キラ
そんなこんなで、僕はレーンとハニエルの面接を終えた。
待望の魔術契約をハニエルと結ぶことができたからもうエロいことし放題だけど、さすがにそれはまだダメだ。実際にそういうことをするのは、ハニエルが僕の真の目的とそれを達成するための方法を知った時に賛同しない場合だけ。
賛同してくれれば大切な仲間になれるから、どう転ぶか分かるまではしっかり仲間らしく扱ってあげないとね。もちろん反対するなら操り人形兼性奴隷直行コース。だから今は涙を呑んで我慢したよ。あの揉みごたえありそうな大きな膨らみ、鷲掴みにしたかったなぁ……あっ、睡眠で眠らせた時にやったか。
それはともかく、後は残り二人の面接。どうでもいい野郎は最後に回したから、今僕の目の前にはソファーに腰かけた小柄な女の子が、お上品にお茶を啜って一息ついてる。
「それじゃあ改めて自己紹介をしましょう。僕はクルス。魔王を打倒してこの世界に平和をもたらすため、異世界より呼ばれた勇者です」
「あたしはキラ。そういう使命とかは特に無いかな? というか本当は旅の仲間に志願したわけでもないんだよね」
「あっ、つまり選ばれたってことですか? ということはあなたは随分と優秀なお方なんですね」
自分から志願したわけではないなら選ばれたってことだし、結構優秀なんだと思う。ただ使い捨ての勇者に自国の貴重な戦力を与えるとはちょっと考えにくいから、優秀でも実は何かしらの問題があるのかもしれない。
仮にも最初に生み出された天使の一人のハニエルがあの場にいられたのも、明らかに敵対種族に対する殺意や敵意が無いからだろうなぁ。無理やり戦いに引きずり込んでも周囲の士気を下げるだけだろうから、ある種厄介払いを受けたのでは?
「うん、そんなとこ。けどさ、ここだけの話。実は選抜で選ばれても嫌なら断れるんだよ」
「えっ、そうなんですか? じゃあ何故キラさんは断らなかったんですか?」
「キラでいいよ。あたしが断らなかったのは、そうだね……」
やたらフランクだと思った矢先、ずいっと身を乗り出してやたら近くで僕のことをじっと見つめてくる。何だかとっても興味深そうに。
何ていうか、この子も結構好みのタイプなんだよね。ただこの子はレーンと違って常に楽しそうな笑顔を浮かべてて、どちらかと言えば感情豊かなタイプだと思う。表情はころころ変わって見てて飽きないし。ていうか近いんだよ、キスするぞこの野郎。
あとね、恰好がすっごいエロいの。玉座の間ではローブみたいなマントみたいな微妙な上着を羽織ってて、前が見えなかったからよく分かんなかった。でも今はリラックスしてるからか前をはだけててて、その下の格好がよく見える。
太ももまである編み上げブーツに、ほぼ太ももの付け根あたりまでしかないショートパンツ。そして上は何かこう、チューブトップの水着みたいな感じでへそ出しになってる。正直胸の膨らみはそこそこって感じだけど、ドチャクソエロいので問題なし。編み上げブーツとショートパンツの間のもも肉とか、噛み千切りたいほど堪らんわ。このスケベめ!
「何て言うのかな、あんたがちょっと気になるんだよね。良い友達になれそうっていうか、何ていうか……正直自分でもよく分からないから、その理由を知りたかった。断らなかったのはそういう理由なんだ」
「そうなんですか。確かに僕もキラとは夫婦になれそうな感じがします」
「いや、そこまでは言ってないけど!?」
何だ違うのか、残念。
でもそれはともかく、僕もキラと似たような気持ちを抱いてるんだよね。やっぱり理由は分からないんだけど、これは相思相愛ということで構わないのでは?
「とにかく、あたしとしては魔王討伐云々よりもそっちの方が気になるんだ。こんな感覚は初めてだからさ。まあやることはちゃんとやるから、そこは心配しなくていいよ」
そう口にして、ニッと笑うキラ。それは敵対種族の抹殺っていう使命感が全く感じられない、屈託のない笑顔だった。きっとこの世界の事情に疎い召喚されたばかりの勇者に対してだから、多少油断してるんだと思う。
だけど僕はそもそも勇者じゃないし、何より世界の裏事情は予め女神様から教えてもらってる。手取り足取り、深いところまでたっぷりね。
ついでに言えば、僕がキラを旅の仲間に選んだのはその秘密がとっても興味深かったから。だってこの子、本来ここにいて良い子じゃないし。
名前:キラ
種族:魔獣族(猫人)
職業:爪術師
年齢:16
聖人族への敵意:無し
魔獣族への敵意:無し
これが玉座の間で調べた時のキラの情報。一瞬スパイか何かかと思ってギョッとしたよ。
でもその割には聖人族への敵意が無いんだよね。皆この子が魔獣族だって知ってて置いてるのかとも思ったけど、あの場にいた憎悪やら殺意やら抱いている奴らが毛ほどもその感情を向けてなかったし、その線も薄いと思う。
だからこの子を旅の仲間に選んだのは、正直よく分からなくて逆に興味を引かれたからかな。いや、もちろん真の仲間になれそうだから選んだってのもあるけど……ごめんなさい、嘘です。猫人ってとこで決めました。猫可愛いです……。
「なるほど、分かりました。そういえばキラさんは爪術師、でしたよね? それは一体どんな職業何ですか?」
だけど本人は隠してるし、正体に関しては今は触れないことにした。
いつか絶対フードの下の猫耳を拝ませてもらうけどな! とりあえず今は聞きなれない職業についてだけ聞いてやるよ!
「えっ、知らないの? って、そういえば勇者様っていうのは異世界から来たんだっけ。じゃあそういうこともあるか。爪術師っていうのは別に剣士とか魔術師とかと変わんないよ? 使う武器がこれってだけ」
そう言って、キラは軽く右腕を振る。するとカシャンって音が鳴って、袖の中から三本の長い鉤爪っぽいものが現れた。短めの刀を三本並べて、ガントレットか何かにくっつけた感じだ。更にキラが手首を捻ると、三本の爪が僅かに扇状に広がる。
まあ分かりやすく言うとウ〇ヴァリ〇みたいな感じだね。あっちは手から直接生えるけどさ。
「おぉう。なかなかカッコいい……」
「でしょー? 分かってるじゃん、あんた。やっぱりあんたとはいい仲間になれそうだよ」
率直な感想を口にすると、キラは上機嫌に笑う。
でも、何だろうな。こうして面と向かって間近で眺めると、何だか薄っぺらい笑顔に見えてくるのが不思議だ。種族を隠して聖人族として振舞ってるから、そのせいかな?
「……でも、ぶっちゃけ短剣とかでも良いんじゃないでしょうか?」
「よし、ここで死ね。その目玉を抉り出して瓶詰めにして、枕元に飾ってやる」
「ハハハ、冗談です。鉤爪万歳! 鉤爪サイコー!」
「よし」
とか思ってたら口調にこれ以上ないほどはっきり殺意が湧き出てきたから、僕は即座に鉤爪を称えて崇め始めた。
瞳なんか獲物を狙うように鋭く細められてたし、あれはマジで殺る気だったに違いない。ちょっと本当の事言っただけでそんなに怒るなんて頭おかしい……おかしくない?
「でも鉤爪に限った話ではないんですけど、魔法の方が強くないですか? 魔力さえあれば何でもできる魔法の方が万能ですし」
「ん? もしかしてあんた――ああ、そっか。武装術知らないんだ」
「武装術?」
何か聞きなれない言葉が出てきたな。あー、でもハニエルから魔法を教わって満足してたから、それ以外に関しては聞いてなかったっけ。これは反省しないとね。
「簡単に言えば武器――というか魔法以外の戦闘手段に特化した、専用の魔法みたいなもんだよ。せっかくだから見せてあげよっか?」
サービス精神旺盛なのか、キラは腕を振って鉤爪をしまって立ち上がる。
しばらく周囲をきょろきょろ眺めて、部屋の端に花の生けられた花瓶があるのを見つけると、それを取って戻ってきた。中身の花や水を無造作に捨てたのがちょっと気になったけど、まあ掃除するのは僕じゃないし別にいいか。
そして花瓶を上に放ると、手刀を形作って――
「――スラッシュ」
「おおっ……!」
下から救い上げるような形で、落下中の花瓶を横に真っ二つにする。
速度がそれほどでもなかったのに、花瓶は刀で綺麗に両断されたような断面を晒してた。これはたぶん、膂力とかそういうもので切ったわけじゃないね。
「――ペネトレイト」
続いて放たれる一撃は、振り切った手刀が身体を軸に円を描く形で変化した貫手。
これも当然のように花瓶の片割れを貫いた。でもやっぱり速度はそこまででもなかったね。おまけに指が貫いてるのにひびが全く入ってないし。
「――クラッシュ」
そして残った花瓶の片割れは、空いている方の手で軽く叩かれるという雑な扱い。
だけど効果は手抜きじゃなかったみたいで、触れられた瞬間にバラバラに砕け散った。明らかに軽く触れただけなのに、壁に叩きつけられたみたいに粉々に。
「こんな調子で、純粋な魔法とは違って武器や身体を起点にして、一瞬だけ単純な概念を付与する感じのが武装術だよ。斬撃とか、貫通とか、粉砕とかね。魔力はほぼ必要ないけど、代わりに瞬間瞬間を捕える反射神経が必要になるね。慣れてくると技とかも武装術にできるよ」
「なるほどぉ……」
ぱんぱんと手を払うキラを尻目に、僕は今の一連の事象を考察していた。
たぶん厳密に言えばこれも魔法だ。違うのは精々持続時間、あとは自分の身体や武器に対して働きかけるっていう点くらいだね。
だけど魔法とは別物って言っても良いくらいにコストパフォーマンスが素晴らしい。何せ斬撃や貫通という単純な概念を一瞬だけ纏わせて放つんだから、魔法とは魔力の消費が比較にならない。
魔法がミサイルなら武装術は拳銃みたいなものだと思う。大勢を相手にするには向かないけど、単体を相手にするなら効果的。そもそも人一人を殺すのにミサイル打ち込むなんて過剰もいいとこだし。
だからとても有用で、魔法だけでなくこちらも修めていた方が良さそう。そう思ったんだけど――
「……やっぱり短剣で済むのでは?」
同時にこう思わざるを得なかった。だって刀身部分が三つになるなら、効果を付与するべき面積も三倍じゃん? 短剣ならその三分の一で済むよ?
「………………」
「ごめんなさい、鉤爪は至高です。素晴らしいです」
それを口にしたらキラは両腕を振って鉤爪を出したから、僕は即座に謝って鉤爪を崇めたよ。
まあ種族は猫人みたいだし、爪にはこだわりがあるんだと思う。魔獣族に対しては色々と発言に気を付けた方が良さそうだね。また一つ賢くなったぜ!