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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第5章:いのちの値段
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レキを探して

⋇クルス視点に戻る


「……帰ってこないねぇ?」


 すっかり冷めちゃったご馳走を前に、僕は皆――主にミニスにそう言った。

 あれから僕らは家に戻って、ミニスの両親にも何があったかを話しておいた。大好きなお姉ちゃんがまたいなくなる現実に耐えられずに、泣きながら走り去って行った、ってね。もちろん大好きなお姉ちゃんに対してかけた酷い言葉もしっかり教えてあげたよ。

 お養父さんの方は滅茶苦茶心配してて今にも探しに行きそうな感じだったけど、お養母さんの方は大体僕らと同じ反応だった。しばらく一人にしてあげた方が良いから、自分で帰って来るまで待った方が良いって言って、お養父さんを宥めてたよ。

 で、帰って来るまで待ってるところなんだが……さすがに遅すぎない? せっかく美味しそうなお肉やら何やらが食欲を誘う香りを漂わせてたのに、湯気もすっかり消えちゃったよ。キラでさえ手を出さずに待ってるんだから、僕だけ勝手に食べるのも何か負けた気がするし……。


「やっぱり、もう私の顔なんて見たくないってことかな……?」

「馬鹿言わないの。あの子があなたの事を嫌いになるなんてこと、あるわけないでしょう? きっと泣き疲れてそのままどこかで寝ちゃってるのよ」

「だと、良いけど……」


 大っ嫌いだの嘘つきだの言われたミニスは、見るからにしょんぼりしててお養母さんに慰められてた。立派なウサミミも萎びたシイタケみたいになってて元気が無いし、いつも元気に僕を睨んでくれた瞳も潤んでて見る影もないよ。

 いつもみたいに毒舌を吐きながら、僕を親の仇でも見る感じで睨んで欲しいなぁ?


「何にせよこんな時間まで帰ってこないとなると、一人にしておくわけにはいかないな。よし、探しに行ってくるよ。ミリーたちは留守を頼む」

「ええ。お願いね、あなた?」


 さすがに今度はお養母さんもお養父さんを引き留めようとはせず、むしろ心配そうな顔で送り出そうとしてた。まあ最初に引き留めた時もちょっとそわそわしてて、心配なのが隠しきれてなかったけどさ。


「僕も行くよ。人手は多い方が良いでしょ?」

「えっ」


 探索に僕も立候補すると、ミニスが目を丸くして僕を見た。うん、心底意外そうな表情してんなぁ。行方不明者の捜索に僕が参加するの、そんなに意外?


「そうか、助かる。じゃあ村の北側を頼むぞ。俺は南側を探してみる。さすがに村からは出てないだろうから、すぐに見つかるとは思うが……」

「了解。でも僕には土地勘が無いから、娘さんをください。お養父さん」

「娘はやらん! というか君、絶対呼び方に含みがあるだろう!?」

「まさかそんな。ハハハ」


 疑いの目を向けてくるお養父さんに笑いながら否定したけど、もちろん含みはバリバリにある。あんたらの娘はもう僕のモノなんだよ、っていう悪い含みがね。

 お養父さんお養母さん呼びなのは、何か冗談半分で心の中で呼んでたら染み付いちゃった感じかな。でも僕がいる限り、ミニスは僕以外と結婚なんてできないんだからこれであってるよね。


「じゃあキラとリアは留守番よろしくね。お養母さんの話し相手になってあげてよ」

「分かった! いってらっしゃい、おにーちゃん!」

「あいよ。さっさと連れ帰って来いよな」

「よし、行くぞー」

「あ、う、うん……」


 可愛く手を振るリアと、適当に手を振るキラに見送られながら家を出る。ミニスが困惑気味なのはやっぱり僕が捜索に協力的だからだね。何で僕が良い事をするとこんな反応するんですかね? 僕はこの世界を平和にするっていう、世界一尊い善行を働くために精力的に活動してるんだぞ?

 なんてことを考えつつ家の外に出ると、外はすっかり真っ暗だった。こんなクソ田舎に街灯とか便利な物があるわけないから、周りの住居の窓から漏れる光だけが人工的な灯りだよ。今は多少月が出てるから明るめだけど、月が雲に隠れたらもの凄く真っ暗になるな、これ。


「よし。じゃあ君とミニスは北側を頼むぞ」

「分かった。ところで北ってどっち? こっち?」

「……そっちは東だぞ」


 適当な方向を指差して尋ねたら、お養父さんはため息と共に答えた。

 仕方ないじゃん。現代っ子の僕がいちいち東西南北を把握してるわけが無いでしょうが。クソ田舎に住んでるわけでもあるまいし。


「ごめん、方角って良く分からなくて。太陽が西から登って東に沈むってことは覚えてるんだけど……」

「どうやら君の住んでいる世界は、俺たちの世界とは星の巡りからして違うようだな……」


 おっと、ちょっと身構えそうになっちゃったよ。言外に僕が異世界の人間だって言ってるように聞こえたからね。でも良く考えてみればただの痛烈な皮肉だったから問題なし。口封じに殺すっていう選択肢が一瞬浮かんだだけだからセーフ。


「北はこっち。とっとと行くわよ、馬鹿野郎」

「はいはい、そっちね。それじゃあ行ってくるよ、お養父さん。娘たちは僕に任せて?」

「もういちいち突っ込むのも疲れてきたぞ……」


 ミニスに服の袖を引っ張られて、たぶん北の方へと歩き出す。というか何、そのばっちぃものを摘まむみたいな掴み方。女の子なら可愛らしく手を握って欲しいもんだよ。

 ちなみにお養父さんは僕の意味深な発言にまたため息を零した後、何か重い足取りで歩いて行った。家に向かって右側の方向にね。なるほど、そっちが南でこっちが北か。またひとつ賢くなったぞ!


 




「……ねぇ、何であんたがレキを探しに行くなんて言ったの? あんたそういう人間じゃないでしょ?」


 少し家から距離を取った後、ミニスは怪訝な表情でそんな疑問を投げかけてきた。

 まあ当然の疑問だよね。僕は一銭の得にもならないことなんて馬鹿らしくてする気が起きないし。世界平和のために頑張ってるのも、女神様を僕のペット――じゃない、僕の女にするためだし。


「失敬な。僕にだってちゃんとあったかくて赤い血が通ってるんだぞ。何なら見せてやろうか?」

「いい。キモイ」

 

 人間だっていう証拠を見せてあげようとしたらバッサリ拒否された。赤い血がキモイってどういうことだよ。青い血でも流れてたら良いのか? あぁん? 


「冗談はさておき、レキが帰ってこないことにはご馳走食べらないみたいだからね。ちゃっちゃと連れ帰って晩ごはんにしようよ」

「あ、そういう……」


 僕が本音をぶちまけると、あっさり納得した様子を見せる。

 ぶっちゃけレキのことは可愛いとは思うし、たっぷり苛めて泣かせたいとは思うけど、守ってあげたいとかは欠片も思ってないしね。そもそも一見純真で無垢に見えても、やっぱり聖人族には敵意を持ってたし。

 だからミニスの妹って点を考えても、そこらの有象無象に毛が生えた程度にしか価値は感じてないよ。たぶん毛は生えてないだろうけどね。あ、どこの毛とは言いません。


「さてさて、どこにいるのかな――探索(サーチ)


 大声で呼びかけながら村の中を歩くなんて近所迷惑が過ぎるから、ここはやっぱり魔法で探すことにした。範囲は村全域。一瞬後には僕の頭の中に、村を上空から俯瞰した景色と対象を表す光点が浮かんで――


「……おや?」

「どうしたのよ? いた?」


 ――くるはずなのに、浮かんでこなかった。

 いや、村の景色自体は見えたよ? でもレキを表す光点が無い。魔法が不発に終わったわけじゃないみたいだし、つまりこれは……。


「村の中にはいないっぽいよ? どこにも反応無いし」


 レキは村の中にはいない、ってことになるね。

 大丈夫なのかな、これ? 身体能力の高い獣人とはいえレキは幼女だし、村の外には魔物だって出るし。帰ってこないのって、もしかして魔物に襲われてもうこと切れてるとかそういう……?


「ちょっ!? う、嘘でしょ!? それ本当なの!?」

「うん。じゃあ今度はもう少し範囲を広げて――探索(サーチ)


 顔を青くしたミニスに詰め寄られて、もう一度探索(サーチ)を使う。今度は村から山のふもと辺りまでが入るくらいの円周状の範囲で――またいない。それじゃ今度は山全体も含めて――おっと?


「発見。でもこれ、山の中だぞ?」

「なっ……!?」


 そう、レキの反応は山の中にあった。しかも結構踏み込んでる感じ。大体三合目から四合目くらいの地点かな? 

 山は危ないから入っちゃいけないって言われてるはずなのに、一人で山に入るなんて悪い子だなぁ? いや、魔物に巣まで引きずられて行った可能性もあるのかな? 幼女を美味しく食べるために家に連れ込むとか、とんでもねぇ魔物だな。見習いたいぜ。


「……っ!」

「うわ、ちょっ、速っ! 待って待って、僕を置いてかないで!」


 顔面蒼白で絶句したのも束の間、次の瞬間ミニスはとんでもない速度で走り出してた。もう音より速いんじゃないのってくらい、凄まじいスピードでね。

 当然身体能力を強化して追いかけたけど、三倍程度じゃ差は埋まらなかったよ。仕方なく十倍くらいにしてギリギリ追いついた感じ。兎の足ってスゲェなぁ。そういや確かにお風呂で触ったミニスの太ももは、とっても美味しそうな感じに肉付き良かったしね。


「気持ちは分からないでもないけどさ、お養父さんに知らせなくて良いわけ!? 山は危ないから入るなって言われなかった!?」

「今はそんな時間も惜しい! 魔物が蔓延る山の中にレキがいるっていうなら、一分一秒を争うわ! 一刻も早くレキのところに行かないと!」

「二次遭難って言葉知ってるー!?」


 などとやりとりを交わしながら、野山を目掛けて一直線に駆けてく。僕も大声で叫んでるけどこれは別に怒ってるとかそういうわけじゃなくて、単純に声を張り上げないと聞こえないからだよ。お互いにもの凄い速さで走ってるから、風切り音が凄くて小さな音なんて聞こえないしね。

 何にせよ、僕がいる限りは二次遭難なんてことにはならないか。というかコイツ、案外それを見越して直で向かってるのでは……?

 


  


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