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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第8章:夢のマイホーム
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死んでしまうとは情けない

⋇投稿再開です。例の如く二日に一回の隔日更新です。

⋇カルナちゃん視点

 私は今、玉座の間に膝を付き頭を垂れている。理由は勿論、王が玉座に腰かけこちらを見下ろしているからだ。正直な所、聖人族の繁栄と魔獣族の殲滅しか考えていない、狭い視野しか持ちえない愚鈍な王に頭を垂れるのはあまり良い気はしない。だが今は自分の気持ちを抑え、一般的な行動を取らなければならないのが辛い所だね。

 これから行われるのは言わば報告会。勇者クルスの旅の結末を、唯一生き残った私が直々に王へ報告しなければいけないのだ。内容が内容なので王の周囲には大臣などの国の重鎮も数多く控えている。一応私の後ろにはハニエルもいるが、何か喋られても困るのでただの案山子になって貰っている。実質私一人で、この胃が痛くなる状況を乗り越えなくてはいけない。全く、損な役回りを与えられてしまったものだ。


「――面を上げよ、魔術師レーンカルナ」

「……はっ」


 王の命を受け、私は顔を上げる。

 そうして目に入るのは、つまらなさそうな表情で玉座に踏ん反り返った王の姿。クルスを召喚し言葉を交わした時には若干憔悴し疲弊した顔をしていたが、アレは異世界から召喚した勇者を思い通りに動かすための演技だ。どちらかと言えば今の偉そうな態度が王の素なのだろう。


「ある程度の報告はすでに受け取っているが、今一度其方の口から直接聞かせてくれ。此度の魔王討伐の旅、その結末を」

「はっ。結論から申しますと、志半ばで勇者は死亡しました。私は直接遺体を確認してはいませんが、大天使ザドキエル様が勇者死亡の正にその瞬間を目撃なさったそうです」


 促され、私は予め用意してある偽の結末を語る。

 とはいえザドキエルが勇者死亡の瞬間を目撃したというのは、他ならぬ当人の談だ。これに関しては裏を取られても問題ないだろう。


「そのような残念な結果に陥ってしまったのは、恐らく国境越えの際の魔獣族による猛攻が想像以上の規模だったことが原因でしょう。連れていた奴隷二匹は囮と盾にしたため死亡、斧術師クラウンは嬲り殺しにされ死亡しました。私と勇者で辛うじて猛攻を退けましたが、クラウンが嬲り殺しにされる様を目の当たりにしたせいか、大天使ハニエル様は精神に異常をきたし、廃人と化してしまいました」


 ここで後ろに控えているハニエルに視線を向けると、玉座の間に集まった者たちの視線が集中する。誰一人として同情や哀れみを浮かべていない辺り、ハニエルがいかに異端で疎外されていたかが如実に分かる光景だね。

 そしてハニエルには悪いが、光を失った瞳で呆然と立ち尽くす様子は私の話の信憑性をを大いに高めてくれる。実際玉座の間に集っている者たちは、誰一人として私の話を疑っている様子は無かった。


「勇者はこの状況では魔王の元へ辿り着くことはできないと判断し、せめて一矢報いるために国境の魔将へと戦いを挑みに行きました。私はハニエル様を連れて撤退するように命じられたので、後にザドキエル様から詳細を聞かされましたが、どうやら最終的に勇者は魔将に敗北したようです」


 故に、報告を終えても疑いの声は出なかった。そもそも裏事情はともかく、表向きには間違いなく実際に起こった出来事だ。元々報告は届いているし、疑われる方が難しいというものだろう。


「……なるほど、やはり勇者は死んだか。多少は礼儀を弁えた奴だと思ったが、外面だけのゴミだったか。使えんな。所詮は異世界の聖人族もどきか」


 私の報告に対して頷いたかと思えば、王は深いため息をついて辛辣な言葉を吐く。

 と言っても、異世界から召喚された勇者に対しての態度は総じてこんなものだ。勇者と接する時は本音を覆い隠し、人当たり良く接しているに過ぎない。クルスへの評価も実際はこの有様だ。


「全く以て、その通りでございます。口だけは達者で、肝心の強さが伴わない典型的な勇者でした」


 もちろん私は王の言葉に深く頷き、クルスを罵倒しておく。

 ただ、何だろうね……私がクルスを罵倒するのは微塵も気が咎める事は無いんだが、王に罵倒されるのは不思議と少々苛立ちを覚える。確かにクルスは頭がおかしくて異常でイカれていて、頭のネジが何本か足りない人格破綻者だが、間違いなく世界の真なる平和のために邁進している男だ。その理由が女神を自分の女にするためという穢れ切ったものでも、一種族の平和しか考えていない愚物よりもよほど好感が持てるよ。いまいち彼を嫌いになれないのはそれが理由かもしれないね。


「そんな愚か者と命懸けの旅をする羽目になったとは、とんだ災難だったな。其方に褒賞としばしの休息を与えよう。安心して羽を伸ばすがいい」

「はっ。ありがたき幸せ」


 王の言葉に、私は頭を下げる。愚か者はどっちだとか、命を賭けた覚えはそこまで無いとか、色々と思う所はあったがね。とはいえ彼らから見れば勇者と旅をするというのは酷く苦痛極まる時間なのだろう。

 何にせよ、旅の結末に関しては全く疑われずに済んだようだ。では次の行動に移ろう。


「……時に陛下、二つほどお願いしたきことがございます」

「うむ、何だ。申してみよ」

「一つ目ですが――実はクラウンの遺体は持ち帰って来ているのです。私と同じく、勇者に辛酸を舐めさせられた者同士、あの森に打ち捨てておくのは忍びなかったので。できれば丁重に弔ってはいただけませんでしょうか?」


 一つ目。あまりにも損壊が激しいクラウンの死体を晒すことで、森での戦闘の激しさと旅の結末に説得力を持たせる事。全く疑われていないので必要は無いかもしれないが、空間収納にいつまでも死体を保存しておく趣味は無い。できればこの場で処理しておきたい。


「ふむ、よかろう。魔王討伐に赴いた勇気ある者だ。最大限の敬意を以て、送り出してやろうではないか。よし、遺体をこの場で出すことを許可する」

「では――」


 許可を得られたので、私は遠慮なく空間収納からクラウンの死体を取り出した。凍らせて腐敗を防いでいたので綺麗なものだ。しかしキラの手で著しく肉体が壊されているため、一般人からすれば見るに堪えない状態になっていた。

 頭部は片目から後頭部にかけてごっそりと抉られ、脳みそや咥内が露出した状態。右腕は肘から先が焼け崩れ、肩にかけては短剣による夥しい貫通痕。左腕は全ての指先があらぬ方向を向き、腕全体が捻じれて潰れている。身体は所々生皮が剥ぎ取られ、場所によっては肉も削ぎ落されて骨組織が露出している有様。下半身に至っては局部が――いや、もうやめておこう。これ以上眺めていると、さすがに私も気分が悪くなりそうだ……。


「これは……酷いな。嬲り殺しどころか、最早拷問の域ではないか……」


 あまりの尊厳凌辱具合に、王は渋面を見せた。控えている重鎮たちに至っては顔を青くして口元を押さえている者までいる始末だ。今にも吐きそうな者もいるが、さすがに玉座の間で粗相をするわけにもいかないのだろう。必死に堪えているようだ。


「はい。その光景を間近で見せられたために、ハニエル様は心を病んでしまわれたのです。その上ハニエル様は魔獣族に身体を操られ、その手で無理やりクラウンの命を奪わされたのですから……」

「実に悪趣味な真似をする。やはり奴らは畜生だな……お前たち、その者を丁重に弔ってやれ」

「はっ!」


 王は兵士たちに命令し、クラウンの死体を運ばせた。

 実際の所、クラウンを殺させたのは魔獣族ではなくクルスなのだが……まあ畜生なのは正解だね。何にせよこれで遺体の処理もできた。では二つ目の願いといこう。


「……それで、二つ目の願いは何だ?」

「はい。どうかハニエル様のお世話を、この私に任せて頂けないでしょうか。御覧の通り、ハニエル様は現在心神喪失の状態です。世話をする者がいなければ生きていけない状態でしょう。私としても、背中を合わせ命を預け合った仲間がこのような状態に陥っているのはとても心苦しいのです。できれば私がお世話をしてさしあげたいと思うのですが……」


 二つ目の願いは、心神喪失状態のハニエルの世話を自分に任せて欲しいというもの。

 私自身は正直どうでもいいのだが、クルスはどうにもハニエルを手放したくないようだからね。とはいえダメならダメで世話は国に任せても構わないと言っていたし、あくまでも了承されれば儲け物程度に思っている。


「ふむ。幸運な事に役立たずが心神喪失で大人しくなったのだから、その尊い大天使の血を広げるための礎にでもなって貰おうかと思っていたのだが……さすがにそれは一部の大天使の反感を買ってしまうな……」


 私の言葉に王は顎に手を当て、悩む素振りを見せる。

 まあハニエル自身の思想や性格はともかくとして、その身体に流れる血は今や四人しか存在しない大天使の尊き血だからね。心神喪失となった状況を幸いとばかりに孕ませ産ませ、その血を国に広めようとする気持ちは分からないでもない。

 とはいえリスクとリターンを考えればあまり現実的な考えではないな。他の大天使が子孫を残そうとしていないわけでは無いし、実際に行動に移してしまえばザドキエル辺りは猛反発するだろう。自ら血を広げてくれる上に戦闘能力も申し分ないザドキエルの顰蹙を買うよりは、戦闘能力も低く身の回りの世話も必要なハニエルを諦める方が賢い判断だ。


「……良かろう。そやつの世話は其方に一任する。だが経過観察と定期的な報告を命ずる」

「はっ。かしこまりました」


 王も同じ結論に至ったようで、最終的にハニエルの身は私が預かる事になった。

 ふう。これでクルスの頼みも無事に達成できた。旅の結末も全く疑われていないようだし、謁見は無事終了というところだね。

 さて、これからどうすべきかな。まずはハニエルを家に置いて、食料と生活用品の買い出しに行くべきかな。ああ、だがその前に鍛冶屋で私の<ウロボロス>の作成を注文しておくのも良いかもしれない。尽きぬ魔力を提供してくれる魔性の杖……フフフ、実に楽しみだ……。



 わりと貞操の危機にあった天然お花畑大天使。まあ今のところお荷物で役立たずだから仕方ない。

 次回からはみんな大嫌いクルスくんのターンです。

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