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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第5章:いのちの値段
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邂逅



 第5章、これにて終了です。田舎村でのスローライフのはずだったのに、一体どうしてこうなった……。

  次回は一つ閑話を挟んで6章……ですが、もちろんまだ6章は完成していません。とりあえずまたしばらく更新停止してじっくり書きます。何ヵ月かは、次回の閑話のあとがきまでちょっと考えます……。





「おや、ここは……」


 ふと気が付くと、僕は皆さんご存じ真っ白な世界にいた。

 確か直前の記憶は、普通にベッドに入ってリアを抱き枕にして寝ようとしたとこまでかな。女神様の優しさのおかげでミニスによる村人皆殺し事件が起きなくて済んだし、それなら無駄に夜更かしする理由も無いからね。僕もミニスもそれぞれのベッドに戻って普通に寝たよ。ミニスは今頃レキを抱きしめて眠ってるんじゃない?

 しかしそんなことはどうでもいい。重要なのは今僕がこの場にいるという事実。そして女神様はミニスの支払う代償を肩代わりして、僕に身体を触らせてくれることになっている、ということ。しかもどこをどのように触るのか、何もかも僕の好きに決めて良いんだよ? 極論僕の息子が女神様の子供部屋の入り口をノックしちゃっても良いんじゃないかな? グヘヘヘ……。


「さあ、女神様! 支払いのお時間だ!」


 そんなわけで、僕は荒ぶるテンションのまま背後を振り返った。だってもしかしたら展開前倒しで大人の階段上れるかもしれないんだよ? そりゃテンションも上がるってもんだよ。やっぱ初めては正常位かな?


「――やれやれ、相変わらず色欲しか頭に無い猿じゃのう。じゃが、約束は約束。わらわの身体、お主の好きに触るがよい」

「……待って。あんた誰?」


 だからこそ、返ってきた言葉と目に映る女神様の姿の違和感に、テンションは急激に冷めて行った。

 うん、見た目は僕の女神様だったよ? ちょっと癖っ毛な長い金髪も、深い青の瞳も、荘厳かつ豪奢な白い法衣も、僕の知ってる女神様そのもの。

 でも返ってきた言葉にはびっくりするくらい恥じらいとかそういう感情が無かった。感情表現が豊かなことに定評のある女神様なのにだよ? 表情はちょっと恥じらってるけど、正直仮面を張り付けてるようにしか見えない。

 あと放たれる圧力がヤバすぎる。闇を垂れ流してるリアが可愛く思えるくらい、コイツはヤバいって僕のイカれた生存本能も警鐘を鳴らしてるよ。マジで何なのコイツ。どう見ても邪神とか悪神の類じゃん。こんなおぞましい化け物が僕の女神様なわけがない。


「誰、とはおかしなことを。お主が偏愛し執着し劣情している女神様に決まっておるじゃろう?」

「僕の女神様はそんなこと言わないし、頬も染めずにそんなエッチなこと言わない。何より僕の女神様はあんたみたいな邪悪極まる気配を垂れ流してたりしない」

「……ククッ、ハハハハハハハ!」


 僕が指摘すると、女神様の愛らしい顔が邪悪そのものの笑いに歪んだ。

 うわぁ、これもう闇落ちとかそういうレベルを超えてるよ。大好きな女神様の顔がこんな風に歪むとか……ちょっと興奮する。


「いやはや、まさか一瞬で見抜かれるとはな。これでも演技力には自信があったんじゃがのう?」

「その口振りからすると、やっぱり女神様じゃないよね。何者? もしかして女神様の裏人格とか?」

「いやいや、アレに裏表などありはせんよ。わらわはあくまでもアレの姿を模してこの場にいるだけの、アレとは異なる創生の女神の一人じゃ。お主と接触したという情報が伝わるとよろしくない故、名前は明かせんがな。口調も似せておるのは、その方が面白いからじゃな」

「あっ、そういう……」


 どうやら僕の女神様のご同輩だったらしい。つまりやっぱり邪神とか悪神の類じゃないか。

 というか今僕が一番気になってるのは、法衣の下がどうなってるかなんだよなぁ。僕の女神様を模したということは、法衣の下のパンツも模したんだろうか? まあそもそも僕の女神様がどんなパンツ履いてるかは未だに分かんないんだけどさ。

 ただ最近ふと気付いたんだよね。女神様の姿は自分を信仰する者の想像で決まるわけで、今のところ僕しか信仰してる人がいないわけだから、女神様が履いてるパンツも僕の想像次第なのでは……?


「えっと……それでは、敬語を使った方がよろしいですか?」

「自然体で構わん。わらわは素のお主が大好きじゃからな」

「え、好き……もしかして、僕に惚れてるの?」

「惚れている、と言っても差し支えは無いのであろうな。わらわはお主が非人道的な行為をするのが大好きじゃ。年端も行かぬ子供を痛めつける光景が大好きじゃ。惨たらしい真似をして他者の心を壊す光景が大好きなのじゃ」

「あっ……」


 初対面なのに大好きとか言われたからちょっと照れたんだけど、続いた言葉で照れは一気に冷めたね。仮にも神様なのに性癖がヤバくない? あと僕の女神様の顔で邪悪な微笑みを浮かべないで欲しいなぁ。興奮しちゃうじゃないか。


「ククッ、わらわは全部見ておったぞ? お主があの世界に降り立ってからどれほどの悪逆非道を重ねたのか。雌伏の時ですらアレなのだ。今後の事を考えると胸が躍るのう?」

「えっ、踊る胸無くない?」

「おっと、確かに今のわらわには存在しないようじゃな。ハハハ」


 そう言って愉快そうに笑う邪神様。さり気に今の発言で本当の姿は貧乳ではない、ってことが分かったね。いや、それが分かっても何にもならないし、真の姿を暴く理由も無いんだけどさ。下手すると消されそうだし。


「……ところで非常に紛らわしいからお名前教えて欲しいんだけど、たぶん教えてくれないよね? 僕は何て呼べばいいの?」

「ふむ。確かに呼び名が無ければ紛らわしいか。よし、お主が好きに考えるがよい」

「うーん、名前かぁ……」


 まさかの丸投げで、僕は頭を悩ませる。

 僕の女神様の名前はカントナータだったかな? その姿を模してるんだから、名付けるなら『シャドーカントナータ』とか『イミテーションカントナータ』とかになるんだけど、それじゃ明らかに長すぎるよね。かといって縮めてもしっくりくる名前にならないんだよなぁ。うーん……。


「……よし。じゃあ、ミーシャってのはどうかな?」


 最終的に思いついたのは、『イミテーション』と『シャドー』を繋げて縮めて出した名前。なかなか可愛い名前に仕上がったと思わない?

 え? 『カントナータ』部分はどこに行ったって? 知らね。何か気付いたら無くなってた。まあどうせ『カントナータ』なのは見た目だけだし、使わなくても良いんじゃない?


「ふむ、悪くない。ならば今後はわらわをそう呼ぶがよいぞ」


 邪神様的にも悪くないネーミングだったみたいで、問題なく頷いてくれた。というわけで今からこの人は女邪神ミーシャ様になりました。神を称えよ。崇め平伏せ、奉れ。


「……で、愉快犯的な存在だってのは分かったけど、ミーシャは結局何の用があって僕に会いに来たの? ていうか会いに来て女神様にバレないわけ?」

「普段ならバレたじゃろうが、今は別じゃ。アレはしばらくお主に干渉できぬし、夢の中に現れることも無い。せっかく回ってきたまたとない機会じゃから、少し挨拶をして繋がりを作っておこうと思ってな?」

「え? 何で女神様はしばらく夢に出て来ないの? ちゃんと代償払って欲しいのに……」


 予想外の情報に、僕はとっても残念な気持ちになる。

 まさか代償を踏み倒す気じゃあるまいな? 僕は信じてるよ、女神様?


「我ら創世の女神は、魔力とはまた別に信力という力を持っておる。これは我らの信者が捧げる信仰心が力に置き換わったもので、信者が多ければ多いほど、敬虔な信者であればあるほど、より強力な信力を我らに提供してくれる。そしてこの力が強ければ強いほど、我らはより直接的に世界に干渉できる。まあお主に分かりやすく言うなら、信力は世界に対する干渉レベルを上げるための経験値というところじゃな」

「なるほど、そんな力が……」


 ここで明らかになる女神様のお力事情。ちなみに『しんりょく』じゃなくて『しんりき』だってさ。とにもかくにも自分に向けられる信仰が無いと、世界に上手く干渉できないってことか。


「でもうちの女神様、信者が……」

「そうじゃな。笑えることに一人もおらんかった。いや、一応今は信者ができたか。ともかくそんな悲惨な状態にも拘わらず無理やりお主に物理的に干渉したせいで、なけなしの信力が底をついたんじゃよ。そのせいでお主の夢に現れることもできない、というわけじゃ。まあ数日もすれば回復するじゃろうがな」

「はえー」


 どうやらミニスを助けたいがために、かなりの無茶をした様子。

 確かに僕の信仰で得られる信力なんて微々たるものだろうしね。僕は女神様が大好きだし、執着してるし、大いに感謝もしてるけど、純粋な信仰心を捧げてるかと言われれば首を横に振るしかないし。


「……じゃがアレの信力が回復すれば、こうして逢瀬を交わすこともできなくなる。それは少々面白くない。というわけで、今後も秘密の逢瀬を重ねられるよう繋がりを作らせてもらうぞ?」

「えっ、物理的に? それとも精神的に?」

「どちらかと言えば精神的にじゃな。物理的に繋がりを作っても構わんが、わらわはどちらかと言えば自分で繋がるより、アレが泣きじゃくり悲鳴を上げながらお主と繋がる光景を見る方がそそる」

「うわ、ミーシャさん性癖ヤバすぎない……?」

「じゃが、お主も興奮するじゃろう?」

「しまぁす!!」


 ニヤリと女神様の顔で笑いながら尋ねてきたミーシャに、もちろん僕は力強く頷いた。そりゃあ女神様をヒィヒィ言わせたいって常日頃から思ってるからね。感情表現豊かな女神様なら、それはもうそそる反応してくれるだろうし。


「ククッ。さすがはわらわが見込んだ男。それでこそ、じゃな?」


 僕の答えに満足してくれたみたいで、ミーシャはケラケラと笑う。

 それにしても、女神様は同輩からこんなイカれた執着向けられてるのかぁ。コイツが特別歪んでるのか、それとも僕の女神様以外は全部こんなのなのか、ちょっと気になるところですね……。


「では、繋がりを作ろうぞ。わらわの前に跪け」

「はーい。こうかな?」

「うむ。そのまま動くでないぞ?」


 目の前に跪いた僕に対して、ミーシャは両手で僕の頬っぺたを包むと、コツンと額同士を合わせてきた。

 うーん。こうして間近で見ると、見た目は女神様そのものなんだけどなぁ。鼻をくすぐる甘い香りも、頬っぺたに触れる滑らかな手の平も、紛うことなく女神様のもの。これで中身は邪神なんだから詐欺だよね。偽物だってことに気が付かなかったらどうなってたんだろ?


「……よし。これでアレに一切悟られず、お主と夢の中で逢瀬を遂げることができるぞ。まあわらわは多忙である故、機会はそうそうないじゃろうがな」

「うーん、僕の女神様に隠れてイケナイことしてる背徳感……これが、浮気……?」


 正直何かをされた感覚は全くなかったけど、無事に繋がりは作られたっぽい。しばらくして頬っぺたと額に触れてた感触が遠ざかって行った。偽物だってことは分かってるけど、できればもうちょっと触ってて欲しかったなぁ……。


「ではそろそろお別れの時間じゃな。お主の旅路に阿鼻叫喚の無間地獄が広がっていることを、心から願っておるぞ?」

「百歩譲っても女神が願って良いものじゃないんだよなぁ……まあできる限り頑張るよ。応援しててね?」

「うむ。心からの応援を贈るぞ。尤も――目が覚めた時には、応援された事実すらも覚えていないじゃろうがな」

「おぐっ……!?」


 別れの挨拶をしてたはずなのに、気が付いたらミーシャの手が僕の側頭部に突き刺さってた。

 ちょっと待って? これかなり深い所まで刺さってるっていうか、普通に指が頭蓋を貫通して脳まで届いてるよ? 何で男の僕がいきなり挿入なんかされちゃってるわけ? 


「わらわの情報がアレに流れると少々面倒じゃ。故、ここでの記憶は全て奪わせてもらうぞ。なに、心配はいらん。またここに来た時は記憶を返してやる」

「な、納得はできるけど、何でわざわざ物理的に――あっ、あっ!」

「ククッ。ここか? ここが良いのか?」


 そしてあろうことか突っ込まれた指先が脳をかき回すように蠢く。脳みそをコネコネされる未曽有の感覚に、思わず変な喘ぎ声を零しちゃったよ。ミーシャは女神様の顔で滅茶苦茶サディスティックな笑みを浮かべてるし。

 あっ、ていうか、そこはヤバ、ちょ、ま、あっあっ――






「――アアアァアアァァァァァッ!!」


 ぐっすりと寝ていた僕は、かなり夢見が悪くて叫びながら跳ね起きた。たっぷり寝汗もかいてたみたいで、シャツやパンツが身体に張り付いてめっちゃ気持ち悪いね。一応寝る時は部屋の中の温度を最適な感じに魔法で保ってるんだけど、生理的な理由でかく汗はどうしようもないか。


「はぁ……はぁ……何か、猛烈に嫌な夢見たな。内容はよく覚えてないけど……」


 普段どんな夢でも内容はぼんやりと覚えてるのに、今回は欠片も記憶になかった。普通悪夢なら嫌っていうほど記憶に残りそうなものだけどねぇ……。

 あ、ちなみに僕は悪夢を見たのはこれが初めてかな。毎日元気いっぱいで幸せで人気者で品行方正な僕が、恐ろしい悪夢なんて見るはずないもん。それを考えると最近はちょっと疲れが溜まってたのかもしれないね。やっぱりこのド田舎で羽を休めた方が良いかもしれない。


「えへへ……サキュバス殺すの、楽しいなぁ……」


 隣を見れば、幸せそうな寝顔で物騒な寝言を零すリアの姿。結構な叫び声を上げたはずなのに、ピクリとも反応してないよ。

 あ、もしかして僕が真夜中にかけた魔法のせいかな? そういえば窓から差し込む光もまだ薄暗い感じだし、日の出前なのかもしれないね。それなら睡眠(スリープ)の魔法が効いてるから起きないのも納得だ。

 しかしコイツ、僕が悪夢を見たってのに楽しそうな夢見やがって……。


「……悪夢(ナイトメア)


 ムカついたから悪夢を見るようになる魔法をかけておいた。内容とかそういうのは一切決めてないから、この辺は本人が恐れてるものとかそういうのから勝手に決まるんじゃない? 純粋なやつあたりだからどうでもいいけど。

 ただ魔法をかけた数秒後くらいから、リアの幸せそうな寝顔が若干引き攣ってきたね。魔法は成功かな?


「今更二度寝する気分でも無いし、シャワーでも浴びて汗を流してこようっと」

「うあぁ……やめてよぉ……そんな気持ち悪い虫、食べさせようとしないでぇ……」


 僕が着替えを用意する傍らで、リアが泣きそうな寝顔でとんでもない寝言を零す。

 そういやコイツも僕と同じで虫が大嫌いなんだったかな。もしかすると僕が見た悪夢も虫に関係するものなのかも。昨夜は小蜘蛛に貪られた幼女の死体とか、クソほどデカい蜘蛛とか色々見たわけだし。

 そしてそんなトラウマ確定な悪夢を見れば、無意識に魔法を使ってその記憶を抹消してもおかしくない。僕が覚えてないのはたぶんそういうことなんだろうなぁ。


「やだ……やだ……! もう、食べたくないよぉ……!」


 納得した僕が着替えを抱えて部屋から出ようとすると、かなりガチめな泣き言が聞こえてきた。

 もしかしてアイツ、苛めで虫でも食べさせられた経験があるのでは……?


 



⋇残酷描写あり

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