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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第6章:童貞卒業の時
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トルトゥーラ




 嫌らしくお尻と尻尾をフリフリする受付嬢の案内に従って、僕らはギルド三階にあるギルドマスターの部屋を目指してた。何か二階には書庫とか色々あるらしいよ? 一回には受付とバーの他にも、修練場とか救護室とかもあるらしいね。

 受付嬢が受付から離れていいのかってことは少し気になったから聞いてみたけど、まあ問題無いっぽい。他にも幾つか受付があって受付嬢もいたし、元々この街の冒険者ギルドは人が少なめだし、何より受付の人がいなくて待たされたからって怒るような奴はいないんだってさ。本当にどんだけ恐ろしいギルマスなんだろうね? ちょっとわくわくしてきたよ。

 

「ギルマスぅー、今よろしいですかー?」


 やがてギルマスの部屋の前まで来て、受付嬢が扉をノックした。さてさて、どんな地獄の悪鬼のような恐ろしい声が返ってくるか……。


『構わないよ~。入ってくれたまえ~』


 あれれー? 何か明らかに女の子な可愛らしい、それでいて気が抜けるようなやたらに抑揚のある声が返ってきたぞ?

 いや、まだ分からない。もしかしたら声がそんな感じでも、見た目は金剛力士みたいな感じの筋肉大男かもしれないじゃないか。その場合オカマ疑惑が出てきて、冒険者たちがやたらギルマスを恐れてる理由がかなり嫌なものになるけどさ。罰則と称して絶対掘ってそう……うん、やっぱ登録やめようかな。


「はーい、失礼しまーす」


 僕が登録を考え直そうとしてる間に、受付嬢は躊躇いなく扉を開けた。

 クソッ、こうなりゃ男は度胸だ! 何が何でも絶対に僕の後ろの初めては渡さんぞ! こっちに限っては生涯処女を貫く予定なんだ! 尤も前の方は物理的に処女を貫くために使うがな!


「どうしたんだい、メロディくん~? 何か問題でもおこったのかな~?」


 そうして覚悟を決めた僕の目に飛び込んできたのは、豪華な執務机で書類仕事をしてた一人の少女。犬っぽい耳が生えてるから獣人だね。髪は肩口辺りまでの短さだけど、獣人特有の触り心地良さそうな髪質に見える。おまけに髪の色が黒いから、何となく親近感が沸くね。でも瞳は明るい銀色だから日本人では無さそうかな。

 ちなみに筋肉ムキムキのオカマの姿は部屋のどこにもありませんでした。何だろう……安心したのにがっかりしたような、不思議な気分だ……。


「いえ、問題は無いですよー。こちらの方たちが冒険者登録をしたいとのことなので、連れてきました」

「なに!? 登録だってぇ~!?」


 何か適当な受け答えだったのに、用件を聞いた瞬間目の色を変えてガタッと立ち上がった。背後でフッサフサの黒い尻尾をブンブン振ってる辺り、登録者が来たことがよっぽど嬉しいんだろうね。あの尻尾鷲掴みにしたら怒られるかな?


「ご苦労、メロディくん! 後は私が引き継ご~! 君は業務に戻ってくれたまえ~!」

「はーい、分かりました。それでは皆さん、失礼しまーす」


 テンションアゲアゲなギルマスに促され、受付嬢はぺこりと頭を下げてから戻って行った。リアはその姿が見えなくなるまで暗黒よりも深い闇が見える目を向けてたけど、見えなくなってからはいつもの純粋なピンクの瞳が戻ってきたよ。沸き上がる憎悪を我慢させて本当にごめんね?


「さあさあ、ここに座るんだ! 今お茶とお菓子を用意するから、少しだけ待ってくれたまえ~!」

「あ、はい。どうもありがとうごさいます」


 ギルマスが部屋の隅から素早く椅子を四脚持ってきて、執務机の前に並べていく。まるで集団面接みたいな物々しい光景に若干警戒をしそうになるね。

 まあ肝心の面接官がこの部屋備え付けの食器棚みたいな戸棚に頭を突っ込んで、お茶の道具を探しつつ嬉しそうに尻尾をブンブン振ってるからそこまで警戒は沸いて来なかったな。一週間ぶりに飼い主に再会した飼い犬か何か?


「いやー、久しぶりの登録希望で嬉しいよ~。最後にあったのは三ヵ月くらい前だからね~」

「そんなに新人が来ないんですか? 美人の受付嬢さんに美少女のギルドマスターまでいるんですから、引っ切り無しに登録希望がありそうなものですが」

「あはははっ、君は随分と口が上手いね~? 褒めても何も出ないよ~?」


 と言いつつ、更に尻尾の動きが加速する。何だコイツ、チョロいな。

 でもさっき話した荒くれ者の冒険者たちは、このギルマスを妙に恐れてるんだよなぁ。一体何でなんだろうね? とりあえずお茶の用意に奔走してる間に色々調べておくか。解析(アナライズ)



名前:トルトゥーラ

種族:魔獣族(犬人族)

年齢:46歳

職業:ギルドマスター

得意武器:手甲

物理・魔法:8対2

聖人族への敵意:無し

魔獣族への敵意:無し



 おっ!? 仲間候補キタコレ! 

 なるほどね。両種族に対して敵意が一切無いなら、よほど上手く隠さない限り周囲から確実に浮くだろうし、そういった一般魔獣族には理解できない部分が恐れられてるのかもしれない。ただこれでも理由としては弱い気がするね。

 年齢四十六歳っていうのは一瞬ババアじゃんって思ったけど、獣人の寿命は三百歳くらいのはずだから人間の年齢に直すと……十五歳くらいかな? 普通に若々しいですね。さて、気になる乙女のプライベートの方は――解析(アナライズ)



身長:152cm

体重:44kg

スリーサイズ:80/54/83

経験:無し

恋人:無し



 ほうほう。生粋の生娘じゃないか、たまげたなぁ。

 処女で敵種族に対する敵意も無くて、何より元気で人懐っこい感じのワンコ少女。これは有力な仲間候補ですね。

 ただ気になるのは冒険者たちから恐れられてる理由と、あとは戦い方かな? 前者は情報が少なすぎるからいまいち推測もできないけど、戦い方に関しては結構予想がつくね。得意武器が手甲ってことは肉弾戦が主体みたいだし、たぶん魔法は完全に補助と割り切ってガチガチの近接戦闘をするタイプなんだと思う。キラでさえそこそこ魔法使うって考えると、ここまで徹底して物理寄りなのは珍しいね。


「――さて、まずは自己紹介と行こう! 私の名はトルトゥーラ! このルスリアの街の冒険者ギルド、第二支部を統べるギルドマスターだ~!」


 お茶の準備も終わって自分の席に戻ったギルマスことトルトゥーラが、両手を高く掲げながら自己紹介をする。この抑揚が独特な喋り方は素なのかな?


「初めまして、僕はクルスと言います。こっちは一番左からミニス、キラ、フェリアです」

「……よろしくお願いします」

「あたしもう登録してあるんだし、ここにいる意味なくね?」

「よろしくー!」


 ぺこりと頭を下げるミニスに、自分がここにいる必要性に疑問を持ってるキラ。そしてサキュバスが去った事で純真無垢な幼女に戻ったリアが気安い挨拶をする。

 三名中二名が面接に相応しくない態度でちょっと冷や冷やしたけど、別に問題なかったみたい。トルトゥーラは笑みを深めて尻尾を嬉しそうに振ってた。


「う~ん、皆素晴らしい名前だね~! さてさて、それでは面接を始めよう!」


 そうして面接という名の決戦が始まった。未だかつてない強敵との戦い……だが僕は負けない! かかってこい!






「ふむふむ、なるほどね~……うん! みんな問題なし! 合格だ~!」

「やったー!」

「うーん、本当にあっさり終わったなぁ……」


 大体十五分後。神経を尖らせながら臨んだ面接は、びっくりするくらい簡単かつあっさりと終わった。しかもみんな合格。幼女だから仕方ないとはいえ、常時タメ口で馴れ馴れしいリアでさえ合格したからね。さすがに僕の警戒が過ぎたかもしれない。

 あ、ちなみにすでに登録済みで面接も関係ないキラは面接開始三分くらいで眠りこけてたよ。今も足を組んで腕組みした状態でおねんねしてるし。それを特に気にしてない辺り、トルトゥーラはだいぶ寛大っぽいですね。こうなるとますます恐れられてる理由が分からないな。


「さて、ここで更に朗報~! 本来ならば新人は最低ランクであるEランクから始めなければいけないところなんだが、このギルドでは試験官と模擬戦を行うことで、その結果いかんによって最高でCランクからのスタートにすることができる飛び級制度があるんだよ~!」

「すごーい!」

「へぇ。それは確かにお得かも」


 無駄に大仰な仕草でそれを発表するトルトゥーラに対して、驚きと感心を露わにするリアとミニス。

 冒険者になるのはあくまでもお約束のためであって、別に成り上がりたいとか認められたいとかそういうわけじゃないんだよね。だから正直ランクなんてどうでも良い。でもちょっと心惹かれる感じの部分があったから尋ねてみることにした。


「模擬戦ってどんな感じの模擬戦なんです? ルールとかは当然ありますよね?」

「もちろんさ~。使用する武器に制限はなく、どちらかが『参った』と言えばそれで終わりだよ~。たーだーし、魔法は使用禁止だー。模擬戦中には『魔法を使用しない』という契約を結んでもらうよ~」


 なるほど。魔法無しでのバチバチの接近戦オンリーか。じゃあ試験官が女の子なら喉を潰せば好きなだけ合法的にボコボコにできるってわけか。予想以上に良い答えが返ってきたね。これは試験官が女の子なら模擬戦をする価値は十分にありそうだ。

 ただ、魔法の禁止って部分がちょっと気になるな……。


「……何のために魔法を禁止するんですか? しかもわざわざ契約を結んでまで」

「んー……そうだね~、何と言えば良いかな~……」


 僕の問いに、ここで初めてトルトゥーラは苦い顔をした。ブンブンと上機嫌に振られてた尻尾も、今はその動きを止めてる。本当に感情が分かりやすいなぁ。コイツ……。


「魔法というのは確かに強く、それでいて便利なものだ。それは間違いない。だが私は皆がそれに頼りすぎていると感じているんだよ~。特にそれが顕著なのは我々獣人だ~。獣人は生まれ持った高い身体能力に胡坐をかき、鍛錬を怠る輩がとても多いんだよ~。仮に強さを求める珍しい者がいても、大抵は魔法で小手先の強化をして満足してしまうからね~。私としては、君たちの純粋な強さを見せてもらいたいし、純粋な強さを得て欲しいんだよ~」


 要約すると、魔法至上主義に嫌気が刺してるっぽいかな。この世界の魔法は魔力と想像力さえあれば大体何でもできるし、戦闘においても生活においても便利なのは明らかだからね。極限まで技術を極めてる人なんてそうそういないと思う。

 でもトルトゥーラとしては、魔法を使わず自身の肉体のみを用いて研鑽して鍛え上げた技術こそが、真の強さに繋がると思ってるっぽい。僕としては使えるものは使ってなんぼだと思ってるけど、言いたいことは分からんでもない。


「そんなわけで、模擬戦では魔法無しの素の実力を見せて貰うために、魔法の使用を契約で禁止するというわけさ~。契約で禁止しないと、反射的に魔法を使ってしまう場合も多いからね~」

「なるほど。理由は大体分かりました。しかしそう仰るという事は、トルトゥーラさんは相当腕に自信があるという事でしょうか?」

「ギルマスでいいよ~。質問の答えは~……まあ、そこそこという所かな~。アロガンザで行われる闘技大会で準々決勝まで行けたくらいだからね~」


 自慢げにそこそこの膨らみがある胸を張って答えるトルトゥーラ。アロガンザっていうのは、クッソ古ぼけた地図にも載ってた街の名前だね。確かここと首都の間にある街の名前だったはず。

 しかし、闘技大会で準々決勝……なんだろう、凄いような凄くないような。そもそもその闘技大会の規模が分からんからどれくらい凄いのかさっぱり分からない。


「それってどのくらいの規模の大会なんですか? 僕らは田舎から出てきたので街の事にはどうにも疎くて……」

「ん~、平均して数千人は出場する大会だから、なかなかのものだよー? この国で一番強い奴を決める、と言った方が分かりやすいかな~?」


 あ、思ったよりも規模がデカいな。しかもその中で準々決勝まで行ったってことは、少なくともベストエイトには残ったってことか。

 つまりこのギルマス、魔獣族の国で八番目以内の強さを持ってるってこと……? それが事実なら冒険者たちが恐れてるのも分かる気はする。怒らせたら怖そうだしね。


「なるほど。そんな大会で準々決勝まで残ったというのは本当に凄いですね。強さも魅力も兼ね備えている、最強のギルマスじゃないですか」

「いや~、照れるなぁ~? そんなに褒めないでくれたまえよ~?」


 照れくさそうに頭を掻きつつ、トルトゥーラは尻尾をブンブン振って喜びを露わにしてる。

 全く。こんなチョロい生娘のギルマスが怖いなんて、冒険者連中は臆病過ぎない? 怯えてないでトルトゥーラを飼い犬にしようとするくらいの気概を見せて欲しいよね。まあ腰抜けばっかりなおかげで、コイツは生娘のまま僕に会えたんだけどさ。


「……それでどうするんだい? 模擬戦、するか~い?」


 不意に照れ顔を収めて、どこか面白がる感じの微笑みを浮かべながら尋ねてくる。何か挑発的で分からせてやりたい笑顔だけど、変わらず尻尾がフリフリしてるからいまいち怒りは沸いて来なかったよ。

 あー、できればコイツを真の仲間に引き入れたいなぁ。犬猫の獣人とか一番ポピュラーなやつだし、うちにいるポピュラーな猫の獣人はちょっと性格とか趣味とかがポピュラーじゃないからね。まともな犬っ子が入ってくれれば僕も万々歳だよ。


「……はい、もちろん。僕の力を見せてあげますよ」


 とはいえまずは冒険者登録を終わらせるのが先決だ。そんなわけで試験官が可愛い女の子であることを期待しつつ、素直に頷いた。


「ハッハッハ~! それは楽しみだね~。私に本気を出させてくれること、期待しているよ~?」


 あっ、ギルマス直々に試験官やるの!? うーん、どうしようかこれ。喉を潰して死ぬほどボコった後でも、仲間になってくれるかな? どう思う?









⋇仲間候補発見! しかも可愛くて人懐こそうなワンコ少女だ!

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