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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第6章:童貞卒業の時
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全肯定SM変態奴隷





「いやー、容赦ないね~。鼻が折れてしまったよ~」

「うっさいわ。顔面パンチ一発で許したんだから、これでも加減した方だぞ」

「……ざまあみろ!」


 顔面パンチで椅子ごとぶっ倒れたトルトゥーラが鼻血を出しつつ笑顔で起き上がり、僕とミニスはそんな変態に二人で中指を立てる。さすがのミニスも全国指名手配で家族を悲しませてやるって脅されたせいか、結構腹に据えかねてる様子。僕と同レベルでコイツに嫌われるって相当じゃないかな。


「ハハハ、随分と嫌われてしまったものだ~。何にせよ、これで私は主の所有物となれたわけだね~?」

「不本意だけどその通りだよ。だけど、僕の奴隷になるなら幾つか条件がある。それを呑むなら――」

「呑もう! どのような条件だろうと構わない! さあ、主よ! 哀れな家畜であるこの私に、手ずから首輪を嵌めてくれたまえ~!!」

「話は最後まで聞け、クソ犬が」

「クゥーン!!」

「……ざまあ」


 もういちいち立ち上がるのも面倒だから、魔法で圧縮した空気の塊を創り出してトルトゥーラの顔面にぶつけた。嬉しそうな鳴き声を上げるのは変わらずだけど、ミニスが邪悪な感じの笑みを浮かべるようになったのが変わった点かな。


「……条件はまず、僕と主従契約を結ぶこと。もちろん契約の内容はこっちが用意したものを使う。これが呑めないなら話は無しだ」

「呑もう!!」

「せめて流し見でも良いから目を通せ。頼むから」


 レーン印の契約条項書類を取り出しつつ言い放つと、トルトゥーラは手に取る前から全力で頷いてきた。なので無理やりに用紙を押し付けて読ませる。

 契約条項確認せずに契約結ぶとかマジかよ。変な詐欺とかに騙されそうだな、コイツ。いや、そしたら物理的に解決できる力がありそうだし問題ないか……?


「……アンタがツッコミ側に回るとか相当じゃない?」

「そう思うならお前がツッコミ役になってくれない? 僕だってボケ倒したいのに……」

「ごめん。ちょっとこの人は、私の手には負えないわ……」


 トルトゥーラはさっきの脅迫でミニスからは完全に嫌われた様子。できれば関わりたくないって感じの雰囲気をひしひしと感じるね。自分の目玉を何度も抉り出してきたキラとさえ会話くらいはするミニスがだよ? それなのにここまで嫌われることができるとか、ある種の才能なのでは?


「ふむふむ……別に問題は無いよ~? もっとガチガチに縛らなくて良いのか~い?」

「別に僕は真の意味で奴隷になれって言ってるわけじゃないからね。あくまでも僕が安心するための保険みたいなものだし」


 用紙を返して貰いながら、僕は本音を返す。

 実際真の仲間たちは全員僕と主従の契約を結んでるからね。そうしないと何かいまいち安心できないんだ。ある意味ビジネスライクな関係だからそれも仕方ないよね。そもそも僕にまともに信頼とか愛情とか向けてる奴は一人もいないし。


「なるほど~。他に条件はあるのか~い?」

「あとは僕の正体を知っても受け入れ、なおかつ僕の真の目的に協力してくれることだね。これは後始末がやりやすいから、契約を結んだ後に教えるよ」

「了解だ~! 契約の魔法は、君が使うか~い?」

「もちろん。それじゃ、契約だ――契約(コントラクト)


 何も考えてないんじゃないかってくらいにホイホイ頷いてくるから、トントン拍子で契約まで行きつく。まあ困るのは僕じゃないから、別にどうでもいいか。むしろコイツなら行動を縛られるのも凄い好きそうだし。やっぱ無敵なのでは?

 何にせよ僕自身が契約を拒む理由は無いし、遠慮なく契約魔術を行使させてもらった。


「――よし、契約完了。これでお前はめでたく僕の奴隷だ。馬車馬の如く働けよ、クソ犬が」

「クゥ~ン!」

「………………」

「ああっ! もっと、もっと踏みにじってくれたまえ~!」


 契約が完了すると、何故かトルトゥーラは僕の足元まで来てお座りしながら嬉しそうに鳴いた。

 これは足蹴にして欲しいってことかな? とりあえず頭のてっぺんを土足で踏みつけてやったら、気色悪い声を出しながら尻尾を振ってたよ。何なのコイツ?


「じゃあ命令だ。お前はどうして僕の奴隷になりたかった? 真実を教えろ」

「ん~? それはもちろん、主のモノになりたかったからだが~?」

「……うん、知ってた。だよね、嘘言ってなかったもんね」

「いい加減諦めて受け入れたら……?」


 もしかしたらまだ僕を騙してる可能性が微粒子くらいは存在するんじゃないかなって希望的観測をしてたんだけど、この瞬間ついに希望の粒子すら打ち砕かれた。真実を答えるように命令したから、これは間違いなく本心なんだ。

 つまりトルトゥーラは正真正銘の変態。ドSでありながらドMでもある究極の二刀流。何なの? 僕の真の仲間は異常者しかいないの? どうしてまともな奴は仲間にならないの? これはもうミニスが唯一の清涼剤だよ。


「どうやら主たちは私の感情が理解できないようだね~。だから一応補足しておくよ~。私のような犬人は個人差はあるが、総じて忠誠を誓う相手を求めているのさ~。私は忠誠心が特別強いというだけだよ~」

「忠誠を誓う相手に痛めつけられるのが好きとか、本当にそれ忠誠心? 他の犬人に謝った方がよくない?」

「なーに、忠誠と性癖は別物さ~。それに私の性癖の新たな扉を開いたのは、他ならぬ主じゃないか~? これから一生をかけて、責任を取ってくれたまえよ~?」


 などと言いつつ、自分の頭を踏みにじる僕の足にむしろ頭を擦り付けてくる始末。もうやだ、誰か助けて……こんな変態いらない……。


「はああぁぁぁぁぁ……」

「すっごい重いため息……ていうか不思議なんだけど、何でそんなに嫌がってるわけ? 拷問でも何でもさせてくれるみたいだし、あんたにとっては最高の相手じゃないの?」

「分かってないな、お前。僕は確かに女の子を痛めつけるのが大好きだよ? でもそれは相手が泣き叫んでくれるから好きなわけで、むしろ痛めつけられて喜ぶのは完全に解釈違いなんだよ。痛いのが大好きな奴を痛めつけても、それはただの和姦なの。分かる?」


 首を傾げて尋ねてきたミニスに、僕の心の内を語る。

 確かに僕は女の子を痛めつけるのが好きだ。大好きだ。女の子の苦痛の叫びを聞くと心が洗われるし、痛みに悶え苦しむ姿を見ると魂が安らぐ。

 ただそれは相手が苦痛を苦痛として受け取ってるからこその反応だ。足元にいる変態みたいに、苦痛を快楽に変換できる異常者を痛めつけたって一ミリも楽しくないよ。それなのに向こうは大いに楽しむんだから余計にね。


「あ、はい。あんたもイカれてるってことは分かったわ」

「うん。なら良し」


 ちょっと理解してない気もするけど、まあ一般村娘には少し難しいお話だったかもしれないね。

 とにかく実はSとMは相性が悪いって理解してくれればそれでいいや。どっちかというと、僕はドSを痛めつけた方が楽しめそうだし。


「それで~? 主の正体と目的というのは何なのかな~? 別に私は主が世界転覆を目論むテロリストであろうと一向に構わないよ~?」

「当たらずとも遠からず。まず、これが僕の正体ね」


 踏みにじってたトルトゥーラの頭から足を引いて、僕は変身魔法を解いた。といっても変わってた所は角の有無と目の色だけだから、外見的にはさほど変わらないけどね。

 ただトルトゥーラは相当驚いたみたいで、頭の上についた土を払うこともせずに、目を丸くして僕の姿を眺めてた。


「ほ~!? これは驚いた~! まさか主が聖人族だったとは~!」

「正確に言えば聖人族でもないかな。僕は魔王を倒すために召喚された勇者だし」

「おおっ!? まさかの勇者だと~!?」


 のけぞるような若干大袈裟なリアクションで、驚きを露わにするトルトゥーラ。でもやっぱり僕に対する敵意は欠片も感じられないね。何なら隣にいるミニスの方が、今も敵意をぶつけてきてる感じだし。 


「まあ勇者としての使命は国境辺りでぶん投げて来たよ。で、僕の目的はこの世界に真の平和をもたらすこと。聖人族と魔獣族が仲良しこよし、とまでは言わないけど、せめて無益な争いをしない程度には良好な関係を築かせることだね」

「お~! 主は随分と崇高な目的のために動いているんだね~? ますます惚れ直したよ~!」


 かなり夢物語に近い目的を語ってるにも拘わらず、トルトゥーラは手放しで賞賛して笑顔で僕の脚に頬ずりしてきた。ある種の男の夢である、全肯定奴隷みたいだね。って、うわ、ズボンに土がついた。最悪。


「……正確には、コイツは平和なんて欠片も望んじゃいないわよ。望んでるのは女神様。世界を平和にすれば対価としてこの世界を創った女神様が手に入るから、欲望丸出しで動いてるだけだし」

「あ、こら。身も蓋も無いこと言うなし」


 自分が信仰してる女神様のことを言ってないのが気に障ったのか、ミニスがあんまりな補足をした。

 それじゃあまるで本当は戦乱の世を望んでるみたいな言い方じゃないか。確かにちょっとそそるものはあるけど、どっちかと言えば僕だって平和な世界を望んでるんだぞ? だって平和な世界でこそ、悪逆非道な行いは光り輝くものなんだからね!


「だって事実じゃない。何良い子ちゃんぶってんのよ、クソ馬鹿が」

「ハハハ、言ったなコイツぅ~?」

「ギャーッ!? だから耳を掴むな引っこ抜ける!!」


 株を引っこ抜くみたいにミニスのウサミミを掴んで身体を持ち上げてやると、じたばたと暴れてとっても可愛らしいね。掴み心地が良いからついつい掴んじゃうんだよ。


「ん~……女神様とやらに関しては良く分からないが、ともかく主は世界を真の平和に導くために頑張っている、という認識で良いのか~い?」

「うん。ちなみに平和を実現するための方法は、僕が強大な敵として君臨して両種族を滅亡の瀬戸際まで追い込むことで、協力しなければ生き残れないということを愚かな愚民共に理解させて、後は力を合わせて巨悪こと僕を打ち砕くっていう展開にする予定。正直これでダメなら平和は絶対無理だと思う」

「は~……さすがは主、覇道を歩んでいるね~」

「どっちかっていうと邪道かな。さて、それでお前はどうする? 今の話を聞いてもなお、僕の奴隷になりたい? その命の最後の一欠片まで、僕に尽くし果てたい?」


 感心したような顔をしてるトルトゥーラを真っすぐ見下ろし、尋ねる。

 ここでノーと返してくれば、記憶を弄ってあとはさよならだ。真の仲間になる気のない奴を優遇して構うほど僕は暇じゃないし、余裕も無いからね。そういうのはどこぞの大天使でいっぱいいっぱいだよ。

 ただ、今回に限ってはその心配は無さそうだった。トルトゥーラは全く迷う素振りも無く不敵に笑い、腹を見せるみたいに床に仰向けに身を投げ出した。


「フッフッフ~。愚問だよ、我が主よ! 聖人族? 魔獣族? 老若男女、生きとし生ける全ての者たち? そんなモノはどうでもいい! 私が求めるのは自らの快楽! 幸福! そして、我が主の幸福! それら全ては、主と歩む道にこそある! 我が血肉、我が尊厳、我が愛情、全てを主に捧げよう!」


 そして完全服従の姿で、忠誠心バリバリの答えを返してきた。さすがはワンコだなー。笑顔で尻尾も振ってるし。ここまで変態を貫き通してると、いっそ清々しいまであるね。


「……重いなぁ、コイツ。返品したい」

「どこに返品すんのよ、どこに……」


 ただそれはそれとして、忠誠と変態加減が果てしなく重くて吐きそうになるね。ミニスもすっごい嫌そうな顔してるし。

 何なの? まともな奴は僕の真の仲間にはならないってジンクスでもあるの? そろそろ面子が濃すぎてお腹いっぱいになってきたんだけど?





⋇なお、返品不可

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