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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第5章:いのちの値段

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山には危険がいっぱい

⋇残酷描写あり

⋇レキ視点







「ぐすっ……おねーちゃんの、嘘つき……」


 泣きながら走って走って、どれくらい経った頃かな? 気が付いたら、レキは村の外れにあるおっきな樹の陰で泣きじゃくってた。こんな風にわんわん泣いちゃうのは恥ずかしいけど、涙を止められなかったんだもん。

 だって、せっかく大好きなおねーちゃんが帰ってきてくれたのに、またいなくなっちゃうんだよ? これからはずっと一緒だって、言ってくれたのに……。


「おねーちゃんなんて、だいっ嫌い……」


 そんな酷いおねーちゃんなんか嫌い。そう口にしてみたけど……そんなので嫌いになれるわけなんてないよね。勢いで大嫌いなんて言っちゃったけど、レキは今もおねーちゃんのことが大好きだもん。

 おねーちゃんのことが大好きだから、またいなくなっちゃうのが寂しい。辛くて、苦しくて、胸が痛くて……。


「……おねーちゃん、凄く辛そうな顔してた……」


 でもそれは、おねーちゃんも同じだった。おねーちゃんも凄く辛そうな顔して、それを我慢しながらレキに話しかけてた。

 きっと、おねーちゃんも本当はどこにも行きたくないんだと思う。だけど、どうしても行かないといけないから、我慢してレキに話したんだと思う。離れたくない気持ちは、きっとレキもおねーちゃんも同じ。


「それなのに、レキ……酷い事、言っちゃった……」


 そんなおねーちゃんに、レキはいっぱい酷いことを言っちゃった。嘘つきって言ったり、だいっ嫌いって言ったり。あの時のおねーちゃんの凄く悲しそうな顔を思い出すと、それだけでさっきよりも胸が痛くて苦しくなってくる。

 おねーちゃんだって本当はレキと離れたくないのに。レキと同じくらい――ううん、きっとレキよりも悲しんでたのに、そんなおねーちゃんにレキは酷いことを言っちゃった……。


「ど、どうしよう……謝りたいけど、おねーちゃん……許してくれるかな……?」


 本当はどこにも行きたくないのに、行かなくちゃいけないおねーちゃんに嘘つきって言っちゃった。だいっ嫌いって言っちゃった。きっと今のおねーちゃんは、レキよりも悲しんで寂しがってる。

 そんな風にしちゃったのはレキなんだから、謝らなきゃいけないんだけど……おねーちゃんは許してくれるのかな? どんな風にごめんなさいってすれば、許してくれるのかな?


「……そうだ! イチゴ! おねーちゃんの大好きな野イチゴを採ってきてあげよう!」


 しばらく一生懸命考えて、レキはとっても良い考えを思いついた。

 村の近くの山で採れる黄色い野イチゴは、おねーちゃんの大好物。甘くて美味しいからレキも大好きなんだけど、最近は危ないから山に入っちゃいけないって言われてて、全然食べれてないんだ。おねーちゃんもすごく長い間いなくなってたから、きっと食べたくてしょうがないんじゃないかな? 

 だからあれを採ってきてあげたら、きっとおねーちゃんは喜んでくれるよね。それで謝ったら、酷いこと言っちゃったのも許してくれるかも。うん、きっとそう!


「よーし! そうと決まったら、すぐに山に行かなきゃ!」


 残ってた涙を手で擦って拭いたら、レキはすぐに山に向けて走った。おねーちゃんは四日後にはまたいなくなっちゃうから、一秒でも早く仲直りして、幸せで楽しいまま一緒にいたいもん! ゆっくりしてなんていられないよね!






 レキたちウサギの獣人は、とっても足が速いの。どれくらいかっていうと、村で一番速いの。レキだってウサギ獣人だから、村の大人の人よりも走るの速いんだよ。


「――きゃああぁぁぁぁぁっ!」

『グルアアァァァァ!!』


 だから魔物に見つかっても、少し走ればすぐに逃げられるの。怖いからどうしても叫んじゃうし、ちょっと涙が出ちゃうけどね? だって可愛いワンちゃんみたいな魔物が凄く怖い顔をして、口からよだれを零しながらレキを食べようと追ってくるんだもん。しょうがないよ。


「はあっ……山って、本当に危ないんだぁ……」


 魔物のワンちゃんから走って逃げたレキは、周りをちらちら気にしながら山道を歩いてく。

 もうすっかり夜になっちゃって周りは真っ暗だけど、ウサギ獣人の私は暗くても目が見えるから平気だよ。ただ道がボコボコしてるのに上り坂だったり、木の根っこが出てたりするからちょっと歩きにくいかな?

 もう何度も魔物に襲われかけちゃったし、一人で山に来るのは止めた方が良かったかな? でももう来ちゃったんだし、今から帰るよりもちゃんとイチゴを採ってから帰った方がいいよね。どっちにしてもこんな時間になってもお家に帰ってないんだから、帰ったらパパとママに怒られちゃうのは変わらないし……。


「イチゴ、野イチゴ、おいしいイチゴ……あった!」


 周りをきょろきょろ見回しながら歩いてたら、ついに野イチゴを見つけたよ! 棘の生えてる枝に黄色っぽい感じのイチゴが生ってるから間違いないよ!


「えいっ!」


 少し高い所にあったけど、これくらいなら大丈夫。レキはぴょんってジャンプして、枝の棘の無いところを掴んだ。レキがぶらさがるみたいになったらみょーんって枝が曲がって、立ったままでもイチゴが採れるようになったよ。


「えへへ。おねーちゃん、喜んでくれるかな?」


 そのまま枝からイチゴをぷつぷつ採って、ポケットの中にぽいぽい入れる。いっぱいあるから、きっとおねーちゃんも喜んでくれるだろうなぁ。そしたら酷い事を言っちゃったのを謝って、仲直りして、またおねーちゃんがいなくなっちゃう日までいっぱい一緒に遊ぶんだ。

 最初におねーちゃんが変な人たちに連れて行かれちゃった時は、突然だったからお別れも全然できなかった。だからいっぱい泣いちゃったし、何十日も元気が出なくてお外に行く気分にもなれなかった。

 でも、今度はちゃんとお別れの日まで時間があるもんね! それも四日もあるんだよ! だからそれまで、お別れの日に泣いちゃったりしないように、いっぱいいーっぱい楽しく過ごさなきゃ!


「よーし。いっぱいイチゴも採れたし、早く帰ろ――きゃうっ!?」


 そんな風に色々考えて、周りを良く見てなかったせいかな? 来た道を戻ろうとしたレキは、何かにつまづいて転んじゃった。膝がずきって痛んで、せっかく採ったイチゴがポケットからポロポロ落ちちゃったよ……。


「……あ、あれ? あれれ? 何で? 足が、動かない……?」


 すぐに立とうとしたのに、どうしてか足が動かなかった。

 ううん、足はちゃんと動くみたい。でも靴がその場にくっついたみたいになってて、上手く立ち上がれないの。何だろ、これ? 木の根っこの間に靴が挟まっちゃったのかな?


「……ひも?」


 不思議に思って転んだまま足元を見たレキは、靴に白い紐みたいなのがくっついてるのが見えた。良く見るとその白い紐は周りにいっぱいあって、その内の一本を踏みつけちゃったみたい。すごくくっつきやすいみたいで、いっぱい足を動かしても全然靴から剥がれてくれないや。


「――って、あ、あれ!? 身体も動かないよ!?」


 気が付いたら、レキの身体にも白い紐が何本もくっついてた。くっつきやすいだけじゃなくてもの凄く丈夫で、レキは紐で縛られたみたいに身体を起こすこともできなかった。

 あれ? これってもしかして、すごくピンチなんじゃないかな? というか、この白い紐……もしかして、蜘蛛の糸? こんなに長くて太い糸を作る蜘蛛って、もしかしてさっきのワンちゃんみたいな魔物なんじゃ……?


『キシキシキシ……』

「ひっ!?」


 く、蜘蛛っ! もの凄くでっかい蜘蛛! さっきの魔物のワンちゃんよりおっきな蜘蛛が、草むらから出てきたよ!

 幾つもある目がレキを見て笑ってる気がするのは、気のせいなのかな? え、待って? もしかしてレキ、蜘蛛に食べられちゃうの? 嘘だよね? そんなこと、絶対無いよね?


「や、やめて! 来ないで! 食べないで――きゃああぁぁっ!?」


 何本もある足を動かして近づいてきたおっきな蜘蛛は、食べないでって言ったのにレキの足をがぶりと噛んだ。さっき膝を擦りむいた時よりも痛くて叫んじゃったけど、痛いのよりもこのまま食べられて死んじゃう事の方が嫌だった。だって、死んじゃったらもうおねーちゃんたちに会えないもん。そんなの、絶対に嫌!

 だからレキは、蜘蛛の糸にくっついた身体を頑張って動かして逃げようとした。今までこんなに力を込めたことが無いってくらい、手や足に力を込めて全力で逃げようとしたの。


「――あ、あれ……ど……し、て……?」


 でも、どうしてかな? 頭ではちゃんと力を込めてるはずなのに、身体から力が抜けてくの。何だか口も動かなくなってきて、手も足も全然動かなくなってきた。頑張れば指くらいならほんの少し動かせるだけで、気が付いたらもう全然身体が動かくなっちゃった。

 どうして? このままだとレキ、蜘蛛に食べられて死んじゃうのに……どうして動いてくれないの……? 


『ギチチチ……』

「っ……!」


 全然動かない身体を何とか動かそうと頑張ってると、おっきな蜘蛛がレキの身体を糸でグルグル巻きにしてく。その途中に見えた蜘蛛の顔は、表情なんて分からないはずなのに舌なめずりしてるように見えた。

 そしてレキをぎゅうぎゅうに縛った蜘蛛は、レキの身体を引きずってどこかに歩いてく。レキのお家に送り届けてくれる、なんてことは絶対ないよね……?


(きっと自分のお家にお持ち帰りして、そこでレキを晩ごはんにするつもりなんだ! 嫌だ! お願い、動いてよぉ!)


 だからレキは必死になって、頑張って逃げようとした。こんなところで蜘蛛の晩ごはんになんてなりたくないから。またおねーちゃんたちと会いたいから。

 でもやっぱり身体は全然動かなくて、動いたとしても丈夫な蜘蛛の糸にグルグル巻きにされてて、自分の力だけで逃げることはできないんだって、嫌でも分かっちゃった……でも、レキは誰にも言わずにここに来たから、レキがこうなってることなんて誰も知らない。だから、誰も助けになんて来てくれない……山は危ないから入っちゃいけないって言われてたのに、一人で入っちゃったレキがいけないんだ……。

 しばらくそのまま引きずられて、レキはほら穴みたいなところに連れてかれた。

 きっとここが蜘蛛のお家で、レキはこれから晩ごはんにされちゃうんだと思う。蜘蛛に食べられて、こんなところで一人ぼっちで死んじゃうなんて絶対に嫌。

 でも、もうレキにできることなんて何もなかった。だって身体は動かないし、もう全然声も出せないし、レキが山に来たことは誰も知らないから助けも来ない……だから、レキはここで死んじゃうんだろうなぁ……。


『ギチチチ!』

「っ……!」


 ほら穴の奥に投げ出されたレキは、そこで凄く怖いものを見た。ちゃんと声が出せれば、蜘蛛も逃げ出すくらいのおっきな泣き声を上げてたと思う。

 だって、ほら穴の奥には小さな蜘蛛が数えきれないくらいにいっぱいいたから。それに小さいって言っても魔物だから、一匹一匹が手の平に乗りそうなくらいおっきなやつ。そんなたくさんの蜘蛛が、暗い所からいっぱい出てきたんだよ? 泣いちゃっても仕方ないよ。

 さっきまでは後ろのおっきな蜘蛛が私を晩ごはんにするんだと思ってた。でも違ったみたい。レキは、このちっちゃな蜘蛛たちの晩ごはんにされるんだ……。


(せめて最後に……おねーちゃんに、謝りたかったなぁ……)


 それが分かってても、レキに出来る事は何も無かった。

 きっとこれは、悪い子のレキへの罰なんだと思う。ママが、悪いことをすると罰が当たるって言ってたから。レキはおねーちゃんに酷いことを言って傷つけちゃった悪い子だから、蜘蛛たちのご飯にされちゃうんだ……。


(ごめんね、おねーちゃん……)


 死んじゃう事よりも何よりも、おねーちゃんに謝れないままもう会えなくなることがすごく悲しい。だからレキは、せめて心の中でおねーちゃんに謝った。

 ごめんなさい、おねーちゃん。酷い事言っちゃってごめんね? レキ、おねーちゃんのこと、大好きだよ?


『ギチギチギチ!』


 おっきな蜘蛛が変な声で鳴くと、ちっちゃな蜘蛛たちはみんなレキの方に向かってきた。ちっちゃいけど、立派な牙を光らせながら。

 さようなら、おねーちゃん。さようなら、パパ、ママ――


 



⋇説明不要かもですが作者はドSです


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