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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第7章:獣魔最強決定戦
174/527

VS魔将バール

⋇暴力描写あり






「――斬撃(スラッシュ)


 再生能力の検証をしたいっていう欲求に抗えなかった僕は、遠慮なく好奇心を満たすことにした。どうせ再生するんだしちょっとやそっとの事じゃ後遺症も残らないだろうしね。

 そんなわけで、もう一度バールの右腕を斬り飛ばした。


火球(ファイア・ボール)


 そして今度は斬り飛ばされて宙を舞ってる右手に対して、火球を打ち当てて焼却処分した。

 もの凄い初歩の初歩みたいな魔法名だけど、この世界の魔法はイメージ次第で色々できるから初級魔術とか上級魔術とかそういう概念は無いんだよね。今だって僕が放った火球は青色で超高温にしてるから、当たった右手は一瞬で塵になったし。

 ただ斬り飛ばした部位は完全に焼却したのに、バールの右腕から闇が生えるようにして新しい右手がすぐに形成された。なるほど、焼却程度では影響が無いと。


「無駄だ。我にはその程度の攻撃など――」

「――斬撃(スラッシュ)


 というわけで、今度は首を斬り落とした。台詞の途中だったけど別に待ってやる道理はない。

 斬り飛ばした首は確かにポーンと飛んだものの、やっぱり血は一滴たりとも零れないみたいだ。それに一メートル以上離れる前に、首は時間を巻き戻すような挙動で元の位置へと戻ってくっついた。ふむふむ、首を斬り落としてもすぐに再生すると。


「効かぬ。我を殺したくば、せめて銀の武器でも持ってくるがいい。とはいえ――」

「――斬撃(スラッシュ)火球(ファイア・ボール)


 また何か言ってたけど気にせず首を刎ねて、刎ねた首を焼却処分。イケメンの顔を燃やして灰にするのはとっても気分が良いね。

 でも予想通り、即座に首の断面から闇が溢れ出して頭部を再生させた。ちゃんと長い金髪も再生してるのがまた憎らしい。


「おい、聞いているのか? 銀の武器でも無ければ我は――」

「――斬撃(スラッシュ)


 今度は頭のてっぺんから股間にかけて長剣を振り下ろし、身体を左右に真っ二つにしてやった。

 でもこれだけやっても血の一滴も流れなければ、臓器が零れ落ちることもなかった。多少身体がぐらついたとはいえ、すぐに元通りに引っ付いたし。 


「……おい」

「――斬撃(スラッシュ)火球(ファイア・ボール)


 もう一回真っ二つにして、今度は片方だけ焼却する。

 しかしこれでも、残った身体の断面から闇が溢れ出してすぐに再生した。うーん、これはマジで弱点つかないと無理じゃね?


「……我の再生能力を検証するのは面白いか? 言っておくが、再生はするが痛覚はしっかりあるのだぞ?」

「ええ、わりと面白いです――火球(ファイア・ボール)


 検証もひと段落したから、最後にバール当人に火球(ファイア・ボール)をぶち当てて火葬にかける。

 青い炎の中で人型が崩れて消え去るのが見えたし、炎が消え去った後には塵一つ残ってなかったけど、即座に闇が地面から湧き出てて来て人型を形成、それが弾け飛んだ後には五体満足で衣服もばっちり再生済みのバールが立ってた。何か微妙に不機嫌そうな顔してるのは何でだろうね?


『さすがは我らが魔将バール様! クルス選手の猛攻を受けながらも、平然と炎の中から現れましたー! さあ、どうするクルス選手ー!?』

「……満足したか?」

「ええ、わりと。やっぱり銀の剣とかが無いと勝てそうにないですね。というわけで――使わせてもらいますよ?」


 これはさすがに弱点をつかないとまともにダメージが与えられないから、遠慮なく銀製の武器を使うことにした。

 と言ってもそんなものは持ってないから、空間収納に長剣をしまう振りをして魔法で銀をコーティングしただけなんだけどね。破壊不能にしたりするのはちょっとマズいから、あくまでもコーティングだけ。


「好きにするがいい。ただしそれを使うなら、我も獲物を抜かせてもらうぞ」


 というわけで銀のメッキを構えた僕に対して、バールも何やら空間収納から取り出した。

 うん。アレは瓶詰めのイチゴジャム……じゃなくて、たぶん血液かな。真っ赤だからたぶん動脈血。それがガラス瓶に一リットル近く入ってる。解析(アナライズ)で調べたら武器が血液ってなってたし、たぶんアレをどうにかして使うんだろうなぁ。


『銀の剣を取り出したクルス選手に対して、バール様は瓶詰めの血液を取り出したー! そしてそれを放り投げたー!』


 なんて思ってたら、バールはそのガラス瓶をポイっと放った。リングに落ちたガラス瓶は盛大に割れて、中から真っ赤な血液が周囲に弾ける。まさか手元が狂って落としただけとか言わないよね?


「……お?」


 疑念に満ちた目で見つめてると、不思議な事にリング上に飛び散った血液がうぞうぞと動き始めた。そして次の瞬間、血液はまるで意志を持ってるみたいに素早く動いて、バールの左手に剣の形を取って収まった。


『これぞバール様が好んで用いる武器――血装だー! さあ、クルス選手はこの血装に太刀打ちできるかー!?』


 あー、血液が武器ってそういう感じ……これ今は剣の形を取ってるだけで、形はわりと自由自在になりそうだな。元は液体だし。


「血の剣とはまた随分とスプラッタな物を……」

「生憎と我にはこれが最も手に馴染むのだ。では――今度はこちらから行かせてもらうぞ!」


 バールが血の剣を振るった瞬間、刀身がたわんだかと思えばいきなり伸びて鞭のようにしなりながら僕に襲い掛かってきた。うん、知ってた!


「やっぱり形を変えて来たかぁ! 読んでましたよぉ!?」


 まあこれくらいはやるだろうと読んでたから、僕は長剣を軌道に割り込ませて防ごうとした。

 もしかしたら防いだ瞬間に血の鞭が更に伸びて襲い掛かって来るかもだけど、それでも対処できる自信はあった。


「――うおおっ!?」


 でもさすがに何のせめぎ合いもなく、血の鞭が触れた瞬間に刀身がスパッと斬り飛ばされたのには驚いたよ。

 何だこれ? 鞭の形してても剣としての切れ味は残ってるとかそういう感じ? いや、だったら打ち合った時に金属音くらいしてるだろうし……あ、待てよ? 液体……そういうことか、なるほどね。


「――滑る鎧(スリップ・メイル)!」


 とりあえず首に迫る鞭の一撃を滑る鎧(スリップ・メイル)でいなす。鞭の先端は僕の首からつるりと滑って見当違いの方向に流れると、そのままバールの手元へと縮んで剣の形に戻った。


『クルス選手、何とバール様の一撃を初見で凌いだー! 魔将の一撃を凌ぐとは凄まじい幸運だー!』


 今のやり取りを見て、何故か司会サキュバスは偶然凌げたみたいな言い方をしてる。

 ていうかさっきから気になってたんだけど、実況が明らかにバール寄りじゃない? 敬称が僕だけ『選手』なのに、バールは『様』だし。確かに魔将を乏しめる実況がし辛いってのは分かるよ? でもここはリングの上なんだし、もうちょっと公平でも良いんじゃないかな?


「ふむ。面妖な魔法を使うな……」

「それはこっちの台詞ですよ。変幻自在の対応力が売りの武器と見せかけて、とんでもない切れ味してるじゃないですか。高速振動……いえ、高速で対流させてる感じですかね?」


 その武器の秘密を見抜いたぞ、という感じに指摘する。

 たぶんあの血液の武器は、持ち手に当たる部分以外で血液が高速で対流してるんだと思う。速度さえあれば水でダイヤモンドを切れるんだから、血液で金属が切れたって不思議じゃない。分かりやすく言うとアレは血液でできたチェーンソーだね。おまけに形状は自在なんだから性質が悪い……。


「ほう? 一合でそれを見抜くとはな……その通り。血液を超高速で対流させることにより、並外れた切れ味を実現させている。それでいて本質は液体故に、形は自在。定まった形を持たぬ故に、破壊は不可能。さあ、この血装をどう攻略する?」


 僕の予想は正しかったみたいで、バールは素直に賞賛してくれた。そして空間収納からもう一本瓶詰めの血液を取り出して割り、両手に一本ずつ血液の武器――血装を手にした。

 これ一般魔獣族じゃ対処できないんじゃないかなぁ。しかも二本も同時に使うとか、殺意高すぎん? 


『さあ、二本の血装がクルス選手に襲い掛かる! クルス選手、絶対絶命だー!』

「ふむ……どうするかな、これ……」


 恐ろしい勢いで向かってくる二本の血液鞭を前に、しばし考える。そして考えてる間に二本の鞭が枝分かれして、六本くらいになって殺到してくる。触れればスパッと斬れるからろくに触れることもできないし、かといって液体だから破壊することもできないんだよなぁ。


「よし、じゃあこれだ――電撃(エレクトリック)


 逆に血装を利用して本体を攻撃することに決めた僕は、某暗黒卿みたいに手から稲妻を放って殺到する血装を迎え撃った。無限のパワーをくらえぇ!


「ぐっ!? こ、これは……!?」

『あーっと!? バール様が膝を付いたー!? どうやらクルス選手が何やら魔法を用いたようです! 何と恐れ知らずな事かー!』


 目論見通り電流は血装を遡って本体にダメージを与えたみたいで、バールはガクリと膝を付いた。滑らかに素早く僕に襲い掛かってた血装も、電気攻めされてる女の子みたいにビクビクしながら動きを止めてる。電流のダメージで上手く制御ができないみたいだね。

 何にせよ血装がバリバリに通電するもので良かった。血液って電気を通すのかちょっと不安だったけど、血液を外気に晒して武器にしてるってことは、少なくとも凝固しないように何らかの薬品を混入させてるはずだからね。それがあるからたぶんいけると思ったら案の定だったよ。


「おっ? 再生能力が凄くても痺れが取れない感じですか? じゃあその間に!」


 しかも再生能力が凄い割には身体の痺れは取れないみたいで、バールは跪いて蹲ってた。

 もちろんそんなチャンスを逃すような僕じゃない。空間収納から新たに長剣(銀メッキ済み)を抜き放って、ビクビク痙攣してる血装を潜り抜けるようにして一気に駆けた。


「舐めるな! ブラッディ・レイン!」

『ギャーッ!? ちょ、あーっ! バール様ぁぁぁっ!?』


 とはいえ動けなくとも接近を許す気はないみたい。バールがそう叫んだ瞬間、周囲でビクビクしてた血装が突然弾け飛んだ。そうして弾丸みたいな無数の血の塊が高速で飛んでくる。

 指向性はそこまで無いみたいで、大半は見当違いの方向に飛んでってるね。そして何発かが司会サキュバスの近くにもぶち当たってる。ざまあ。

 しかし司会の所に数発でも、至近距離にいる僕には何百発も飛んできてる。さすがに回避が難しくなってきたから、ここはやっぱりコレだね!


「――滑る鎧(スリップ・メイル)!」

「くっ!? 一体それは何の魔法だ!?」


 摩擦力さんを弄って、血の弾丸を全部つるりとやり過ごす。理不尽な攻撃を更に理不尽な魔法でやり過ごしたせいか、バールもちょっとキレ気味に見える。余裕が崩れてきましたねぇ?


「もらったっ!!」


 そうしてあと一息で剣の間合いに入る所まで接近できた僕は、次の一撃に向けて長剣を抱え込むように振り被る。

 バールはまだ痺れて動けない。僕の手には銀メッキの剣。オラッ、再生能力の検証時間だ!


「――馬鹿め。させると思うか?」

「うおっ!?」


 そうして残りの一歩を踏み出そうとした瞬間、周囲に散らばってた血液が突如僕に向かって殺到してきた。

 当然滑る鎧(スリップ・メイル)で対処しようとしたけど、残念ながら今回は効果が無かった。だって血液は僕を包むような感じで纏わりついてきたからね。さすがに僕の肉体そのものを狙ってるんじゃないのなら、この魔法も効果が無いよ。


『さすがはバール様! 自ら膝を付いて隙を曝け出すことで、逆にクルス選手に致命的な隙を作り出したー! クルス選手、大量の血液に飲み込まれて絶対絶命だー!』


 そんなわけで、僕は最終的に血液の繭の中に封じ込められた。視界が赤みがかった黒一色で何も見えないや。スライムに捕食されるってこんな感じなのかなぁ……って臭い! 鉄の匂いとやっぱり入れてた薬品の臭いが合わさって、かなりドギツイ臭いがする! まさか僕を悪臭で殺す気か!?


「貴様のその魔法。予選でも見せた魔法の発展系だな。察するに摩擦を操作して攻撃を無効化しているのだろう? 驚くべき魔法だな。だが、その魔法で対処できるのは物理的に接触する攻撃のみだ。故に――これは防げまい!」


 血液の繭の中で悪臭に苦しみ悶える僕は、不意に魔力の高まりを感じた。

 なるほど。どうやらバールは僕の予選を見ていて、魔法の効力も察しがついてたみたいだ。それにこの繭はあくまで拘束目的で、別に僕を悪臭で殺すとかそういうことは考えて無いらしい。


「――開け、煉獄の扉。溢れ出す漆黒の炎よ、我が敵を滅せよ。其は万物を焼き尽くす終焉の業火なり」


 お、聞いてて嫌な意味で鳥肌が立つ詠唱やん。

 内容から考えるに炎とかそういう感じの魔法かな? 確かに温度変化は摩擦力でもどうにもならんしね。これは食らったらこんがり焼けちゃうし、さっさと避難しておこう。


「パーガトリ・ヘルフレイム!」


 そうして、バールの魔法が発動した。血液の繭の下に地獄の門でも開いたみたいに、真っ黒な炎が噴き上がって繭を飲み込む。ファンタジーにいちいち突っ込むのもアレだけど、黒い炎ってどんな温度してるんだろうね?

 それはともかく、あのまま繭の中にいたら蒸し焼きになってただろうなぁ。いや、スゲェ臭かったし燻製になってたかもしれない。


「……許せよ。我は負けるわけにはいかんのだ」

『あーっ!? バール様、危な――』

「――はい、ドーン!」

「ぐはっ……!?」


 とはいえすでに繭の中から抜け出てた僕には関係のない話。というわけで、何かカッコつけてたバールの右腕を銀の剣で切り落としてやりました。というか司会サキュバスの奴、直前で警告しようとしやがったな……。

 何にせよ弱点をついたからか、今までとはダメージが全然違ったね。まるで肉を焼いたみたいな『ジュッ!』って音がしたし、血こそ出てないけど切断面からは煙が立ち上ってる。ボトリと落ちた手の方は徐々に焼け崩れて行ってるし、腕の方は次の瞬間には再生を始めたけど、今までと比べたら亀の歩みにも似た遅々とした速度だ。


『クルス選手、あろうことか銀の剣でバール様の腕を斬り落としたー!? これはあまりにも罰当たりな行為だー!』

「このクソ野郎おぉぉぉぉっ!!」

「やって良い事と悪い事があんだろうがあああぁぁぁっ!!」


 そして致命的とは言わないまでも有効打を与えたせいか、観客が僕に対してブーイングの嵐を送ってくる。こんなの超アウェーじゃん。ていうか攻撃して怒られるとかどうやって戦えっていうんだよ。素直に負けろってか。やっぱりか。


「き、貴様、一体どうやって……!?」

「さあ、何ででしょうね? それはそうと、真祖でもやっぱり銀は弱点なんですね」


 ここにきて初めて狼狽しながら距離を取るバールに対し、僕はとりあえずすっとぼけてみる。

 ちなみにどうやったかというと、血装で斬り飛ばされて吹き飛んだ長剣の刀身と僕の位置を、位置交換(シフト・チェンジ)で入れ替えただけだよ。普通に転移しても良かったけど、さすがにそれはちょっとやり過ぎかなって思って。どっかの話の長い魔術師曰く、単体の転移よりは位置の交換の方が遥かに簡単らしいしね。


「くっ……よもや、我に銀の一撃を叩き込むとは……」


 バールは弱点つかれたことが相当お気に召さなかったみたいで、悔し気に顔を歪めてる。そして何を思ったか手刀で自分の右腕を二の腕辺りで斬り飛ばした。

 何やってんのかと思ったのも束の間、今度は一瞬で右腕が再生してた。ああ、毒が回った箇所を切り落とすみたいにしたのね。ていうかそうすれば普通に再生するのか。だとすると銀の剣で首を刎ねない限りは死にそうにないな、これ……。


「……我は絶対に負けるわけにはいかん。良いだろう。貴様を、夜の世界に招待してやる」


 そう口にしたバールが、両腕を広げて何やら魔力を放ち始める。僕がこう評するのは凄い珍しいけど、なかなかの魔力だ。何せこの僕がちゃんと魔力を感じられるくらいだからね。まあ無限の魔力を持つ僕からすれば、目くそ鼻くそレベルの違いなんですがね?

 ただ色々と縛りを課してる今の状態だと正直キツイかもしれない。どんな魔法が飛んできても対処できるようにしっかりと備えておこう。よし、どんな攻撃でもドンと来い!


「顕現せよ、我が愛しき闇の世界よ――ダーク・ワールド」


 そうして僕がバッチリ覚悟を決めた次の瞬間、世界は暗黒に包まれた。

 




⋇某ハンマーの神の映画の二作目ではない

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