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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第6章:童貞卒業の時
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仲間候補失格




 全てが面倒になって二度寝を敢行した後、避けられない面倒事に三度寝したくなりながらも、僕は幼女コンビを引き連れて宿の外へと向かった。最悪死人が出てるだろうから、それへの対処もしないといけないからね。あと衛兵への対応とか、事情聴取とか諸々。

 そんなわけで三度寝の誘惑に抗いながら、宿の外へと出たんだけど――


「はー……はー……! クソッ、ふざけやがって……!」

「ハハッ、もう終わりか~い? 自信満々に挑んできた割には、へばるのが随分早いね~?」 

「おっと。これはまさかの展開だな」


 驚くことに、どうにも死人は出てなかった。それどころかキラが膝を突いて息を荒げてるにも拘わらず、トルトゥーラの方は息すら乱さず満面の笑みを浮かべて立ってる。これだけ見れば勝敗は一目瞭然だね。まさかキラを容易く倒せるほどの強さだとは思わなかったな。


「何よ、アイツ負けたの? ハッ。だっさ」


 そしてキラの若干情けない姿がお気に召したのか、明らかな嘲笑を浮かべて呟くミニス。お前ら本当に仲悪いよね。まあ別に無理して仲良くしろとは言わないけどさ。

 というか衛兵たちはどこ行ったんだろう? 二度寝する前にはそこそこの数がいたような気がするのに、今は影も形も無いぞ。さすがに職務放棄して帰ったってことは無いだろうし、トルトゥーラがギルドマスターの権限でも使って追い返したのかな? 一応キラも冒険者の端くれだから、冒険者ギルド内での揉め事として処理できなくも無いし。あ、倒れてた冒険者たちの姿が無いから、病院とかに運んだのかも。

 そんな風に考えてると、トルトゥーラが僕の存在に気が付いたっぽい。瞳を輝かせて尻尾をブンブン振りながら、僕の方に駆けてきた。正に飼い犬って感じだなぁ。


「主よ~! 私の健闘を見ていてくれたか~い!?」

「いや、全然。さっきまでベッドで二度寝してたし」

「あ~、つれないね~……だが良し! 私の活躍を見る機会はこれからたくさんあるからね~。ハ~ッハッハッハ!」

「そうっすか。じゃあそういうことで、さようなら」

「あーっ!! 待ってくれ主よ~!!」


 流れで解散できるかもって踵を返したら、必死そうな声を上げて後ろから腰に抱き着いてきた。

 うん。腰にそこそこの膨らみの柔らかさを感じて、ちょっとだけ気分が良いね。まあキラを正面から返り討ちにできる奴に抱き着かれてるせいで、そんな良い気分も吹き飛ぶんだけどさ。このまま胴体をグシャリとされそうで怖いし。


「だから誰が主だよ。ていうか本当に一回病院行った方が良いよ? ちゃんと頭診てもらって?」

「私は極めて冷静だ~! しかし、病院か~……ふむ。主とのお医者さんごっこも悪くはないな~。フヘヘヘ……」

「うっわ、引くわ……」

「コイツをドン引きさせるって相当のヤバさね……」

「えっ、お医者さんごっこって何か駄目なのー?」


 女の子が出しちゃいけない感じの笑い声を零すトルトゥーラにドン引きする僕と、そのヤバさにドン引きするミニスと、ちょっと良く分かってないリア。

 何がヤバいってこれを素で言ってることなんだよなぁ。確かに女の子とのお医者さんごっこは魅力的とはいえ、さすがの僕もこんなド変態相手には遠慮したい。


「えぇい、離せっ! お前みたいな変態はお呼びじゃないんだよ!」

「い~や~だ~! 離さない、絶対に離さないぞ~!!」


 何とか振り払おうと飛んだり跳ねたり走ったりするものの、腰にがっちり捕まったトルトゥーラはくっついたように離れなかった。これなら衛兵たちからの事情聴取の方が幾分マシだったわ。チクショウ。




 


「では~、改めて自己紹介をしようか~。私の名はトルトゥーラ。この街の冒険者ギルドの長にして、君の永遠の伴侶さ~。気軽にトゥーラと呼んでくれたまえ~?」


 通行人や宿の人の視線が痛かったから、やむなく場所を宿の部屋に移した後。自己主張抜群の自己紹介をしたトルトゥーラが、僕にウィンクを送ってきた。

 本当は部屋にも上げたくなかったんだけど、物理的な腰巾着になってて全く離れなかったからね。腕に吸盤でもくっついてんじゃないかってくらいしつこかったよ。

 ちなみにキラはこんな奴に敗北したことが相当堪えたみたいで、ご機嫌斜めな顔して周囲に加減一切無しの殺意を振りまきながらどこかに歩いてったよ。一種の公害じゃないかな、アレ……。


「そうですか。じゃあトゥーラさん、短い間でしたが今までお世話になりました」

「早い!! まだお世話どころか何もしていないじゃないか~!!」


 部屋の扉を示して言外に帰れと伝えると、全力で拒否された。一応部屋に上げたとはいえ、別に僕はコイツと話す事なんて無いんだよなぁ。さっさと帰って欲しい。


「チッ。いい加減うざったいなぁ、このクソ犬……」

「段々本性現してきたわね、あんた……」

「おにーちゃん、凄い嫌そうな顔してる……」


 さすがに面倒と苛立ちが許容量を超えてるから、もう丁寧な対応をするのも馬鹿らしくなって仮面を剥がす。

 え? どう見ても塩対応しかしてなかった? 逆に聞くけどコレに塩以外の対応が相応しいと思う? 模擬戦で確実に喉を潰して降参を防いでボコボコにするために、初対面からずっとこっちを騙してきた詐欺師やぞ。


「あのさ、結局お前は何が目的なわけ?」


 そんな奴だからこそ、僕へ歪んだ好意を見せてるのも企みの内って可能性が十分にある。解析(アナライズ)で調べたら僕への敵意はなかったとはいえ、さすがにボコボコにされて惚れたって言うのはありえないからね。復讐ではなくとも何かしらの目的があるはず。

 だから僕はそう尋ねつつ、嘘をつけば天罰が下る虚言罰則(ライズ・ペナルティ)の魔法をトルトゥーラにかけた。さあ、精々真っ赤な嘘をついて神の雷に身を焼かれるが良い!


「目的~? それはもちろん、君に私の主となってもらうことだ~!」

「主、主ねぇ……」


 あれ、おかしいな。虚言罰則(ライズ・ペナルティ)が反応しないぞ? まさかこれ本心から言ってる? 

 いや、待て。あくまで『主』としか言ってないから反応してない節もあるな。例えば傀儡の主、要するに自分の操り人形にしようとしてるって可能性もあるか。僕を利用しようとするなんてふてぇ野郎だ。


「それで、お前は僕が主になったら一体何を求めるわけ?」

「それはもちろん、あんなことやこんなことに決まってるじゃないか~。具体的には私を縛り上げ、口に出せないほど残酷極まる責め苦の数々で、私を死の瀬戸際まで痛めつけて欲しいな~? ああっ、その時の苦痛を想像しただけで、私はもうっ――クゥ~ン!!」


 ぽっと頬を染めてドン引き待ったなしの台詞を口にしたかと思えば、感極まったかのように犬っぽい鳴き声を上げて尻尾を振りまくるトルトゥーラ。

 なお、反応はそれだけ。どっかの元実験動物(モルモット)みたいにいきなり黒焦げになったりなんてしてない。それはつまり、少なくとも口にした言葉に嘘は無いということで――


「やっべぇ。虚言罰則(ライズ・ペナルティ)が反応しない。これ正真正銘本心で言ってるぞ、コイツ……」

「人ってここまで狂えるのね……」

「えー……自分から痛いことして欲しがるなんて、この人おかしい……」


 要するに、トルトゥーラはマジで痛めつけられるのが大好きなドMの変態と化してしまったということ。しかも死の寸前までいたぶられるのがお好みのハードなドM。

 嘘みたいだろ? こんな馬鹿げた性癖持ってるのに、元は真逆のドSなんだぜ? これはミニスとリアがドン引きするのも仕方ないわ。


「あ~、勘違いしないでくれたまえよ~? もちろん私は主とならノーマルなプレイも大いに興味があるし、許されるならお互いに果てるまで貪り合いたいくらいだ~。私は主のためならば、どんなに激しい攻めだろうと受け止めてみせるよ~……?」


 恥じらう乙女のようにもじもじと身体を揺らし、尻尾をゆらゆらさせながら控えめな視線を向けてくるトルトゥーラ。

 うん。この台詞に関しては普通に健気で一途な女の子っぽいんね。でもさっきの発言がヤバすぎて全然そそられないわ……。


「……どうしよう。できれば真の仲間に欲しかったのは事実なんだけど、ここまでアレだと正直仲間にしたくない気持ちがある」

「あんたにもまともな感性があったのね……」

「んー……この人の言ってること、リアには難しくてよく分かんない……」


 心が広いことに定評のある僕でも、こんなド級の変態を仲間に引き込むのは躊躇いがあった。そして僕でさえそう感じてるんだから、幼女コンビにもかなり不評な感じだ。まだ猟奇殺人鬼の方がマシって感じがひしひしと伝わってくるよ。


「うーん、でもなぁ。キラを楽々返り討ちにできる実力は凄く魅力的だし……どうしよっかなぁ……悩むなぁ……」


 ただ捻じ曲がった性癖を脇に置いて戦力って観点のみで考えると、一も二も無く仲間に引きずり込みたい人物なのは確かなんだよね。それに当人の性癖を度外視すれば、普通に外見は美少女だし。僕の事をほぼ無条件に信頼して肯定してくれそうなのも良い感じだし。

 ただここまでの好条件が揃っていても、性癖がヤバすぎて二の足を踏むんだよなぁ。本当にその重度のサディストでハードなマゾヒストでもあるとかいう狂った性癖、何とかならない?


「ならばここで更に好条件を提供だ~! 左遷されてこの街の冒険者ギルドの長になったとはいえ、ギルドマスターとして権力はそれなりにあるよ~? それこそ権力とコネを使って、君の冒険者ランクを最初から高ランクにすることだって可能だ~。Sランクはさすがに無理だろうが、Aランクなら何とかなるかもしれないね~?」


 僕が悩んでるのを察したのか、トルトゥーラは自らを仲間にする事へのメリットを提示してきた。

 何か『左遷されて』とか気になる箇所があったけど、まあ登録に来た新人をボコってたら左遷も納得だよね。この街は一番国境に近い場所だし、何かあったら鉄砲玉になれっていう感じかな。コイツなら嬉々として敵陣ド真ん中に特攻しそう。


「いや、別にランクとかどうでもいいし。というか職権乱用にもほどがある」


 ただ提示されたメリットはトルトゥーラのヤバさの裏付けになるだけで、僕にとってはメリットでも何でも無かった。そもそも冒険者なんて魔獣族の国を旅する上での偽装でしかないから、ランクなんてどうでもいいんだよなぁ。高ランクであることを見せびらかして悦に浸るようなちゃっちい趣味も無いし。

 こんなあっさり蹴られるとは思ってなかったのか、僅かにトルトゥーラの笑みが崩れた。


「な、ならば金銭はどうかな~? 私は稼ぎもそれなりにあるし、貯蓄も十分にある。主が望むのなら、その全てを捧げよ~う! もちろん、捧げるのはお金だけじゃないがね~?」


 権力でダメなら、次は金で釣ってくる。あと性欲。

 対応としては極めて正しいんだろうけど、どうにも相手が悪いね。僕はお金を偽造できるし、性欲だってその気になればそこら辺の女の子とっ捕まえて発散できるし。


「いや、別にお金にも困ってないし。ぶっちゃけ女にも不自由しないしなぁ」

「う、ぐ……な、ならば、暴力! 気に入らない奴がいるなら、私がボコボコにしてあげようじゃないか~!」


 そして困った時の暴力。権力も金も女も僕の心を動かすことができないと知ると、仇討ちを請け負うと拳を握って力説してくるギルドマスター。

 ていうかコイツ本当にそんな大層な役職につけてていいの? もの凄い俗物じゃん。ちょっとしか話してないけどサブマスの方が遥かにマシだった気がするよ?


「別にいないかなぁ。どうせボコるなら自分の手でボコるし」

「うう~……!」


 ただそんな条件にも僕の心は動かないから、ついに涙目で唸り始めた。あっ、その悔しそうな表情にちょっと興奮したのは秘密だよ?


「他に何も提供できるものが無いなら、もう帰ってくれない? ついでに宿の人に迷惑料払っておくのも忘れないようにね?」

「うわ~!?」


 どうも他に提示できるメリットが無くなったみたいだし、これ以上話をする価値も感じられない。そんなわけで僕は部屋の扉を開けると、トルトゥーラの首根っこを引っ掴んで廊下に投げ捨てた。

 ちなみに心配して見に来てたのか、廊下には何人か冒険者がいたよ。君らこんな変態のド屑を心配するとか、人間出来過ぎじゃない?


『く~っ!! 諦めない! 私は絶対に諦めないからな~!!』


 扉の向こうで何やら叫んでる辺り、どうしても僕に主となって欲しいみたい。好き好んで僕の奴隷になりたいとか、本当に頭イカれてるなぁ……おっと、虚言罰則(ライズ・ペナルティ)解除っと。

 まあ戦力的にはかなり惜しいとはいえ、今までの傾向から考えればもう何人か仲間候補は出てくるだろうし、トルトゥーラに固執する必要は無いよね。次の仲間候補はまともな奴だといいなー。

 




⋇変態お断り

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