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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第8章:夢のマイホーム
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マイホーム案内3

⋇まだ続きます







「はい、ここが二階。基本的にこの階にあるのは僕ら個人の部屋、あとは一階よりは小さいけどリビングとお風呂もあるよ」


 お風呂の案内を終えた僕は、今度は一度エントランスに戻って階段を登り二階へと来た。

 ちょっとお風呂で襲われかけるっていうアクシデントはあったけど、何とか無事に逃れる事ができたよ。あ、兎肉の盾(ラビット・シールド)はクソの役にも立たなかったから早々に放り投げました。

 それで所々破かれちゃった服を魔法で修復して、今は二階にいるってわけ。しかしやっぱり殺風景だなぁ。廊下に無駄に全身鎧置いたり、怪しげな絵画を飾ったりした方が良いかなぁ?


「ねーねー、リアのお部屋は!? リアのお部屋はどこー!?」

「お前の部屋はここ。もう家具も運ばれてるし、今日から好きに使って良いよ」

「わーい! リアのお部屋ー!」


 ぴょこぴょこ跳ねて主張してたリアに部屋の場所を指し示すと、すぐさま文字通り飛んで行った。自室を得られた事に興奮するなんて、さては故郷では自分の部屋が無かったのか? いや、ド田舎のミニスでさえ自室はあったんだ。純粋に喜んでるだけかな。

 とりあえずリアはしばらく自分の部屋を見てるだろうし、放置して僕らは二階の隅の部屋へと向かった。


「で、ここがキラのお部屋ね。ちゃんと希望通りにしたから期待してていいよ」

「へへ、ありがとな?」


 ニヤリと笑うキラを尻目に扉を開ける。

 そうして目に飛び込んできたのは――わりと普通の部屋の光景だ。ベッドも別に禍々しくないし、タンスも悍ましかったりしない。常識的な一般人が暮らしてても違和感のない光景だ。むしろこの部屋の主が猟奇殺人鬼って事が違和感あるくらいに普通でびっくりだよ。まあ、ぱっと見はね?


「ん~……キラの部屋にしては普通だね~?」

「そうね。もっと禍々しい感じかと思ったのに」


 トゥーラとミニスも同意見みたいで、あまりにも普通の部屋に肩透かしを食らった顔をしてる。具体的には一体どんな部屋を想像してたのかが気になるね。


「そう思うでしょ? でもね、この入り口の電灯のスイッチ。消灯と点灯、これを同時に一秒以上の感覚を開けずに四回連続で押すと――」


 そう言いつつ、僕は実演してみせた。消灯と点灯をほとんど間隔を開けずに四連打。

 するとガコンって音が部屋の四方から聞こえて――


「お~!? 壁が動いて棚が出てきた~!?」


 四方の壁がブラインドを開くみたいに開いて、何か(・・)を置くのに良さそうな棚がせり出してきた。あれだよ、商品の陳列棚みたいな感じになってる。

 もちろん何を置くための棚かなんて、ここがキラの部屋だって事を考慮すれば自然と分かるよね? そう、この棚はキラによって仕留められた不幸な被害者たちの目玉を飾る場所だ。


「なに? この無駄なギミック……」

「だってキラが瓶詰めの目玉を部屋に飾りまくりたいって言うから……」


 そしてこれはキラの希望。自分の部屋に目玉を飾りまくって、いつでも見られるようにしたいって言ってたんだ。

 マイホームだからどれだけアレな飾り物をしても文句言う奴はいないだろうけど、万が一衛兵ととかによる家宅捜索が入ると怖いからね。だからこうやって壁に仕込む感じにしたわけ。ちなみに壁を叩いて反響音で探ったりできないように、その辺も魔法で対策してる。だから見られなければ壁の内側がこんな風になってるなんて絶対に分からないはずだ。


「ちなみにこのギミックを仕込むに当たって、棚に使うための空間がどうしても必要になったんだ。というわけでキラの部屋に隣接した部屋はほんのちょっとだけ狭くなっちゃうんだ。まあそういうわけでコイツの部屋を隅の部屋にしたんだけどね……」


 さすがに無から空間を捻り出すのはちょっと厳しいから、無理やりに壁の厚さを増やして実現させた。だからキラの部屋は他の部屋よりも外側が微妙に大きくなってる。とはいえこれくらいなら設計上のミスとか気のせいとか目の錯覚で誤魔化せるレベルだね。


「それで? このギミックはお気に召したかな?」

「………………」


 尋ねてみると、部屋の主であるキラは無言で空っぽの棚を見回した後、ゆっくりと僕に近付いてきた。

 そうして指で僕にかがむように促すと――


「んっ……」


 かがんだ瞬間、僕にキスをしてきた。その行動に僕はとても驚いたよ。だってキスがあまりにも普通で大人しいキスだったから。いつものキラのキスは大概貪るようなヤベーやつなのに、まるで付き合いたての恋人同士みたいなすっげー控えめなキスだったぞ。


「……ありがとな、クルス。最高だぜ」


 どうやらキラなりの喜びの表現だったみたいで、キスを終えると嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

 そうして空っぽの棚に走り寄ると、空間収納から取り出した瓶詰めの目玉を次から次へと並べて行った。気に入って頂けたようで何よりなんだけど、なんだけど……。


「……何だろう。今、初めてキラにまともなキスをされた気がする……」

「あんたら、普段どんな絡み方してんのよ……」


 僕の呟きにミニスがドン引きしながらツッコミを入れる。

 そんなこと言われても、愛とか恋とかいう概念を知らなさそうな猟奇殺人鬼によるキスだぞ? そりゃあ欲望塗れのキスに決まってるだろ? いつももの凄い過激なキスしてくるよ?


「主~、私にもちゅ~」


 僕とキラのキスシーンを見たトゥーラが、瞼を閉じて唇を突き出しながら寄ってくる。何となくイラっと来た僕はちょうど隣にいたミニスのフードを引っ掴むと――


兎肉の盾(ラビット・シールド)

「うきゅっ!?」


 兎肉の盾(ラビット・シールド)でトゥーラのキスを防いだ。今まで役立たずだったけど、今回はバッチリ肉盾として機能してくれたぞ。構えた位置が悪かったのか、ミニスとトゥーラがキスするような形になっちゃったけど。


「あ~!? キラにはキスさせたのに、何故~!?」

「ほら、馬鹿やってないで次行くよー」

「馬鹿やらせたのはどっちよ!? よりにもよってこんな変態とキスさせたわね!? このクソ野郎!」


 泣きそうな顔で縋りついてくるトゥーラと、真っ赤な顔で執拗なローキックを繰り出してくるミニスを引き連れて、僕は次のお部屋へと向かった。全く……まともにマイホーム案内をさせて欲しいのになぁ?






「……はい、ここがトゥーラの部屋ね。と言っても、ここは特殊な設備とか機能は何も無し。コイツが希望したモノは玄関と地下にあるしね」

「やっぱあるのね、そういう部屋……」

「お~! それは楽しみだね~。早く地下を見てみたいよ~」


 トゥーラの部屋を数秒だけ見て、すぐに扉を閉める。ここはキラの部屋みたいな特殊なギミックは何も無いし、別段何か目を引くものも無いしね。玄関脇の犬小屋に全てを持っていかれてる気がする……。


「で、ここがリアの部屋。まあここも至って普通だね」


 そして今度はリアの部屋を開ける。その中ではピンク色のデカいベッドでポンポン跳ねてるリアの姿があった。カーテンとかタンスもピンク色だし、正直ちょっと目が疲れるな。とはいえ本人が自分で選んで買ったやつだから文句は言わないけどさ。


「ご主人様、ご主人様! リアのお部屋、こんなに広くて良いの!? これ全部リアのお部屋!?」

「そうだよ。全部お前の部屋。飾りつけも何もかも、お前の好きなようにして良いからね」

「わーい! ご主人様、だーい好き!」

「私も主の事、だ~い好きぃ――ぐほぅ!」


 ポーンとベッドから跳ねて僕の方に飛んできたリアを受け止め、横から抱き着こうとしてきたトゥーラに回し蹴りを叩き込む。コイツは本当に懲りないね。ていうかこれくらい受け流せるのにわざわざまともに食らうとか、本当にマゾ……。


「私は大嫌い。死ねば良いのに」

「ハハハ、相変わらず好感度最底辺の奴がいるなぁ?」


 残念な事にミニスは抱き着いてきてくれなかったばかりか、冷たい目で罵声を浴びせてきたよ。そこはこの二人に続いて僕の事を好き好き言いながら抱き着いてくるところだろぉ? おぉん?


「はい、次はミニスの部屋。普通で心底つまんないね」

「余計なお世話よ、このクソ野郎」


 次に見に来たのはミニスの部屋。ここに関してはもう普通オブ普通みたいな感じで、この屋敷の中で一番まともでつまらない部屋だね。

 ちょっと可愛げのあるベッド、可愛らしい兎が刺繍されたカーテン、何の変哲もないタンス、引き出しとか本棚にもなりそうな無駄に多機能そうな机。殺風景な部屋ではないけど普通過ぎてつまらん。二点。


「しかも何? 愛する家族がいる癖に写真を一枚も飾って無いとか。ここは愛する家族たちの写真を写真立てに入れて飾っておくのがお約束でしょ?」

「うっさい! 私だって飾りたかったわよ! でも……! でも、村に……カメラは……」


 最初は語気を荒くして僕に噛みついてきたミニスだけど、徐々に尻すぼみになって最後には言葉を切った。

 まあ、うん。何が言いたかったのかは何となく分かるよ? これは僕が悪いね。うん。


「……何か、その、ごめん。そうだよね、お前の故郷のド田舎にカメラなんて最先端の科学技術が置いてあるわけないもんね。本当に申し訳ない」

「~~~~~~っ!」


 ペコリと頭を下げて謝罪をすると、ミニスは顔を真っ赤にしてプルプル震えてた。羞恥なのか怒りなのか判別が付きづらいなぁ。カメラすらないド田舎って言われた事にキレてるんだろうし、それが事実だから怒れない上恥ずかしいしで、小柄な体の内側で行き場の無い熱が対流してそう。


「あ、じゃあお詫び代わりにこれあげるよ。写真立てを買って飾っておいたら?」

「え……?」


 ドカンと噴火されても困るし、怒りのマグマの活動を抑えるために僕はとあるものをプレゼントした。

 それはたった今魔法で創り出した一枚の写真。僕の記憶の中の光景をプリントしたものだ。まるで僕がプリンターみたいな言い方したけど、別に口やお尻からガーっと出したわけじゃないよ?


「あ……これ……」


 その写真を受け取ったミニスは、さっきまでのキツイ表情が嘘のように穏やかな顔つきになった。

 何だろうね、慈しみの表情って言うの? ミニスが絶対に僕には向けない類の表情だ。でもいつかこんな表情を僕に向けるように調教するのも面白そうだよね。スゲェ時間かかりそうだけど。


「お前が故郷を旅立つ時に、家族たちと三文芝居をやってた時の光景――を、写真として魔法で創り出したんだよ。まあ、いらないならこっちで処理でするけど――」

「――だ、駄目っ!」


 回収しようと手を出すと、途端にミニスは弾かれたように写真を胸に抱えて逃れる。どうやら相当気に入って貰えたらしい。カメラの存在しないド田舎だもんね。その気持ちは分かるよ?


「……あ、あり……ありが、とう……これ、貰っておくわ……」

「うんうん、どういたしまして」


 ミニスからのお礼って言う凄い珍しいものを貰って、僕も大満足だ。恥ずかしそうに言ってるのも高ポイントだね。何にせよこれで愛する家族の写真を机に置いてる、っていうお約束の出来上がりだ。

 でもまだ何か足りないんだよなぁ。何だろう……あ、そうだ。アレだ。


「ついでにこれも返しておくね。お前が隠してた日記。ちなみに隅から隅まで読み込んでおいたからな。お前がいつから初潮始まったかもしっかり把握してるぞ?」

「……は?」


 空間収納からミニスの日記を取り出して、持ち主へと返す。せっかくマイホームで机があるのに、日記が無いって言うのは寂しいからね。まだページも残ってたし。

 ちなみに日記の内容は五割くらいが家族で、三割くらいが自分の事。残りの二割がそれ以外の事っていう感じの配分だったよ。どうも初潮始まった時はソレに関する性知識が無かったみたいで、もの凄い混乱と誰かに相談すべきかどうか迷いまくってた感情の動きが、文章から滲み出てたよ。まあ男で例えるなら何の知識も無く精通を迎えるようなもんだろうからね。大変生々しい文章で妄想が捗りました。

 何にせよミニスも日記が返ってきて嬉しいみたい。僕から日記を受け取ると、顔を赤くしてプルプルと震えて――


「――だから!! ちょっと見直したのにクソみたいな言動と行動で台無しにするのやめろぉ!!」

「ぽぉう!?」

「ご主人様ー!?」

「あ~っ!? 主~!?」


 渾身の回し蹴りを放ってきたぁ! 痛くは無いし効かないけど、吹っ飛んで壁を貫通して廊下をゴロゴロ転がっちゃったよ。

 あーあ、敷金が勿体ない……いや、土地の権利ごと買い取ったから払ってないのか。そういやそうだった。しかしミニスは照れ隠しが暴力的だなぁ? ハハハ。





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