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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第1章:異世界召喚
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やっと異世界へ

 そんなこんなで、僕は仲間たち四人の面接を終えた。特に問題は無かったからもうこの四人で旅に出ることにしたよ。いい加減異世界に繰り出したいしね。

 えっ、最後の一人の面接はどうしたって? そんなのどうでもいいじゃん。何が悲しくて一ミリも楽しくない、筋肉ダルマと二人っきりの会話の場面を語らなくちゃいけないの? そんな場面を望むとかホモなのでは? でも仕方ないからホモの方に配慮して、野郎の情報だけ語っておくよ。



 名前:クラウン

 種族:聖人族(人間)

 職業:斧術師

 年齢:24

 聖人族への敵意:無し

 魔獣族への敵意:極大



 この野郎を仲間に選んだ理由は三つ。パーティの男女比操作のため、そして敵対種族への敵意が尋常じゃないという点。もう一つは、まあ後々役立ってくれそうだからってとこ。ネタバレになるから今は教えないよ?

 コイツはあの場で唯一【極大】判定の敵意を持ってた、ある意味最も聖人族らしい聖人族だ。【極大】は殺意って設定したし、たぶん目の前に魔獣族現れたらいきなり殺しにかかるんじゃなかろうか。野蛮だなぁ……。


「さて、僕はあなたたちと冒険に出ることを決めたんですけど……これからどうすればいいんでしょうかね?」


 面接を終えてひとまず玉座の間に戻ってきたけど、この後の流れがさっぱり分からん。王様はどっか行っちゃったし。まだ選ばれなかった人たちもここで立ったまま待ってるみたいだし、案外ここで何か続きでもあるのでは?


「おいおい、どうするって決まってんだろ? 魔獣族をぶっ殺しに行くんだよ。皆で奴らを根絶やしにしてやろうぜ!」

「それは分かっていますが、先立つものが無ければ旅はできませんよ。そういったものの支給はないのでしょうか?」


 馴れ馴れしく肩を組んでくる茶髪筋肉ダルマにイラっと来たけど、僕は勇者らしい勇者様。何とか顔や口調に出すのは我慢して皆に尋ねてみた。

 とどのつまり金を寄越せってことだよ、金! 軍資金! 先立つもの! 地獄の沙汰!


「ああ、それならもう少しここで待っていれば――いや、もう来たようだね」


 やっぱり何度も勇者を見送ってきたらしいレーンが一番詳しいみたいで、即答したかと思いきや玉座の間の入り口に目を向ける。

 つられてそっちを見ると、ちょうどでかい扉が重い音を当てて開くところだった。王様が金持って戻ってきたのかな? 


「――勇者様! こちらにおられたのですね!」


 と思ったけど、現れたのは何と幼女! しかもふわふわ金髪にくりくりお目目の幼女だ!

 おまけに背中でちっちゃな白い翼をパタパタさせながら、ドレスの短いスカートをひらひらさせて僕に向かって笑顔で駆け寄ってくる! ここは天国か!?


「うん、僕が勇者だよ。僕はクルス。君の名前は?」

「わ、私はファラソー・オルディナリオ・テラディルーチェと言います! この国の王、レイ・オルディナリオ・テラディルーチェの一人娘です!」


 なるほど、あのヒゲ面の娘とな。母親がよっぽど良かったんだろうなぁ。

 というか今あのヒゲ面なのに、こんな小さい娘がいるとか……お盛んなこって!


「申し訳ありません! 勇者様の旅立ちに欠かせないものを私が直接お渡ししようとしていたのですが、故あって少々遅れてしまいました……! 本当に申し訳ありません!」

「大丈夫ですよ。こうして間に合ったのですから、些細なことです」


 深く頭を下げて謝罪するファラソーに笑いかけつつ、僕はその頭をなでなでしてあげる。普通は事案ものだけど僕は顔は悪くないし、今は勇者って立場もあるからこのくらいは許されるでしょ。

 どうやら軍資金はこの子が直接僕に渡したかったみたい。まあ僕としてもヒゲ面の偉そうなオヤジに渡されるより、この子みたいな可愛らしい幼女に手渡しされた方が断然良いよ。待たされたことなんて本当に些細な問題さ。


「勇者様……ありがとうございます! それでは、こちらをお受け取りください!」


 どこかとろんとした目をして、ファラソーは僕にずっしりと重い革袋を手渡してくる。おっと、僕に惚れたかな?


「それからこちらも。我が国が認めた勇者の証でございます。こちらを街の入り口で係の者に見せれば、素性の確認などの審査は免除され、すぐに街に入れますよ。役立ててくださると嬉しいです」


 そして次に渡してくるのは、金色に輝く……バッジ? エンブレム? とにかく手の平からちょっとはみ出るくらいのソレを渡してきた。デザインは剣と盾が組み合わさった感じのシンプルな奴だ。

 何にせよ街に入るための審査とか検査とかを素通りできるのは嬉しいね。手渡しだから幼女のちっちゃなおてての温もりを感じられたし。


「どうか、無事に帰ってきてくださいね? 私は、勇者様のご安全を願っています……」

「ええ。必ずや皆で無事に帰ってきますよ。この世界に平和を取り戻した暁には」

「はい……お待ちしております、勇者様……!」


 ぽっと頬を染めて、恋する乙女みたいにもじもじしてから走り去っていく。これは僕に惚れましたね、間違いない……。

 よし。僕の目的が本格的に始動した暁には、とりあえずあの子を誘拐して人質兼性奴隷にしよう。何よりあの子、見た目がちょっと女神様に似てたから堪らないんだよね。女神様に似た幼女を力で捻じ伏せるとか、考えるだけでどうしようもなく興奮してきちゃうよ。


「……随分と嬉しそうな顔をしているね、クルス。そんなにあの子のことが気に入ったのかい?」


 そんな風に僕が未来の計画を思い描いていると、さりげなくレーンが僕の傍に来て囁いてきた。

 口調が平坦だから分かりにくいけど、さてはお前やきもちか? 何だよ、可愛いじゃないか。縛り付けて犯したくなるだろ、全く……。


「いえいえ、そんなことはないですよ?」


 だから僕はそんな焼きもちなレーンを安心させるために、きっぱりと否定しておいた。

 まあ僕はファラソーを性の対象としか見てないしね。真の仲間になれる可能性があって、人間的外見的にも好みなレーンとは違って。

 僕の答えに安心したのか、レーンは感情の薄い顔にうっすらと微笑みを浮かべた。


「そうか。なら安心だね。ちなみに彼女、齢四十三の王妃が魔法で幼子に化けた姿だよ。旅立つ勇者様が男性なら彼女が、女性なら王がそれぞれ幼子の姿に成りすまし、ああして勇者様のやる気や庇護欲を煽り、手駒として精一杯頑張って貰おうと画策しているというわけさ。君が騙されていないなら何よりだよ」

「……ぶち殺す」


 そしてその口から出てきた受け入れ難い事実に、溢れんばかりの憎悪と殺意が湧き出る。

 いや、もちろんレーンにじゃないよ? さっきのクソ女にだからね? 純情無垢な男の子の心を弄ぶとか下種の極みじゃないか。

 うん、決めた。聖人族の中核のこの国は滅ぼさないことを決めてたけど、王妃だけはぶっ殺す。人の風上にも置けないクズは処罰しなきゃならんからね。


「素が出ているよ、クルス……」


 おっと、怒りの呟きを聞かれていたようだ。まあ聞いていたのはレーンだけみたいだし問題ないでしょ。何かキラも不審そうな目を向けてきてる気がするけど、僕はキラほど不審な存在では無いし。

 というか君、本当にこの国で何してるの? ここ敵国のど真ん中だよ……?







「おおっ、これは……」


 城から出た僕を最初に出迎えたのは、今まで感じたことが無い澄んだ空気と気持ちの良い風だった。

 それから日向ぼっこに最適な暖かな日差し。今どきこの三つを同時に味わえるところなんて、超がつくド田舎くらいしかないと思う。

 だけどここは見渡す限り田んぼや山やらが続く田舎じゃないし、ましてや日本でもない。未知に溢れた異世界だ。正直街並みも僕の想像とは違った。

 何て言えばいいのかな。自然と建物が高度に調和しつつも発展を忘れることなく黄金律を以って建造された……ああ、うん。分かりづらいね。まあ何か緑に溢れてるけどそこそこ建物も進んだ感じってことだけ分かればいいよ。どれくらい進んでるか悩むだろうけど、そこは城下に鐘楼付きの時計台が見えることを参考にしてほしい。というかここ時計あったんすね……。


「どうですか? とても美しい風景だと思いません?」


 初めて見た異世界の街並みに固まっていた僕を、美しさに胸を打たれたんだと思ったみたい。ハニエルが翼をばさばさはためかせながら笑顔で尋ねてくる。

 これは頷いて欲しいんだろうなぁ。でも確かに美しい街並みではあるね。仕方ない、乗ってやろう。


「うん。素晴らしい風景だと思います。牧歌的で、穏やかで、とても戦争中だとは思えませんね」


 この美しい街並みが戦火に包まれ、焼け野原になることを考えると、何かこう……ゾクゾクしてくるね! ああ、美しいものってどうしてこう壊したくなるのかなぁ……。


「……なあ、一ついい? あんたのその喋り方、聞いてると何か凄くムズムズして気持ち悪いんだよね。あたしたちは仲間なんだし、もっと砕けて話さない?」

「そうだぜ! 俺たちはゴミ共を始末する仲間なんだし、仲良く楽しくやろうぜ?」

「そ、そう、ですね。勇者様がとても意地悪な方なのは私も知っていますし、普段通りの口調で喋って頂いた方が仲良くなれている気がします」

「私もその意見には賛成だ。正直なところ、君のわざとらしい丁寧な言葉を聞いていると非常にもどかしく不愉快な気分になってくるんだ。私の精神衛生上よろしくないから止めてもらえれば幸いだ」

「えぇ……」


 街が灰燼と化す光景を思い描いていたら、唐突に口調を仲間たちにディスられる。

 ちょっと酷くない? こちとら頑張って勇者様っぽく振舞ってたんだぞ。そこまでボロクソに言わなくてもいいじゃないか。しかも一番マシな発言が筋肉ダルマのってどうよ?


「……はいはい、分かった分かった。それじゃあ丁寧に喋るのは止めるよ。実は意外と疲れるしね」


 でもまあそろそろ疲れてきたし、半数以上は見抜いてるみたいだし止め時だね。もちろんあくまでも仲間たちに対する言葉遣いの話だよ?

 そういうわけで僕は完全に砕けた調子で話すことにした。貼り付けたような笑顔も破り捨てておいたよ。もう蒸れて蒸れてやってられなくて……。


「よっしゃ! これで俺たちの仲がまた深くなったな!」

「やめろくっつくな暑苦しい」


 あろうことか筋肉ダルマがまた肩を組んでくる。汗臭いし熱いしで酷く不快だ。止めないと君の手足を削いで本当にダルマにするよ?


「それでこの後はどうするんだい? 私たちは既に準備を終えているが、君は武器と装備に加えて色々と旅の準備も必要だろう。ここは街の宿に一泊して明日旅立つのが賢いと思うが、どうするね?」

「そうだね。自分が守るべき街もしっかり見回っておきたいし、今日は宿に泊まって明日出発しよっか。皆もそれでいい?」


 レーンの提案に即座に頷く。

 そういえば僕、武器装備以前に酷い簡素なシャツとズボンの格好のままだったんだよね。風呂上がりに用意されてたやつ。

 武器装備だけじゃなくて、着替えとかも色々必要かな。あとは歯ブラシとかマイカップとか、ロープとか手錠とか、蝋燭に鞭……あっ、魔法で創り出せるかもだし別にそこまでは必要じゃないかな? よし、あとでやってみよう。


「あたしはそれでいいよ。でもどうせなら明日まで自由行動でもいい? 色々とやり残したこととかやり足りないことがあるから、この街を離れる前にできるだけやっておきたいんだ」


 皆が僕の言葉に頷いた後、キラが意味ありげなことを口にして笑う。

 可愛らしい笑顔なんだけど、その裏にどんな感情を隠しているのかはよく分かんない。というかコイツの存在そのものが目下一番の謎なんだよね。

 情報を詳しく指定した上で解析(アナライズ)を使えば分かるかもだけど、正直それは面白みに欠けるからあんまりやりたくないなぁ。僕としては信用させて自分から喋らせたり、いっぱい苦しめて自白させたり、服従させて吐かせたりする方が大好きだし。とりあえずしばらくは様子見しようかな。


「うん、いいよ。みんな付き合わせるのも悪いし、自由行動にしようか。レーンは僕についてきて色々教えてくれるかな?」

「ああ、構わないよ。どうせやることは特にないからね」

「よっしゃ! じゃあ俺は旅に備えて英気を養ってくるぜ!」

「あっ!? く、クラウンさん!?」

 

 ここでようやく筋肉ダルマが僕から離れて、城下へと走り去っていく。もう二度と戻ってきてほしくないけど、戻ってきてくれないと後々困るのが腹立つ。


「行ってしまいました……どの宿屋さんに泊まるかとか、集合場所とか時間を決めてなかったんですけど……」

「まあ来なかったら置いて行くってことで。とりあえず集合場所と時間は――」

「――そうだね。では街の正門に朝九時に集合だ」


 場所と時間を決めようとしたけど、僕はどっちも詳しくないことに気づいたので視線でレーンにバトンタッチ。

 もちろんレーンはしっかり意を汲んで代わりに決めてくれた。何かもう熟年夫婦みたいだね、僕ら。ふへへへへ。


「了解。それじゃ、あたしも行こっかな。さいならー」

「ええっと、じゃあ私はフォボスという宿屋さんに泊まりますね? 街に降りてすぐのところにある宿屋さんなので、何かあればいつでも訪ねてきてください」

「うん、分かった。それじゃあね、二人とも」


 そしてキラとハニエルも去っていく。僕は二人の姿が見えなくなるまで、にこやかに手を振ってた。

 さあ、これで邪魔者が去ってレーンと二人きり。楽しい悪だくみの時間だ……!


「さて、これからどうするんだい?」

「ひとまずお前と契約だね。あ、契約魔術は僕がするよ。ハニエルにやったから自分でできることはもう分かったし」


 相も変わらず感情薄めな口調で尋ねてくるレーン。もちろん最優先は契約魔術だ。

 僕はまだレーンに脅されている状態だから、しっかり契約をして僕が優位に立てるようにしてもらわないといけない。決してエロい命令をしたいからじゃないよ?


「彼女と契約を結んだのかい? 手が早いというべきか、精力的というべきか……まあ彼女は我々と違ってだいぶまともな人だからね。行動や言動を縛る必要性は理解できるよ」

「なにその僕もイカれてるみたいな言い方。僕はまともだよ。ちょっと個性的なだけさ」

「端から見て異常としか判断できなくとも、本人はまともだと錯覚していることは珍しくはないからね。平行線の会話になりそうだから、私はこれ以上何も言わないよ」

「つまり僕がイカれているっていう旨の発言は取り消さないってことね。契約したら覚えとけよ、お前」


 どうもレーンは僕を精神異常者か何かと思っているみたいだ。僕のような常識的でまともな人間をつかまえてそんな評価を下すなんて信じられないな、全く。僕の人間性は女神様のお墨付きなんだぞ。

 とりあえず契約をしたらエロい命令をしてやることに決めて、僕はレーンと一緒に城下へと歩いて行った。初めての異世界の街並みにわくわくするね!

 


15話目にしてようやく異世界の街に繰り出しました。ちょっと長かったかな……

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