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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第8章:夢のマイホーム
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勝者の願い

⋇暴力描写あり

⋇残酷描写あり



 ついに始まった、何でもあり(バーリ・トゥード)な地獄の徒競走。開幕直後にやらかしそうな奴らがいるな、と思った僕は実に正しかった。でも真っ先に動いたのは警戒してた奴らじゃなかった。


「――フラ~ッシュ!!」

「ぴゃああぁぁぁっ!?」

「きゃあああぁぁぁっ!?」

「ぐおっ……!?」


 開始宣言の直後、トゥーラの手から眩い閃光が迸って、本人と僕以外の全員が悲鳴を上げて目を覆う。

 これはしばらく目が使い物にならないな。正面を見てれば片目で済んだかもしれないけど、キラとミニスはトゥーラを間に挟んでバチバチに睨み合ってたから駄目だったね。リアも開始の宣言をする僕を一番遠くから見てたせいで、バッチリ両目を潰されたみたいだし。

 ちなみに僕は以前に防御魔法越しに目潰しをされた経験があるから、しっかりアップグレードして目潰しは無効化できてるよ。その目潰しをしてきた奴は今そこで苦しんでるけどね。ざまあ。


「ハハハハハ~! 一番は私だ~!」

「スタートと同時に目くらまし。えぐいなぁ……」


 高笑いと共に大地を蹴り、風のように駆けていくトゥーラ。当然目を潰されて苦しむ三人は続けないからほぼ独走だ。

 しかし、出会ってから初めてトゥーラが魔法を使う所を見たなぁ。やっぱり使わないだけで、使えないわけじゃないのか。戦闘じゃ碌に使わない癖に、こういう時だけ容赦なく使うのはちょっとずるくない? コイツが一位になると何をお願いされるか怖いから、できれば他の奴が勝って欲しいかな。


「あううぅぅぅ……! 目が、目があぁぁ……ひゃうっ!」


 目が見えないままよろよろと明後日の方向に歩き、ボテっと転ぶリア。とりあえずお前にはあんまり期待してないかな。まあ適度に頑張って?


「あの野郎、舐めやがって……ヒール!」

「ううっ、目が痛くて何も見え――あれ? 見える……?」


 おや、珍しい。キラが自分だけじゃなく、ミニスの視力も回復させてやったみたいだ。

 でもこれが優しさからの行動じゃないって事は、キラの事を良く知ってる奴なら誰でも分かるよね? 


「オラッ、クソ兎! テメェが礼をしに行きやがれ!」

「きゃあああぁぁぁぁぁぁっ!?」

「わー、ぶん投げた……」


 予想通り、キラはミニスのウサミミをむんずと掴むと、力いっぱい振り回してトゥーラの遠ざかる背中目掛けてぶん投げた。どうやらミサイルを誘導ミサイルにするためにミニスの視力も治してやったっぽいね。

 確かにミニスも目潰しを食らった側だし、進んでお返しをしに行くと思う。何より成功すればミニスがトップに躍り出る事ができるし。


「あーもうっ! クソ犬もクソ猫も皆大っ嫌いよ!」

「むむっ、殺気~!?」


 メンタルが強いミニスはやっぱりそのまま反撃を選択したみたいで、空中で体勢を整えて蹴りの姿勢に入ってた。背後から迫るウサギ弾頭の殺気にトゥーラが気付いた頃には、もうお互いの距離は目と鼻の先だった。


「――死ねえええぇぇえぇっ!!」


 そして、ミニスが空中で蹴りを放つ。キラに投げられた勢いと、兎獣人の脚力が加わった破滅的な一撃だ。できれば僕もまともに食らうのはごめんだね。


「ハハハ、甘~いっ!」

「うごええぇぇぇっ!?」


 まあもちろん、工夫も何も無い攻撃がトゥーラに通用するわけもなし。トゥーラはわざと腕に蹴りを貰って、その衝撃を逃がすのではなく円運動に変換して、掴んだミニスの足首を振り回して猛烈な勢いで投げ返した。

 キラの力+ミニスの蹴り+トゥーラの力、によって文字通りミサイルみたいな速度で軌道を逆戻りしてくミニスミサイル。ウサギ弾頭は発射地点に逆戻りだよ。そして発射地点にいるのはミニス虐に定評のあるキラさん(猟奇殺人鬼)。


「チッ、役立たずが! 邪魔だクソ兎!」

「ぐはっ……!?」


 発射地点に戻ってきたミニスミサイルは、キラの回し蹴りによって迎撃されて地に落ちた。何か内臓が破裂しかねないくらい鋭い一撃を貰ってたし、勢いがなかなか消えず何度もバウンドしながら転がっていったけど、まあミニスだから平気でしょ?

 もちろんキラがそんなミニスを気に掛けるなんてことは無く、トゥーラ目掛けて疾走を始めたよ。当のトゥーラは立ち止まって余裕の表情を浮かべてるし、お前らこれが競争だって事分かってる?


「おやおや~、私とやり合おうというのかな~? 今の君では私に勝てる可能性が無いという事くらい、分かっているんだろ~?」

「うっせぇ! 馬鹿にされたまま引き下がれるかよ! せめて目玉を抉り取ってやるぜ!」

「何やってんだ、アイツら……」 


 そのまま二人は拳撃と爪撃を交わし、飛んだり跳ねたりしながら目まぐるしい攻防を繰り広げる。

 競争かどうかはともかく一応次の街に向かってるって事は覚えてるみたいで、ちゃんと移動しながらやり合ってるみたいだよ。ていうかさっさと戦いを終わらせないってことは、トゥーラは相当手加減してますね……。


「う、ぐぐ……ふざけやがってぇ……!」


 自動での治癒が終わったのか、ミニスが血反吐と悪態を吐きながら立ち上がる。首を押さえてた辺り、もしかすると首の骨が折れて自動での蘇生も発動してたのかもしれないね。

 しかしそんな状態になっても、赤い瞳に怒りが燃え上がってるんだから恐れ入るよ。村娘のメンタルが強すぎる。


「勝負とかもうどうでもいいわ! せめてあの二人を一発ぶん殴ってやる! うわあああぁぁああぁぁあぁっ!!」


 そうして拳を固く握りしめたかと思えば、渾身の叫びを上げながら狂人(キラ)変態(トゥーラ)の盛り合い(殺しあい)に突撃して行った。自分から入って行くのか……。


「えー……君らこれ、競争だってこと分かってるぅ……?」

「あうー……何にも見えないよー……前はどっちー……?」


 呆れる僕の隣を、未だ目が見えないリアが酔っぱらいみたいな挙動で横切ってく。

 これ今日中に次の街に着けるのかな? ちょっと心配になってきた……。






 とっぷり夜も更けた頃、ついに次の街であり最後の街でもある魔獣族の国の首都――セントロ・アビスが見えてきた。

 頑強そうな壁で囲われてるのは勿論の事、遠目に見てもごちゃごちゃしてそうな街なのがはっきりと分かる。中でも一番目を引くのはそびえ立つ物々しいお城だね。たぶんアレが魔王城かな? 僕の旅もついにここまで来たと思うと、ちょっとだけ感慨深いものがある。

 何にせよ、今は仲間内での徒競走の話だ。僕は街が遠目に見える小高い丘のてっぺんに、ゴールテープ代わりの立て札を設置した。さすがに超高速で走る奴らが街に近付くと要らぬ警戒をされそうだからね。ここをゴールにしました。


「さーて、栄光ある一位に輝くのは?」


 そんなわけで立て札に肘を付いて待つこと数分。ついに僕の目に高速で接近してくる人影が目に入った。近付くにつれて露わになるのはその人影の小ささと、普通の走りではありえない変態染みた挙動。

 だって一歩一歩のストライドが尋常じゃなく長いんだよ? 一歩ずつ走り幅跳びしてるのかってくらい間隔開きまくってるし、その分かなりのスピードが出てる。この破綻した徒競走で編み出したらしい走法とはいえ、ぶっちゃけ気持ち悪い走り方だなぁ?


「――ゴール! わーい、リアの勝ちー!」

「まさかのロリサキュバス。何やってんだ、他の奴ら……」


 そして、そのキモい走法で一番にゴールしたのは何とリア。諸手を上げて喜びを露わにしてるよ。

 とはいえリアが一着を取れた理由は簡単に予想がつくんだよね。一つはさっきの走法、地面を蹴ると同時に背中の翼で勢いよく羽ばたいて推進力を得る事で、常時走りに加速を加えてた事。その結果がさっきの妙に長いストライドだね。ほとんど地上スレスレを飛んでる感じ。

 で、もう一つ理由があるんだけど……。


「まだ三人で喧嘩してたよー。もう何時間やってるんだろうねー?」

「絶対これが競争だってこと忘れてるだろ。いや、まあトゥーラはあえて付き合ってやってるのかもしれないけどさ……」


 もう一つの理由は、他三人が徒競走よりも血沸き肉躍る戦いを優先してる事。

 一応完全に忘れてはいないっぽいとはいえ、それでも足を止めてやり合ってる場面を何度も見たし、その結果リアが漁夫の利を得た感じになったんだよね。純粋にリアが誰にもヘイトを稼いでない、ってところが大きいかもしれない。敵を作ると碌な事が無いってはっきり分かんだね。


「そんなことよりご主人様! リアが一番って事は、リアのお願いを叶えてくれるんだよね!」

「まあね。よほど変なお願いじゃない限りは叶えてあげるよ」

「やった! それじゃあねー、えっとねー……」


 瞳を輝かせて聞いてくるリアに対して、僕は正直に答えた。

 もちろん復讐のための力と機会を与える、っていうのはこれとは完全に別枠だ。リアもちゃんとそれが分かってるからか、少し考え込む素振りを見せてた。

 ただお願いは最初から決まってたみたいで、数秒も経たずに様子が変わったよ。もじもじと身体を縮こませて、恥ずかしがるように伏し目がちになって、長し目で僕に視線を向けるっていう実に股間に来るものがある様子に。


「……リア、そろそろご主人様とエッチしたいな?」

「ヌッ!」

「ぬ?」


 あまりの破壊力に思わず変な声が零れて、リアが小首を傾げた。さっきのあざとい振る舞いはえちちだったのに、首を傾げる今の姿は普通に見た目相応で反応に困るね。ギャップがあって大変よろしい。プラス那由多点。


「……なるほど。そういえば大会にかまけててその辺のことは忘れてたよ」

「あー、ひどーい。リアの事忘れるなんてー?」


 頬を膨らませて、正に子供らしく不機嫌を露わにするリア。

 そういえばサキュバスはエッチな事に興味津々な上、定期的に快楽を得ないと体調が悪くなっちゃうエロ種族なんだよね。最近のリアは同族を拷問して気持ち良くなってたから必要なくて、完全に忘れてたよ。


「いや、だってお前もエッチする前に復習したいって言ってたじゃん?」

「復習はもうバッチリだよ! だからご主人様、リアと……しよ?」


 元気いっぱいに答えたかと思えば、今度は上目遣いに恥ずかしがりならねだってくる。そんなことされたら僕の勇者も聖剣を掲げそうになっちゃう。


「……そういう誘い方もリリスに教わった感じ?」

「うん! こうすると男の子はイチコロだって言ってた!」

「なるほど。さすがはサキュバスの女王。良く分かっていらっしゃる……」


 さっきから妙にあざとい振る舞いが多いと思ったら、リリスの入れ知恵だったらしい。

 まあ一番凄いのは知識をしっかり実践して、なおかつ違和感なく自然にできてるリアなんだけどね。腐ってもサキュバスなだけあって、男を魅了する術が滅茶苦茶上手だよ。全く……。


「……分かった。僕もロリサキュバスとエッチしたいし、そのお願いは叶えてあげるよ」

「やったー! これでリアも一人前のサキュバスになれるね!」


 僕が頷くと、リアは諸手を上げて大喜び。まあ大喜びしたいのはロリサキュバスの処女を頂ける僕なんですがね? さすがに僕が諸手を上げてはしゃぎ回る姿は需要が無いかなって。


「ただ、もう何日かだけ待ってくれる? できることなら状況を整えてからおっぱじめたい事だしね」

「状況? 状況ってなーに?」

「それは――っと、来た来た」


 リアにその事を話そうとした時、高速で近づいてくる人影が見えてきた。どうやら二位の到着みたいだ。さてさて、二位になったのは誰かな?


「――おや~、私が二番かな~? う~ん、少々遊び過ぎたのが原因かな~?」

「少々どころか一日の大半を遊んでたじゃん、お前……」


 二位でゴールしたのは、皆大嫌いトゥーラさん。やっぱりキラたちとのバトルは遊びだったらしい。まあコイツが本気を出せば即座に叩きのめせるはずだからね。ていうか顔とか服に所々返り血が……。


「いや~、キラたちがなかなか熱いからつい私も熱が入ってしまってね~? 主との交わり以外で、久しぶりに満足するまで身体を動かせた気がするよ~」

「ねーねー。やっぱりご主人様はエッチの時、とっても激しいの?」


 くねくねと身体を捩らせて満足気な笑みを浮かべるトゥーラに対して、リアが人様の性事情を尋ねる。どうやらエッチがしたくても激しさとかはちょっと気になる様子。


「そうだよ~。主の激しさといったら、もう私の身体が壊れてしまいそうなくらいで~……!」

「人のエッチのお話で盛り上がるの止めて欲しいなぁ。おっと、三番目到着――って、もの凄い返り血ぃ……」


 三番目に到着したのは、ペンキでも頭から浴びたんじゃないかってくらい全身返り血塗れの化け物――もとい、キラ。

 魔物は大体変な色の血液してるし、トゥーラもキラも服があんまり破れてない事を考えるに、この返り血が一体誰の血液なのか容易に想像がつきますね? 


「……ケッ」

「あ、何か不機嫌。どうしたんだろうね、これ」


 キラはせっかく僕が立てたゴールの看板を蹴り壊して、ご機嫌斜めな顔をしてる。尻尾も不愉快そうに不規則に揺れてるし、こんなに血を浴びたにしては酷く機嫌が悪いな。一体何があったんだろう?


「あっ、ミニスちゃんも来たよ!」

「……おぉう……これはまた……」


 リアの言葉に視線を戻してみれば、別の意味でまた化け物にしか見えない何か――ミニスがふらふらと歩いてくるのが見て取れた。

 何で化け物なのかって? そりゃあキラ以上に全身が血にまみれてるからだよ。コイツは最早ペンキを被るどころか血の海の中にしばらく漬け込んでた感じだね。未だに新鮮な血がポタポタ滴り落ちてるし……。

 あと何が酷いって、これは返り血じゃなくて全部ミニス自身の身体に流れてた血なんだよなぁ……どんだけやられまくったらこうなるんだよ……。


「……大丈夫?」


 思わずそう声をかけると、ピタリとミニスの足が止まる。そうして僕に真っ赤な目を向けて――いや、全身血塗れな上に赤い瞳だから滅茶苦茶迫力あるな。白髪も赤く染まってなかなか綺麗だし。


「……一撃、入れてやったわ」

「ああ、だから不機嫌だったのか。頑張ったねぇ、よしよし」


 どうやらキラが不機嫌だったのは、ミニスに一発やり返されたかららしい。一矢報いたその勇気を称えてボロボロで血みどろなフード越しに頭を撫でてあげようとしたら、意外にも僕の手は振り払われたりしなかった。珍しいなぁ、普通に撫でさせてくれるなんて。


「……その千倍くらい、やり返されたけど……」

「毎回そういう目に合うのに、本当によく噛みつくねぇ。君ぃ……」


 どうやら精神的にちょっと疲弊してるせいで、僕の手を払う余裕も無いみたいだ。

 しかし一般村娘が猟奇殺人鬼に一矢報いるとは、コイツちょっと頑張りすぎでは? 世が世なら間違いなくコイツは勇者になれる逸材だよ。いやぁ、仲間にしておいて良かったですねぇ?



 ・兎肉の盾

 ・ウサギ弾頭 ←NEW!!


 ミニスミサイルの語呂が何となく良い。

 というわけで、勝者はリアでした。誰とも普通に仲良くしていて、ヘイトを稼いでいないという点が特に大きい。他三人はその辺り致命的。

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