犠牲者の確保
⋇性的描写あり
時は流れて、十七時頃。嘘をつかれてないなら冒険者ギルドのサキュバス受付嬢の上がりの時間だ。ちゃちゃっと攫って、昼の内に取っておいたこの宿の別室に放り込まないとね。
「それじゃあそろそろサキュバス確保に行きまーす。ついてくる人ー」
「はーい!!」
「行くわけないし」
「……ケッ」
女部屋、というか真の仲間たちの四人部屋に行って一応尋ねると、元気に手を挙げて頷いたのはリアだけだった。
ミニスは滅茶苦茶興味無さそうにしてるし、キラに至っては何か拗ねてる。まあミニスに関しては元々そういうのに興味ない奴だし、キラに関しては襲ってきたのを断ったのが原因だろうなぁ……。
「はい、じゃあ二人で行こうか。何か機嫌悪いのがいるし」
「誰のせいだよ、クソッタレが……ぜってぇ襲ってやるからな」
「ヒェ……!」
どうにもまだ僕の童貞を諦めてないみたいで、剣呑な視線を向けてくるキラ。何だろうね、殺意を向けられたって屁でもないのに、童貞を狙われてると震え上がりそうな恐怖を感じるんだ。そんなに僕の童貞が欲しいとか、僕の事好きすぎん?
ちなみに事情を一切知らないミニスは、僕らのやり取りに首を傾げてたよ。額面通りに受け取るとキラが反旗を翻したみたいに聞こえるしね。
「キラちゃんね、ご主人様にエッチなことしようとして襲いかかったんだって。まだ諦めてないみたい」
「はあ? いやいや、そんなわけないでしょ。このイカれた殺人猫にそんな人並みの情動あるわけ――」
「あ、嘘じゃなくて本当だよ? お前らが買い物に行った後、僕コイツに性的に襲われかけたんだ」
「うっそぉ!?」
やっぱりそっちの方向とは思ってなかったみたいで、真実を伝えるとミニスは途端に目を丸くしてウサミミをおっ立てた。気持ちは分からないでもない。僕だってまさかあのキラが童貞を狙ってくるようになるとは夢にも思ってなかったからね。
「どうもギルドでブチ切れた僕の姿が琴線に触れたみたいで、下着姿で迫ってきたんだよ。少し前ならともかく、今は初めての相手はリアにするって決めてるし、初めての相手がコレとか罰ゲームみたいだから拒否したら、何か機嫌悪くなってさ……」
「機嫌悪いっていうか、殺意垂れ流してない……?」
微妙にビクビクしながらキラに視線を向けるミニス。確かに殺意のようなものを向けられてる気がする。
状況的に見れば誘ってきたキラを手酷くフッたばかりか、リアとヤるって公言してるようなもんだからね。可愛さ余って憎さ百倍って言葉もあるし、執着が殺意に置き換わりつつあるんだろうか。つまり完全に殺意に裏返る前には相手してやらないといけないのかな、これ……。
「ふ~ん? ご主人様はキラちゃんよりリアの方が良いんだ~? リアの方が好きなんだ~? へ~?」
「あ、初対面以来のメスガキっぽさ。懐かしいねこの感じ。分からせたくなる」
「えへへ~」
嬉しそうにメスガキムーブするリアの頭を撫でてあげると、メスガキっぽさが薄れて純真な子供っぽい喜び方が帰ってくる。ぶっちゃけコイツは全然メスガキじゃなかったから、その点はちょっと残念かな。
まあここ魔獣族の国だし、探せば悪魔のメスガキとかいそう。遭遇したら絶対分からせてやるんだ……。
「ちょ、ちょっと……殺意が増してるんだけど……」
怯えたミニスの声にキラの方を見てみると、確かにさっきよりも瞳が鋭くなってた。たぶんリアを可愛がってるのがお気に召さなかったんだろうね。本当にお前も最初の頃とキャラが変わったねぇ……ナデナデ。
「ふんふんふ~ん♪」
夕暮れ時の街を歩くリアのご機嫌は絶好調。僕の隣で鼻歌を歌いながらスキップをしてて、今にも翼で飛んでいきそうなくらいご機嫌だ。飛んだらスカートの中見えるから、飛んでいいんだよ? どうぞ?
「めっちゃご機嫌だねぇ。まあ理由は聞かなくても分かるけどさ」
「だって、これからサキュバスを好きなだけ痛めつけられるんだもん。楽しみで楽しみでしょうがないよ。えへへー」
笑顔もかなりの破壊力で、今夜を楽しみにしてるのが一目で分かるね。内容がだいぶアレなのは今更の話かな。
「痛めつけるのは構わないけど、約束はちゃんと覚えてるよね?」
「代わりに明日からは他のサキュバスと会っても我慢すること、だよね?」
「そう。分かってるなら良いよ。それに他のサキュバスって言っても、本当にいるかどうかは分から――あっ」
そこで僕は思わず足を止めた。何故って? うん、実は僕らが泊ってる宿は表通りからだいぶ離れた場所にあるんだ。何か表通りの宿はほとんど全部満室で、空いてるのは立地が悪かったり治安が悪い感じの宿しかなかったんだ。
それでたった今、裏路地を抜けて表通りに出たわけなんだけど……そこで目にした光景がちょっとよろしくなくてね……。
「んー? どうしたの、ご主人様――あっ」
止める間もなく、リアも表通りの光景を目にして――固まる。
いや、固まるだけで済んで幸いってところかな。だって表通りには、それこそ僕とリアにとってヤバい光景が広がってるんだから。
「ねぇねぇそこのお兄さーん! 私と一緒に遊びましょー!」
「フフフ。たっぷり気持ち良くしてあげるから、お姉さんのところに来なさい?」
「私たちと気持ち良い事……しよ?」
そこに広がってたのは桃源郷――いや、さすがにそれは言いすぎか。とにかく、いかがわしい格好をしたサキュバスたちが、道行く男たちをエロくお誘いしてる光景。端的に言って呼び込みの現場だね。
ていうか昼の時に比べて、道行く男たちの数が軽く三倍以上に膨れ上がってる。そして男たちはどの店にするかを悩むように、きったねぇ笑みを浮かべて呼び込みのサキュバスたちを嫌らしく眺めてるね。良く分からんけど、この街は夜になるとそういう街になるの?
「右を見てもサキュバス、左を見てもサキュバス。うん、めっちゃいっぱいいるね……」
「………………」
ついでに僕の隣にいるサキュバスを見ると、さっきまで純真無垢な笑みを浮かべてた顔から表情が抜け落ちてた。愛らしいお目々からはハイライトが消えて、淀んだ闇がこれでもかと溢れ出してる。うん、コイツ連れて歩くのは色々な意味で危ないな。
「宿で待ってたら? 僕が捕まえて持っていくからさ」
「……ご主人様。リア、受付の奴より、アイツがいいな」
「えっと……あの、赤い髪のサキュバス?」
リアが指で指し示す先には、燃えるような赤い髪のサキュバスがいた。当然スタイルは抜群で、透け透けのエッチな下着に身を包んでる。呼び込み方は媚びるような感じじゃなくて、どちらかと言えば誘うような感じだね。リアはああいうのが好みなのかな?
「うん。アイツ、リアを苛めてた奴にそっくり。痛めつけたら、きっとスカッとするだろうなぁ」
「あ、そういう好みね。分かった分かった。じゃあ何とかしてアイツをお持ち帰りしてやるから、例の部屋で待ってなよ?」
「分かった。よろしくね、ご主人様?」
そうしてリアはゾクゾクするくらい邪悪な笑みを浮かべて、来た道を引き返して行った。純真無垢な笑顔を浮かべられるのに、あんな醜悪の極みみたいな笑顔も浮かべられるんだから恐れ入るよね。僕はそういう所が好きなんだけどな!
何にせよリアのために、あのサキュバスを宿までお持ち帰りしないとね。果たして童貞の僕に、ピンクなお店のサキュバスをお持ち帰りすることができるだろうか……それはそうと、誰かに見られても問題無いように外見を偽装しておくか。今の姿も偽装なのに、ここから更に偽装するっていうのがどうにも解せないけど。とりあえず角じゃなくてケモミミにして、あとは髪の色も変えておけばいいかな。
「……あら、お兄さん。良かったら遊んでいかない?」
偽装を終えて満を持してさっきのサキュバスに近寄ってみると、エロい流し目と共に向こうから声をかけられた。何か大人のお姉さんに誘われてる感じ。確かに身長も僕と同じかやや高いくらいだしね。
「いいね、是非頼むよ。あ、実は宿を取ってるんだけど、そっちでやるのでも大丈夫?」
「もちろん大丈夫よ。ただし、お持ち帰りは別料金よ?」
「やったね。じゃあ行こうか?」
「ええ、行きましょ?」
うん、思いのほか簡単に釣れた。まあ初めての殺人に比べれば全然緊張しなかったね。そもそも殺人は失敗すると人生が終わるけど、風俗嬢のお持ち帰りは失敗したら気まずいだけだし、比べるべくもないか。
とりあえず僕はいかがわしいお店でお金を払って、サキュバスのお持ち帰りの許可を得たよ。どうせ偽造通貨だから懐は全く痛まないし、気前よく『六時間コース』を選びました。ちなみに最大で『三日間コース』もあったよ。それを選ぶ奴はどんだけ絶倫なんですかね?
そんなわけで何の問題もなくサキュバスを買った僕は、お互いに腕を絡ませながら宿へと向かう。デカい胸の膨らみが肘にぷにぷに触れて気持ち良いんだけど、いまいち興奮しないんだよなぁ。相手が不特定多数とヤリまくってるビッチだからか、それとも僕が冒険者ギルドで発散しすぎたか……多分両方だな。キラを抱き枕にしててもあんまり興奮しなかったし。
「ところでさ、僕今日初めてこの街に来たんだけど、この街って夜になるといつもこんな感じなの?」
「ええ、そうよ。ここは我らがサキュバスの女王であるリリス様が治める街だもの。サキュバスたちがいっぱいいるのは当然でしょう?」
ふと気になって道すがら尋ねてみると、そんな答えが返ってきた。
やっぱりこの街は夜になると男の楽園になるっぽいね。聖人族の国でもそういうお店を見かけはしたけど、さすがにこんな街全体で堂々とやってるものじゃなかったし。これが認められるのは街の支配者がサキュバスだからなんだろうな。
ていうか表通りの宿が総じて満員だったのって、たぶんこの楽園目当ての男たちのせいなんだろうなぁ。そういや街に入る時もやたら男が多かったね……。
「それに、この街には日々訓練と修行に明け暮れてる立派な兵士さんたちがたくさんいるんだもの。スッキリさせてあげるのが、優しさってものじゃない?」
「なるほどねぇ……」
そして大いに賢いやり方だ。堅苦しい規律もあって溜まってそうな兵士たちをスッキリさせつつ、サキュバスたちは快感という必須栄養素を摂取する。これはある意味共生関係と言って差し支えないのでは? 聖人族の方の前線基地代わりの街と比べて雰囲気が緩いのも、兵士たちが色々発散できるおかげで心の余裕があるからだろうなぁ。
それに戦争の最中ならともかく、今は機会を伺って睨みあってるような状態だからね。戦場で聖人族の女を攫ってきて慰み者にすることも今はできないだろうし、かなり素晴らしい対応だ。聖人族は見習って、どうぞ。
「――さ、ついたよ。ここが今夜のために取った部屋さ」
「ふふっ。今夜は一緒に楽しみましょうね?」
そんな風にお話をしてると、ついに目的地に辿り着いた。ちなみにお持ち帰りは結構みんなやってるみたいで、僕が泊ってるこの宿にもサキュバスを連れ込んでる男がチラホラいた。中には三人のサキュバスと一緒に部屋に入って行った奴もいたよ。お盛んなこって!
何にせよ部屋に入るまでは、僕もそういうのが目的だっていう風に振舞わないとね。そんなわけでサキュバスのお尻を撫でつつ、部屋の扉を開けて中に入りました。
「――おかえりなさい、ご主人様! アハッ、ちゃんと連れてきてくれたんだ! ありがとう!」
そして部屋の扉を閉めた直後、物陰からリアが飛び出してお出迎えしてくれた。偽装してるから僕の姿は普段と違うのに一切気にしてないのは、サキュバスしか目に入ってないからなんだろうなぁ。一見とっても嬉しそうな笑顔を浮かべてるのに、何か狂的な思念を感じるし。
「あら? この子は一体――」
「睡眠」
「あっ……」
リアの姿に首を傾げたサキュバスに対して、強制的な睡眠に叩き落す魔法を行使する。所詮はただのサキュバスだから、特に抵抗も無くその場に崩れ落ちた。それを確認してから、僕はいつもの角が生えた姿に戻る。
「更に――欲望の牢獄」
崩れ落ちたサキュバスをベッドに放り投げた後、快適な拷問環境を整えるために更に魔法を行使する。
内部の敵の動きと魔法を封じて、外界に一切の音を漏らさない結界を生成。範囲はこの部屋全体。破壊や侵入、脱走も不可。時間の流れについては……等倍で良いかな。元々室内だし、誰かが勝手に入ってくることもできないだろうしね。
「これで良し、っと。もうコイツは動けないし魔法も使えないぞ。あとは煮るなり焼くなり好きにしな」
「わーい! ご主人様、だーい好き!」
「本来ならとっても嬉しくなるはずの言葉なんだけどなぁ……」
正に夢のような至れり尽くせりの状況が整ったせいか、リアは狂的な笑みを浮かべながら抱き着いてきた。可愛い女の子に抱き着かれるのは嬉しいんだけど、何か素直に喜べないのは何でだろうねぇ……?
⋇街に入る時に男がやたら多かったのは、街の夜の顔がお目当ての方々。