閑話:冒険者のお仕事3
⋇外道描写あり
⋇B級映画ネタ
ギルドで一波乱あったけど、肝心のギルマスが傷心で逃げ去ったからある意味問題解決した後。僕は依頼が貼ってある掲示板をじっくり眺めて、最終的にとある魔物の討伐依頼を受領した。受付に依頼を受ける旨を報告に行った時、ギルドの受付嬢が心底ビビって顔を青くしてたのが印象的だね。僕は身じろぎ一つしてなかったのに、何でそんなに怯えられてるのかなぁ?
何にせよ無事に依頼を受ける事ができたから、僕らは真っすぐ討伐依頼の魔物の生息地へと向かった。
「ふむふむ。ここが討伐対象モンスターの生息地かぁ……」
そして辿り着いたのは、荒涼としただだっ広い荒野地帯。位置的にはアロガンザとその近くにある村の間に広がる場所だね。乗合馬車の通る道だからか、舗装された道っぽいものが見える。と言っても石畳とかじゃなくて、多少整えてある程度の獣道にしか見えないけど。
「よし。ミニス、ちょっとそこでジャンプし続けろ」
「は? いきなり何? カツアゲ?」
とりあえず僕はミニスにジャンプを命じた。いきなりそんなこと言われたせいで、ミニスはかなり困惑した表情を浮かべてる。だからってカツアゲはないでしょ、カツアゲは。
「アホか。お前のお小遣いは僕が出してるのに、何でそれをカツアゲするんだ。良いからとにかくジャンプするんだよ」
「はあ……」
相変わらず意味不明って顔してるけど、一応素直に僕の命令を聞くことにしたみたい。ミニスはその場でピョンピョンと飛び跳ね始めた。凄いやる気無さそうな顔してジャンプを繰り返してるのに、軽く五メートルくらい跳んでるの何なの……。
「いや、本当にジャンプ力凄いな……とにかくそのまま続けてて?」
「意味分かんない……」
「面白そー! リアもやるー!」
つまらなさそうにジャンプを繰り返すミニスが何かツボに嵌ったのか、その隣でリアもジャンプし始める。もちろんリアの身体能力は獣人と比べるのはおこがましいから、ミニスの五分の一も跳躍できてなかったよ。むしろこれが普通だよなぁ……。
何にせよ、これで準備はオッケー。というわけで僕は近くの地面に埋まった岩塊の上に腰を下ろした。すると背後からキラが死神染みた抱擁をかましてくる。何でお前はいちいち背後を取りたがる?
「で、どんな魔物の討伐依頼を受けたんだ? お前の事だし、そこそこの大物だろ?」
「実は強さとかその辺はあんまり考えずに依頼を受けたんだ。ちょっと気になる魔物の名前を見てつい、ね? 確かランクはCくらいだったような気がするよ」
「ふ~む。この辺りに生息しているCランクの魔物か~。確かロックタートルにロックリザードだったかな~? あとは確か――あ~、なるほど~……?」
当然みたいに僕の隣に寄り添ってきたトゥーラが、ジャンプを繰り返すミニスたちに視線を向けて納得の声を零した。
さすがは腐ってもギルドマスター。大体の魔物を把握してる上に、こんな少ない情報だけで個体を特定できるか。
「ほらほら、見てー! リアの方が高く飛べてるよー!」
「ちょっ、ずるいわよ! 羽使うのやめなさいよ!」
見ればリアが翼で羽ばたいてミニスより高くジャンプして……いや、あれは跳んでるんじゃなくて飛んでるな。普通に滞空してるしジャンプしてないだろ。さすがにそれは卑怯じゃない?
「ハハッ、腐ってもギルマスか。これだけの情報でどんな魔物か分かるなんて凄いねぇ? よしよし」
「フフフ、褒められてしまった~。クゥ~ン……」
知識もあって頭の回転が速いトゥーラを褒めてナデナデする。途端に可愛らしい声を上げてデレッデレの表情を浮かべるのがまた愛らしいね。撫で心地も抜群だし、やっぱり獣人は最高だぜ!
「………………」
「おぉう!? 分かった! お前も撫でるから頭突きをやめろ!」
などとトゥーラだけを愛でてるのがお気に召さなかったみたいで、背後から頬に抉り込むような頭突きが飛んできた。本当にコイツは独占欲強いって言うか、何て言うか……いや、ある意味猫みたいだと感心するべきなのか?
「しかし、何でまたあの魔物なんだい~? 多少面倒なだけで、特に面白みの無い魔物だったはずだが~……?」
「うん、別に僕も面白みは期待してないよ。ただ、ソイツの外見がちょっと気になるんだ。もしかしたら僕が元いた世界で見たことある奴に似てるかもしれないし」
僕が今回の依頼を受けた理由。それは討伐対象の魔物の名前とその性質から、外見が少し気にかかったからだ。もしかしたら僕が見た事あるかもしれない外見してるかもだし、それを確かめるために受けたってわけ。
街道を通る馬車が襲われるから退治して欲しいとか、その辺の要求は別にどうでもよかった。重要なのは自分自身の好奇心だ。
「あ? お前の世界、魔物っていねぇんじゃなかったか?」
「いないよ。でもB級映画――じゃなくて、漫画とか小説とかの創作物の世界には、それこそ魔物から宇宙人まで色々いるしね。そもそもお前ら獣人とかも、僕にとっては創作物の生き物だし」
「なるほど~? つまり私たち獣人がいるのだから、今おびき寄せているソイツも主が知っている外見をしている可能性があるということかな~?」
「そうそう、大体そんな所」
トゥーラの言葉に頷きながら、ジャンプを続けるミニスたちを見つめる。
ていうか今、さりげなく『おびき寄せている』って言ったな。やっぱり全部分かってるのか、コイツ……。
しかしどうだろうなぁ。もしかすると可能性は低いかもしれない。だってこの世界の魔物って確か突然変異的に発生した存在であって、女神様手ずから創り出したわけじゃないはずだし……でも期待を抱くのはやめられない! 憧れは止められねぇんだ……!
「ちょっとクソ野郎! いつまで飛んでればいいわけ!? さすがにそろそろ疲れて来たんだけど!?」
さすがに飛びまくってて疲れて来たのか、ミニスが弱音を吐き始めた。ちなみにリアはもうジャンプしてないから弱音は特に無し。今は高く飛んでるリアにミニスが頑張って飛びつこうとしてる感じになってる――ん? 今ちょっと地面が揺れたかな? もしかして来た?
「限界が来たら言ってくれればスタミナ回復させてあげるよ? だからそのまましばらく飛んでて?」
「何なのよ、もうっ! こんなことさせて一体何の意味が――」
悪態をつきながら地面に着地するミニス。そうして次なる跳躍と言葉を続けようとしてたけど、残念ながらそれは叶わなかった。何故なら――
『――ゴオオォォォォォッ!!』
「ぴゃあああぁぁあぁぁぁぁっ!? ミニスちゃんが食べられちゃったああぁあぁぁぁ!?」
ミニスの足元の地面から突然謎の生物が噴き上がる様に現れて、ミニスを丸呑みにしたから。
惜しいな。せめて空中だったらもうちょい何とか対応できただろうに。
「釣れた釣れた。やっぱり地面の振動を感知して獲物を襲うタイプだったか」
現れた魔物を前に、僕は悠々と岩塊から飛び降りる。わざわざ岩の上に乗ってたのは、僕が起こす振動を感知されないためだったんだ。そしてミニスは文字通り囮。ひたすらジャンプさせることで強い振動を地中に拡散させて、アレをおびき寄せてたってわけ。
「そのためにアイツを飛ばせてたのか、お前。ヒデェ奴だな?」
「ニヤニヤ笑ってるお前も大概じゃない? まあ丸呑みされたならすぐ助ければ問題ないしね」
「はてさて、サンドワームは主の期待通りの姿なのかな~?」
僕に続いて、キラとトゥーラも岩塊から飛び降りる。その時にトゥーラが口にしてた通り、僕が狙ってた獲物はサンドワームって名前の魔物だ。
地上に茶色く長い身体を出してうねうねしてるその姿。そして振動を感知して襲い掛かってくる習性。ここまでは期待通りだ。問題は先端、もとい口の方がどうなってるかだね。
「さて、まずは逃げられないように――麻痺」
『――ッ!!』
魔法で身体を麻痺させると、サンドワームは一瞬身体をビクッとさせた後、その巨体を地面に倒した。地上に出てた部分だけでも高さは三メートルくらい、太さは二メートルくらいあったし、倒れた時の衝撃は相当なものだったよ。ズシーン! って感じで砂埃も舞ったし。
「ご主人様ー! ミニスちゃん食べられちゃったよー!?」
「大丈夫大丈夫、死にはしないから。さて、それじゃあツラを拝ませてもらおうかな?」
慌てて駆け寄ってくるリアは適当にスルーして、サンドワームの口の方へと歩く。
ミニスはほとんど不死身な身体にしてあるし、コートは破壊不能だから、どう足掻いてもデカいミミズ風情じゃ殺せないよ。体内で消化液付けになってたとしても、再生能力の方が上だろうし。
さて、そんなことは置いといてサンドワームの外見だ。ふむふむ、外皮は思ったよりぶよぶよしてるな。柔らかいだけじゃなく弾力性も強そうだし、一般的な冒険者がまともに戦ったらこれは結構辛そうな感じかな? 少なくとも打撃は効かなそう。
よし、それじゃあツラを拝ませてもらうぞ! どうか期待通りでありますように!
「……チクショウ! グラ●イズじゃない!」
そうしてサンドワームの口を目の当たりにした僕は、期待を裏切られてがっくりとその場に膝を付いた。
僕が期待してたのは某B級映画の怪物みたいな、口の中に蛇っぽい触手風の口が幾つもある感じだったのに、コイツのは全然違ったよ。何て言うかこう、触手(吸引タイプ)みたいな口って言えば分かりやすいかな? とりあえず歯はないみたいだし、ミニスは丸呑み確定だ。
ていうか冷静に考えればミニスが一瞬で食われた辺りで、僕の期待通りの口はしてないって分かっただろうに……。
「ん~? 主の期待とは違ったのかな~?」
「そうみたい。せっかくB級映画のモンスターを生で拝めると思ったんだけどなぁ……」
本当に残念だ。やっぱり魔物は突然変異の産物だから、それに期待するのはおかしいってことなんだろうね。こうなったら見たければ自分で創るしかないな? いや、色んな意味でヤバそうだから創るのは止めておいた方が良いか……?
「……まあいいや。じゃあさっさと討伐して帰ろうか。討伐証明部位ってどこ?」
「内臓だよ~。主がやりたくないのなら、私が代わりに取ってあげようか~?」
「じゃあよろしく――っと、そうだ。ミニスが食われてたんだったか。えーっと……ここかな? 風刃」
『オオオォォォオオォォッ!!』
さっさと気持ちを切り替えた僕は、風の刃をサンドワームの胴体に放った。恐らくミニスがいるだろう所に勘で。まあミニスに当たっても結果的には問題無いし?
風の刃でぶっとい胴体はギロチンにかけられたみたいに一瞬で輪切りになって、サンドワームは耳障りな悲鳴を上げてたよ。それとオレンジ色の血液が噴き出してるんですが、何でそんな異常な色の血液が流れてるんですかね……。
「おーい、生きてるー? あ、出てきた――って、うっわ……」
「………………」
僕の勘は微妙に外れたみたいで、斬られた胴体の後ろの方からミニスが自分で這いずり出てきた。妙に粘性のある濁った液体と、オレンジ色の血液に全身塗れた状態でね。たぶん飲み込まれた後、中で色々抵抗してたんじゃないかな? というかその姿があんまりにも汚いから一瞬後退りしちゃったよ。正直臭いも酷い。
「ミニスちゃん大丈夫!? わーっ、ドッロドロになってるー!?」
「きったないなぁ。それに酷い匂いだ……ちょっと僕から離れてくれる? 十メートルくらい」
「………………」
そうお願いしたのに、ミニスは無言かつ無表情で何故か僕へと近づいてきた。一歩一歩踏みしめるようにゆっくりと、全身から汚い液体を滴らせながら。
「いや、離れてって言ってるじゃん? そんな消化液とか諸々の液体に塗れた姿で近寄ってこないでくれる? ばっちぃよ?」
「………………」
「うん、分かった。囮にしたのを怒ってるんだね。僕が悪かった。次からは事前に囮になってくれるようお願いするよ。事前確認は大事だもんね?」
「………………」
「待て、やめろ、近付くな! そんなクソみたいな臭いの粘液塗れで僕に触ろうとするな! やめ――ああああぁああぁぁぁぁぁっ!!」
どうやら静かに怒ってたみたいで、ミニスは無言で僕に抱き着いてきた。
ハハハ、嬉しいなぁ。あのミニスが自分から抱き着いてきてくれるなんて。これって僕らの関係が一歩前進したってことじゃない? くっせぇ粘液に塗れて無ければな! ウサミミまで使って僕の身体に塗り込んできやがるぅ! 臭いしキモイぃぃぃぃっ!!
「じゃあ解体は私たちがするよ~? キラ~、まだコイツは動いているからトドメを刺してくれるかい~?」
「……コイツ、目玉がねぇ。クソかよ。死ね」
ミニスに押し倒されて色んな粘液をおすそ分けされてる僕を放って、犬猫コンビはサンドワームの解体を始めてた。そんなの良いから僕を助けて? 僕今わりとピンチだから。鼻が曲がりそうな粘液を全身に塗りたくられてるから。
「……えへへ! 賑やかで楽しいなー!」
微かな期待を寄せてリアに視線を向けると、そこには幸せいっぱいの笑顔を浮かべるロリサキュバスの姿。まあ楽しいかどうかはともかく、賑やかであることは否定しないよ。だから助けてくれない? このままじゃ全身を汚い粘液で凌辱されちゃうよぉ……。
全く。ただの討伐依頼をこなすだけでこんな目に合うなんて、冒険者のお仕事って大変だなぁ?
これにて閑話も終了です。ミニスの役目はツッコミと囮。ちょっと世代がバレそうなネタ入れちゃいましたねぇ……。
それはともかく、これで第七章は終了です。次回は一月一日からの更新になります。次はいよいよ魔獣族の首都でのお話です。徐々に前座の終わりが近付いていて感慨深い物がありますね……。