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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第7章:獣魔最強決定戦
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VS魔将バール2



「これは……」


 周囲が完全に闇に閉ざされた瞬間、僕はこれがある種の結界みたいなものだって理解した。何せ足元どころか一寸先も見えない完全なる暗闇で、若干肌寒かった空気も暖かいのか涼しいのか良く分からない温度になってる。

 そして極めつけは音。うるさかった観客の声が、闇に包まれた瞬間ぱったりと聞こえなくなった。全くの無音で心臓の鼓動や耳の中の血流がうるさいくらいだよ。


「ようこそ、闇の世界へ。歓迎するぞ、クルスよ」


 前方からバールの声が聞こえるけど、さっぱり姿は分からない。

 だからとりあえず熱検知ヒート・ディテクションを使ってみたよ。そしたらちゃんと姿が見えるようになった。うん、場所自体は変わってないな。リング上を暗闇が覆い尽くしただけっぽい。


「観客の歓声も聞こえない辺り、もしかして外界とは隔絶されてる感じですかね?」

「その通り。本来は我が日中に戦うための領域なのだが、夜に用いるとこうなる。外とは隔絶された、一種の異空間と思うが良い」


 なるほど。夜なのに夜に招待するとか何言ってんだコイツって思ったけど、自分に有利なフィールドを創り出すための魔法か。僕がやるアレと似たようなものだね。口振りから察するに昼間に使った場合は劣化するみたいだ。

 ていうかこんなの一般魔獣族とのタイマンで使う魔法じゃないだろ。どんだけ負けたくないんだよ。


「こんな魔法を使ってまで僕を倒そうとするなんて、よほど権威と力を愚民共に誇示したいんですね?」

「ふむ、この大会の目的を理解していたか。そうだ。魔将の権威と力を定期的に誇示し、強さを知らしめること。それが魔王より我に与えられた使命だ」


 ちょっと皮肉を込めて尋ねると、意外と素直に答えが返ってきた。

 勘の良い人は気付いてるかもしれないけど、魔将がわざわざ試合に出張って優勝者を叩き潰すような真似をしてるのは、愚民共に力と権威を示すためらしいんだ。厳しい試合を勝ち抜いた強者を魔将が捻り潰すことで、魔将は偉くて強いからちゃんと従えよって定期的に通達してるって言った方が分かりやすいかな?

 いやぁ、レーンの予想が正しくてびっくりだよ。まあここ数百年は冷戦状態で魔将の出番が無いし、権威と力を知らしめる必要性も分からなくはない。


「尤も、我としては実に不愉快な使命なのだがな。命を懸けた熱き戦いで凌ぎを削り、優勝の栄光を手にした気高き者を圧倒的な力で叩き潰すなど、実に申し訳なく思ってしまう」

「なるほど。本当はやりたくない、と。では何故魔王の命令に従っているのですか?」

「それは奴が民を統べる支配者だからだ。そして我はあくまでも魔獣族を守護する魔将。支配者で無いのなら従うのは道理だろう?」


 んー? 何かちょっと予想の斜め上の答えが返ってきたぞ? 魔王が強いから従ってる、とかじゃないんだ。もしかして魔王って魔将より弱かったりするの?

 いや、でも確かに聖人族の方の王様は大天使を差し置いて普通の人間のオッサンだったな。大天使はあくまでも民と街を守護する者って感じだったし。もしかして魔将と大天使ってあくまで守護者であって、支配者にはならんの?


「そして、魔将の強さを誇示する事は民の安寧にも繋がる。戦争が始まろうと、我ら魔将の存在が民の心を守り奮い立たせる。我らが存在する限り、魔獣族に敗北は無い。業腹だがそう思わせるためにも、我は優勝者を潰さねばならないのだよ」

「なるほど……」


 僕の中で魔王よわよわ説が浮上してる最中、バールが更に言葉を続けた。

 意外と本人はあんまりこの役目が好きじゃないみたい。まあ頑張って山を登ってきた人を、登頂寸前に蹴り飛ばして麓に叩き落すような役なんだから無理もないか。僕は余裕でできるし、何なら嬉々として蹴り飛ばすけどね?


「さあ、お喋りはもう良いだろう。早く終わらせようではないか」

「あ、待って下さい。最後に一つ――いえ、二つほど聞かせてください」

「……何だ?」


 ダメ元で提案してみると、聞く気はあるみたいで闇の中からそんな短い言葉が返ってきた。

 せっかく二人きりになれたし、見た感じかなりまともな性格してるっぽいし、もうここで仲間の勧誘しちゃおう。ダメなら消し飛ばして記憶を抹消する方向で。


「聖人族と魔獣族が手を取り合い、平和に暮らす世界ってどう思います?」

「……馬鹿にしているのか?」

「いえ、わりと本気です」


 返ってきたのは感情の窺えない問い。

 でも小馬鹿にしてる感じは無いから第一段階はクリアってところかな。この世界の一般的な奴にこれを聞くと、大笑いされるのが当たり前だからね……。


「……それが実現するのなら、素晴らしいと我は思う。血で血を洗う無益な争いが終わり、のどかで穏やかな世界が訪れる。ああ、それが実現できるのなら本当に素晴らしいだろう。我もそんな世界で暮らしてみたい……」

「ほうほう……」


 そして更に、非常に好意的な答えが返ってくる。

 同族にも敵種族にも敵意を抱いてないだけあって、平和な世界が実現できるならそれに越したことはないって感じか。これで第二段階もクリアですね。


「……少々口が滑ったな。我の発言を口外するなよ?」

「ええ、もちろん」


 若干の殺気を滲ませた声に、僕はウキウキ気分で頷く。

 だってもしかしたらついにまともな仲間が手に入るかもしれないんだよ? そりゃ心も踊るってもんだよ。何故かは分からないけど、僕の真の仲間たちは揃って異常者ばっかりだからね。男とはいえまともな奴が加入してくれるなら願ったり叶ったりだよ。


「おかしな奴だな、貴様は……それで、二つ目の問いとは?」

「……僕の仲間になりません? 実は僕、世界を真の平和に導くために行動してる女神様の使徒なんですよ。一緒に素晴らしい世界を作りません?」


 第二段階もクリアできたから、ここで僕は自分の正体を明かしつつ仲間への勧誘に踏み切った。

 でももちろん警戒は怠ってないよ? ちゃんとこの闇の世界の外周ギリギリに結界を展開して、断られたら即座にぶっ殺しても問題ないように対策してるし。あ、バールを殺したらこの闇の結界は解けちゃうのかな? じゃあ代わりに僕が闇で外周を覆って、と。これで良し!


「女神……ああ、アイツか……アレの使徒、か……」


 二千年生きてるだけあって女神様の事は覚えてるみたいで、闇の中からかなり意外そうな呟きが聞こえる。

 声に込められた女神様への感情は正直良く分からん。敵意も無いけど好意も無いって感じかな。まあハニエルでさえ女神様を邪神呼ばわりしてたことを考えると、快く思われてるわけがないんだよね。


「……正気か? この争いに満ちた世界を平和にできると、本気で思っているのか?」

「ええ、もちろん。時間も手間もかかりますし、数多くの犠牲も必要ですがね」


 遠回しに『めちゃめちゃいっぱい人が死ぬよ!』的な事をしっかり伝えておく。人によっては犠牲が出るのは許容できないとか、あまりにも血生臭いのは駄目なのとか色々いるからね。ハニエルがその典型。

 ただアレと違ってバールはしっかり領主のお仕事してて、なおかつ闘技大会の優勝者を叩きのめすっていうお仕事もしてる真面目な働き者だ。世界平和っていう高尚な目的を実現するためには、数多くの犠牲が必要だって事くらい理解してるでしょ。


「………………」


 闇の中から返ってくるのは長い沈黙。

 賛同はしてるし許容もしてるけど、僕自身が信じられないからいまいち答えられないって感じかな? まあバールから見れば女神様の事を知ってる時点で一般魔獣族には見えないとはいえ、まだ女神様の使徒としての力は見せてないからね。信用できないのも当然か。

 だとすると、次に返ってくる言葉はたぶん――


「……仮に貴様がそのような存在だと言うのなら、証明してみせるがいい。女神の使徒を名乗るのなら――貴様の力を見せてみよ!」


 ――力を見せてみろっていう、若干脳筋的な言葉。

 バリバリに戦意が乗せられた予想通りの言葉が、深い闇の中から耳に届く。それと同時に周囲を満たしてた闇が何やら不気味に蠢く気配がある。

 この闇の中がバールの領域だってことを考えると、この闇そのものを武器にできてもおかしくはないよね。下手すると凝縮した闇の槍とかで四方八方から串刺しにされたりするんじゃない? だとするとかつてないピンチなのでは? だったら僕もちょっと本気を見せる必要があるね。 


「オッケー、見せてやろうじゃないか。神の力の一端を、女神の使徒の力を」


 闇の中で、僕は開いた右手を天高く掲げた。

 さあ、イメージしろ。暗闇を切り裂く光を。全てを滅する炎の塊を。僕にならできる。だって僕の魔力は女神様から供給される、正真正銘の神様の魔力。そしてこの世界の魔法は女神様が使うものと全く同じ。ならできない道理はない。だって僕が今生きているこの星も、女神様が作り出したんだから。


「光あれ――恒星創造ステラー・クリエイション


 その魔法を発動した瞬間、周囲は光に包まれた。







⋇危ないので真似しちゃ駄目です。

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