魔王城潜入(二度目)
⋇残酷描写あり
「というわけで、やってきたぜ魔王城!」
翌日の昼間。改めて僕は魔王城にやってきた。
昨晩はちょっと思わぬトラップに引っかかって、そのまま帰宅しちゃったからね。だって魔王のお城だけあってメイドさんのレベルもクソ高かったんだもん。どいつもこいつも美少女、美女揃いだし……とんだ伏兵がいたもんだよ、全く。
え? そんなんじゃまた同じ失敗を繰り返すだけだろって? フフフ、心配ご無用。二度と同じ轍を踏まないために、今日はちゃんと作戦を考えて来たからな!
「……何で私まで連れてこられたわけ? 自由行動は?」
「時間外労働です。君にはツッコミ役と、僕が誘惑に負けそうになったら引き戻すという仕事を任せるよ。昨日来た時はエッチなメイドに辛抱堪らなくなって、そこらの部屋に連れ込んでヤっちゃったし……」
その作戦とは、ミニスを一緒に連れてくる事。そしてツッコミ役と僕を正気に戻す役割を任せる事。
昨日しばらく自由行動って言った手前、連れてくるのはさすがにちょっと心苦しかったよ。でもまあ上司からの急な呼び出しで休みが潰れるなんて事、社会じゃ日常茶飯事のはず。運が悪かったと諦めて貰うしかないね。
「どっちの意味のヤったにせよ、あんたがクソ野郎だって事は良く分かったわ。確かにあんたを一人で行かせるよりはマシかもだし……」
「理解してくれて嬉しいよ。というわけで、それじゃあ行こうか」
僕が美味しく頂いたメイドさんに同情してるのか、何やら遠い目をするミニス。別にそこまで酷い事してないのにねぇ? メイドさんも最初は泣き叫んでたけど、途中から静かになって受け入れてくれたし。まあ目は死んでたような気がしなくもないが。
何にせよミニスが納得してくれたのなら問題なし。そんなわけで心強い同行者を得た僕は、今度こそ魔王城の中を堂々と進んだ。もちろん僕にもミニスにも消失をかけてあるから、誰にも見咎められる事は無いぞ。
「……ていうか、そもそも何で魔王城に侵入してるわけ?」
「魔王のツラを拝むため、あとは女神様からの依頼をこなすためだね。何か城の地下のヤバいモノに対処して欲しいって――お、ここ使用人専用のロッカールームじゃん。メイドさんのお着換え見たい――痛ぁい!?」
その辺の扉を開けて見えた素晴らしい光景に飛び込もうとすると、途端に尻に蹴りが叩き込まれた。
ちゃんと防御魔法をかけてあるから実際に痛くは無いんだけど、周囲に響く衝撃音がもの凄いんだわ。これ防御魔法無かったら僕の尻が爆散してたのでは? どんな脚力で蹴ってるんだ、コイツ……。
「女神様からの依頼って事を先に言いなさいよ、このスケベ野郎。ていうか地下に一体何があるっていうのよ?」
「バール曰く、地下には魔将の最後の一体がいるらしいよ。何かとんでもない危険物って話で、ずっと眠りについてるんだよね。魔獣族が滅亡する時くらいにしか起こさないっぽい」
「何なのよ、それ……てことは、敵も味方も関係なく襲う奴ってこと?」
「さぁ、どうなんだろうね? それにしてはバールの奴、やけに言葉を濁してた気がするし――あ、ここお風呂じゃん。メイドさんの入浴シーン見たいなぁ――痛ぁい!」
「はあっ。先が思いやられるわね、これは……」
僕の尻に情け容赦のない強烈なキックを叩き込んだミニスが、やたらに重いため息を零した。
でもしっかり仕事はしてくれるんだね! やっぱり連れて来た甲斐があったよ! できればもうちょっと力を緩めて欲しいんだけどなぁ!?
そうして僕はミニスに尻を蹴られつつ、魔王城の探索を続けた。玉座の間から魔王の執務室まで、色々な所を探したよ。ちなみに魔王の娘は見つからなかった。せっかく女神様から拉致監禁の許可が出たのに、いないとかどういう事だよ。これは探しに行かないといけませんね。
なんて事を考えてたらまたもミニスに尻を蹴られる始末。そうだよ、探しに来たのは魔王なんだよ。何で魔王の娘を探そうとしてるんだ。しっかりしろ。これ以上尻を蹴られたら何かに目覚めそうだ。
「うーん……なかなか魔王が見つからないなぁ?」
とはいえ、やっぱり魔王の姿は見つからなかった。何で玉座の間にも執務室にもいないんですかねぇ? これもしかして城の中にはいないのでは? 父子揃っていないとか舐めてんですかねぇ?
「これだけ広ければ当然よね。ていうか、あんたならどこにいるか調べられるんじゃないの?」
「さすがに見ず知らずの相手を探すのはちょっと難しいかな。もうその辺の使用人をとっ捕まえて居場所を聞き出した方が早そう――あっ、ちょうどいい所に可愛いメイドさんが」
「関係ない事しようとしたらまた尻を蹴るわよ」
人に聞くという初歩的な方法を実行に移そうとしたら、ミニスがぼそりと注意してきた。さすがにアレだけ蹴られれば身に染みて理解してるよ。確かに今そこを通りかかってる狐っ子メイドさんは、長いお耳とものすっごいフカフカで気持ち良さそうな尻尾してるから、襲い掛かりたくなっちゃうんだけどさ。
いや、ていうか本当に可愛いなぁ。本当にメイドのレベル高いわ、魔王城……。
「お掃除お掃除――ぐっ!?」
狐っ子メイドさんに堂々と近寄って、口を塞いで魔法で抵抗の力を奪いつつ消失で姿を消しておく。
後ろで睨みを利かせる怖い兎がいるから、性的な欲望は涙を呑んで抑え込んだよ。手の平に伝わる唇の感触、ぷるっぷるで柔らかいなぁ……。
「ちょっと聞きたいんだけど、魔王がどこにいるか知らない? さっきから探してるのになかなか見つからないんだ」
「だ、誰ですか、あなたたちは!? 離してくださ――きゃああぁぁぁあぁぁぁっ!?」
まあそれはそれとして、正直に答えてくれないなら痛めつけるのは当然だよね? というわけで右腕をバキリとへし折ってあげました。この悲鳴も可愛くてまたそそるんだわ……。
「質問してるのはこっちだよ? 君は大人しく魔王の居場所を教えてくれればそれで良いんだよ。痛い思いはしたくないでしょ? それとも気持ちいい思いがしたい?」
「だ、誰かぁ!! 賊が城内に侵入して――あああぁぁああぁぁぁぁぁぁっ!!」
今度は助けを呼ぼうとしたから、左腕もバキッとへし折る。これでもかなり優しくしてる方なんだけどなぁ? これでも教えて貰えないなら、もう加減せずに徹底的に嬲るしかないな?
「はい、ツーアウト。優しさを見せるのはここまで。もう次は無いよ。大人しく魔王の居場所を教えてくれるかな?」
「その……大人しく教えた方が良いわよ? たぶんあんたが答えなかったら、あんたを殺して別のメイドに聞くだけだろうし……」
何だか微妙に顔を青くしたミニスが、優しい声音で狐っ子メイドに語りかける。たぶん腕の骨をへし折る音がかなり堪えたんじゃないかな。でもたかが腕の骨が折れただけじゃないか。どっかのクソ強マザーだって、人間には二百十五本も骨があるから一本ぐらいどうでもいい的な事言ってたし。
何にせよ意図せず飴と鞭みたいな攻め方になったせいか、狐っ子も答える気になってくれたみたい。必死に痛みを押し殺すように荒い息を零しながらも、抵抗するのをやめてくれたよ。全く、最初から素直に答えてくれればいいのにね?
「……ま、魔王様は……地下一階の、闘技場に、います……」
「闘技場? 何で城の中に闘技場があるんですかね?」
狐っ子メイドは魔王の居場所を教えてくれたけど、その居場所が首を傾げたくなる感じのものだった。
しかし、地下か。地下はまだ探してなかったな。本当に闘技場があるかどうかも気になるし、地下に探しに行ってみるか。
「まあいいや。教えてくれてありがとう。それじゃあ死んでいいよ」
「グギッ!?」
もう用は無いから、遠慮なく首の骨をへし折って狐っ子メイドを殺した。そして例の如く腐敗を防ぐ魔法をかけて、空間収納にポイっと放り込む。死体を残していくと色々と面倒だからね。決してコレクションしたいからではない。
「最っ低……」
「うーん、その冷たい声音はゾクゾクするねぇ……」
泣きながら怯える狐っ子メイドを容赦なく殺したせいか、ミニスがゴミでも見るような冷たい目付きで罵倒してきた。Mじゃないけどそういう目で見られると興奮するんだよなぁ。その目が恐怖に怯える様子を想像しちゃってさぁ……。
「何にせよ魔王の居場所が地下一階だって分かったんだし、早速行ってみようか」
「それは良いけど……地下への階段なんてどこにあるのよ?」
「分からん。だから作る」
「は?」
意味分からんって感じの反応をするミニスを前に、僕は魔法で床に大きな穴を開けた。下の階の天井までを円筒形にくり抜いた感じにね。いやぁ、魔法って便利ですね?
「これで出来た」
「えぇ……」
「本当は階段創ろうと思ったけど、これが繋がるのは地下一階の天井だからね。とりあえず穴を開けるだけにしておいたよ。しかし僕は夜目が利かないから、どれくらい深いか分かんないな?」
そう口にして、僕は場所を開けるように後退した。奴隷精神の染み付いてるミニスはそれだけで意図を察してくれたみたいで、僕の代わりに穴の中を覗いてくれたよ。いや、本当に助かるわ。やっぱり連れてきて良かった。
「……何か結構高そうよ。普通に数十メートル以上はあるんじゃ――は?」
そんなわけで一つ頷いた僕は、ミニスの背中を軽く前へと押した。前にあるのは、床に大きく開いた丸い穴。当然ミニスはその穴の中に真っ逆さまに落ちて行ったよ。そして僕は耳を澄ませて衝突までの時間を計る。
「一……二……三……衝突。大体三秒か。約四十メートルってとこかな?」
幾らお城とはいえ、床から天井まで四十メートルあるとか随分高いな。本当に地下に闘技場があるなら高さもそれなりに無いと駄目だろうし、その影響かな?
え? 今の一連の流れは何かって? それは物体が落ちるまでの時間である程度の高さが分かるから、大雑把に計算してたんだよ。え、そっちじゃないって? じゃあミニスを落とした事の方? いや、だって何かを落とさないと分かんないし……。
「――うらああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐふうっ!?」
なんて変な事を考えてたら、気合の入った雄たけびと共に穴の中から憤怒の表情のミニスが飛び出してきた。そして間髪入れずに僕の側頭部に回し蹴りを叩き込んでくるっていう……これはさすがに予想できずにもろに食らったよ。幾ら身体能力の高い獣人とはいえ、四十メートルの垂直飛びを決めて帰ってくるとは思わないじゃん? そもそもさっきまでずっと尻を蹴られてたから、まさか顔を蹴りに来るとは思わんし。
「お前のジャンプ力おかしいよ! 足にバネでも仕込んであんのか!?」
「おかしいのはあんたよ! 何でナチュラルに私を使って高さを確かめんの!? 私って一応あんたの仲間なのよね!?」
「そうだよ。でも大丈夫。ここにいたのがリアでも、僕は同じことをしたよ」
ちなみにここにいたのがキラかトゥーラだった場合、どっちも無駄なのでやらない。キラは穴の内壁を蹴って帰ってきそうだし、トゥーラも似たり寄ったりだ。そもそもトゥーラなら僕が跳べって言えば躊躇なく跳びそうだし、わざわざ押す必要も無い。
「あの子翼あるから意味ないじゃない! このクソ野郎!」
「まあまあ、そうカッカしないで。早く下に降りよ?」
「誰のせいだと思ってんのよ!? あーもうっ、本当にイラつく!」
ぴょんぴょんと謎の地団駄を踏んだ後、ミニスは自ら穴の中に飛び込んで行った。
しかし、穴の中に入って行くウサギか。そんな物語があったような気がするね。この場合、そのウサギを追って穴に入る僕こそがアリス? 僕は不思議の国に迷い込んだ女の子だった?
「ジェロニモォォォォォォッ!!」
この程度の高さでダメージ食らうような軟弱な防御はしてないから、とりあえず僕も穴の中に飛び降りた。
ちなみに『ジェロニモ』っていうのは一種の掛け声ね。経緯とか来歴は分かんないけど、何か高所から飛び降りたりする時に使う掛け声らしいよ? まあ現代社会じゃあんまり使う機会がない掛け声だね。僕も前の人生と合わせて今初めて使ったし。
「……着地!」
数秒落下した後、僕は膝がイカれると噂のスーパーヒーロー着地を決めた。
何でそんなカッコつけてるのかって? いや、ちょっと落下中にそれなりに胸糞悪い光景が見えちゃってね。そんな味の悪さを着地で味付けして後味を良くしてみました。
で、落下中に見えた光景っていうのが――
「ギャアアアァアァァァァァァッ!!」
「ハハハハハ!! 死ねぇ!!」
だだっ広い地下闘技場で行われる、一方的な虐殺の光景。大柄な悪魔の男が無骨で禍々しい大剣を振り回して、粗末なボロ切れに身を包んだ聖人族たちを嬲り殺しにしてたんだ。とっても楽しそうに、返り血を浴びて高笑いしながらね。
頼むからアレが魔王とかやめてよ? もしアレが魔王だったら聖人族も魔獣族も滅亡させた方が良い屑しかいないじゃん……。
⋇扱いがアレですがミニスもちゃんと真の仲間です。