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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第6章:童貞卒業の時
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トゥーラの事情

※夜のデート




 冒険者ギルドでの取引の翌日。風俗店のサキュバスたちが姿を現す夕暮れ時、僕は街の広場にある噴水の前でトゥーラを待ってた。

 お前が今まで磨いてきた技術を寄越せ、っていう無礼千万な頼みは、結果的には了承された。ただし幾つか条件があって、今からその条件を満たすために頑張らないといけないわけ。具体的な条件っていうのは、トゥーラのとあるお願いを聞くこと。そして技術提供はその後、って感じの内容だね。

 でも冷静に考えてみると、やっぱりこれでも破格の条件だと思う。何せトゥーラが三十年弱研鑽してきた技術が、ちょっとしたお願いを聞いただけで僕のモノになるんだよ? 僕ならもっと理不尽かつ達成困難な条件をつけまくるよ。


「やーやー、待たせてしまったかな~?」

「うん。ニ十分くらい待ってた。遅いぞこんちくしょう」


 しばらく待ってると、ニ十分くらいしてトゥーラが現れた。一体どんな道順で来たのか、僕の頭上を飛び越えて目の前に着地してきたよ。

 別に向こうが約束の時間に遅刻したってわけじゃないし、むしろ僕が早めに来すぎたってだけなんだけど、待ってる間のサキュバスたちの客引きが凄かったからね。いちいち断りを入れてたから無駄に待たせられた気がするよ。


「すまないね~。しかしそこは『今来たところ』と返すのがお約束ではないのかな~?」

「これがデートなら確かにそう返したかもね。でもこれから僕らがするのは、デートなんていう甘酸っぱい感じのソレじゃないでしょ? ていうかそもそも忠犬が飼い主を待たせてどうするよ」

「ハハハ、尤もだ~。すまないね~。職務の引き継ぎがまだ中途半端なせいで、思いのほか時間を取られてしまったんだ~。本当に申し訳ないよ~……」


 別に責めてはいないのに、トゥーラは躊躇いなくお座りからの土下座をかましてきた。サキュバスたちの客引きと、それに惹かれた野郎共で賑わう広場のど真ん中でだよ? 周りの視線が滅茶苦茶痛いです……。


「まあ、そういうことなら仕方ないか。許してやろう。それじゃあさっさと行くぞー」

「ワゥーン! 了解だ~!」


 いたたまれない気分になったからさっさと移動するために声をかけると、途端にトゥーラは弾かれたみたいに身体を起こして、当たり前のように僕の右腕を抱きしめる形でくっついてくる。これには野郎共の視線が更に刺々しいものになったよ。

 まあこの場所を街合わせに使ってるだけの野郎共はともかく、大半の野郎共はここにいるっていう時点で親密な関係の女の子がいないってことが明らかだからね。いるならサキュバス風俗嬢の客引きに寄って行ったりしないだろうよ。

 せっかくだから僕はあえてゆっくりと歩を進めて行った。満面の笑みで尻尾を振りつつ、右腕に抱き着いてるトゥーラを野郎共に見せつけるようにね。コイツ性癖はともかく、見た目は文句なしに可愛いし。野郎共が結構な頻度で妬み嫉みの視線を向けてくるのがなかなか楽しいですねぇ。


「フフフ~、主ぃ~♪」


 トゥーラもトゥーラで楽しんでるのか、それとも名実ともに僕の奴隷になれたことが嬉しいのか、凄いご機嫌そうに笑って肩の辺りに頬摺りしてくる。こういう様子は普通に可愛いんだけどなぁ。中身がちょっとなぁ……。


「めっちゃご機嫌だね。そんなに僕の奴隷になれたことが嬉しい?」

「もちろんさ~! 元々私は自分が隷属するべき主を見つけることは不可能だと思っていたんだ~。何せ人を痛めつけ、苦しむ様を見るのが大好きな性質だからね~……」

「やっぱ相当イカれてんな。今じゃそこにドM気質まで加わってるし……」


 ドSでドMとかいう、両極対応の万能性癖。しかも滅茶苦茶ハードなレベルでもありとかいう無敵状態。これをイカれてると言わないで何をイカれてると言うんだって感じだよ。さすがの僕もここまでぶっ飛んだ性癖は持ち合わせてないし。


「ハハハ、主がそれを言うのか~い? 主も少女をいたぶるのが大好きなんだろ~?」

「ハッハッハ、もちろん。当たり前じゃないか」

「ん~、似た者同士で運命を感じるね~! やはり、私の目に狂いは無かった~!」


 何でか妙に感激しながら、更にぎゅっと抱き着いてくるトゥーラ。うむむ、二の腕に当たる柔らかさに興奮が掻き立てられる……いや、落ち着け。コイツはド変態だぞ。こんな変態に興奮したら人として終わりだぞ。


「いや~、主に巡り合えて本当に良かったよ~。何せ今まで無為に日々を過ごすしかなかったからね~……」

「うん? それってどういう意味? 普通に鍛錬しまくってたんじゃないの?」


 さっきまでと打って変わった、疲れ切ったような口調が気になって尋ねる。

 トゥーラは鍛錬やら修行やらに明け暮れて、今の強さを手にしたってことは分かる。でもさっきの言い方は、まるでその日々が価値の無いものだって言ってるみたいに聞こえたんだよね。あれだけの強さを手にして、無為に日々を過ごしたっていうのはどういうことなんだろうね?


「していたはしていたんだが……別に私は鍛錬や修行が好きと言うわけではないんだよ~。必要に迫られて強さを求めた、という表現が正しいかな~?」


 あまり面白くなさそうな顔をしながらも、僕が尋ねた事だからかトゥーラは素直に語って行く。さっきまでブンブン振られて僕の尻を叩いてた尻尾も、今じゃ萎えててピクリともしてないよ。


「先ほども話したが、私は人を痛めつけるのが大好きだ~。苦痛に泣き叫び、表情を歪ませる光景が大好きだ~。ただ、何の理由もなく人を痛めつけるのは犯罪だろ~? 主は合法的にこの欲求を満たすためには、どうするのが一番手っ取り早いと思う~?」

「そうだね……拷問官になるとか?」


 この世界ならそこそこ需要のある職業だと思う。何といっても常に戦争中で、憎き怨敵には事欠かないからね。それに趣味を仕事にできるとか最高じゃん? まあ今は睨み合いをしつつ力を蓄えてる状況ってとこだし、仕事は若干暇かもしれない。


「さすが主、一番にそれが出てくるか~。私も一応それを考えたんだが、これはあくまでも趣味と性癖であって、仕事にしたいかと言われると疑問だからね~。もっと別のアプローチをすることにしたんだよ~」

「別のアプローチ……?」


 どうやらトゥーラは趣味を仕事にしたくはない様子。趣味はあくまでも仕事の息抜きのために存在するもの、って認識なのかな? 確かにそういう考え方もあるから、別に否定はしないよ。

 それよりも気になるのは、トゥーラが僕の問いかけに答えず歩く方向を変えた事。僕の事を引っ張る形で、何故か表通りから外れて裏路地へと入って行く。こんな人気の無い所に連れ込んで、一体何をするつもりなんですかね? まさかエロ同人みたいな展開!?


「――よう、にーちゃん。随分と可愛い彼女連れてんじゃねぇか」

「テメェみてぇな冴えねぇ奴にはもったいねぇよ。俺達によこしな?」

「そうそう、俺らがたっぷり可愛がって鳴かせてやるぜ? 前にサキュバスにやったみたいにな! ギャハハハ!」


 なんてちょっとドキドキしてると、裏路地に入った僕らの背後からそんなテンプレみたいなキショイ声がかけられた。

 ていうか後ろからってことは、もしかしてさっきまで後をつけられてたのかな? なるほど、それに気付いてたトゥーラがあえて人通りの少ない所へ行くことで、ストーカーを誘い出したってことか。コイツらはどうにもトゥーラを狙ってるっぽいけど、こんな雑魚共はトゥーラの敵ですらないしね。精々サンドバッグくらいにしか――


「――あ、何となく分かった。確かにこれなら返り討ちにして分からせてるだけだから、合法的かな?」


 何となくだけど、別のアプローチとやらがどんなものかが理解できた。

 僕の大好きな言葉に『正当防衛』って言葉がある。要するに襲われたなら自分の身を守るためにやり返して良いってこと。趣味として人を痛めつけたいトゥーラにとっては、正しく合法的に自分の欲求を満たせる方法だね。ちなみに僕の大嫌いな言葉は『過剰防衛』。


「さすがは主! 察しが良いね~! それはそうと、コイツらは邪魔だから片付けるよ~?」

「あ? 何――ぐはっ!?」

「へ? 今――あぐっ!?」

「おい、どうし――うあっ!?」

「……恐ろしく早い動き。僕でも見逃しちゃうね」


 今は動体視力とか反射神経を三倍にしかしてないから、不良共を片付けるトゥーラの動きは一切見えなかった。トゥーラが僕の腕を離した事に気が付いた次の瞬間には、不良たちの中心で手刀を放った姿で残心してるんだから、もうわけわからんよ。遅れて不良共がぶっ倒れるわけなんだけど、コイツらも何されたか分かってないな、きっと。


「本来なら死ぬ一歩手前までいたぶるところなんだが、今回は見逃してあげよ~。何せこれから主と夜のデートなのだからね~! フヘヘヘ~!」


 などと嬉しそうに頬を緩ませながら、身体をクネクネさせるトゥーラ。ちょっと可愛いなぁと思ったのも束の間、表通りに戻るのに邪魔になりそうだったのか不良の一人を蹴っ飛ばすと、わざわざ僕の所に戻ってきた。もちろんぎゅっと腕を抱きしめてきたよ。

 二の腕に押し当てられる柔らかさを感じながら、僕は静かに自分の強化倍率を十倍くらいに引き上げました。お、怯えてなんか無いんだからね!


「さて~、どこまで話したかな~? ああ、そうそう。絡んできた輩を返り討ちにするところだったね~。これはとても良い考えだったんだが、一つ問題があったんだ~。返り討ちにするのにも、殺さないようにいたぶるのにも、それを可能とする強さと技術が必要だろ~? そんなわけで、私は鍛錬を重ねていったのさ~。自らの欲望を容易に満たせるようにね~?」

「なるほどね。すっごい歪んだ鍛錬の理由にびっくりだよ。真摯に鍛錬してる人に謝れ」

「ハハハ、すまんね~? それで最終的には私の強さに臆したのか誰も挑んできてくれなくなり、かといって今更弱くなることもできず、ほとんど惰性で鍛錬を続けて今に至るというわけさ~」

「すっげぇアホみたいな理由。そこまでするならもう最初からキラみたいにしてれば良かったのに」


 まさかここまで強くなった理由が『相手を生かさず殺すボコボコにして楽しむため』とか、捻じ曲がりすぎてていっそ感心するね。これならまだ『世界最強を目指す』とか『俺より強い奴に会いに行く』とかの方がマシに思えるよ。

 そこまでするならいっそのこと犯罪に手を染めれば良かったのに、っていう旨の発言をすると、トゥーラは苦笑いを返してきた。


「あの頃の私はまだ若かったからね~。さすがに犯罪者になる勇気はなかったのさ~。もちろん今は、主のためなら犯罪の百や二百、平気で犯せるよ~?」

「それは心強いね。まあ過程がちょっと不服だけど、お前も立派に僕の真の仲間だ。お前が望むなら、そういう欲求の発散のお手伝いもしてあげるよ」

「おぉ~! それは素晴らしい~! 愛してるよ、主ぃ~!」


 感極まったようにはしゃぎながら、更に深く抱き着いてくるトゥーラ。

 うーん。二の腕に感じる柔らかさは大変素晴らしいんだが、コイツがその気になれば僕の腕ぐらい引き千切るなり何なりできそうだから、いまいち手放しに楽しめないな……。





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