渇望
⋇性的描写あり
『――それで? 君は闘技大会とやらはどこまで勝ち残ったんだい?』
「今日で準決勝まで行ったよ。しかも準決勝の相手はメスガキ! いやぁ、明日が楽しみですねぇ!」
無事に本戦第二回戦を突破して、準決勝へと歩みを進めた日の夜。僕は宿のベッドに寝転がりながら、電話でカルナちゃんへと報告をしてた。朝昼晩の三回に電話してお話しないと機嫌悪くなるからね。さすが束縛系彼女。
今日も自分の試合が終わったらさっさと帰ったけど、後でトゥーラに確認させに行ったら何と準決勝の相手はあのメスガキだった。どうやら誰にも分からされること無く、無事に僕の元まで辿り着けたみたいだ。ああ、良かった。これで安心して分からせることが出来るな!
『なるほど。まあ君なら途中で敗北する方が難しいだろうから、優勝は貰ったようなものだね』
「いやぁ、どうかな? 今日の対戦相手は、油断すると僕も敗北してたかもしれないくらい面白い子だったよ? 何せ色んな意味で透明になって見えなくなる女の子だったからね」
今思い出してもアレは凄かった。僕の消失と同等の魔法を、女神様の寵愛を受けてない一般魔法使いが使ったんだからね。
しかもそれを維持しながら他の魔法を使って戦うこともできるという……杖をペロペロして引きずり出せたから良かったようなものの、あれでも出て来なかったらもうちょっと苦戦したかもしれない。
『色んな意味で……? それはまさか視覚的な意味だけではなく、聴覚や嗅覚といった五感、更には魔法的な感覚でも捉えられなくなる、ということかい?』
「うん。全部は分かんないけど、少なくとも視覚、聴覚、嗅覚辺りじゃ捉えられなくなるっぽい。それと僕の魔法で熱源検知とか動体検知とか色々やってみたけど、それでも捉えられなかったよ。しかも魔法陣を使ってる感じも無かったしね」
『………………』
レーンもこれにはびっくりして言葉が出て来ないみたいで、不自然な間が生まれる。あるいはそれを実現するために必要な要素を必死に考えてるのかもしれない。この子、ちょっと魔法馬鹿なところあるしね。
『……不可視になれるのは、ほんの数秒くらいかい?』
「いや、予選で三十分フルに消えてたよ。少なくともそれくらいは維持できるんだろうね」
『それはまた……随分と化け物染みた魔術師だね、その少女は。尋常でないほどの魔力量――というのは少々現実的ではないか。恐らくその少女は「消える」ことに対して強い拘りや執着を持っているんだろう。そういった様子は見られなかったかい?』
「あー、そういえば何かやたら人目を気にして隠れたがってたね……」
思い出してみれば、本戦出場者紹介の時は観客の視線に耐えきれずに小さくなってた。僕との試合でも開始前にはやたらに人目に怯えてる所があったね。臆病、っていうのとはちょっと違う感じがしたし。
「で、それがどうかしたの?」
『ああ。君も知っての通り、魔法はイメージが重要で――』
「長い、三行」
何か凄い基礎的な事から入ってもの凄く長くなる予感がしたから、容赦なく話をぶった切る。
レーンは良い女なんだけど、話が長いのがちょっとね。できれば結論から先に言って欲しい。まあ結論から言っても長々と過程も話すんだろうなぁ。
『……執着、狂信、渇望、信念。そういったひたむきで混じりけの無い強固な思いは、魔法に強い影響を与える。恐らくその少女は消えてしまいたいと激しく渇望しているからこそ、そこまでの不可視化を長時間使いこなせているのだろう』
若干不機嫌な声音でレーンが語ったのは、強い思いが力になるとかいう少年漫画の王道みたいな理論。
でもこの世界の魔法の仕組みを考えるに、確かにそういう事象が起きても不思議じゃないよね。レーンが口にした想いは何か暗い方向のが多かったけど。
「なるほどね。魔力でゴリ押す僕とは逆に、一つの想念でゴリ押してるわけか。もしかして消費魔力も極端に少なくなるのかな?」
『君の話を聞く限りだとそのようだね。私もそういった輩は数えるほどしか見た事が無いから、できれば直接会って話を聞いてみたいところだ』
「君知ってる? 相手は魔獣族だよ?」
『知っている。その内で構わないから、君が捕まえて話を聞き出せるようにしてくれたまえ。私の話を何度も何度も途中で遮りまくっているんだ。それくらいしても罰は当たらないだろう?』
「まあいいけどさぁ……アレはちょっと、捕まえるのが難しいかな……」
本戦に残った選手で有名だから、捕まえると足がつく……なんてくだらない理由じゃない。そもそもどこいにいるのかが分からないんだよね。今ちょっと探索で探してるのに、街のどこにも反応が無いし。
僕に痴漢されまくってショックで死んだってことはないだろうし、たぶんあの不可視化の魔法の副次的な効果で探せないんだろうなぁ。使ってない時も捉えられないとか強すぎん? これは後々面倒な存在になりそうだし、始末することも考えなきゃならんね。
『ああ、そうか。君でも補足できないんだったか……ふむ。ますます興味深いね……』
レーンは危機感を覚える前に興味を煽られてるらしくて、ちょっと機嫌良さそうな呟きを零してる。面倒な存在が出てきたんだから、そこはご機嫌になってないでさぁ……本当に魔法好きね、君……。
「……あっ、そうだ。さっき執着とか狂信とか淀んだ感じの感情を並べ立ててたけどさ、もしかして憎悪とか殺意でもイケたりする?」
『ん……いけなくはないだろうが、難しいだろうね。憎悪も殺意も明確な対象を持つ感情だろう? 確かにその対象に対して使用する魔法に作用させることはできるだろうが、その対象以外には全くと言って良いほど効果は見込めないだろう』
「なるほどね。でもまあそれで問題は無さそうかな?」
『ふむ。君は一体何を考えているんだい?』
「いや、リアの底無しの憎悪と殺意があれば、サキュバス特攻の超高効率魔法を使うことができるんじゃないかなって思って」
そう、リアはサキュバスに対して常軌を逸したレベルの憎悪と殺意を小さな胸に抱いてる。そして復讐するための力を欲してる。だったらこれを利用しない手は無いのでは?
可能だとしても間違いなくサキュバスのみに特攻を持つ尖った魔法になりそうだけど、別にそれで全然構わない。要はリアに自分の力で復讐を遂げさせるために、自分自身の力を身に付けさせたいだけだし。たぶん僕が代わりに色々やったら怒られるからね。本人がやらなきゃ意味が無いし。
『それは……できる、かもしれないね……』
「でしょ? いつかはリアに生まれ育った村を滅ぼさせてあげるつもりだし、その時の力になるよう極まった感情を利用する方法を教えとくべきかな?」
『その意見には賛成するが、教えるのは難しいだろうね。君も私もそこまで極まった感情を持っていないし、利用する方法も分からないだろう?』
「だよねぇ。やっぱりあの子をとっ捕まえて吐かせるべきか……けど今魔法で探そうとしても見つからないんだな、これが」
『むぅ、実に厄介だね……』
これにはレーンも苦い声を出す。探索でも発見できないってのが本当にセコイよね。実質こっちから探す手段が全く無いし。
いっそ街全体をそこにいる奴らごと焦土に変えて、手元で蘇生させるっていう手もあるか……?
『君は見てくれだけはまともで優し気に見えるし、もしかしたら向こうから接触してくれる可能性があったりはしないかい?』
「たぶん無いと思うよ。ちょっとあの子の大切な杖をペロペロしたり、暗闇で痴漢しまくったからむしろ怖がって近付いて来ない可能性の方が高いし」
『君は一体何をやっているんだ……』
正直に答えたら、呆れ果てた感じのツッコミをしてくれるレーン。
そんなこと言われても不可視化してるミラを引きずり出すためには必要な事だったし、暗闇での痴漢は何も見えなかったから不可抗力だし、仕方ないじゃん?
「あ、でもあの子が大事にしてた杖を返しそびれてそのまま持ってきたから、もしかしたら取り戻しに来てくれるかもしれないね。そうなったら捕まえておくよ」
実はあの時奪った杖、まだ僕が持ってたりする。だってミラは気絶してそのままコロシアムの救護室に運ばれてったから、返すタイミングが無くてさ。わざわざ見つけて返しに行くのも面倒だし、僕の空間収納の中に大切に保管してあるよ。返して欲しいならそっちから来い。
『そうか。来た時はせめてその杖を返してあげてくれ。できれば綺麗に洗ってから』
「はいはい、了解。それじゃ、もう切るよ?」
『ああ。おやすみ、クルス。また明日』
「うん、また明日」
最低限のおしゃべりのノルマは果たしたから、了承を得てから僕はレーンとの電話を切った。
捕まえろとか言ってきた癖に杖は返してやれとか言ってくる辺り、優しいのか優しくないのか良く分からんね。自分の興味に関することだけは妥協も慈悲も一切無いってことなのかな? でも確かに僕も興味のあること以外はどうでもいいって思ってるし、人の事は言えないかな? まあ僕は意味も無く人に優しくしたりはしないけど。
「……主~、愛人とのお話はもう終わったのかな~?」
携帯電話を空間収納に放り込んだところで、ベッド脇から声をかけられる。
見れば床にお座りしたトゥーラがブンブンと尻尾を振って、期待を込めた目でじっと僕を見つめてた。コイツはクソ犬だけど、こっちの考えを汲むのが上手いしちゃんと待てる奴なんだよなぁ。僕が電話してる時は邪魔しないようにずっと黙って待ってるし。
これがキラなら構わず僕に背後から抱き着いて抉りこむような頭突きをしてきたり、ぞっとするような手つきで瞼を撫でたりしてきたからね? 酷い時なんか電話してる僕のズボンから僕の息子を引っ張り出してお口で……いや、何でもないです。はい。犯されながら彼氏に電話させられる女の子の気持ちって、あんな感じなんだろうなぁ……。
「どっちかっていうとお前が愛人な気がするけど、まあ終わったよ。お前はちゃんと待てが出来て偉いねぇ? お手!」
「ワン!」
ノリで右手を差し出してお手を求めると、一瞬の躊躇いも無く完璧なお手が返ってくる。
ちなみに犬獣人にお手を求めたりおすわりさせたりするのは、尊厳を踏みにじる系のやっちゃいけない行為らしいよ。トゥーラはどう見ても嬉しそうに応えてるけど、まあそれはマゾだからってことなんだろうね。
「いや~、これも焦らしの一環だと思えば興奮もひとしおさ~。それで主~、電話が終わったのなら~……」
頬を赤くして息を荒くしながら、期待のこもった目で見つめてくるトゥーラ。
僕はもう童貞じゃないけど、何を期待してるのかは童貞でも分かるよね? 今は真夜中、この場には男と女、そしてトゥーラは僕の事が大好き。そんな状況下でやることと言えばアレしかないでしょ。というかそのために呼びつけたんだし。
「はいはい、分かってるよ。オラッ、四つん這いになってワンワン言うんだよ!」
「わぅ~ん!! ワンワン!!」
というわけで、今晩はマゾの犬獣人とくんずほぐれつしてお楽しみになりました。
ちょっと性癖が終わってる奴だけど、身体は普通に最高だからとっても気持ち良かったです。良い声で鳴くし、一生懸命ご奉仕もしてくれるしね。羨ましいだろ~? 羨ましいって言って?