敬虔な信者
⋇性的描写あり
「うん、うん……あははっ! もう、レキったら……」
後始末を終えて、時刻は夜の十一時頃。宿の部屋に戻った僕を出迎えたのは、ミニスの屈託のない楽し気な笑い声だった。
もちろんついに精神が限界を迎えて、イマジナリーシスターとお話を始めたわけじゃない。コイツはどっかのお花畑大天使と違って、早々壊れたりはしない頑丈なメンタルの持ち主だしね。何より虚空に話しかけてるんじゃなくて、僕があげた携帯電話を使ってお話してるし。
ていうか携帯のスピーカー部分、ウサミミじゃなくて人間の方の耳に当てて使ってるっぽい。確かに人間用をベースに創ったからそうするしかないんだけど、そっちの耳も普通に聞こえるのね……。
「あ……もうこんな時間。レキ、もう遅いからそろそろ寝なさい……こらっ、良い子は寝る時間でしょ? 大丈夫、明日もこうやってお話できるから……分かったわ。おやすみなさい、レキ……うん。私も大好きよ? それじゃあね?」
僕が帰ってきたことに気付いたミニスは一瞬嫌そうな顔をすると、早々に電話を切り上げた。もちろん僕に向けた感情とは違って、電話の向こうの妹には甘ったるい声をかけてたよ。兎なのに猫撫で声を出して良いんですかね? うちのヤベー猫が怒らない?
「……滅茶苦茶文句垂れてた割には、やたらにデレデレした顔で携帯使ってたねぇ? 気に入った?」
「う、うっさい、馬鹿。くたばれ」
僕がニヤニヤしながら尋ねると、ミニスは顔を赤くして手近にあった枕をぶん投げてきた。お、枕投げかな? やるなら手加減はしないぞ?
「まあ気に入ってくれたなら何よりだよ。お前も真の仲間になった以上、できる限りお願いを聞いてあげるから、何か望みがあるなら遠慮なく言いなよ?」
「じゃあ死んでくれる? なるべく苦しんで」
「いや、さすがにそれは断るけど?」
「チッ……」
僕が普通に断ると、聞こえよがしに舌打ちするミニス。
コイツ表立って反抗とか攻撃とかはしてこないけど、僕のこと憎んでるからねぇ……ていうか本当によく憎まれるだけで済んでるな、って話だよ。僕なら腕を爆散させられたり、魔法の実験体にさせられたりしたら絶対に復讐に走るからね。
「……さて、じゃあそろそろ寝ようか。と言っても、僕はさっきちょっと寝ちゃったんだけどなぁ」
「だったら無理して今寝る必要なくない? ていうかいつも私を抱き枕にするの、正直不快だからやめて欲しいんだけど」
「大丈夫、眠れなくても魔法を使えば一瞬で眠れるからね。あと、お前ほど抱き枕に適してる奴がいないから、その頼みは断る」
「何も私の頼み聞かないじゃない、クソ野郎が……」
僕が部屋の明かりを消してベッドに入ると、ミニスはぶつぶつ言いながらもベッドの中に入ってくる。
ちなみにこれは調教の成果……というより、いつものお約束って感じかな。やっぱり抱き枕にはミニスが一番だから、寝る時は例え野営でも僕の所に来るように言ってあるんだよ。今はもう筋肉ダルマとかいないから、僕が魔獣族と同衾しても怒る人は誰もいないしね。いや、あくまで一緒に寝てるだけなんだけどさ。
ていうかやっぱり調教の成果って言ってもいいかもしれない。だって今日は特に何も言ってないのに、ミニスは部屋で待ってたしね。真の仲間になったとはいえ、奴隷精神がちょっと染み付いてますね……。
「……ねぇ。リアは、本当に同族を拷問したの?」
ミニスの身体を正面から抱きしめて、ウサミミの間に顔を挟む形で温もりを楽しんでると、ミニスがぽつりと尋ねてきた。
しかしコイツももう慣れてきちゃってるな。初めて抱き枕にした頃は、ウサミミに触れるだけでも凄い嫌そうにしてたのに……。
「うん、したよ。金槌やらペンチやらナイフやら、色々使って考えられ得る限りの拷問をしてたね。軽く三十回以上は殺したんじゃないかな」
「そう……普段は良い子なのに、どうしてそんなに歪んじゃったのかしらね……」
「僕としてはよく歪んだだけで済んだなって思うよ。親を含めて周りに味方は無し、毎日苛烈な苛めのオンパレード、日に日に悪くなってく体調。これで自殺を選ばず、復讐のために泥を啜ってでも生き延びようとする精神が凄まじいよね」
そしてその憎悪と殺意の深さも凄まじいのは、さっきの拷問の一幕で改めて理解できた。やっぱり一時的にでも発散させるのは正解だったと思う。しなきゃ絶対爆発してるよ、アレ。
「そんなの、私なら絶対生きるのを諦めてるわ……本当に強い子ね、あの子は……」
「いや、お前もたぶん似たようなもんだと思うよ……?」
尊敬半分、哀れみ半分って感じのミニスの呟きに、僕は控えめにツッコミを入れた。少なくとも痛覚十倍にされた状態で片腕爆発された痛みを、妹のために意志の力で耐えきる化け物の台詞じゃないね。方向性は違えど、どっちも似たり寄ったりだ。
「まあ何にせよ、お前とリアは見た目の年齢は近いんだし、仲間だけじゃなく友達としても仲良くしてくれると嬉しいな。友達としての触れ合いとか、リアの情操教育に良さそうだしね」
「たまに父親みたいになるの何なの、あんた……?」
何でかミニスは腕の中で顔を上げて、凄い胡乱気な目で見てくる。
そんなこと言われても、真の仲間の幸せを考えるのは当然のことじゃないか。リアに至っては以前が最底辺どころか突き抜けて奈落にいた感じだし、特に優先するのも当たり前だよね。あ、真の仲間じゃない有象無象はどうなろうと構いません。
「……まあ、言われなくてもするわよ。でも、アイツとは絶対仲良くできないからね?」
「うん。アイツに関しては強制はしないから安心して良いよ。向こうもたぶんお前のことは獲物くらいにしか思ってないだろうし」
名指しはされなかったけど誰のことかは手に取る様に分かったから、とりあえずそう返しておく。まあ猫から見れば兎は獲物でしかないんだよなぁ。僕が言っておけば狩りはしないだろうけど、それ以外のことはちょっと分からんなぁ……。
「……ねぇ。何で私にもリアとかにかけてる防御魔法かけてくれないわけ? 治るにしても痛いし、私としてはリアたちのと同じ方が良いんだけど?」
「よし、それじゃあ寝るか。おやすみー」
「あっ、ちょっ……ま……くぅ……!」
尤もな疑問を投げかけてくるミニスに対して、よく眠れるように睡眠を使う。このお手軽さと効果を知ったら、もう睡眠薬なんか必要ないぜ。何かミニスが凄く恨みがましい顔をしながら落ちたけど、あんまり気にしない方向で行こう。人は傷つきながら強くなるもんだからね。
さ、それじゃ僕も寝るかな。というわけで、自分に睡眠! じゃあ、おやすみー……。
「――むっ!? ここは……!」
そして、僕は突然目を覚ました。視界に広がるのは白一色のお馴染みの世界。つまり女神様との逢瀬の場。
なるほど。どうやら女神様はついに心の準備ができたみたいですね? ミニスに科した代償の肩代わりを、ついに支払う準備ができたというわけですか。僕に身体を好きなように触らせてくれる、っていう代償をさぁ? ついにやってきたぜ、この瞬間が。グヘヘヘ……。
「さあ、女神様! 代償を支払ってもらうぞ――って、あれええぇぇぇっ!? どなた!?」
興奮に色んな意味でいきり立ちながら背後を振り返った僕は、目に飛び込んできた衝撃の光景に度肝を抜かれた。待って? これは一体どういうこと?
「フッ。少し見ない内にわらわへの偏愛が薄れ、わらわの事を忘れたか? いや……お主は忘れんじゃろうなぁ。例え万年経とうとわらわに執着している光景が、ありありと目に浮かぶわ……」
そこに立っていたのは、豪奢な白いローブに身を包んだ僕の女神様。うん、そこまではいい。そこまではいいんだよ? 問題はもっと別の所。
まずは、胸。まな板も裸足で逃げ出すほど薄かった女神様の胸が、何故か片手で包めるくらいの大きさに変化してた。それに伴った変化なのか、背もかなり伸びてる。具体的には僕よりやや低いくらいの身長になってて、ロリから少女にランクアップ……ランクダウン? とにかく変化してる。
正直これだけでもかなり度し難いんだけど、成長と考えられなくもないだけ最後の変化に比べたらまだマシな方だ。極めつけの最後の変化は、あろうことかご立派なウサミミが頭のてっぺんに生えてた。一体これはどういうことなんですかね? ちょっと理解が追い付かないんですが?
「えっと……本当に、僕の女神様なの?」
「たわけ。まだお主のものになった覚えは無いわ」
そう返して、不機嫌そうに表情を歪める女神様かもしれない女の子。心なしかウサミミも不機嫌そうにぴくぴくしてる。ちゃんと動いてる辺り、どうやらコスプレの一環じゃないみたいだな……。
「分かった。ちょっと本当に女神様か確認させてもらうね?」
「何故そこでわらわの下着を覗こうとする!? というかお主、そもそもわらわがどのような下着を身に着けておるのか知らんじゃろうが! 確認にならんわ、阿呆!」
「ごはぁ!?」
とりあえずローブの裾を捲って下着を確認しようとしたら、どこからともなく取り出されたこれまた豪奢なロッドで頭をぶっ叩かれた。
いってぇ、頭蓋が砕けたかと思ったぞ……しかしこの反応、間違いなく僕の女神様だ。姿がだいぶ変わってるし、心なしか声も微妙に大人っぽくなってるけど、間違いない。一体どうして僕の女神様が成長してウサミミ生えてんだろ? 百歩譲って成長したってなら納得できるけど、ウサミミはどっから出てきた?
「この返しは間違いなく僕の女神様だね。しかし、一体何だってそんな愉快な姿になってるの?」
「うむ、聞いて驚け。実はな――わらわに熱心に祈りを捧げてくれる、敬虔な信者ができたのじゃ!」
「な、何だって!?」
分からせたくなるドヤ顔で言い放つ女神様に、僕は度肝を抜かれた(二度目)。
うっそだろ。あのぼっち女神様に信者が? そんなこと天地が引っくり返ってもありえないだろ。
でもそれなら女神様の姿が変化してることにも説明がつく。確か女神様の姿は信者の想像で決まるっていう設定があったはずなんだよね。たぶんどっかの馬鹿がバニーガール姿の女神様とか想像したんじゃない? 全く、信者の癖してスケベな奴だな。だが気持ちは分かるぞ。うん。
「この姿はお主の邪な妄想を塗り潰すほど純真で清い信仰心の現われじゃな。まさかこんな駄女神であるわらわを信仰してくれるようになるとは、嬉しい誤算じゃ。やはりミニスはとても良い子じゃのう?」
「って、どこの変態かと思ったら、アイツの仕業か……」
どっかのバニーガール狂いかと思ったら、まさかの身内の仕業だった。確かにアイツ、女神様が代償を肩代わりしたことを伝えたら泣きながら感謝して祈ってたね。兎獣人のアイツからすれば、頭にウサミミ生えてるのは何らおかしいことではないだろうし。
ていうか信者認定されてるってことは、今も変わらず祈ってるってことかな? 随分とまあ信仰心厚いんだな、アイツ。
「わらわとしては放っておけぬから少々無理をして手助けをしたのじゃが、それがこんな結果に繋がるとは……世の中分からぬものじゃなぁ」
「ん? 無理をしたってどういうこと?」
「ああ。誰にも信仰されておらんわらわは信力が不足していて、ろくに世界に干渉することができんのじゃ。それでもミニスを助けるために干渉した結果、つい先ほどまで世界を観ることすらできぬほどに消耗してのう……」
消耗した女神様、か……息を荒げ、力なく身体を投げ出した女神様……エロいな。
それはともかく、口振りから察するに信仰心が力になるってことかな? 嫌らしいシステムしてるねぇ。しかし、何だろう……しんりきっていう言葉に何か聞き覚えがあるような……お米?
あとついさっきまで世界を観られなかったってことは、昼にクソ犬を拷問したこととか、夜にサキュバスを拷問させたこととか、そういうお怒りの対象になることは知らないってことだな。まあ知ってたらいきなり殴りかかってくるだろうし当然だな。
「ということは、代償を肩代わりするって言ったのに踏み倒すように夢に現れなかったのも、そういう理由ってこと?」
「うむ。わらわはお主のような卑怯で狡猾な下劣畜生とは異なる故、一度交わした約束は反故にはせん。さあ、お主の好きにするがいい……」
頷き、女神様は僕を迎え入れるように両手を広げ、目を閉じる。存外思い切りが良いというか、諦めが良いというか、なかなかに潔くて僕には好感触だ。女神様もそういうことをするならベッドの上が良いのか、いつのまにか傍らにベッドが出現してるし。その癖顔を真っ赤にして、うっすら涙を浮かべながらぷるぷる震えてるんだから堪んないね。
「ふむ……」
もちろん僕の望みは、女神様の全てを貪る事。だからこのままベッドに押し倒して、口には出せないアレやコレをするのが至上の目的だ。むしろ一貫してそれしか考えてないって言っても過言じゃないね。
だが少し待って欲しい。こんなに怯え、怖がっている女神様を押し倒して犯すのは本当に正しい事なのだろうか? いや、もちろん道徳とか倫理とかはどうだっていいよ? むしろそういうのの方が興奮するし。
本当に正しいかどうかっていうのは、それが最高のシチュエーションか否かってこと。確かに女神様を無理やり犯すっていうのは素晴らしいシチュエーションではあるけど、最高のシチュエーションかと聞かれたら悩まざるを得ない。そもそも女神様が怯えながらでも受け入れようとしてるあたり、もう無理やりではないからね。それに今の女神様、ロリ姿じゃないし。
つまり何が言いたいかというと、ここはやはり初志貫徹。世界を平和にしてから、心置きなく女神様とイチャイチャラブラブエッチをするべきではないだろうか。その方が女神様からの好感度も大幅に上がりそうだし、何より他の女で経験を積んでからの方が、大いに喘がせることができそうだしね。
だからここは涙を呑んで、素敵なチャンスを見送ろう。実際ここで女神様をヤっちゃったら、もう世界平和へのモチベーションなんて無くなるからね。万一そうなったらせっかく授かった力を奪われる可能性もあるし。非常にもったいないが、女神様の純潔を奪うのは我慢しよう。
「じゃあ――そのウサミミを触らせろぉ!!」
だが! それはそれとして何もせずにいることなどできない! というわけで、そのご立派なウサミミをくしゃくしゃになるまで弄り倒してやるぜ! 覚悟しやがれ!
⋇ここまでがルスリアに来て一日目。濃密すぎる……。
⋇ちなみに抱き枕評価は
ミニス(ぺたんこだし邪魔なものも無いので一番)>>>キラ&レーン(出る所は多少出てるから気になる)>>>リア(ぺたんこだが翼や角が激しく邪魔)>>>ハニエル(論外)