出発に向けて
冷静に考えたら闘技大会に出場しなければいけなくなったのは、トゥーラが高ランクごり押ししたからであるという事に気が付いた翌日。
今日でリアのお勉強は終わり、知識だけなら完全に一人前のサキュバスの誕生だ。本当はこの状態のリアと思い出に残る初夜にするはずだったのになぁ。トゥーラのせいでなぁ……本当クソ犬は碌なことしないね?
「リア、これでボクが教えられることは全て教えた。後は実践を通して、君自身で学んでいくべき」
「うん! ありがとう、リリスちゃん! リア、頑張って一人前のサキュバスになるね!」
迎えに来た僕の前で繰り広げられてるのは、リリスとリアの免許皆伝的なやり取り。
ちなみに当初はエロ知識にかなり衝撃を受けて混乱してたリアも、ここ最近は衝撃が麻痺してきたのかいつも通りの様子に戻ってきたよ。まあ最高のオカズであろうと毎日楽しんでたら段々と色あせてくるのは当然だもんね。あ、食事の話じゃないよ?
「その意気。頑張って。応援してる」
「うん!」
リリスにナデナデされつつ、力強い頷きを返すリア。
何にせよこれでリアのお勉強の日々もおしまい。何も気にしてなかったであろうリアと違って、僕の方は気が気じゃなかったらこれでようやく安心できるよ。サキュバスに襲い掛かったりとか、僕らの秘密を口走ったりしないかとか、わりと不安だったからね。
「おにーちゃん! お勉強終わったよー!」
「うんうん、よく頑張ったね。偉いぞー?」
「えへへー……」
僕の方に文字通り飛んできたリアを受け止めて、頭を撫でてあげる。普通に嬉しそうに頬を緩めるだけで、メスの顔をしたりはしなかったよ。嬉しいような、物足りないような……。
「それじゃあ、今夜早速ヤる?」
「リリス様、聞き方をもうちょっと……」
とんでもないことを聞いてくるリリスと、そんなリリスをやんわりと諫めるレタリー。
でもこれは初めから予定されてたことだからね。エロ知識を最大限に吸収したリアを相手に、僕が童貞を捨てるってことは。まあちょっとどっかのクソ犬のせいで予定が狂ったわけなんだが?
ちなみに僕が童貞を失ったことは、その翌日にリリスと顔を合わせた時に速攻でバレた。どうにも本当に見ただけで分かるみたいで、何故か僕は正座させられた状態で説教されたし、何があったかも自白させられたよ。
まあ『娘さんをください!』って言ってきた奴が実は他の女と付き合ってたみたいな状況に似てるし、リリスが怒るのも無理はないかな。僕は完全に被害者なんだけどさ。
「んー……僕はそれでも構わないけど、リアはどう?」
「えっとねー、リアはもうちょっと後が良いかな? お勉強はしたけど、覚えたことが多すぎて頭から零れちゃいそうなの。しばらくは復習してたいなー?」
「そっか。じゃあもうちょい日が経ってからにしようか。僕もクソ犬とクソ猫相手に腕を磨いてからリアを相手にしたいしね」
「うん!」
何てことも無いように、元気いっぱいに頷くリア。やっぱり無垢だったとはいえ、紛れもなくエロ種族のサキュバスなんだなって。
「……ボクの娘で童貞を捨てると言っておきながら、犬猫相手に3Pで童貞を捨てた事、ボクはまだ許していない」
「いや、襲われたって何度も言ったじゃないですか。後ケモノに襲われたみたいな言い方やめてください……」
「じゅ、獣姦!? おにーちゃん、実はそういう趣味が――あうっ!」
早速ここ最近で得た知識を披露したリアに対して、頭のてっぺんにビシっと手刀を叩き込む。さすがの僕もリアル獣とヤる趣味は無いんで。それなら冷たくなっててもまだ死体とかの方がマシだよ。
「ところで、クルス様はこれからどうなさるおつもりですか?」
「あー、それなんですけどね。実はアロガンザで開催される闘技大会に出場しようと思っています」
「ああ、あの大会ですか。もうそんな時期なんですね……」
今後の旅の予定を聞いてきたレタリーに対して、僕は正直に答えた。
相手が偉い奴の部下だし、すぐ近くで偉い奴も聞いてるからここは嘘を言う事も考えたよ? でも闘技大会で三位以上になるなら、そんな小細工無意味になるほど目立つしね。ここで嘘を言う理由が無い。
「ちょっとビラを見て説明を聞いただけなんで、吹けば飛ぶくらいのうっすい知識しかないんですけど、参加するなら何か注意することってありますか?」
「そうですね。多くの敵を同時に相手取る魔法や、戦い方を磨いておくことをお勧めします。参加者がとても多いので、例年通りなら予選はバトルロイヤルになるはずですし」
「バトルロイヤル……皆で、やりあう……乱交!?」
「なるほど。バトルロイヤル……」
まあ数千人規模の大会でいちいちタイマンなんてしてられないもんね。ちょうどクッソ暇な時間が出来る予定だし、その時に何か色々考えておくか。チラシ読んだ限りだと魔法も武装術も禁止されてるわけじゃないっぽいから、自由度は滅茶苦茶高いしね。
「自信、ある?」
「まあ、そこそこですね。ちょっと諸事情あって三位以内に入らないといけないので、死ぬ気で頑張ります」
「さ、三位以内とはまた、大きく出ましたね……」
「ん、男の子は自信過剰なくらいがちょうどいい。頑張って。ボクは街を出られないから観戦にはいけないけど、応援してる」
「ありがとうございます、リリス様。応援を無駄にしないためにも頑張ります」
無謀だと思ってんのか渋い顔をするレタリーと、にっこり微笑んで応援してくれるリリス。とりあえず僕は当たり障りの無いお礼を返しておいた。
別に三位以内に入るのは難しくないんだ。問題は僕が使う魔法や武装術をこの世界の常識の範囲内で収められるかってことだけで。でも収めないと絶対面倒なことになりそうだし、何とか頑張ろう。最悪他人の身体に直接働きかける魔法だけは避ければいけるか……?
「はい、この街でやるべきことは全て終えました! というわけで早速転移で次の街に繰り出そうぜ、野郎共!」
「おーっ!」
「お~っ!」
「………………」
「………………」
リアを連れて宿に戻った僕は、仲間たちを部屋に集めてそんな提案をした。ノってきたのは知識面だけ立派なサキュバスとして成長できて、とってもご機嫌なリア。そしてごく一部の事を除いて僕の発言には肯定しか返さない、奴隷精神が素晴らしいトゥーラ。
反面残りの二匹は無言でピクリともしなかったわ。もっとお前らノリ良くさぁ……。
「……なんて言ってみましたが、今回は普通に馬車を使います。理由としてはどこぞの魔将に顔を覚えられてるからだね。万が一とはいえ、翌日には次の街にいたってことがバレたりしたらものすごい怪しいでしょ?」
「確かに~。主の魔法で私たちの外見を偽装し、全くの別人に見せかけることもできるだろうが、馬車で街を出たという事実を作っておいた方が色々と面倒が無さそうだからね~」
「うん。一番の面倒はお前なんだけどね? 仮にもギルマスがただの冒険者に仲間として同行するってマジ?」
「ハハハ、今の私は長期休暇中だから役職も立場も一切関係ないよ~。そもそも休暇が終わっても主についていくから、心情的にはもう辞職した気分だしね~」
「こんな屑のために仕事捨てるとか、馬鹿なんじゃないの……?」
僕に忠義を捧げるために全てを捨て去ったトゥーラに対して、ミニスがぽつりと呆れたように呟く。
別に否定はしないけど、お前も大概だと思うよ? お前は家族を守るために自分の尊厳を差し出してるようなもんじゃん? 他人の事言える立場なの?
「それで明日の昼には出発するから、皆準備は済ませといてね。また何日もクッソ暇な移動の時間が続くよ?」
「大丈夫! リアはたっぷり復習するから!」
「私も問題ないよ~。主と一緒なら、それだけで充実した時間になるからね~」
「私は、別に……ちゃんと馬車に乗せてもらえるなら、それで……」
特に問題無さそうな二人と、何か自分の肩を抱いて顔を青くするミニス。どうにも馬車に繋げられて引き回しを受けたことがトラウマになってるっぽいね。
幾ら元実験動物で僕に対しての好感度が最底辺とはいえ、さすがに真の仲間にそんな酷いことはしないよ。僕ってそんなに信用無い?
「うん、皆大丈夫そうだね。キラはどう? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。けどそんなクソつまんねぇ日々になるなら……分かるよな?」
何やら意味深にニヤリと笑いかけてくるキラさん。
まあ分かるよ。コイツにとっての娯楽って大体一つしかないしね。それを除けば某ド田舎でも大体お昼寝しかしてなかったし。
「はいはい、分かってるよ。ちゃんと毎晩殺しに連れてってあげるから」
「それだけじゃねぇよ。ちゃんとあたしの身体の火照りも冷ましてくれよな?」
「身体の火照りを冷ます……あっ、これお勉強で習った表現だ!」
おっと。てっきり殺人の事かと思ってたら、まさかの性的な方面の事だった。
いや、確かに最近はトゥーラとキラを毎晩交互に相手してるし、キラも何だかんだで滅茶苦茶楽しんでるのは分かってたよ? でも暇だからってエッチするほどだとは思わなかったし、殺人と同列の扱いになるほど好んでるとは思ってなかったな。
「……お前さぁ、滅茶苦茶エッチに嵌ってない? 何? 発情期?」
「良いじゃない。あんたみたいな屑としたいって言ってくれてるんだから、ちゃんと相手してやりなさいよ? 私はあんたたち、お似合いだと思うわよ?」
「へぇ? お前もなかなか良い事言うじゃねぇか。少し見直したぜ」
珍しくミニスが僕らを肯定するような発言をして、キラからの好感度がほんのちょっとだけ上がってる。
でも僕は知ってるぞ? お似合いかどうかはさておき、ミニスは別にキラのためを思って発言をしたわけじゃない。単純に僕が夜にキラとかトゥーラを抱いてれば、自分が抱き枕になる必要も一緒に寝る必要も無いから積極的に推してるだけで、百パー自分のための発言だよ。
「ミニス、ミニス~? 私と主はどうかな~? お似合いかな~?」
「……死ね」
「ガ~ン!!」
ただここで肯定を返しておいた方が自分のためになるはずなのに、何故かトゥーラにだけは滅茶苦茶当たりがキツかった。まあミニスはコイツに外道な脅しを受けたわけだしね?
それに反復横跳びみたいに身体を左右に揺らしつつ、お得意の煽るような口調で尋ねられてたからイラッと来たのかもしれない。そんなんされたら僕だってイラつくし、しゃあなしだ。