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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第5章:いのちの値段
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それぞれの思惑




 僕らは五日後――いや、それは昨日の時点だから正確には四日後か。ともかく四日後にはまた旅に出る。それはミニス自身も理解してるし、その両親も理解してる。

 でもレキは何にも分かってない。また旅に出る理由を話してる時はミニスの腕の中で眠ってたから、それも仕方のない事なんだけどさ。

 だからレキは、これからは大好きなお姉ちゃんとずっと一緒にいられると思ってる。もう二度と離れ離れになんてならないって思ってる。この擦れ違いは早い所修正しないと駄目なやつでしょ。


「はあっ……それっぽい機会が無かったってのもあるだろうけど、そういう大事なことは一緒に遊んだりする前に話しておくべきじゃない?」

「う、うるさい! 仕方ないじゃない! 私が帰ってきてあんなに喜んでた所に、また出て行かなくちゃいけないなんて言う事……できるわけないでしょ!?」


 僕が正論を口にすると、涙ながらに激しく反論してくるミニス。ウサミミの毛も逆立てちゃってまぁ……随分と可愛い威嚇だね?


「気持ちは分からないでもないけど、そういうのは早めに言っておいた方が良いよ? 話したら取り乱すのは目に見えてるし、後になってから話してろくに慰めることもできずにさよならなんて嫌でしょ?」

「それは……! 確かに、その通りだけど……」


 凄い剣幕で反論してきたミニスも、僕の返しに途端に大人しくなってく。

 そりゃあお別れの時に喧嘩してる、なんて嫌だろうさ。やっぱり別れはお互い笑顔じゃないとね!


「何なら僕が話してあげようか? それともレキの頭からお前に関する記憶を消すとか」

「やめて! 分かったから! 自分で、話すから……!」


 僕が珍しく親切心を出したのに、泣きながら首を横に振られる。めっちゃ顔を青くして、ぷるぷると震えながらね。何か僕が苛めてるみたいじゃない、これ? 一応助言してあげたんだけどなぁ……。


「まあ僕だって鬼じゃないし、今日いっぱいは待ってあげるよ。その代わり、明日になっても言ってないようなら僕が直接レキに伝えるからね?」

「………………分かった」


 最大限譲歩する姿勢を見せてあげると、ミニスは長い沈黙の後、小さく頷いた。

 今日中に可愛い妹の幸せを自分の手でぶっ壊さないといけないんだから、内心もの凄く怒り狂ってるだろうね。ほら、その証拠に顔を覗き込んで見ると、伏せられたその赤い瞳は僕への殺意と憎悪に燃え狂って――


「――って、あれ? もっとこう、射殺すような目をしてくれないの? 僕は結果的にお前ら二人の仲を引き裂こうとしてるんだけど?」


 ――なかった。確かに悔しそうな色はしてたし、悲しそうに涙を溜めてはいたよ? でも僕への怒りとかそういう感情は何故かほぼほぼ見えなかった。これはさすがに驚きだね。一体どういうことなんだろう?


「……確かに、あんたのやってることはゲスの極みよ。でも、あんたがいなければ私はきっと向こうで死んでたと思う。短い間だけどまた村に戻れて、お父さんとお母さんに会って、レキを抱きしめられたのは……すっごい腹が立つし認めたくないけど、あんたのおかげだから……」


 その上、顔を上げたミニスの表情には確かな感謝の念が浮かんでた。殺意でも憎悪でも憤怒でもなく、感謝だよ?

 え、誰に感謝してるの? 僕? うっそだろお前?


「……もしかして熱ある? 具体的には四十一度くらい」

「あるか! そんなにあったら立ってられないわよ!」


 心配になっておでこに手を当ててみると、バチっと手で振り払われた。触った感じでは熱は無いみたいだね。

 うーん。鋭いツッコミもあったし、意識が混濁してるわけではないのかな?


「だってあれだけ色々酷い事されたのに、僕に感謝の念を抱いてるんだよ? そりゃ熱か正気を疑うよ。あ、アレか? 素敵なお薬でもキメた?」

「キメてない! あーもうっ、やっぱあんたに感謝なんかしてないわ! このイカれポンチ!」


 良かった、いつものミニスが戻ってきた。わがままなクソガキみたいに地団駄踏んだかと思えば、射殺すような目付きで睨んできてるよ。やっぱこうじゃなくちゃね!


「よし! じゃあ湿っぽい話はこれで終わり! さあ、百数えろ! かくれんぼを始めるぞ!」

「あ、かくれんぼはマジでするのね……」


 言うべきことも言ったし、いつものミニスも戻ってきたから、さっさとかくれんぼを始めることにした。童心に帰るのも悪くないし、何よりこの村には娯楽が無いからクソ暇だしね。本当によくこんなド田舎で暮らせるよなぁ……。






「さーて、どこに隠れようかなー?」


 隠れ場所を探して、僕は村の中を歩く。残念ながらあまりにも田舎過ぎて、隠れるのに適した裏路地とかそういうものはどこにも無いんだよなぁ。そもそも民家と民家の間が普通に広場みたいになってるし。

 えっ、消失(バニッシュ)を使えばいいじゃないかって? かくれんぼでそんな反則して何が楽しいの? 見つかりそうで見つからない、上手く隠れて鬼をやり過ごすあのスリルが良いんでしょうが。絶対見つからない方法や場所なんて論外だよ。


「……そういえば、キラはどこ行ったんだろ? まさかその辺で殺しでもしてるんじゃないだろうな?」


 見つからない、で思い出したのはうちの飼い猫のこと。昨晩、殺人衝動の発散から帰ってきた後から姿を見てないんだよね。外で寝るって言ってたからそこまでは良いとして、朝ごはんにも出て来なかったし。

 というわけで、何やってるのか不安だし念のため探してみるか。探索(サーチ)


「――って、おやぁ?」


 意外と近くにいる……っていうか、この反応の位置はさっき通り過ぎた民家じゃないかな? おいおい、まさか家宅侵入からの一家惨殺とかしてるんじゃないだろうな。うちの猫は目を離すとすぐこれだ。

 そんなわけで来た道を戻って、反応があった民家に向かう。まあ最悪キラが殺しちゃってても、蘇生すればセーフだよね!


「あれ? 平和そうだなぁ?」


 反応があった民家からは、子供たちの笑い声や走り回る音が聞こえてきた。悲鳴は聞こえるけど何か楽しそうな感じのアレだし、脱兎の如く逃げる感じの足音じゃない。窓ガラスも血飛沫が飛び散って汚れてるわけでもないし、少なくとも中で惨劇が巻き起こってるわけじゃないみたいだ。

 じゃあキラの奴、どこにいるんだろ? アイツが中で子供と遊んであげてるなんてことは天地がひっくり返っても無いはずだし、中にいないとすれば……上か!


「よっと――あ、いた。何やってんの、こんなところで?」

「見て分かんねぇのかよ……日光浴だよ……」


 屋根の上に飛び上がると、そこには予想通りキラがいた。

 そこまでは良いんだけど、ぐでんと寝っ転がって日の光を浴びて気持ちよさそうな顔してたよ。殺人鬼のサイコパスが日向ぼっこで液体みたいになってるとか何の冗談?


「あー、うん。なるほど。日向ぼっこね? お前が猫人なのは知ってるけど、ぶっちゃけ心底似合わないね。身体に染み付いた血の臭いを無くすために日の光を浴びてる、っていう方がまだ納得できるし」

「んなもん自分で分かってるっつーの……けど、気持ち良いんだからしょうがねぇじゃねぇか……」


 答える声も蕩けてて、だいぶキマってる感じ。頭がイカれてても猫としての本能は残ってるんですね。まあ匂い擦り付けてきたりしてたし、考えてみればおかしいことではないのかな? とりあえず僕も横になろうっと。


「んー……」


 で、隣に横になったら何故かキラさんは引っ付いてきた。両手両足でしがみ付く感じにね。胸の膨らみとむっちりした太ももの感触が堪らんぜ。

 ただ『やれやれ甘えん坊だなぁ?』なんて思えるほどかわいい奴じゃないんだよなぁ。ぶっちゃけ首筋がぞわぞわして言葉にできない恐怖がある……下半身はどうしようもなく反応しちゃってるんだけどさ。身体は正直ってやつ?


「あのさ、前から思ってたんだけど何でこんなに過剰なスキンシップしてくるわけ? 僕に惚れちゃったの?」


 ちょうどいい機会だから、疑問に思ってたことを尋ねてみる。

 頭突きするように匂いを擦りつけてくることとか、やたらに僕に対して執着心を見せる事。昨日に至ってはそれはもう熱烈なキスをしてきたからね。今だって両手両足使って抱き着いてきてるし、何でこんなに愛情表現してくるのか疑問なんだよね。だってコイツは愛だの恋だのを感じるような心はしてないはずでしょ?


「お前はあたしのもんだからな……自分のものに、名前を書くのは当然だろ……?」

「あ、はい。そうですね」


 出た、サイコパス特有の何故か守ってる一般ルール。ていうかやっぱり要するに所有欲とかそういう感じの欲が前提にある行動なのね。僕は自分のモノだから、僕が他の子にだけしてて自分にはしてない事があるなんて許せない、的な感じで。これはある意味、焼きもちと言っても差し支えないのでは……?

 でも僕も気持ちは分かるんだよね。キラもレーンもリアも僕のモノだから、その全てを僕のモノにしたいっていう欲望はあるし。たぶん僕の気持ちに関しては性欲からくるものなんだろうけど。

 だからまあ、キラの答えには納得できる。その代わり、一つ別の疑問が浮かぶ。


「……もしかして、僕の初めても狙ってたりする?」


 僕とキラは結構似た者同士。相手の全てを手に入れたいっていう欲も同じく抱いてる。

 それならもしかして、初めてを自分のモノにしたいっていう気持ちも同じなのでは? いや、男の初めてなんてそこらの石ころほどにも価値が無いってことは分かるよ? でもそれは世間一般の価値観であって、普通じゃない奴の価値観に当てはまるとは限らないわけで……。


「………………」

「――ひゃんっ!?」


 答えは無かった。代わりにキラはニヤッと笑って、僕の首筋をペロリと舐めてきた。

 さすがの僕も思わず変な声上げちゃったよ。まるで蛇に舐められたようなおぞましさと、言いようのない恐怖を感じたからね。確かにキラも見た目は可愛い女の子だから、興奮して然るべきはずなのになぁ。

 ていうかやっぱ狙ってるのか、コイツ。これは気を付けないと寝てる時に襲われそうだな……。






 誰一人として主人公にまともな恋愛感情を抱いていない不思議……。

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