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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第8章:夢のマイホーム
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魔将ベルフェゴール




「――ひっでぇ声! 何その黒板をひっかく音と食器が擦れる音と蜂の羽音で作り上げたみたいな悍ましい声は!? 頭がおかしくなるから普通に喋れない!?」

『……キさマアアぁぁァぁァァぁァァっ!!』


 あまりに酷い声質を指摘すると、気にしてたのか魔将ベルフェゴールはいきなりキレた。見える範囲にある全ての突起の目玉が一つ残らず僕に視線を向けて、謎の真っ赤な怪光線を放ってきた。

 とはいえ僕の防御魔法を貫く事は出来ずノーダメージ。でも何本か逸れた光線が床を容易く溶かして、穴を開けてるくらいの高威力だ。これ僕に向けて放ったからこの程度で済んだけど、目玉が全部別々の方向を向いた状態で放ってたら首都は崩壊してたのでは?


「叫ぶと余計にうるさいなぁ。見た目もだいぶアレだし、話をする前にコレを何とかするか――変身(トランスフォーム)!」

『グ!? ガ、ご、おっ、アアあァアアぁぁッ!?』


 対話しようにも声が耳障りすぎて駄目だから、とりあえず対話できる状況を作ることにした。具体的には魔将のキモイ姿と聞くに堪えない声を何とかするために、魔法で無理やり人の姿と声に変化させた。

 何か苦し気に悲鳴を上げてるのは……まあ、うん。巨体が少しずつ折りたたまれるみたいに圧縮されて、徐々に人の姿を形作ってるからかな。ちょっとイメージを間違えたっていうか、ここまでの巨体を人型に変身させるのは想定してなかったから……。

 まあ中断するのもアレだし、少し我慢してもらおう。おっと、その間にミニスに水でもあげるか。魔将の声のせいでさっきからこの僕が気の毒に感じるほどゲーゲー吐いてたしね。吐きすぎて若干血まで混じってきてたし……。


「う……ぁ……い、一体、何が……起こった、のだ……」


 などと僕が珍しくミニスを介護してると、ようやく変身の終わった魔将が声を上げた。変身があまりにも苦痛に塗れてたせいか、いつのまにか床に倒れてたみたいだね。

 うん、極めて普通の可愛らしい声だ。鼓膜を突き破りたくなるような酷い声はしてないね。まあちょっとモデルがアレだから、多少生意気な声になってしまった所があるけど……。


「な、何だ、この声は!? この姿は何だ!? 貴様、私に一体何をした!?」


 床から立ち上がろうとしてた魔将は、自分の出した声と自分のお手々に驚愕を露わにしてる。

 まあそれも当然だよね。醜悪の極みみたいだった冒涜的な姿が、ウサミミ生えた黒髪の幼女になってるんだもん。音波兵器みたいだった声はちょっと生意気な感じのする女の子の声になってるし。


「よし、成功。見た目と声がミニスモデルなのは仕方ないかな」


 とりあえずまともに対話できる姿と声にしたかった事、そして隣にミニスがいた事。この二つの要素が合わさった結果、魔将ベルフェゴールは何とミニスそっくりの姿と声になった。

 ただ姿に関してはミニスが白兎なのに対して、ベルフェゴールは黒兎になったね。格闘ゲームの2Pキャラみたいな感じだ。そういう認識もあったからこんな風になったのかもしれない。


「お、おおっ……おおっ……!?」

「……もしもーし。今お話しできるー?」


 で、ようやくまともに対話できる状態になったのに、何故か魔将の心はここにあらずって感じになってる。ぺたぺたと自分の身体を触りまくったかと思えば、宙に水鏡を浮かべて今度は顔をペタペタと触りまくる。

 しかも何か滅茶苦茶嬉しそうな顔してるぞ。無理やりに苦痛を伴う変身をさせたってのに、何で喜んでるの? もしかしてトゥーラの同胞(マゾ)なの?

 訝しむ僕を尻目にしばらく自分の身体を触りまくった魔将は、ようやくこっちに目を向けた。姿形はミニスと同じだから、とっても鋭い目をしてるなぁ。何て思ったのも束の間、魔将は僕の元にトコトコと歩いてくると、僕の両手をガシっと掴んできた。


「貴様っ――感謝するぞ! これほど愛らしい姿と声に変貌させてくれるとは!」

「……あれ? 何か滅茶苦茶喜んでる。何故?」


 そして、満面の笑みで感謝を捧げてきた。オリジナルになってるミニスの顔で僕に向けられた事の無いレベルの笑顔だぞ。これは一体どういうことだ?


「……あの姿と声が、本人も嫌いだったんじゃない? うぷっ……」


 腕をぶんぶん振られながら首を傾げる僕に対して、ミニス(オリジナル)が答えてくれた。まだ吐き気の余韻が残ってるのか、顔がだいぶ青いけどね。ていうか自主規制(モザイク)のせいでまともに見えてないはずなのに、姿がちゃんと見えるのか……もしかして変身させたせいで自主規制(モザイク)の対象から外れちゃったんだろうか。まあ解除の手間が省けて良かった。


「そうだ! 私はあの醜悪な姿と耳障りな声が死ぬほど嫌いだったのだ! だが見ろ、今の私を! 聞け、私の声を! こんなに愛らしく、耳に優しい声をしているぞ!」

「その……喜んでくれるのは嬉しいんだけど、私の声と姿をそこまで褒められるのはちょっと……」


 自分と色違いでしかない魔将の姿形を褒められ、微妙にミニスが居心地悪そうにする。普通に会話を交わせてる辺り、やっぱり魔将の本来の姿や声がまずかったんだろうなぁ。


「ていうかその姿と声が嫌いなら、魔法で変える事くらいできたんじゃない? 冒涜的な成りをしてても魔将でしょ?」

「それくらい何度もやろうとした。だが、駄目だったのだ。私たち魔将は種族の特性に関わる部分だけは、魔法を用いようとどうにもできないのだ。さりとて他者に頼もうとも、無駄に高い魔力が勝手に抵抗して影響を跳ね除けてしまうという有様でな……」

「ふーん……」


 自分で変身すれば良いじゃんと僕が尋ねると、そんなちょっと面白い答えが返ってきた。

 でも冷静に考えてみればおかしいことではないんだろうね。種族的な弱点を魔法で何とかできるなら、吸血鬼とかが真っ先にやってるだろうし。サキュバスとかも快楽っていう必須栄養素を摂取しなくても良くなるなら――いや、アイツらは種族的にエッチな事が好きだからやる意味がないか。


「だが! 貴様のおかげで私は、こんなにも愛らしい姿と声を手に入れる事ができた! 例え一時的なものと言えど、何よりも嬉しい贈り物だ! 感謝するぞ――そういえば名を聞いていなかったな? 貴様らの名はなんだ?」

「あ、僕はクルス。そしてお前の元となったのがこっちのミニスね」

「そうか、私の名はベルフェゴール・カイツールだ。感謝するぞ、クルスよ! 私に出来る事ならば、何でも一つ願いを叶えてやろう!」


 ん? 今何でもって言ったよね?

 でも、さすがにあの冒涜的な姿と耳障りな声を思い浮かべると急速に萎えて来るなぁ。だからエロいお願いは無しだね。そもそも今の姿は単なるミニスの色違いだから、エロいこと頼むならミニスに頼むよ。


「じゃあ一つ聞きたいことがあるから教えてくれない? 実は僕は魔法が超得意で魔力も膨大だから大概の事は実現できるんだけどさ、お前の事を魔法で調べたら聖人族も魔獣族も殺したいくらい憎んでるって情報が得られたんだ。これはどうして?」

「何だ、そんな事か。決まっているだろう。どいつもこいつも可愛かったり綺麗だったり美しかったりで、私があまりにも惨めな存在だからだ。私の姿を目にすれば、私の声を聞けば、どいつもこいつも悲鳴を上げたり嘔吐したり、挙句の果てには発狂したり……同族である魔獣族でさえそんな反応をするのだぞ? 他の魔将は大いに好かれ、崇められているのだぞ? 挙句魔王に『お前がいると混乱が巻き起こる』と言われ、城の地下で眠りにつくように命じられる。果たしてこれで同族が好きになれると思うか? 守りたいと思うのか?」

「うわぁ……コイツも結構闇が深いなぁ……」


 せっかくなので気になってた事を尋ねてみると、リアに負けずとも劣らずな暗黒を瞳に滲ませながら答えてくれた。どいつもこいつも心に闇を抱えすぎじゃない?

 ただまあ、リアは矯正不可能だけどコイツの場合はそこまで重傷じゃないな。殺意の根底にあるのは自分とは違って容姿や声がまともな事への嫉妬であって、地獄のような日々で積み重なった恨みつらみや憎悪じゃないし。何よりベルフェゴール自身が自分の醜さを理解してるって所が重要だ。だからこそ殺意を行動に移したりはせず、大人しく城の地下で眠ってんだろうね。

 それに可愛らしい声と姿を手に入れた今は、僕にもミニスにも一切敵意を向けてきてない。底辺だった自分が平均以上になれたから、殺意もかなり萎んでるみたいだ。


「……ねぇ。もしかしてコイツも仲間にするわけ?」

「いや、うーん……それはちょっと難しいかな? コイツの場合はリアと違って、同族も敵種族も纏めて滅ぼしたいと思ってるみたいだし……」


 とはいえ、全ての種族を殺したいと思ってる危険物なのは変わりない。何よりもう一度解析(アナライズ)で調べても結果は変わって無かったしね。今の状態はあくまでも一時的なものであって、やっぱり根っこは変わらないんでしょ。クッソ醜い姿と声と同じようにね。


「いや、今は別に滅ぼしたいとは思っていないぞ? 何せこんなに愛らしい姿になれたからな! 向こう百年は大丈夫だ!」

「百年越えたら滅ぼしたくなるって事じゃん、それ……」

「本当にどうすんのよ、コイツ……」


 僕もミニスも、目の前のご機嫌な魔将に揃って困惑する。

 ちょっと顔を見るだけのつもりだったのに、気付けばこんな良く分からない状況になってるよ。上の階の巨大魔法陣の事もあるし放置はできないけど、かといって真の仲間の資格も無いから仲間に加えるわけにもいかない。本当にどうすればいいんだろうね、コイツ?


「……あ、良い事思いついた」

「どうせろくでもない事でしょ」


 新しい服を買ってもらったおしゃれな女の子みたいにクルクル回る魔将をしばし眺めた後、僕は名案を思い付いた。まだ何も言ってないのにミニスがろくでもない認定してくるのが酷すぎる。一石三鳥の素晴らしい案なのになぁ。


「ねぇねぇ。ちょっと提案があるんだけど」

「うん? 何だ、クルスよ?」

「未来永劫可愛い姿のままでいられる、って言ったらどこまでの対価を支払える?」

「――っ!!」


 僕がそんな砂糖よりも甘い言葉を口にすると、魔将はごくりと息を呑んだ。

 何か一時的な変身だって勝手に思ってるみたいだけど、僕が意図的に解除しない限りは変身は解けないからね。つまりはずっと可愛い姿のままでいられる。ベルフェゴールにとっては何を対価にしても今のままでいたいでしょ。

 僕の予想通り、しばしの間を置いてベルフェゴールは答えた。何でも、望みのままに、と。うん、今何でもって言ったよね? 後悔するなよ? グヘヘヘ……。




 


⋇魔将はこれで全員です。ただ大天使はまだ未登場のが一人います

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