を白日の下に引きずり出され、ヴィオは重犯罪者として捕らえられました。婦女暴行、誘拐、拉致監禁、殺人未遂、更には高位冒険者でありながらその称号を穢すような外道極まる犯罪の数々を働いた事実。それらの罪により、ヴィオは処刑される事に決まりました。


 刑が執行される時、彼の愛した少女たちは刑場に現れました。彼に愛を捧げ、共に幸せな時を過ごした彼女たちは、彼の最後を目にして全てを忘れようと思ったのです。そうしなければ、彼女たちは前に進めないのですから。

 最後に何か言い残すことはあるかどうか彼女たちに聞かれた時、彼は反省も後悔もまるで見せず、ただ三人の方を見て悲し気に答えました――






「――さようなら。君の事を、いつまでも愛しているよ……と」

「……うん、処刑は当然だったわね。ていうか反省も後悔もしてないとかクソ野郎の極みじゃない。ハッピーエンドとか言ってた私を殴り飛ばしてやりたいわ」


 話し終わると、ミニスは途中の感想から百八十度回った真逆の感想を絞り出してきた。酷い手の平返しを見たよ。処刑されたヴィオに同情すら見せてた癖に、ヴィオがちょっと犯罪を犯してただけでこれだよ。

 何にせよ、屋敷が妙に安かったのはこんな逸話があるせいだね。これで被害者たちが聖人族奴隷ならそういう性癖って事で犯罪にはならなかったのかもだけど、どうにも牢屋に囚われた女の子たちの中には魔獣族の女の子も混じってたらしいんだよ。

 つまりこの屋敷は、同族を拷問しようとしたクレイジー野郎が住んでた屋敷。マイナスイメージがあまりにも強すぎるから、その分屋敷の購入費用がクッソ安かったらしい。


「ええっと……つまり、このお家ってその処刑されちゃった男の人のだったのー?」

「そうだよ。だから牢屋はともかく、拷問部屋はほぼ未使用なんだってさ」


 ほぼ、っていうのは拷問台に拘束まではしたからだね。だから拷問部屋にしては壁や天井に血の痕とかも無いし、割と綺麗なもんだよ。実際に使用されてたら屋敷はもっと安かったかもしれないな?


「それにしたって酷い話だよね。僕もこのお話を不動産屋から聞いた時、耳を疑ったもん」

「嘘……? あんたにこれを酷い話って思えるようなまともな感性が……?」


 僕もこのお話の感想を零すと、ミニスが驚愕に目を見開いて呟いた。

 まるで僕にまともな感性が存在しないみたいな言い方、スゲェ失礼だよね。確かに僕はちょっと精神が捻じ曲がってるし、性癖も少しだけ普通とは言い難い所はあるけれど、ちゃんと心を持った赤い血の通う人間なんだよ? まともな感性だってあるに決まってるだろ?


「たっぷりねっとり愛しあってたのに、ちょっと歪んだ性癖を持ってたからって手の平を返すなんて心底ビッチだよね。全く信じられないよ」

「あ、そっち? うん、まともな感性を持ってるって思った私がバカだったわ……」

「何だとこの野郎」


 僕のまっとうな感想に対して、何故かミニスはほっとしたように胸を撫で下ろしてた。

 おかしくない? 僕の感想だってまともな感性を持ってる証明になるよね?  


「お前は僕にまともな感性が無いって決めつけてるけどさ、考えてもみなよ。本当に相手を愛してるのなら、相手の良い所も悪い所も全てひっくるめて受け入れないと駄目でしょ? 相手の良い面しか見ずに悪い面から目を逸らすのはただの妄信とか狂信の類だし、悪い面を知って愛が冷めるならそれは純粋に愛じゃなくて尻軽なだけ。本当に相手を愛してるのなら、好きな所も嫌いな所も、良い所も悪い所も、全部纏めて受け入れないと。それこそが正真正銘の愛だよ。そう思わない?」


 本当に心の底から相手を愛しているなら、相手の悪い面から目を逸らさず、認めて受け入れる事ができるはず。僕はそれこそが愛だと思うんだ。自分の気に入らない部分があれば愛が冷める? そんなの最初から愛してないって事だよ。

 僕だってトゥーラやキラのイカれてる所はちゃんと直視してるし、どうにかならないかなって常々思ってるけど、だからといって二人を嫌いになったりはしないしね。そりゃたまに腹が立つ事はあるよ? でも僕らは愛しあってるんだから、それくらいは心を広く持って受け入れてあげないと。だってそれが一般的な愛でしょ?


「……うらあっ!!」

「何故蹴るっ!? 良い事言ったのに!?」


 そんな風に素晴らしい愛を語ったのに、何故かミニスは僕に回し蹴りを叩き込んできた。

 チッ、所詮は一般村娘か。崇高な愛という概念を理解できなかったみたいだね。これだから愛の何たるかを知らない生娘は困るよ。


「いや~、さすがだよ主~! そうだね~、愛を語るなら相手の全てを受け入れないといけないね~? もちろん私は主を愛しているから、主の全てを受け止めてあげられるよ~?」

「……オラァッ!」

「ぐはぁっ!? 何故だ~……!?」


 ぎゅっと抱き着いてきたトゥーラにイラっとしたから、鳩尾に拳を叩き込む。

 まあ、愛の形は人それぞれだ。愛とか謳いながら子供を切り刻んでスーツケースみたいなのに詰めたりする奴もいるし、悲しみと苦しみと痛みが愛の表現だとか抜かす奴もいる。だから僕のこの行動も愛情表現なんだよ。床に崩れ落ちたトゥーラもデレデレした顔で普通に喜んでるしね。この変態が。


「……ま、愛に関してのお話はさておき、この屋敷にはそういう歴史があるんだ。それを聞いてなおこの屋敷を買ったのは、ヴィオの無念を晴らしてあげるためだね」

「無念……?」

「そう、無念。せっかく牢屋も拷問部屋も拷問道具も用意して、ようやく長年の夢である女の子の拷問を始める所だったんだよ? それなのに結局お楽しみはできなくて、捕まって処刑される……僕なら悔しくて堪らないね。リアだって僕に買われず復讐を果たせず、あのまま死んでたら悔しくて堪らないでしょ?」

「うん、絶対に悔しい! リアなら死んでも死にきれないよ!」


 聞いてみると、予想通りに力いっぱい断言してきた。まあ憎悪と殺意で何年も死の淵にしがみついて醜く生き足掻いてた奴だ。死んだらむしろ化けて出そうだし、何なら生前より強くなりそう。


「だよね? だからヴィオの無念を晴らすためにも、ここで僕らが女の子を拷問してあげようかなって。そうすればきっと処刑されたヴィオも少しは喜んでくれるでしょ?」


 女の子を拷問したかった事に共感を覚え、愛していた少女たちに裏切られた事に同情を覚えた。そして結局薄暗い欲望を満たせないまま生涯を終えた事に涙を禁じ得なかった。

 だからその無念を晴らすためにも、僕はこの屋敷を購入したってわけさ。地下牢と拷問部屋があるなら僕にとっても都合が良いしね。


「ああ、そう……本当にイカれてるわ、あんた……」


 合理的かつ人道的な理由で屋敷を購入したってのに、ミニスは白い目で僕を見ながら罵倒してきた。死者の無念を晴らしてあげるっていう崇高な理由があるのにこの反応だよ。一体何が不満なんですかね……?


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