本戦対策
⋇主人公の貴重な無双シーン?
「――よし、準備オッケー。さ、じゃあぼちぼち始めようか?」
コロシアムで本戦夜の部(エッチな意味ではない)が繰り広げられてる頃、僕は真の仲間たちと共に街の外れにある森の中にいた。
え? 何でそんな所にいるのかって? そりゃもちろん、皆で野外大乱交パーティ――なわけはないんだよなぁ。初めての時は野外で襲われたから仕方なく野外でやっただけで、さすがの僕も野外プレイに目覚めたりはしてないし。
どっちかっていうと、今からやるのは本戦の対策。さすがに予選みたいに速攻で終わらせると悪目立ちしすぎるし、ある程度はまともに戦わないといけないからね。そんなわけで、今から色んな戦い方をして目立ちすぎない程度の戦い方とか魔法とかを模索していくのさ。ぶっちゃけ予選がミニス以外あっさり終わりすぎて、消化不良になってる節もあるし。
「うむむ……あまり気は進まないが、他ならぬ主の頼みだ~。本気で行かせてもらうよ~?」
「分かった。殺す気でやりゃ良いんだな?」
僕の正面五メートルくらいの位置に佇むのは、それぞれの獲物を携えて完全武装の変態と狂人。全力でかかってきて欲しい、っていう僕のお願いに拒否を示さなかった良い子たちだね。まあ頭の中はアレなんだが……。
「ぶっちゃけもうあんたとは戦いたくないんだけど……」
「ご主人様ー、本当にやるのー? 苛めるみたいで気分悪いよー……」
そして二人の左右にはミニスとリアのロリコンビ。片やもう勘弁してくれって言いたそうな表情してるし、片やどうにも気が進まないって顔してる。
まあ四対一で戦うんだから、苛めみたいに思えるのは仕方ないよね。でも僕が望んでやろうとしてることだし、できればやる気を出してもらいたい。
「やるの。明日は僕の試合があるし、一応戦闘勘とかは磨いておいた方が良さそうだからね。というかトゥーラからコピった技術をまだ戦いで使ってないし、今の内に試しておきたいんだ」
トゥーラから衝撃を操作するという技術をコピーしたはいいけど、予選がアレだったからまだまともに戦いで使用した経験が無かったりする。コピーした後、試しに使ってみたりはしたよ? でもやっぱり戦いの最中と平常時ではまた違うじゃん?
「だからってー……何もみんなといっぺんに戦わなくてもー……」
「真面目にやったらまたサキュバスを拷問させてあげるよ?」
「本当!? 分かった! リア、一生懸命やるね!」
僕がそんなご褒美をちらつかせると、パッと瞳を輝かせて短剣を両手に握るリア。単純というか狂ってるというか……とにかくやる気を出してくれたなら結構だ。
「……あー、もうっ! どうにでもなれ!」
ミニスの方はもう諦めたみたいで、半ばヤケクソ気味に構えを取る。コイツの場合は破壊不能なモフモフコートが武器であり防具でもあるから、今回は他に武器は無し。
何にせよ、これで皆がやる気を出してくれたぞ。僕の目の前ではやる気満々の真の仲間たちが、それぞれの獲物を手にして構えを取ってる。目玉大好きな猟奇殺人猫に、変態クソマゾサドワンコ、同族拷問大好きなロリサキュバスに、鋼のメンタルを持つ一般村娘……何だこれは、たまげたなぁ。ア〇ンジャーズかな?
「――よし! かかってこい、野郎共!」
「野郎はあんたしかいないわよ!」
ミニスの鋭いツッコミと共に、戦いの火蓋が切って落とされた。
まず動いたのは、当然ながら犬猫コンビ。二人は僕に向かって真っすぐ突っ込んでくる。今回は最初から動体視力その他を十倍くらいにしてるから、何とかその動きを余裕を持って捉えることができたよ。
でもそれにしたって二人の動きはちょっと遅いね。特にトゥーラは衝撃を操作する技術以外にも色々な技術を身に着けてるから、その気になれば僕の視界から消えることだってできるはずなのにね。一応二人とも、この戦いはあくまでも本戦のためのトレーニングってことが分かってるんだろうな。
「ヒャッハ~! 行くよ、主~!」
その証拠に、トゥーラは馬鹿正直に真正面で右手を大きく振り絞る。これから右ストレート打ちますよ、っていうのが丸わかりの大袈裟な動きだ。
たぶん僕がちゃんと衝撃を流せるか試させてくれるんだろうなぁ。変態だけど気遣いはできるし有能なんだよなぁ、コイツ……。
「よし、来いっ!」
だから僕も右腕を振り絞って、迫るトゥーラに備える。
ついでに自分が作り出す衝撃の速度は、時間操作の能力の範囲外にしておく。馬鹿みたいな極まった技術を持ってるトゥーラが僕にボコボコにされたのは、どうにもこの能力の影響で衝撃の伝播速度がクソ速くなってたのが原因っぽいんだよね。この産廃と思ってた能力が無かったら僕は喉の負傷も治せなかったし、逆にボコボコにされてたはずだ。女神様に感謝と愛を捧げよう。
「ふんっ!」
「おりゃ~っ!」
距離が縮まったその瞬間、お互いに渾身の右ストレートを放った。固く握りしめた拳同士がガツンとぶつかって、甚大な衝撃が発生する。
馬鹿正直に打ち合ったのならお互いに手の骨が砕けてるところだろうけど、僕らは衝撃を操作する技術を身に着けてる。だから拳の内側で弾けそうになってる衝撃を、筋骨を微細に制御して受け流してく。拳から手首、手首から肘、肘から肩へと動かし、そのまま胴体を通して脚へと動かし――ドンッ! 完全に逃した衝撃が僕とトゥーラの足元の地面で盛大に弾けた。
うん。やっぱ反則臭いな、これ。確かに常軌を逸してるレベルでクソ難しい技術だけど、使えるようになれば打撃はノーダメになるからなぁ。まあ衝撃を受け流すことにミスれば、あらぬところで炸裂して致命傷になる可能性もあるリスキーな技だし、それくらいのリターンはあって当然か。
「――スラッシュ!」
ここでキラちゃんが右側から登場。トゥーラの背後から飛び出して、僕の手首を切り落とす一撃を叩き込んできた。
食らう前に拳を引くことはできるよ? でもこれは色々試すための戦いだ。だから僕はあえて拳を引かず、そのまま手首に鋭い鉤爪による斬撃を受けて――
「――はあっ!?」
「おおっ!? これはまさか~!?」
その衝撃を、足元の地面に逃した。斬撃を受けた様に地面がズバッと切れる光景を目の当たりにして、さしもの犬猫コンビも目を丸くしてたよ。
まあ現状はトゥーラでも斬撃を無力化することはできないから無理もないね。僕は今ちょっとズルしてるし。
「驚いてる暇はないぞ。そらっ!」
「ぐっ!?」
「うぐっ――はははは~! これは素晴らしい~!」
隙を見せた二人に対して、僕はノーモーションで衝撃を作り出して二人の身体に送り込んだ。途端に二人は弾かれたように吹っ飛んでく。
今のは原理としてはとっても単純。俗に言う発勁、重心や筋骨の動きを利用してほぼノーモーションから打撃を繰り出せる技術だ。もちろんこれもトゥーラからコピーした技術だぞ。いやぁ、他人の力を我が物顔で振るって無双するのは最高だぜ!
なお、一般人目線からすると相当異様な光景に映ってたみたいで、遠くの方でミニスが青い顔をして固まってた。
「な、何よアレ!? 防御魔法は使ってないんじゃなかったの!?」
「使ってないよ。僕が今使ってるのは衝撃支配って魔法だから」
そう、トゥーラも対処できない斬撃すらも僕が受け流せるのはこの魔法が理由。効果は衝撃の増幅・減衰と精密な操作っていう、一見地味な魔法だ。
ただし、この魔法の下地にはトゥーラからコピーした本物の技術としての衝撃操作がある。それのおかげでイメージを洗練させることができたみたいで、トゥーラが目指す拳の極みをあっさりと再現することが可能になったってわけ。今なら斬撃どころか、破城槌を身体に叩き込まれても衝撃を受け流せる自信があるわ。
「説明が長くなるから分かりやすく言うと、トゥーラの技術を極限まで発展させたものって考えればいいよ。だからこんなことだってできるんだぞ? ほらっ」
僕はそう口にして、足を軽く上げてから地面を軽く蹴りつける。それによって発生する衝撃を衝撃支配で増幅、更に緻密な制御力を持ち前の技術に加えて、衝撃を身体から遠く離れた望む方向へと操作して、一気に炸裂させる。
その結果――バツン! ミニス達の後方に生えてた大木の幹が、内側から爆散してへし折れた。凄いよね。元は地面を軽く蹴りつけただけなんだよ? 魔法ありきとはいえちょっと人間やめてきた気がする。
「む、無理だよこんなのー! ご主人様強すぎて無理ー!」
「これはさすがに反則でしょ。卑怯者って罵られても仕方ないわよ……」
「うーん。やっぱり試合には使っちゃ駄目かな、これ……?」
一種の神業だけど、ロリコンビにはすこぶる不評だった。
まあ僕自身、さすがにこれはやりすぎだと思うからね。こんなん使ったら試合は一方的でつまらんだろうし。単なる弱い者苛めは観客もお気に召さないと思う。
「さすがにそれはね~……ほとんど何も攻撃が通じないなら、一方的過ぎて観客からブーイングの嵐間違いなしだね~……」
「前みたいに空中で一撃入れりゃあ……いや、そういや前に空中で衝撃をそのまま返してたか。どうしろってんだよ……」
どうやら犬猫コンビも同意見みたい。
ちなみにその気になれば衝撃をそっくりそのまま跳ね返すこともできるし、以前にやったこともある。ただその時はそれがこの魔法の効果だって説明してなかったから、キラは今気が付いた感じなんだろうね。
というか衝撃支配で増幅できるから、そのままどころか軽く倍返しだね。どう考えても卑怯だなって。
「やっぱり駄目か。分かった、衝撃支配は無しでいくよ。じゃあ――これなら、どうかな?」
というわけで、僕は衝撃支配を解除して別の魔法を使ってみた。傍目からは違いも効果も分からないせいか、犬猫コンビも警戒して動くのを躊躇ってる感じがある。ベッドではあんなに激しく動く癖に……。
「うーん。じゃあ今度はリアとミニスちゃんが行ってみるね?」
「やっぱ私もやらないと駄目なのね。まあもう諦めたけど……」
なので今度はロリコンビが前に出てきた。ミニスの方はすっげー気乗りしない顔してるけどね。僕をぶん殴る時は滅茶苦茶頑張ってた癖に……。
「じゃあリアが魔法で攻撃するね! ミニスちゃん、前衛よろしく!」
「あーもうっ、分かったわよ。どうにでもなれ!」
「葉っぱさん、リアに力を貸して! リーフ・カッター!」
リアが手を高く掲げて、思わず力を貸したくなるような事を言って魔法を使う。一応アレも詠唱って分類するべきなのかな?
魔法の効果は、近くの樹の幹から葉っぱが高速で飛んでくるどっかで見たような感じのやつ。でも前に見た時と違って、正直お粗末な魔法だった。カルナちゃんが使った奴はミニガンで弾幕張ってるみたいな感じだったのに、リアのは水鉄砲をピュッピュッしてるようなもんだよ。数も速さも何もかもが足りんね……。
まあそれでもリアとしては頑張ってる方じゃないかな? だから僕は左斜め前から殺到する葉っぱの数々を避けずに待ち構えてあげた。そして葉っぱは僕の身体に触れた途端、表面を滑るようにして後方へ抜けて行った。
「あれは……当たっている、よね~?」
「当たってんな。けどなんつーか、表面滑ってるように見えるっつーか……」
これには犬猫コンビも首を傾げてる。
さっきとはまた違う理でダメージを無効化してるからね。たぶん頭を悩ませて考えてるんでしょうよ。
「――はあっ!」
そんな二人は置いといて、今は僕に肉薄してきたミニスだ。ミニスは安定のクソ強回し蹴りを僕の右脇腹に叩き込もうと、可愛らしい左足で空を切ってる最中だった。
そしてその左足が僕の脇腹に触れた瞬間――
「――はあっ!?」
――つるりと滑るように、ミニスの蹴りは見当違いの方向に流れる。さっきの気合の声とはまた違ったイントネーションの声が出たね。イントネーションの違いは大事。
「空気弾」
「わぶっ――!?」
バランスが崩れて倒れそうになったミニスに対して、わりと手加減した拳大の空気弾を撃ち込んだ。そのおかげで体勢を整えることができたミニスは、化け物でも見るみたいな恐れおののく目を僕に向けつつ後退したよ。
「な、何よさっきの!? 確かに当たったはずなのに、気持ち悪いくらいぬるっと滑ったんだけど!?」
「リアの魔法全然効かないよー……魔力がなくなっちゃうー……」
ドン引きするミニスを尻目に、リアも魔力が辛くなってきたのか葉っぱカッターを打ち切る。
うんうん。さっきとはまた違うやり方だけど、これでも攻撃の無効化は十分にできるね。問題はどうしても弱点が残ってしまう所くらいか。
「う~ん。察するに、予選で用いた魔法と同じものかな~?」
「そうだよ。僕の身体と服の表面の摩擦抵抗をゼロにしてみたんだ。アレと同じ原理で、どんな攻撃もつるつる滑ってまともに当たらないよ。ただこれはさっきのと違ってちゃんと弱点が――」
「――ロック・スピアー」
「いってぇ! まだ説明の途中ぅ!」
トゥーラの問いに答えようとした僕は、途中でキラが使った魔法で足裏をチクッとされて飛び上がる羽目になった。
この魔法はいわば摩擦抵抗消失の応用。露出した身体の表面、そして身に着けてる衣服の表面の摩擦抵抗をゼロにしてる。摩擦が無ければまともに接触することができなくなるから、どんな攻撃も表面でつるっと滑るわけ。ミニスの蹴りもリアの魔法も効かなかったのはこれが理由だよ。
ただし靴の裏まで摩擦を奪うと逆に僕が立っていられなくなるから、ここだけは触れるわけにはいかないんだよ。そのせいでキラがニヤつきながらやったみたいに、地面から棘を生やすような魔法は防ぐことができないんだよね……。
「ああ、なるほど~。足の裏は無防備なのか~」
「そういうこと。靴の裏まで抵抗奪ったら立ってられないし、かといって素足の抵抗を奪ったら靴の中でつるつるするからね」
「ふ~む。これなら乱用しなければそこまで疑問には思われないだろうね~。主は予選でリング上の摩擦を奪うという魔法を使ったから、その発展系と勝手に考えてくれるだろ~」
「だな。一応弱点もあるし、さっきのよりはマシだぜ」
どうやらこれに関してはそこまで批判はないみたい。
まあリング全体の摩擦を奪うより、自分の体表面の摩擦を奪う方が消費魔力は格段に少なそうだからね。ヤバい時に使うくらいならそこまで問題は無いか。足裏っていう弱点もあるから、そこまで鬼畜な魔法でも無いし。
「そっか。よーし、それじゃあ他にも色々試していくぞ。さあかかってこい、野郎共!」
「だから野郎はあんたしかいないっつーの……」
というわけで他にも色々試すために、僕は仲間たちと緩めの攻防を繰り広げるのだった。
さあ、本戦は一体どうなるかな? できれば僕をピンチに追い込むくらい、予想外で面白いことが起こると嬉しいな?