感動の別れ
⋇第6章、スタートです。酷い章タイトルなのは気にしない方向で。果たして誰で卒業するのか……
⋇今回も二日に一回の隔日投稿で行きます
⋇残酷描写あり
「……お父さん、お母さん。私、もう行くね?」
当初の予定通り、村に来てから五日後。ついに旅立ちの時が訪れて、ミニスは家族と涙無しには語れないお別れシーンの真っ最中だった。
何か夢見が悪かったこともあって、この五日間はできる限り羽休めに費やしたよ。どっかの殺人猫と日向ぼっこしたり、どっかのウサミミ幼女妹やロリサキュバスと遊んだり、どっかの話の長い人と電話でお喋りしたりしてね。まあ魔法の作成とか改良とかも色々やってたけど。
ともかくついにこのド田舎ともお別れの時。僕はそこまで愛着無いとはいえ、やっぱりここが故郷で家族もいるミニスは違うみたいだね。レキの手前何とか我慢してるっぽいけど、今にも泣きそうな顔してるよ。
「そう……もう、行ってしまうのね……」
「五日、か……普段は長く感じる日数なのに、今回はあっという間だったな……」
「うん、本当にあっという間だった……」
やっぱりミニスは深く愛されてるみたいで、お養母さんとお養父さんも悲し気に顔を歪めてる。それでも引き留めようとしない辺り、物分かりが良くて何よりだよ。
「本当は、ずっとここで皆一緒に暮らしていたい。でも私は、行かなきゃならないから……」
表向きには、自分にかけられた呪いを解く方法を探すため。そして本当は名実ともに僕の仲間となって、その責任を果たす必要が出てきたから。
まあ最初から狙いは分かってたんだけど、ミニスは僕の仲間になってから条件をつけてきたんだよね。この村の人たち、あるいは最低でも自分の家族だけは守って欲しいって。仲間になった以上は優しく接するべきだし、優しい僕は願いを聞いてあげたんだ。お養父さんたちに回復力向上とかの魔法かけたり、キラにあの山の魔物を狩らせたりしてね。だからミニスはミニスで仲間としての責任を果たさないといけないわけ。
「そうだな……お前が苦しむ姿は見たくない。クルスさんが呪いを解く方法を探してくれるというなら、一緒に行って方法が見つかったらすぐに解いてもらうのが一番だろう」
「そうね。クルスさんに何度も甘える形になって、本当に申し訳ないけれど……」
そう言って、お養父さんたちは申し訳なさと無力感に苛まれてる感じの顔をする。二人はただの村人だから仕方ないよね。
「まあ、何だ……お前が帰ってくるのを、俺たちはいつまでも待ってるぞ。だからこっちの事は心配するな。山の魔物の数もだいぶ減ってきたみたいだしな」
「あまりクルスさんに迷惑をかけないようにね? もしもの時は、ちゃんと教えたことをして恩返しするのよ?」
「う、うん……できれば、絶対したくないけど……」
うん? 何かミニスの顔が赤いですね。お養母さん、一体ナニを教えたんです……?
「……ミニス」
「ん……」
僕が首を傾げてると、お養母さんは迎え入れるように両腕を広げた。ちょっと恥ずかしそうにしてたけど、ミニスは自らそこに飛び込んでぎゅっと抱き着いてた。お養母さんはそんなミニスを抱き返して、更にお養父さんが二人纏めて抱きしめる。
「……愛してるぞ、ミニス。だから、また無事に帰ってきてくれ」
「愛してるわ、ミニス。私たちは、あなたの幸せを願ってるわ……」
「うん……私も、愛してるよ。お父さん、お母さん……」
「……いいなー」
これぞ愛しあう家族っていう感じの光景を前に、隣のリアが羨ましそうにぽつりと呟く。やっぱりコイツは愛情に飢えてるっていうか、別に愛情が理解できないとかそういう感じじゃないんだね。クソみたいな環境のせいで手の施しようがないほど捻じ曲がっただけで。
「……レキ」
両親からたっぷり愛情を受け取ってハグから抜け出たミニスは、今度はレキの方を向いた。もうレキは今にも泣きじゃくりそうなくらい、瞳に涙を溜めてるよ。でも必死に我慢してるっぽい。幼女が泣くのを我慢してる光景って何かそそる……そそらない?
「おねーちゃん、元気でね……レキ、良い子でいるから……絶対絶対、帰ってきてね?」
「もちろんよ。約束したんだから、絶対帰ってくるわ。どれくらいかかるかは分からないけど、レキは私を待っててくれる?」
「うん……うん……! 待ってる……いつまでも、待ってるよ……!」
そこで耐えられなくなったみたいで、レキはぼろぼろと涙を零しながらミニスに抱き着いた。地味にミニスも瞳が潤んでる様子。いやぁ、泣いてる幼女が抱き合う光景って堪んねぇなぁ! 僕も間に入れて!
「もうっ、泣き虫で甘えん坊なのはいつまで経っても変わらないんだから……大好きよ、レキ」
「うん……レキもおねーちゃんのこと、大好きだよ……!」
「いいなー……」
そうして固く抱き合う姉妹と、そんな姉妹に闇の深い羨望を向けるリア。コイツその内闇が爆発しそうでちょっと怖いね……。
「……クルスさん。娘をどうか、どうかよろしくお願いします」
「守ることもできない奴に娘はやれないぞ。どうしても娘が欲しいなら、どんな不幸や苦しみからも守ってみせろ」
「はいはい。何でどうしてもミニスを欲しがってると思われてるのか分かんないけど、僕にできる範囲で頑張るよ。大切な仲間だもんね」
お養母さんたちが頼んできたから、とりあえず頷いておく。たぶん僕といる事そのものが不幸で苦しみになるとは思うんだけど、娘の身を案じる両親にそんな酷いことを言うわけにはいかないよね? というわけでもちろん真実は黙っておきました。
「あ、そうそう。これ、お世話になったお礼ね」
「これは……?」
代わりに異空間の中から取り出したモノを、お養父さんに手渡す。さすがに見たこと無いものなせいか、首を傾げてウサミミを曲げてたよ。野郎がそんな反応しても何の需要も無いんだよなぁ。
「僕が作った通信用の魔道具。これがあれば、いつでもどこでもミニスとお話することができるよ。詳しい使い方は説明書を読んでね」
「え?」
理解できなかったのか呆気に取られた感じの表情をするお養父さんに、二個目、三個目の携帯電話を手渡す。やっぱり自分専用の携帯電話があった方がいいし、せっかくだから人数分用意しておいたんだ。すでに創ったことがあるからほとんど苦も無く創り出せるし、手間はかからなかったよ。
でもおかしいな。ミニスといつでも会話できるのに、お養父さんもお養母さんもレキも、馬鹿みたいにぽかんとしてるよ。ド田舎の村人には携帯電話という文明の利器の素晴らしさが理解できなかったのかな?
「……あのさ、そんなもの用意してたなら何でもっと早く渡さなかったの?」
「いや、だって何か今生の別れみたいなお通夜ムードだったし、邪魔しちゃ悪いかなって思って。後は最後にびっくりさせたかったからかな?」
鳥肌立ちそうになるくらい冷たい口調で聞いてきたミニスに答えつつ、ミニス専用の携帯を投げ渡す。
ミニス一家専用の携帯電話自体は、二日くらい前に完成してたんだよね。ただどうせなら驚かせたかったから、最後の最後まで渡さなかったわけ。みんなぽかんとしてるし、結果的には大成功だね! サプラーイズ!
「……死ねっ!!」
とか思ってたらミニスがまたしても殺意マシマシの飛び蹴りをかましてきた。一体何が気に入らなかったんだろうね? 反抗期かな?
最後にひと悶着あったけど、それ以外は特に何事も無く僕らは田舎を出た。
何だかんだで合計五日間も休んだし、休息は十分。色んな魔法を作って改良もしたし、クソほど娯楽も何も無かったことを除けば、結構充実した日々だったね。
「あー……ようやく辛気くせぇド田舎とおさらばできたぜ。娯楽も何もありゃしねぇマジの辺境だったからな……」
「何かキラちゃん全然見なかったけど、いつも何してたのー?」
「あ? そりゃ日光浴したり、魔物を狩ったり、昼寝したりだな。ぶっちゃけそれしかすることねぇんだよ……」
「んー……意外とエンジョイしてたんじゃないのかな……?」
本人の口振りとは裏腹にキラもそれなりに充実はしてたみたい。不満そうにしてる姿にリアが首を傾げてるよ。
あとコイツ、一回僕の唇を奪ったせいなのかどうにも独占欲とか執着心の類に火がついたっぽい。隙あらば僕に擦り寄って唇を奪おうとしてきて気が気じゃなかったよ。別にそれ自体は構わないんだけど、愛しそうに瞼を撫でてくるのが凄い怖くてちょっとね……。
「で、これからどうすんだ? そもそも次はどこの街に向かってんだ?」
「えっとね。次に目指すのはルスリアの街だよ。とりあえず一番近い街に行こうかなって」
無駄にぴったり寄り添ってきたキラに対して、ボロボロの地図を見せて次の目的地を示す。でっかい街だし、小さなコミュニティを避ける連続殺人鬼でも問題ないはず。
そう思ってたら、リアと二人で先を歩いてたミニスが何故か嫌悪丸出しの顔で振り返ってきた。
「徒歩でルスリアを目指すとかアホなの? 軽く十日以上はかかるわよ? ていうかそもそも方角違うじゃない、方向音痴のクソ馬鹿野郎」
「おバカが。幾ら何でもそんな無駄な時間をかけて行くわけないでしょ。ちゃんと色々考えてるよ。そのために今はこっちに歩いてんの」
そして相変わらず容赦のない罵倒が飛んでくる。でもこの刺々しい反応が気持ち良いっていうか、ツンツンしてる感じがあって良いよね。いつかベッドの上でデレデレにしてやるからなぁ?
あ、そうそう。ミニスが真の仲間に加わったことを知らせると、リアはそれはもう大喜びだったよ。やっぱ実年齢はともかく見た目の年齢が近いから、親近感があるんだろうね。
え、キラ? キラはむしろ残念がってたよ。『もう痛めつけたらダメなのか?』って捨て猫みたいな情けない顔で聞いてきたし。さすがに真の仲間をサンドバッグ扱いは可哀そうだからやめてあげて。でも完全に駄目っていうのも今度はキラが可哀そうだから、模擬戦とか特訓とか修行とか称してボコるのは良いってことにしておいたよ。ミニスなら多少ボコられた程度じゃ心は折れないしね。
あ、レーンにはまだ言ってないよ。別にそこまで興味もないだろうし、話題に出すこともないかなって。まあ話題が無くなった時には折を見て伝えておくかぁ。
「お、いたいた。おーい、こっちこっち!」
村からそれなりに離れた場所にある林の中、僕はそこに潜んでる人影たちに声をかけた。そしたら林から勢いよく飛び出してきて、それはもう忠実な犬みたいにこっちに駆けてきたよ。何も知らんであろうキラたちは首を傾げてたけど。
「えっ。あの人たち、誰……?」
「知らね。お前知ってる?」
「んーん、リアも知らないよ?」
「アレはねぇ、僕の忠実な兵士たち――の試作品だよ。まあお前たちと違って消耗品だから別に気にかけなくて良いよ。代わりは幾らでも手に入れられるし」
そう、アレは兼ねてより考えてた忠実な兵士の試作品。時間はいっぱいあったし、村で羽を伸ばしてる時に作ってみたんだ。あくまでも試作品だから、見た目とか能力には拘ってないよ。空間収納にしまってあった適当な魔獣族の野郎の死体を使っただけだし。
「はーん。ならどうでもいいか」
「んー、リアもサキュバスじゃないならもうどうでもいいかなー」
「えぇ……何でこんな普通に受け入れてるの、コイツら……? 人を消耗品扱いとか外道の極みじゃない……」
自分の興味ある事以外には淡白な二人に比べて、一般人なミニスは何やら僕の発言にドン引きしてる。
でも確かに消耗品は言い過ぎたな。元々死体だったのを再利用してるわけだから、リサイクル品と呼んだ方が良かったかもしれないね。ん? リユースだったかな? まあいいや。
「ご主人様。ご命令通り、ルスリアの街の場所を確認して参りました」
駆けてきた魔獣族の二人は僕の前に跪いて、正に忠実って感じの報告をしてくる。
まあこれは死体の内に記憶と思想を弄った結果なんだけどね。面倒だから最初は必要ない記憶とか全消しして作ったんだけど、そうしたらどうにも受け答えさえまともにできなくなっちゃって。やっぱ記憶はできる限り手を加えない方が良いっぽいよ?
「ご苦労様。ところで何か人数足りなくない? 確か四人送ったはずなんだけど?」
ちょっとした目的があって、僕は創った兵士たちを次の街に向かわせてた。でもそのままだと時間がかかりすぎるから、身体能力強化と体力回復マシマシで。あと道中で魔物に襲われたりして死んじゃうと目的を果たせないから、消失をかけた上で四人ほど送り込んだんだ。でも今僕の目の前にいるのは二人だけ。残りの二人はどこ行ったんだろうね?
「残りの二人は突如として動かなくなり、反応も返さなくなったので置いてきました」
「置いてきた……死んではいない、ってこと?」
「はい。生命活動自体は停止していませんでした」
「なるほど……」
肉体自体は死んでないのに動かなくなったってことは、魂の方に問題があったのかな? 確かに四人の中でここにいない二人には、本人の魂じゃなくて別の人の魂をぶっこんでみたし。別人の魂でも身体が動くかを実験してみたんだけど、どうやら拒絶反応的なものがあるみたいだね。やっぱりできるだけ本人の魂を使った方が良いみたい。
とりあえず残り二人の回収はしなくて良いかな。探しに行くのも面倒だし。
「まあ分かったよ。ご苦労様。じゃあもう休んで良いよ――心停止」
まあその辺の検証とかは後だ。僕は二人を労った後、優しく心臓を止めてあげた。声も出せずにその場に崩れ落ちた二人から、適当に創り出した空き瓶に魂を回収しておく。
僕としてはむしろ良い事をしてる気分なのに、ミニスは完全にドン引きしてたよ。何で?
「え……何で休んで良いとか言いながら殺してんの……?」
「え。だって空気も光も無い異空間にしまうんだし、それならここで殺してあげた方がよくない?」
空間収納の中は空気無し、光無しの宇宙空間みたいな状態だ。そんな所に命ある生き物を放り込むなんて可哀そうじゃないか。だから苦しまないよう殺してあげたのに、一体何が不満なんだろうね?
いや、待てよ? そういえば空間収納開いても空気が吸い込まれていったりはしないんだよな。じゃあ完全な真空ではないのかな? まあ暗闇が広がってるのは確かだからやっぱり殺すけど。
「いや、だからってそれは……」
「何ならお前も異空間入ってみる? 光も音も空気も無い空間でどのくらいの間正気を保てるのかとか、僕はちょっと気になるんだよなぁ?」
「……っ!!」
「ご主人様、あんまりミニスちゃんを苛めちゃダメ!」
そんな提案をしてみると、ミニスはウサミミの毛を逆立てながらリアの後ろに隠れた。リアは両手を広げて庇うように遮って来るし。ロリ同士は仲が良いですねぇ?
「あはは。冗談だよ、冗談。真の仲間にそんな酷いことをするわけないじゃないか」
「嘘だ。絶対目がマジだった……」
「さて、と。しまっちゃうまえに――記憶複写」
死体の内の一つの頭に手を触れて、記憶を自分に複写する魔法を使う。その記憶はもちろん、次の街の場所と光景。記憶が流れ込んできて、ほんの僅かな頭痛と共に僕の脳裏に焼き付く。うんうん、まるで自分が見て来たみたいにくっきり思い描けるぞ。
「……よし、バッチリだ。これで次の街に転移できるぞ」
「あ、そっか。ご主人様は行った事ある場所にしか転移できないから、その人たちを代わりに行かせたんだね」
「そういうこと。今はしっかり旅してる光景を誰かに見せる必要も無いし、カットできる部分はカットしてその分ゆっくり過ごして行こうと思ってね」
僕の転移魔法は行った事ある場所とか、見た事ある場所とかにしか行けないようになっちゃったからね。行ったこと無い場所に行くためには、行ったことのある人から記憶を貰うのが一番手っ取り早いんだよ。空を飛んで行くとか他にも手はあるけど、さすがにそれは面倒だし。
「よーし、それじゃあ次の街の近くに行くぞー。はい、皆手を繋いでー。しっかり手を繋がないと転移の時に身体のどっか千切れるからねー」
「はーい!」
「おい、ミニス。あたしと手を繋ごうぜ?」
「魂胆見え見えなんだけど? やるならあんたも道連れにしてやるから」
何かちょっとギスギスしてる感じの声が聞こえたけど、気にしない気にしない。ただの冗談で本当に身体のどっかが千切れたりはしないし。
さあ、ルスリアの街では何が僕を待ち受けてるのかなぁ? 少なくともド田舎よりは娯楽もありそうだし、楽しみだね!
「それじゃあ次の街へ――転移!」
というわけで、僕は期待に胸を躍らせながら転移の魔法を行使した。
そして何故かキラとミニスが転移に置いてけぼりを食らったから、すぐに戻って二人を回収しに行ったよ。戻った時は何故か二人は殴りあいをしてるし……仲が良いねぇ、君ら……。
⋇もちろんミニスがほぼ一方的にボコられてました