地下にあるモノ
⋇残酷描写あり
⋇胸糞描写あり
名前:ヘイナス
種族:魔獣族(悪魔族)
年齢:425歳
職業:魔王
得意武器:大剣
物理・魔法:7対3
聖人族への敵意:極大
魔獣族への敵意:無し
はい、アレは魔王! そして魔王は屑! 閉廷! 解散!
あーもうっ、何でどいつもこいつも屑ばっかりなの? 創造主たる女神様はちょっとポンコツだけど良い子で優しい心の持ち主なのに、何でこんなゴミばっか生まれるんですかね? やっぱり世界を焼き払って一度リセットした方が良いのでは?
「ひいっ……も、もう嫌だぁ……!」
闘技場内を逃げ惑ってた聖人族が、武器を手放してその場にへたり込む。
僕たちが降り立ったのは観客席だから、コロシアムの様子がよーく見えるよ。どうにも聖人族たちは武器を与えられてるみたいなんだけど、力量差がデカすぎて絶望してるみたいだ。
そんな絶望した聖人族の前に立つのは、二メートルを優に超える巨漢の魔王。顔はまあ、イケメンと言えない事も無い感じかな? かなり筋肉で修飾されてる感じだけど。でもまあ、魔王らしさは出てるんじゃない? 長い赤髪に真っ黒な瞳は迫力があるし、デカい角は捻じくれてかなり禍々しい感じの形になってるし、背中から生える翼もとっても力強い。尻尾も筋肉質だし、アレは一種の腕なのでは?
そんな姿の魔王が、上半身裸で鍛え抜かれた筋肉を晒して、呪いを発してそうなおぞましい大剣を手に立ってる。並みの勇者なら漏らしそうな迫力がありますね。下で頑張ってる聖人族たちも怯えて動けない奴らもいるし。
「どうした、クズ共。かかってこい。それが嫌なら逃げ惑え。精々俺を楽しませろ」
「ゆ、許してください! 許して――ギャアッ!」
跪いて懇願する聖人族の胴体が、魔王の大剣で切り飛ばされた。上と下に分かたれた胴体がそれぞれ地面に落ちて、聖人族はほぼ即死……かと思ったら何か結構生きてるな。声は出せないみたいで、声なき声で絶叫してるみたいだし。
「俺に一撃でも入れられれば、地獄のような日々から解放してやると言っているんだ。そしてお前らは簡単には死なぬよう、俺が直々に魔法をかけてやっているんだぞ。チャンスだとは思わないのか?」
なるほど。簡単に死ななかったのは魔王が魔法で無理やりに延命をさせてるからか。そしてこの虐殺は聖人族の奴隷たちにチャンスを与えてるって事だね。戦う気にさせるための嘘にしか聞こえないんだけど、本当に解放する気あるのかな?
「う、うあああぁぁあぁぁぁぁっ!!」
勇気を出したのか、それとも恐怖で気が狂ったか、魔王の背後から一人の聖人族が斬りかかる。せめて叫びながら攻撃するのやめよ? 今から不意打ちしますって宣言してるじゃん……。
「ハッ、叫びながら不意打ちをする奴があるか。馬鹿が」
「ぐあっ……!?」
その一撃を、魔王は背後すら見ずに弾いた。その筋肉質な尻尾でね。やっぱり腕みたいなものじゃないか。ていうかこんな屑と同じ事考えたのがショック……。
「不意打ちは静かに悟られずにやるものだ。良い勉強になったろう? これは勉強代だ。しばらくそのままでいるがいい」
「お……ごぉ……!?」
魔王がパチンと指を弾くと、その聖人族は足元から発生した土の槍で身体を貫かれた。こう、股の間から入って後頭部から出る形で……アレ、絶対男の象徴も貫かれてるな……何が酷いって、そんな状態でも貫かれた聖人族は生きてるって事。
男に問答無用で精神的ダメージを与えるオブジェが出来たせいか、聖人族の奴隷たちの士気が滅茶苦茶に下がってた。まあそれはあくまでも男だけで、女は普通に闘志を燃やしてたけどね? むしろ全体的に見ると女の方が頑張ってる節がある。野郎は駄目だな、全く……。
「何これ……」
眼下の残酷な光景に、ミニスも隣でドン引きしてる。
今でこそこんな反応してるけど、コイツも最初は聖人族を襲って殺そうとしてたんだよねぇ。時間をかければ人の意識も変えられるっていう生きた証明になるけど、あまりにも時間がかかるからその手の仲間の増やし方はやっぱり無しだね。
「これは戦いって言うよりも狩りだね。魔王様が狩りの衝動を発散するための狩場が、この地下闘技場ってわけなんじゃない?」
「本当に最低ね。悪趣味よ。反吐が出るわ……」
「そうだねぇ。よーし、ちょっと痛い目を見せてやるか?」
どっちかって言うと僕は良い趣味だって思ってるけど、民の上に立つ王様がこんな趣味してるのはちょっとねぇ? これは少しお仕置きをしないといけないね?
「あ、あれ……? 何だ? 身体に、力が……!」
そんなわけで、一番元気そうだった聖人族の男の身体能力を魔法で強化してやった。具体的には六十倍くらいかな。もちろんそんなに身体能力を強化したら、後々反動で筋肉とか骨がぶっ壊れるだろうね。
僕の時はちゃんとそれを考慮して魔法で対処してるけど、別にあの男はどうなろうと構わないし対策は特にしてないよ。ただ激痛で動けなくなるとちょっと困るから、痛覚だけは誤魔化してやった。何なら今この瞬間にも筋線維が断裂しかねないレベルの負荷がかかってるだろうけど、そのおかげで気づいてないっぽい。
「……これなら、いける! うおおおぉぉぉぉぉっ!!」
「馬鹿が。俺に正面から挑んでくるとは」
文字通り命を燃やした特攻を、正面から仕掛ける男。余裕綽々な魔王は、堂々とその場で迎え撃とうとしてた。あんまり甘く見ない方が良いぞ? 今の彼は膂力六十倍だよ?
「くらえ、魔王っ!!」
「ふん。そんな貧弱な一撃など――何っ!?」
男が振り下ろした長剣の一撃は、確かに魔王の大剣で防がれた。でも身体能力六十倍になってる男の一撃のあまりの重さと、それに気付かなかった魔王の油断によって、魔王に片膝をつかせることに成功した。よくやった!
「うりゃああぁぁっ!!」
「ごあっ……!?」
あまつさえ男は蹴りを放ち、魔王の顔面に手痛い一撃を叩き込んだ。
幾ら肉体的に弱い人間とはいえ、身体能力六十倍で放たれた渾身の前蹴りだ。魔王は鼻から血を噴き出しながら吹っ飛んでったよ。ざまぁ。
「やった! 顔面に蹴り一発! ざまあみろ!」
などと真っ先に喜んだのは周囲の聖人族――ではなく、僕の隣にいるミニス。お前、一応アレはお前の国の王様なんだからね……?
「は、ハハ……やった! 一撃入れたぞ! 俺たちは自由だ!」
「ほ、本当に!? や……やったああぁぁぁぁぁっ!!」
「これでもう、あの地獄の日々から解放されるのね!?」
「ああ、そうだ! ようやく自由になれるんだ!」
魔王に一撃入れて解放されるための条件を満たしたおかげで、聖人族の奴隷たちは大盛り上がり。反応からすると、どうにも碌な扱いをされてこなかったっぽいですね。
たぶんアレだ。アロガンザの闘技大会で前座として出てきた聖人族の奴隷たち。アレと同じような育てられ方をした奴らなんじゃないかな?
まあ何にせよ、魔王に一撃入れたから約束通りコイツらは解放されるってわけだ。ただ、それは魔王が本当に約束を守るタイプだったらの話で――
「――グランド・クロウ」
「なっ――ぎゃああぁぁあぁぁぁっ!?」
「あああぁぁあぁぁぁっ!!」
あー、うん。ダメっぽいね? 起き上がった魔王が突然魔法を放って、聖人族たちの足元から鋭く尖った土の槍が何百も怒涛のように突き出てきたから。半数ほどはそれに貫かれて生きたまま醜いオブジェに変貌してたよ。
「……テメェ、よくも魔王たるこの俺にきたねぇ足で蹴りを入れやがったな! ぶち殺してやる!」
「ど、どうして!? 一撃入れたのに、どうして私たちを解放して――あぐっ!?」
「誰がテメェらクズ共との約束なんて守るかよ! テメェら全員、ぶち殺してやるぜ!」
「う、うわああぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」
そこから始まる、正真正銘の虐殺。しかしちょっと蹴られたくらいで言葉を乱すなんて、魔王の器の小ささが知れるね。僕なんかここに来るまでに三十回近く尻を蹴られたのに、怒らずいつも通り接してるよ?
「……は? え、何これ?」
「ま、そんな事だろうと思ったよ。これで魔王もクズ確定、っと。本当にこの世界の奴らって上も下もクズばっかりで救いようないね?」
目を丸くしてるミニスの頭をポンポン叩いて、僕は欠伸を零す。聖人族に対する敵意も【極大】で矯正不可能なレベルだし、これはいつか魔王には死んでもらうしかないね。これは決定事項だ。
「ハハハハハハハ!! そらっ、死ね! くたばれ!」
「あ、ぎ、あああぁ……!!」
「……どう? アレがお前の国の王様だぞ?」
「やめて。聞きたくないわ、そんな醜い真実……」
僕の皮肉に、ミニスはウサミミをパタンと畳んだ上で、人間部分の耳を両手で塞ぐ。
さすがの鋼メンタルのミニスも現実を直視したくないらしい。まあ自分の国のトップがアレじゃあ仕方ないね。あんなんじゃ僕がトップになった方がマシじゃない? え、それはそれで地獄? そう……。
「……何にせよ、魔王がアレじゃあ世界を平和にしても駄目だね。その内しっかり処分しておこう」
「早めにお願いするわ。あんなのが国を支配してるとか、生きた心地しないし……」
顔を青くしながらも、そんなお願いをしてくるミニス。
仮にも自国のトップを早めに処理して欲しいとか、コイツもだいぶぶっ飛んだ事を言いだすようになってきたね。でもアレをそのままにしたらミニスの故郷にも影響出そうだし、仕方ないと言えば仕方ないのかな? 数年くらい経ったらミニスの妹のレキも徴兵の範囲に入るだろうし。
「さて、魔王のツラを拝めたことだし、そろそろ次の階に行こうか。たぶんまだまだ下に続いてるだろうしね」
「……もしかして、最深部にいる魔将って魔王よりヤバい奴なの……?」
不安に満ちたミニスの呟きを背に、ひとまず観客席の床に穴を開けて下に降りる。
残念ながらその不安は現実になる可能性があるんだよなぁ。バールの言葉を信じるなら魔王より魔将の方が強いはずだし。だからヤバさも魔王とは次元が違う可能性もある。何せ国が滅びる寸前までは解放されないっぽいし……。
というわけで、僕らは地下最深部を目指して進む。地下一階は闘技場だったけど、地下二階は牢屋とか拷問部屋がある素敵な階だったよ。さっき闘技場で見た聖人族たちは、ここで毎日地獄を見せられてたんだろね。僕も可愛い女の子に地獄を見せたいな?
地下三階はいわゆるシェルターの類だった。最初は食糧とか色々あったからてっきり食料保存庫か何かかと思ったけど、トイレとかお風呂とかベッドとかもあったしね。壁っていうか天井もかなり厚かったし、地下二階以上が崩れてもたぶん大丈夫なんじゃない?
しかしこれ、一体地下何階まであるのかな? そろそろ飽きてきたぞ?
「地下二階は牢屋兼拷問部屋、地下三階は緊急時のシェルター。さてさて、地下四階は何かなぁ?」
「とりあえず私を落として高さを確認すんのやめろおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――!!」
地下三階の床に穴を開けて、ミニスを落として高さを計る。何か抗議の声が聞こえたけど、少しずつ小さくなっていったから気にしない。
さてさて、今回はどれくらいの高さかな?
「……三……四……五……着地……あれ? 何か今回は滅茶苦茶高くない? 気のせい?」
大体五秒弱経過してから、着地の音が聞こえてきた。あとついでにミニスの悲鳴も小さく聞こえてきた。着地に失敗したのかな?
しかし五秒超えたって事は、軽く百メートル以上の高さがあるって事だよね? 今までは化け物染みた跳躍力で戻ってきて回し蹴りをかましてきたミニスも帰ってこないし、高さに関しては本当にそれくらいあるんだろうね。地下四階は一体どうなってるんだ?
「とりあえず降りてみるかぁ。よっと」
何にせよ実際に見てみるのが一番だ。というわけで、僕は躊躇なく床の穴に身を躍らせた。一瞬視界が真っ黒に染まった後、眼下に階下の景色が広がった――って、うわ、何だこれ。巨大な魔法陣?
ただただ暗闇が広がるだだっ広いこの階層に、薄紫色に不気味に光る巨大な魔法陣が鎮座してる。現在上層から落下中だってのに全体像が見えないレベルだ。これ下手すると首都よりも広範囲に広がってるでしょ。
カルナ先生曰く、複雑な効力を発揮する魔法陣はそれだけ紋様が複雑になるとのこと。そして基本的には魔法陣が大きければ大きいほど規模や範囲が大きいとのこと。この巨大魔法陣はわりとシンプルな紋様してるから、そこまで複雑な効力を発揮するわけじゃないだろうけど……デカさが問題なんだよなぁ。もしかして世界規模で効力を発揮するのでは……?
「……いつか絶対、あんたをギャフンと言わせてやる……!」
足を押さえて地面でゴロゴロしてるミニスの隣に着地すると、恨みがましい声と共に涙の滲んだ瞳を向けてくる。どうやらさすがに百メートル以上の落下は無傷とは行かなかったみたいだね。
それでも周囲に一切血が飛び散ったりしてない辺り、それほどの負傷でもなさそうなのが恐ろしい。もしかして両脚で着地して衝撃に痺れてるだけなのでは……?
「……ギャフン」
「今言うな! あーもうっ、本当にあんたはクソ野郎ね!」
「まあまあ落ち着いて。そんなことよりもこの光景をどう思うよ?」
「……何かの、魔法陣よね? でも、こんな巨大な魔法陣なんて街でも見たこと無いわよ?」
「だよねぇ。僕もこんなデカい魔法陣は初めて見たよ」
見た中で一番大きかった魔法陣でさえ、レーンが黒板にデカデカと描いた説明用の魔法陣だったし。この魔法陣はそれの何百倍、下手すると何千倍もありそうな感じだなぁ……さすがにこれはスルーできないし、ちょっと調べてみるか。たぶん僕なら調べられるでしょ。
「……解析」
そうして僕は、このクソデカ魔法陣の情報を調べようと解析を使った。対象は勿論、この魔法陣そのもの。調べる内容はこの魔法陣が発動した時に効力を発揮する魔法の名前と、効力そのもの。あとは魔力の充填率だね。
で、ちょっぴりわくわくする僕の頭に流れ込んできた情報なんだけど、これがまたとんでもねぇ問題児でさぁ……。
名前:パラダイス・リアライゼーション
効果:この世界に存在する全ての聖人族の心臓を停止させる
魔力充填率:90%
「うっわぁ……」
うん、僕はちょっと勘違いしてたね。女神様が言ってた魔王城地下にある何とかして欲しいモノってこの魔法陣だわ。放っておいたら聖人族がみんな心臓麻痺か何かで死んじゃうからね……。